2020/06/29 のログ
ご案内:「開拓村」にシュルヴェステルさんが現れました。
シュルヴェステル > 常世島の未開拓地域の最前線、開拓村。
転移荒野は学生の腕試しの場にもなっているが故に学生の姿も少なくない。
だがしかし、この開拓村まで足を運ぶ生徒は殆どいない。

未開拓地区を中心に活動する住民によって形成された村。
学園地区のような最新鋭の科学設備などはなく、落第街とは別ベクトルにアウトローな雰囲気。
そして、住人も変わり者が多いという、言ってしまえば『遅れた』とも言える村。

そこには宿泊施設や住居があり、簡単な研究所や畑や酒場は存在する。
されど、そこは一歩外に出てしまえば何が《門》を越えてやってくるかわからない魔境。

人が、多いわけではないのだ。

シュルヴェステル > は、と短い息を吐く。
笑いとも違う。どちらかといえば、安心してようやく呼吸ができたような。

パーカーのフードを被って、そのうえ黒いキャップで自らを覆い隠す。
先日、異能学会の会場で暴れた「異邦人」が、その村に足を踏み入れ。

「……此処なら」

きっと『何があっても』、空気のように流してもらえるだろう。
学生街のように、息がつまりそうなほど礼儀正しいわけでもなく。
落第街のように、血の匂いと暴力を垣間見ることになるわけでもなく。

恐らく、こんな未開拓地域にいる者であるのならば。
何があっても、「そういうものだ」と平等に無関心でいられるかもしれない。

……居場所が、あるかもしれない。

シュルヴェステル >  
――先日の一件。
異能学会における、意思疎通不可能なオーク種による、物損事故。
その“オーク種”張本人であるシュルヴェステルが行ける場は、多くなかった。

理由があったとはいえ、それを説明することはしなかった。
できなかったではない。自らの意思で、諦めて、怠って、やらなかった。

その結果がこれだ。
常世島の隅。表も裏も、どちらも社会だ。
その中間である、異邦人街にも足を運んだ。運んだけれど。

「どちらにもいられない」人々のための街にすら馴染めない自分に出会った。
常に異邦人街は「誰か」のために極彩色に彩られているけれど、
「自分」のためになるものが存在していなかった。とんだお客様根性だ、と思った。

故に。

シュルヴェステル >  
世界の隅っこにならば、居場所があるかもしれない、と。
強欲にも期待して、強欲にも「頑張らなくていい」場所を探して。
この開拓村にやってきた。恐る恐る足を踏み入れる。

いわば前時代的な、映画の中でしか見られないような酒場。
どこか古びて、《門》の影響か、わけのわからない品物も並ぶ。
というよりも、売っている側もわかっていないのだろうが。

「……すまない、なにか、もらえるだろうか」

開拓村には、彼のように「人間のような」見た目の者以外もいた。
《門》からやってきた異邦人を迎え入れるのを生業にしている者もいた。
人間のように、借り物の言語翻訳魔術で意思疎通をすれば、店員は頷く。
ジェスチャだけでも事足りることに気付く。少し息を吐いてから、頭を下げた。

この酒場は、どうやら《あちら》ほど言葉を使わないらしい。
指をさし、肩を組み、笑う。食事をする。酒を飲む。
そういう「言葉を使わないコミュニケーション」が、どうにも居心地がよかった。

時折研究者らしき白衣の人物が声を掛ければ、そこで初めて言葉が交わされる。
異邦人のシュルヴェステルにとって、それは少しだけ懐かしいものだった。

ご案内:「開拓村」に暁 名無さんが現れました。
暁 名無 > 「うるせーやい俺ぁまだ仕事残ってんの!お前らと一緒にすんな!
 まーた今度な!」

久々にやって来た開拓村の酒場。
裏口から入り店内へと至れば、見知った顔が次々と声を掛けてくる。いや、半分くらい鳴き声とかな気もするけど。
いわゆる“いつもどおり”の光景だ。この村にある簡易研究所に来る時は大抵寄る酒場。
仕事が無い時は一杯ひっかける事もあるが、今日は授業と授業の合間の時間。このあと学校まで戻らにゃならんわけで。

「……さて今回は有意義な情報は……無さそ、お?」

店の片隅に、場違いな学生服を見つける。
やれやれ人がまだ仕事残してるってのに、良い御身分じゃねーの!

