2021/01/03 のログ
ご案内:「開拓村」に川添春香さんが現れました。
■川添春香 >
前々から不安定なままだった未来の携帯デバイスが、突然正常に動いた。
慌てて今日付近の歴史を検索してみれば。
「今年!! 1月3日!!」
学校に用事があった帰り。
ローファーのまま走る。
惨劇を止めるために。
「転移荒野に現れた謎の怪物が! 開拓村を襲って!!」
最悪の結末を覆すために。
「17名が死亡する!!」
速力強化の魔術を使ってなお、広すぎる転移荒野。
走る。走る。走る。事件の発生する15時40分頃まで、あと12分。
■川添春香 >
吐く息が白い。
いくら最新の術式で防寒が成された制服でも。
コートくらい、羽織ってくればよかったかな……
未来のニュースによれば、謎の怪物が現れた村の近く。
注意深く周囲を伺えば。
グチャ、グチャと音が聞こえてくる。
ふと、目を向けると。そこにいたのは………
巨大なトンボのような怪物だ。赤い。
転移荒野の原生生物を食い荒らして、返り血に染まっている。
3メートル近い巨躯を殆ど動かさず、こちらに複眼を向けた。
今も小動物だったものを貪っていた最中だ。
グロテスクな異形に、心を射竦められる。
でも。
「………言うもん……」
青空の下で。寒空の下で。自分に言い聞かせる。
「パパだったら、どんな相手でもっ!!」
「人が死ぬ前に止めるって言うもん!!」
拳を向けて吠える。
こいつを倒さなければ。17名。いや、自分を入れて18名。
死ぬ。
■ドラゴンフライ・デプス >
翅を動かす。
それだけで人が一人、吹き飛びそうな暴風を巻き起こす。
空に翔び、そして。
然程、警戒もせず。
牙を剥いて女に襲いかかった。
ご案内:「開拓村」にリタ・ラルケさんが現れました。
■リタ・ラルケ >
未開拓地域は、未開拓であるということに意義がある。
近代的な開発の為された土地とはまた異なる――いや、それどころか逆に、ほとんど人の手の加わっていない場所であり、それはつまり自然そのままが残っているという話である。
そんな未開拓地域に、ぽつりと形成された村。開拓村、と呼ばれているらしい。
風変わりな村である。だからこそ、彼らの邪魔をしなければ――特に邪魔されるということもないから、実のところ前から幾度か訪れていた場所でもある。
そして、今日も同じように――向かおうとしたその通り道のことである。
異形がいた。
いや、異形だけではない。
それに相対するように、人が立っていた。
立つ人間に向けて、牙を剥いていた。
選択肢は、一つだった。
邪魔になるコートを脱ぎ棄てる、思考を切り替える。
"開拓村の客"から、"精霊纏繞士"へと。
「……間に合う、かな……!」
走り寄りながら、指を異形に向ける。そこから魔力の弾丸を数発。
狙いなんてあったものじゃない、牽制の数発であった。
■川添春香 >
魔力の銃弾が飛んできた。数は不明。
しかし巨大トンボが回避行動を取ったことでこちらの行動に余裕が生まれる。
333の詩篇が書かれた未来の魔導書『非時香菓考』を取り出し、詠唱を開始する。
「63番目の記憶!! 氷の宮殿にひとり住み着いたアルビノの少年が!」
「謁見の間に何人たりとも振れられない鋭利さを持つ氷彫を創った!!」
「アイシクルブラストォ!!」
氷の暴風が、雹の飛礫を伴って巨大トンボに襲いかかる。
距離を取って岩陰に隠れ、乱入者の少女……少女というにも小さい。
しかし戦えるのであれば、今はありがたい。
美しく透き通るような白い髪をした彼女に叫ぶ。
