2020/07/06 のログ
北条 御影 > 「おぉ、流石は電子の妖精さんですね…。覚えた、って言葉の頼もしさが段違いですよ」

会話も録音したとあればこれは期待値も上がる。
例えもし忘れてしまったとしても、己の名前と共に残された録音データなら、
確認ぐらいはするだろう。その際に今日のことを思い出すことはなくとも、
次に会った時のフックにはなる。

だから―

「ふふふ、期待しておきますよ!
 いやね、私って実は名前を売りたいんですよ。いろーんな人に名前を知ってもらいたくて。
 先生の授業に名前が残るなら、そりゃぁもう売れまくりですよね、名前」

くすくす、と楽し気に笑う。
己の名前を様々な場所に残すことで、己が存在を周囲にアピールする日々であったが、
もし本当にエコー先生の授業に名前が残るのであれば、自分がちまちまと名前を落書きするよりよほど効率的だ。

「それじゃ、今日の出会いを祝した曲とか、リクエストしてもいいですか?」

明日、先生の記憶に自分のことが残っているかどうかは分からないけれど。
少しでもその確率を上げるため、出来る限り長い時間を過ごそうとリクエスト。

エコー > 見たことはないがデジャヴを感じることはある、という経験がある。
プログラム然りCG然り、獲得した技術はどこかで役に立ち、資料として残る音声データはエビデンスとして蓄積される。
エコーが「嗚呼このパターンだ」という結論に至るのもそう遠くはないかもしれない。
それはともかく。

「うんうん、名前売りたいの? キミもバンドマンとか? この場合バンドウーマンだっけ?
 芸能人になりたいとかアイドルやりたいとか、そーゆーやつ?
 安心して御影ちゃん! キミの名前が10000RTしてバズるくらいは広めて見せるから! 常世学園に名前を知らしめよう!」
 
 名前を売りたい。有名になりたい。その根源的欲求は、相手の異能の所為とは知らぬ。
 だから明るくポジティブな風に持って行く。

「あ、勿論良いよ! んーんー……ポップなので、明るくて~夢を追いかける系! 夢はいつか叶うやつ!」

 よし決まった!と腕を掲げると、音響装置から音楽が鳴り響いた。シンフォニックメタル調の物静かなメロディラインが刻まれ始める。

北条 御影 > 「あは、別にバンドとかそーいうんじゃないんですけどね」

交わされる軽口が心地いい。
特に深く考えるでもなく投げかけられる言葉に、
此方も特に思うところもなく、軽い言葉を投げ返す。
こういうやりとりが出来る相手は正直有難い。
「はじめまして」かどうかにかかわらず、常に一定の距離感で居てくれるから。

「おぉ!いいですねぇそういうの。夢はいつか叶う!諦めなければいつかきっと!ってやつで!」

舞台両端のスピーカーから流れ始めた音に耳を澄まし、
楽し気に歌い始めるエコー先生を見つめて静かに笑う。

リズムに乗って肩を揺らし、靴先で床を叩くこの時間が出来る限り長く続くことを祈りながら、
流れ出す音楽に暫し身をゆだねるのだった。


果たして明日以降、今日話した特別授業が実施される日は来るのだろうか?
そしてそのクレジットに載る名前は果たして―。

ご案内:「常世大ホール」から北条 御影さんが去りました。
エコー > 深く入り浸ることもなく、浅い会話を続けられる。
救いと同時に感傷に浸らせる傷は少なくて済むのかもしれない。
この鑑賞において、己はまだ覚えていられる。
精一杯を込めて歌うしか道は残されていないのだ。

「それじゃあれっつごー!」

シンフォニックメタル。メタルでありながら荘厳なミュージックを奏でる音楽ジャンル。
次第に大きく己の存在感を示すように、ただ一人の生徒(かんきゃく)に向けて歌う。
応援、激励、諦めずに立ち向かう、何度だって起き上がる。
即興で歌を作ったにしてはそれなりの出来だったことだろう。


5分程の時間を追加して残ったのは、企画案と即興曲の譜面にコード。
嗚呼、そうだ、彼女の名前を――。

ご案内:「常世大ホール」からエコーさんが去りました。