「なーんだ、学生の時分からこんなとこで一杯やろうってのか。だいぶ肝が据わってんな。」

とりま、声を掛けてみる。

シュルヴェステル >  
店員が品名を口にしたが、わからなかった。
多分どこかの異世界の言語だろう。食わねば死ぬ身。
なれば食べられるものならなんだって構わない。オーク種は悪食だ。
《大変容》の前の「オーク」は人間の姫騎士が主食と思われていたらしい。

さて、と手づかみで野菜に巻かれた何らかの肉料理を口に運ぼうとした矢先。
軽やかな言葉と雰囲気に僅かに気圧されながら男を見た。
異邦人街っぽい色合いだな、と、シュルヴェステルは静かに思う。

「……学生が、ここにいてはいけない理由があるのか?」

店員も暁の顔を見れば慣れた調子で片手を挙げる。
ああ、そうか知己であったか、であらば自分が余所者か、と。

「学生街で暮らす肝を持ち合わせていないから、ここにいる」

少しだけ拗ねたような声色でそう言ってから、肉料理を口にした。

暁 名無 > 「おうおう、反抗期みてえなツラぁしやがって。
 ……って、その顔どっかで見た事あるな……ええと、」

あー、何で見たんだっけか。
女の子の顔ならまず忘れないんだが、男の顔となるとちょっと怪しい。
自分の受け持ちの生徒じゃなさそうだし、かと言ってどっかで会ったわけでもない、とすると……あ!

「あーあー、お前さんあれか、博物館で一悶着起こしたオークだろ?
 なあ大将、そうだよな?」

店主に確認がてら目を向ければ、性質の悪い酔っ払いを見る目で見られた。
なんだよまだ素面だ素面。

「はっはは、そりゃあ学生街じゃ据わりが悪いわな。
 で、異邦人街じゃなくこんなとこで飲んでるって事は、だ。」

──さてはこいつ、馴染めなかった口か。

シュルヴェステル > 「…………」

博物館。確かに、あのときも閉館間際だった。
閉館間際に、見知らぬ学生に対して声を大にした。
そういう噂が立っていてもおかしくないし、自分の種族を知っているのは。
自分なりに秘しているとはいえ、学園の教員であればそれを知ることはできる。

自分の思ってもいない場所でも「やらかし」ているのを再確認する。

「……ああ、ああ」

静かに肯定するしかできない。
店主は「よしとけ」なんて言葉を掛けるがそれもおざなり。
いい意味でも悪い意味でも、客に興味はそこまでないのだろう。

「それで、学園の。一体、私に何用だ」

わかったような口を――事実わかっている――きく男に。
少しばかりの苛立ちを織り交ぜながら、言葉を返した。

暁 名無 > 「ああ、やっぱり!……いや、違うな。
 なんかニュースがごっちゃになってるが、まあいいか。
 職員会議でも挙がってたぞ、どうしたもんだろうなってな。」

博物館だったか、学術展だったか。
まあ多分どちらもかもしらんが、別にそれはどうでもいい。

「難儀なもんだよなあ、お前さんも。
 放っといて貰えれりゃまだ幾分か楽だろうに。」

ケラケラ笑ってたら横のテーブルからサンドイッチの様な物が飛んできた。
飲まないならせめて食ってけという事らしい。一口齧る。何とも言えない風味が口に広がった。

「んや?別に何か用がある訳じゃ……あ、いや。あるな。
 お前さんよ、腕っぷしに自信はあるか?ありそうだよな。」

──学生街にも異邦人街にも馴染めず開拓村に流れ着いたオーク。
うん、うん。こりゃあ誂え向きだ。

シュルヴェステル > 「……そうか」

僅かに言い淀んでから。
職員会議。先日職員室で自分の細剣を返せと言ったこと。
自分の中で当たり前の行動と思っていたどれもが、人間から見れば。
そのすべてが、人間からすれば「異物感のある」行動だったということ。
彼の思惑を越えて、オーク種の青年は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「それは、大変に迷惑をかけ――。
 ……放って。……あ、え、ああ。そう、で、」

だから現に、貴殿にも放っておいて頂きたいのだが、と言うつもりだった。
だが、その前の言葉は青年にはあまりに予想外だった。
放っておいてほしい、なんてことを言い当てられるなんて思っていない。

「ああ、いや、それは、違う。
 ……腕も、異能や超常に比べればありきたりな程度だ。
 学園の学生たちのほうがよっぽど、私よりも、戦闘を……牙を手段にしているはずだ」

一体目の前の教師が何を言っているのか、青年にはわからなかった。
情報量に目をぐるぐると回しながら、血色の瞳が暁をじっと見やった。

暁 名無 > 「余所の世界から来たからって、郷に入れば郷に従えで枠に収めようなんざ元々無理が有んだよなあ。
 そんなのが通用すんのは、“自分から来た”連中だけだっつのに。」

サンドイッチを頬張ったところで更にジョッキが横から差し出される。
ちくしょうこいつらそういう狙いか。
お前ら持ちだぞ!!!と見事こちらを罠に嵌めて来た狼頭の男へと叫びつつジョッキを呷る。

………ミルクだこれ!!!!!

