2020/09/11 のログ
ご案内:「開拓村」に神名火 明さんが現れました。
■神名火 明 >
常世島をぐるりと北側から一周する短い旅行も、そろそろ半分になる。開拓村での往診などを終えて、焚き火の中心でごってりしたシチューをもらうと、携行食料だけで味気なかった身体に甘さと塩分が染み渡って心地よい。
「そっか~、変わったことはとくに起こっていない、と。ありがとう」
もう、あまり期待を抱かなくなっている私自身が少しいやだった。多くの開拓民とともに焚き火を囲んで、秋の夜空を眺める。美しい星空だった。月もおおきくて、明るい。
■神名火 明 >
「…………マリー」
異世界から来た彼女と会えたこと自体が奇妙な巡り合わせなんだ。わかっている。もう同じ空を見ていない場所に居るのかもしれない。それでも探すことをやめる理由にはならなかった。冷たいお茶を飲み干して、ひといき。
「また会えると、信じているから」
信じることが力になる。信仰することとはどうなのだろう。神への信仰のためにいくつもの冒険をこなしてきたあなた。その道をなぞるなら、あまりに短い数日間だ。ただ寂しい夜空の下の日々を過ごし、不安に胸をかきむしられただけの、ほんの短い時間。
■神名火 明 >
そうだ。あの子は、多くの不安な夜を、孤独の夜を過ごしてきたはず。悪夢に震えていた彼女に、私は何をしてあげられていただろう。私は彼女を信じている。神を信じるように。けれど、あの子は私を信じてくれているだろうか。
「ちがう」
だからといってそれが膝を屈する理由にはならない。『信仰』がそういうものなら、この胸に燃えている感覚は忘れてはいけない。信じている。辛い話は、いらない。しない。信じるもののために、ひたすら歩き回って目指す。敬虔な信徒たるために、信じ抜くことを怖れてはならない。
「よっし!ごっちそうさま~、お片付けは手伝うからね。お布団貸してくれるみたいだし! もし、身体のどこかが悪かったり、具合が悪い人がいたら!気軽に言ってね!」
やぶ医者のくせに~、なんて賑やかなヤジが飛ぶ。実はさっき医者をやめちゃって~、なんて談笑して、そんな言葉を叩き合うくらいには近づけた。でもきっとまだ誰と彼との距離も遠くて、この不安を彼女も味わっていたのかもしれない。知りたかった。その痛みも苦しみも何もかも。この世界で、最も信じている人のことを。
■神名火 明 >
明日は青垣山を巡る。転移荒野、開拓村。隠せそうな場所には事欠かない場所にも手がかりはなかった。ディープブルー。あるいは、マリーを略取したものたち。近づいている、というのは勝手なおもいこみで、ただの希望的観測だ。嗅ぎ取っているのはマリーの気配なのか、それとも自分と同じ犯罪者の気配なのかは、わからない。
(それでも、信じている)
重たい信仰かもしれない。一方的な信仰かもしれない。もうこの世に居ない可能性だってある神をそれでも信じて手を伸ばし、目指して歩くことは誰にも止めさせはしない。
願わくは報われないというのは欲深いことかもしれなかった。けれど既に私の報いが、彼女が報われることになってしまっているから、それはどうしようもない。
■神名火 明 >
奇跡は幾つも現場で起こしてきた。
だから、神に縋らずに、届かせてみせよう。
ご案内:「開拓村」から神名火 明さんが去りました。