2020/07/05 のログ
ご案内:「常世大ホール」にエコーさんが現れました。
■エコー > 「ボクはうつろな影法師さ!
ゆらゆらふらふらあてどなく、彷徨って昏迷してるの!
ねぇどうしたらいい、ボクは何をしたらいいのさ!」
ポップ調の明るい曲調が誰もいない大ホールに流れ、ハイビームとスポットライトに照らされた舞台の上でホログラムが形成される。一層強烈な光を放ったと同時に、白煙が巻き上がり立体化したエコーの姿が現れる。
エコー自身は触れられないしこのスモークの影響も受けない。演出効果として適応しただけのこれらのセットを観客のいないホールに轟かせ、歌を披露する。
電子生命体はあらゆる手段で人と対話を行う。立体化してみたいという気まぐれの発想と共に金をかけ、自分を360度あらゆる角度からアバターとして出力する方法を考案・実行した。それがこれである。
デモンストレーションとしてアイドルのように歌って踊ってみせながら自分自身もその感触をつかむ。なるほどこれだと人のように目を向ける事が出来る。実際はカメラがリアルタイムで自分の目の動きを追って追体験しているに過ぎないのだけど。
■エコー > 「追随して追求して! 後を追いかけていたいのに。
顔を真っ赤に頬を膨らませて、ボクは自分勝手に怒るのさ!
どうしてどうしてなぜなんだ! ボクは人に寄り添う影法師!
ボクはキミがいないとなんにもできない!
お願いだからボクを導いて!」
マイクを片手に頭を抱え、悩まし気に振る。悲観的なパフォーマンスとは裏腹に声色はどこまでも明るく、駄々っ子か甘えん坊のような印象を与える。
彼女が移動するとスポットライトは追いかけ続け、めそめそと鳴き真似をする仕草をすると淡い色のブルーが彼女を覆った。
ちなみに声の出所もステージの裏側に仕込まれた音響装置が彼女の移動や頭の角度に合わせて声が出力されているようだった。
■エコー > 「今もキミの温もりを忘れてないよ!
くらくらぐるぐるいつまでも、迷い回って大回転!
堂々巡りの自問自答。ボク一人じゃ分からないよ!
並んで歩いた昔日を 瞼を閉じれば思い出せるのに!
青ざめた君の頬を撫でる。ボクは独りでに泣くのさ!」
ステップを踏み、着地の効果音と共に渇いた木材の音が木霊する。
人がいないのも相まって、程よく心地良い音が響き渡る。
当人なりに練習したのか、ダンスのパターンを解析してそれっぽく踏襲しているのか他人から見ても分からない程度にはオリジナリティあふれる踊り方だ。しっかりと腰を軸に、みてくれのパフォーマンスにしては悪いものではない。
なおも変わらず悲しみに溢れた歌詞を底抜けに明るいポップカルチャーと聞き間違いそうな程に歌い上げる。
ご案内:「常世大ホール」に北条 御影さんが現れました。
■北条 御影 > 大ホールから洩れ出た音に釣られてやってきた一人目の観客が、恐る恐るホールの扉を開ける。
ステージを照らす照明以外が落とされたホール内に、扉の隙間から外の光が差し込んで―
「あー…リハーサル?ですかね、これ」
するり、と隙間から身体を滑り込ませるように中へと足を踏み入れれば、
明滅するスポットライトに照らされたステージ上の演者以外に人影はない。
ライブの最中かと思いきや、どうやらその前段階。
まずったか、と思い気まずい表情でステージに視線を投げかける
■エコー > 「なんで、なんで教えてよ! ボクは君に寄り添う影法師!
キミがいて初めてボクはここにいるの!