「いんや、別にあんなもん適当に聞き流してりゃろくな結論も出さず終わるもんだ。
 迷惑ってのは……あー、そうだな……思いつかねえ、パス。」

ジョッキをカウンターに置けば、胡散臭いものを見る目で店主が見て来る。
うっさいな素面だ。ところでこれなんの乳?牛じゃないよね??

「あんな豪快に物壊しといて謙遜のつもりか?
 まあいい、腕っぷしに関しちゃ既に評価はついてんだ。  肝心なのはお前さんが学園じゃ厄介者ってとこだ。」

ニヤリ。我ながらだいぶ悪い顔してると思う。
でも、学園に馴染めなかった、文明文化に迎合出来なかったって事はだ。

「どうだお前さんよ、ここいらでひとつ、手に職つけてみる気はねえかい。
 こんなとこで飲んでるくらいだ、是が非でも学校で勉強したいってクチじゃあるまい?」

酷く懐かしさを感じる血の色の瞳が此方を見ている。
きっとそれを見返す俺の目は、乾いて擦れどもとは同じ色のそれだ。

シュルヴェステル >  
「…………」

自分が言いたいことを、1から10まで言われた。
そして、それは自分が口を閉ざしているのだから伝わらないはずだった。
だのに、目の前の男は平然とした顔でさらりと言ってのけた。

「……謙遜ではない。
 事実として、この学園の生徒と違って指向性がない。
 彼らは暴力の向きを操作しているように思うが、私は小器用なことはできない。
 私よりも別の相手を雇ったほうがよっぽど効率がいいはずで」

異邦人から見ても「よくわからないもの」だらけのこの店の中で、
何も気にせず……気にしていたとしても、それに気付けないほど自由に。
「誰もの仲間の一人」のような顔をする男に、訝しげな視線を向ける。

「だが」

口がうまい相手に気をつけろ。
我が異邦は、その口一つで滅びを迎えた。
暴力と拳だけが言葉であった異邦は、今は見る影もない。……それでも。

「……話は、聞く」

聞かねば、シュルヴェステルにはわからない。
目の前の男のように聡くはない。であらば、できることは一つだけ。

暁 名無 > 「そもそも尺度が狭いんだ。
 元から居るのが『人間』でよそから来たら『異邦人』
 同じ様なナリをしてるからって、同じ様な道理が通じると思ってやがる。まったく傲慢も良いとこだ。
 別の国の連中とでさえ相互理解を諦めるフシがある癖に、ましてや別の世界だぞ?」

横合いから『そうだそうだ!』と声が上がる。
まったくこれだから酔っ払いは。大将、あっちの馬鹿にとっておきの麦酒を!

「馬鹿野郎、暴力に指向性もクソもあるか。
 そんな事言ってて自分で薄ら寒くならねえのかお前さん。」

だって、オークだろう?
俺の知るオークとは、幾分か勝手が違うのかもしれない。
それでも大筋では同じはずだ。違うとこは後々擦り合せりゃ良い。

「そうこなくちゃ。
 おっと、その前に形式だけでも自己紹介と行こうか。

 俺の名は名無。学園での担当は幻想生物。」

大仰に胸に手なんぞ当ててみる。
まあテーブルに腰掛けてるから行儀なんてクソほども無い訳だが。

「さてそんな幻想生物の教師が何をお前さんにさせたいかと言えば。
 ここ転移荒野周辺に現れるとっておき獰猛な獣どもをな。
 指向性の無い暴力で、器用さの無い暴力でだ、
 
 ──征伐あるいは屈服させて欲しい。」

シュルヴェステル >  
「…………、」

『人間』を目の前にして、『異邦人』は言葉を持たなかった。
きっと、彼が人間であったのならば、豊かな言葉とともに生きた種族であれば。
『筆舌に尽くしがたい』なんて言葉を選ぶことができたかもしれない。

「……それを学んだのは、この世界に来てからで。
 そちらのほうが効率的だとか、どこもルールがあるだとか、」

それを学園から教わったからそう言ったのに、この教師は。
平然とした表情で、それをひっくり返してから調子よく笑うのだ。
異邦人にとっては、そのどれもがわからない。

正しく。
オークという種――もとい、シュルヴェステルを擁する種にとっては、だが。
暴力など、その大小しかありはしない。手段でなく目的でしかない。

「■■■■■■■」

はじめて。この《世界》において、異邦で呼ばれる通りに。
自分で、一瞬だけ言語翻訳魔術を膂力にて『握り潰し』てから。
「本当の音」でもって、名を名乗る。伝わるはずもない音の羅列。
そのあとすぐに、少しだけ薄く笑ってから、握った手を開いて。

「聡き檻のシュルヴェステル。
 この世界の言葉に『倣う』なら、『こう』なるらしい」

オーク種において、聡いことは祝福ではない。
武で、拳で、暴力で語らうオーク種が「聡い」と呼ばれるのは皮肉でしかない。
この《世界》からしたらその頭も飾りと大差なくとも、《異世界》ではそう呼ばれていたと。

告げる。

「理由を問おう。
 『征伐』される、『屈服』させられるに足る理由が彼らにあるのか。
 なぜ、貴殿が私にそれを求めるのかを、聞かせてほしい」

「聡き」暴力の徒は。真っ直ぐに、一つも物怖じすることなく。
暴力を『手段』とする理由を、問うた。

暁 名無 > 「効率とルールで上手く回るんなら苦労はねえってんだ。
 その結果、お前さんのような奴が出る。俺みたいな奴が出る。この酒場で屯せざるを得ない奴らが出る。
 効率的だとか、ルールがある。そりゃあ確かにその通り。
 でも、それが全てじゃあ生きられねえ奴だって居るだろうがよ。」

そんな事、当人が一番分かってるだろうに。
いや、“分からされた”だろうになあ。
そう言う意味じゃ、この“学園”は確かに機能を果たしている。
正しい道理を説く事だけが「教える」という事じゃない。
正道を説くなら邪道も説け。綺麗事を並べるなら、汚れた物も等しくだ。

「はっは!それがお前さんの名か!
 生憎と何を言ってるかまでは分からんが、大層なもんじゃねえか。」

『人間』には自分の名前すら尻込みしてしまう奴も少なくないってのに。
目の前のオークは、己の名を、己の言葉で、伝わらない事を承知で見事名乗って見せた。
……わざわざその後で翻訳し直しまでしてくれた、が。

「……そうかい、──■■■■■■■。
 シュルヴェステル。なるほど、こりゃ通じんな。」

たとえ言語として理解は出来ずとも。音として成るなら復唱くらい訳は無い。
魔狼の遠吠え、天馬の嘶き、飛竜の唸り、『人類』が言葉と見做さない言葉なんぞ、世界には掃いて捨てるほどあるのだから。
それらを言葉として捉えられなければ、幻想生物学者なんて門前払いだ。

「何故お前さんに頼んだか、か。
 単刀直入に言えば、お前さんが厄介者だからだ。
 危険な場所に放り込んで、その結果命を落としても──
 ──厄介払いが出来るだけ、だろ。
 
 ここからは蛇足だが──
 
 元居た世界から辺鄙な場所へと放り出され、
 訳も分からないままに、それでも奴らぁ必死に生きてる。
 だのに、言葉が通じんから、とそんな理由で危険と見做され迫害の的だ。
 
 だからこそ、似たような境遇の誰かさんに対処を頼みたい──と、これじゃあ不十分か?」

よっ、と掛け声とともに俺はテーブルから腰を上げた。

「──ああ、一つ言い忘れてた。
 『征伐』も『屈服』も人間様の都合で行うもんだ。
 もっと他にいい方法があるなら、『危険』を払えるならそれに越した事はない。
 人間の面倒なルール上でそう呼んでるだけだ。」

シュルヴェステル >  
目の前の教師を『試す』ような異邦の民の問いを。
かつて道を通す通さないを問いかけで決めていた、獅子の身体の異貌持つ生命があったらしい。
文字通りの幻想生物の問題を、ある旅人は簡単に解き明かしたらしい。
奇しくも、時間の『旅人』は異邦の民の問いかけに答えた。逸話をなぞるように道は開く。

「……貴殿は、私を。
 『学園の教師』として、そう語るのであらば。
 例として、私が『不慮の事故』で崖から身を落として死んだとて。
 人間のように扱わず、人間のように弔わず、人間のように語らないと、そういうことか」

体裁としては未だ『生徒』である以上、彼の意見は『教師』としては言語道断。
知能に劣るオーク種でもわかる、「ルール違反」だ。
それを、その責任を彼が背負い。そこで、『また同じようなこと』があった場合は。

「であらば、その責は。……貴殿が、負うことになろうが」

言ってしまえば、完全な特例措置にほかならない。
ほかの生徒の学ぶことも学ばずに、一匹の獣をこの開拓村で放し飼いにすると言っているのだ。

「もし運悪く、私ではなく『異邦の者』に危害を加えた学生がいらば。
 私は、力を振るうことを躊躇いやしないだろう。加減などできようものか」

裁定者としては、人選は最悪だ。こんなにも「異世界」に肩入れしている。
もし、異邦のものが『人を殺せば信頼してやる』というのなら、それを躊躇わない。
オーク種というのは、生まれたばかりの火のようなものである。
怒りとエネルギーを司り、若さと情熱の象徴でありながらにして、不死の国の王の名を背負うもの。

「人間を信じるなと、声高に叫ぶことが許されるのであらば。
 ――私は、それを受諾しよう。それを承ろう。人に解らぬ言葉で、それを告げよう」