許してほしい、ボクの傍にいてよ!」
丁度、御影がホールの扉を開いたタイミングでサビのメロディへと入って行った。
どこか懇願するような曲調に明るく駄々をこねる子供のような感情の入り乱れた歌い方と歌詞である。
そうして間奏からCメロへ移行しようとしたタイミングで「あ、ストップ!」という声が舞台から――エコーから発せられた。
演者(きかい)達は彼女の声を受けて一斉に止まった。しんと静寂に包まれる。
ただスポットライトだけがエコーを照らし続けている。
「あ、ねぇねぇそこにいる君ー! ようこそ私のリハーサル会場へ!」
白ワンピを着た女風貌は空いているホールの扉を目にし、気まずそうな雰囲気もブチ壊して「おーい」と手を振っている。
■北条 御影 > 「っ、あー……邪魔、しちゃいましたかね?」
先ほどまでホールに満ちていた音も、声も、光も全てが止まる。
痛い程の静寂の中、無邪気に声を掛けられて苦笑い。
ようこそ、と言われてもお構いなく、と返したくなるぐらいには気まずい。
だってそうだろう。リハーサルとはいえ、ノリノリだったライブを自分のせいで止めてしまったのだから。
「えーと、なんか賑やかだったのでついつい入ってきちゃったんですよ。
あは、お邪魔でしたらすみません。お邪魔でないのでしたら、もうちょっと近くで見ててもいいですか?」
ぺこ、と小さく頭を下げてからステージに向かって歩を進める。
気まずいことに変わりはないが、此処まで来たら最後まで聞いていこう。
「ようこそ」とまで言われているのだし、追い返されることもないだろうと踏んだ。
■エコー > 「ううん、全然! むしろ一人でず~っと歌ってたから無観客も飽きたって言うか~。
やっぱ誰もいないところで歌うのって寂しいんだ~っていうか寂しかった!」
明け透け無く、静寂をハンマーで壊すように亀裂を作って粉砕していく。
相手と違い、滅茶苦茶ハキハキ元気に喋っている。
「うんうん、いいよいいよ~。最前列で見てってよ! でも私の姿を見るなら三番目辺り? とりあえず真ん中辺りがオススメだよ!」
映画の座席シートを進めるように明瞭にあっちこっちと指差していた。
■北条 御影 > 「それじゃ、おすすめ通りにさせて頂きましょうか」
指さされた辺りに向かって歩きながら、ステージ上の少女の姿を見やる。
よくよく見れば見覚えのある顔ではないか。
幾度か学園内のモニターやら何やらで目にしたことはある。
確か―
「あー…というか、エコー先生?で、良かったんでしたっけ?」
自信はない。
何せ彼女の授業は選択していないのだ。
というか、プログラミングだの、CGだの、ややこしいのは苦手だった。
ただ、それでも彼女について知っていることはある。
「すごいですよねー。先生がライブだなんて。何かこう…未来!って感じします。
そもそも、モニターとかないのにどうやってステージ上に…??」
―彼女が電子生命体であること。
電子機器の端末内を移動出来る便利な身体であること。
モニターや端末内が無いところだと姿を現すことができない不便な身体であること。
などなど。
■エコー > ゲーム制作、学内に設置されたモニターでの広報活動(CM)、情報の授業。
広き常世学園といえど、あ、なんか見た人だ程度の感覚や引っかかりはあったのだろう。
「あ、わっかる~? そうそうエコー先生だよ! 情報技術の先生! あとゲーム作ってる!
前に自主制作ゲームのテストプレイヤー募集のCM作ったんだけどもしかしたらそれを見てくれたのかな~。」
真偽はともかく、相手は1年で、こちらの授業を取ったことが無いのならエコーは残念ながら知らぬ人となる。
彼女の授業はWebで出席確認を取るし、レポートも電子でまとめるので名前と顔の判別は一瞬で終わってしまう。
ログが無いということは情報がないということだ。
「えっへへ。今はねー、プロジェクションマッピングって言って……んーと、このホールの舞台に私がいるように見せかける技術を使ってライブをしてみていたの!
上手くやれば授業にも使えないかな~って思ったんだけど、これお金かかるしこれくらい広い場所じゃないと使えないんだよね」
少し考えれば分かりそうなものだが、ついこの非現実的な経験と空間が楽しくてノリノリで歌って踊っていたのである。
■北条 御影 > 「ほー…何やらよくわかりませんが、普段モニターで見るよりは、先生を近くに感じられる気がしますねー」
舞台上で楽し気に語る姿は、まるで本当にそこにいるかのようだ。
少なくとも、モニターに映し出された姿よりは身近に感じた。
最も、「見知らぬ誰か」ではなく、「自分」に話しかけている、ということも要因の一つなのだろうが。
「授業…どうせなら、こういうライブの実施を一つの実習にしてみるとかどうです?
ほら、そうやって先生がそこにいるのも何か色々ハイテクな技術の結晶なんでしょう?
みんなで先生の投影から、音響操作から、何から何までぜーんぶ生徒でやるとか!」
ナイスアイデア、とでも言いたげに手を打って得意げな顔。
実際可能なのかどうかは何も分からない。
だって、プログラミングだの、CGだの、ややこしいのは苦手なのだから。
■エコー > 「そうそれ(アグリー)」
知識のない相手にあーだこーだ説明してもどうしようもないので、かみ砕いて理解を得られるならそれに越したことではない。間違ってもいないし、他人から得る所感は大切だ。
彼女のように何も知らない人からの意見のほうがこちらとしても良い材料になる。皆がプログラミングだCGだVRだを理解している筈がないのだし。
「あ、それ良いかも! 私が歌を歌って、ちゃんとライブが成功すれば全員に合格! 失敗したら私が『もっと頑張れ~』って激励する!
ライブの準備やパフォーマンス、振り付けに音楽も生徒に任せて私はそれを出力する! 良い団体行動の練習になりそう!」
ハードルは滅茶苦茶高いという点をおいておけば、実機もあるし無理な話でも無かった。演出のチープさは学生であるからと目をつぶれば何とかなるし、少なくとも機材を壊さなければプラスになる。
「え、どーしよそんな発想今まで無かった! キミ天才じゃん!
キミなんて名前?!」
構想がどんどんまとまっているのか、眼を輝かせながら舞台の上から駆けて彼女をよく見ようと接近する。舞台から降りることはなく、前のめりで問いかける。
■北条 御影 > 「おぉ?なんですか、なんか意外とマジで良いアイデアだった…?」
思ったより食いつかれて面食らった顔である。
ともあれ、自分のことを印象に残せたのなら狙った通りだ。
ぐい、と前のめりになって此方を見つめ、名を問う教師を見つめ返して、にんまりと笑った。
「私は御影。北条 御影っていいます。
よろしくお願いしますね、先生」
ぺこり、と礼儀正しく一礼。
目の前の教師は通常の生物とは一線を画する電子生命体だ。
その「記憶」の仕組みもまた、通常の生物とは一線を画する筈。
人間の、生物のようにあやふやなものではなく、
データベースという確たる礎を基に構築される、情報の集積が彼女にとっての「記憶」である筈。
で、あるのならば―。
「ふふん、これだけ印象的な出会いをしたんです。
もし本当にライブすることになったら、私の名前もクレジットしてくださいね?
『忘れちゃ嫌』ですよ、先生?」
一つの賭けをするに至るのも、悪くはないだろう。
■エコー > 「マジで良いアイデアだよ! 久々に創作意欲が湧き上がっちゃった!
えっへへ、ちゃんと学園長さんたちに掛け合わないとねー」
うきうきした様子で一回転してからスカートの裾を摘まみ上げ、お転婆さとエレガントを一度に内包した胸やけしそうな挨拶をする。
「北条御影ちゃんだね。ちゃーんとログに残して会話も録音してるからしっかり『覚えた』よ~」
自分は相手の異能のことを知らない。相手の異能は生物に対して効力を発揮する。
記憶領域の存在しない機械やアンドロイドなら分からんが、こちらは電子世界でしか生きられない生命体だ。
どのように作用するのかは分からず、されど。
「もっちろん! スペシャルサンクスっていうんだっけ、クレジットの最後の最後にどどーんと御影ちゃんの名前を付けてあげるからね! 忘れないように残しておくから!」
まあ私忘れないんだけどね、という言葉は己の主観とスペックからくる自信である。
映画で言えば最後の最後、監督(ヴォーカル)の手前に表示される位置辺り。そこでどーんとあなたの名前を書いておこう。
ログとしてデータを梱包し、そのように書くぞ、という旨のメモが己のデータに加えられた。