「ありがとうございます! 危なかったら、いつでも下がってください!!」
本を閉じて胸元に当てる。次の一手を考えなければ。
■ドラゴンフライ・デプス >
リタの放った魔力の銃弾を寸前で回避する。
「ギィィ!!」
複眼が爛々と輝く。
餌に抵抗された怒りが低い知能を紅く染める。
その時、春香の放つ氷の波濤が如き暴風を受け。
体の一部が凍りつく。
「ギィヤッ」
短く叫ぶと、翅を強烈にはためかせた。
直後、高速で移動。真空の刃を翅から生み出して辺り一面を切り裂く。
それは岩陰に隠れていようと。
■リタ・ラルケ >
魔法弾は、避けられた。問題ない。元々当てようと撃ったものではない。
しかしそこに、相対していた少女の放った氷交じりの冷風が異形を捉える。
少女に向けて、叫んだ。
「それは、そっちも! 危なくなったら、逃げるのに躊躇しないで!」
味方は、氷。敵は蜻蛉の姿をしていた。
しかし攻撃は苛烈、その体が凍ったとみるや、その翅をはためかせる。
ただ羽ばたいているわけではない。その波濤は刃となり、自らに飛んでくる。
真空刃。不可視の刃をいくらかくらい、痛みが走る。
飛行相手、ならば。
「……躊躇してる場合じゃない!」
荒野にいる精霊を、己に呼び寄せる。
「――集中!」
■リタ・ラルケ >
髪が、瞳が、水色に染まり。
「――墜ちなさい」
その瞬間、数多の氷柱をばら撒くように異形に撃つ。
先程の牽制とは数も狙いも明確に違う、貫くための弾丸。
空を飛ぶ相手は、氷にて叩き落せ。
私が前の世界で学んだ、戦い方の一つである。
■川添春香 >
少女の声ははっきりとしていて、凛と響いて耳に届く。
ああ、あんな年の頃に。私は人を気遣うことを覚えていたかな?
「わかっています、危なかったら……逃げますって…」
その声は小さすぎて、彼女には届かないかも知れない。
それでも。
目の前の災厄と戦うために来た。
弱くても。怖くても。痛くても。傷ついたままの嘘つきでも。
「!!」
岩が吹き飛ぶのを見計らって横っ飛びに回避。
しかし手足を幾分か切り裂かれて苦痛に顔を歪める。
それでも。
ここから逃げたりしないッ!!
叫べ。父親と同じ異能の名を!!
誇れ。愛する者の異能を継いだことを!!
「狂悪鬼(ルナティック・トロウル)!!」
髪の毛が生き物のように蠢く。
助太刀に来た彼女の髪色が水面のような薄い蒼に染まるのが見えた。
属性変更(プロパティ・オルタレイション)の能力!?
未来でも、かなり珍しい力ッ!!
でも、これなら。
「負ける気がしない!!」
近くの高台を上手く使い、空に髪の毛で作り出した糸の結界を展開する。
触れれば……八つ裂き。
それをあの異形に対し使うことに、なんの躊躇いもない!!
■ドラゴンフライ・デプス >
リタの放つ氷柱は、無数に。
回避の余地もなく。
自らを、その翅を貫いて凍てつかせ、その飛行能力を奪う。
「ギィィィィィィィヤッ!!?」
錐揉み状態で落下すれば、遠くて見えなかったものが見えてくる。
それは。
原始的恐怖。
蜘蛛の巣のような。
糸の結界。
全身をズタズタに切り裂かれ、轟音を立てて落下。
それでも絡みつく糸をブチブチと音を立てて切って。
リタに向けて突進をする。
この巨体であれば。轢き潰して余りある。
■リタ・ラルケ >
少女の髪が蠢く。あれが、彼女の異能だろうか。
生き物のように蠢く髪が、空に何かを形成する。
髪の結界。
氷礫で叩き落される異形の下に蜘蛛の巣のように張り巡らされたそれは、重力に従って――異形の身体を切断した。
「……あれなら」
慟哭。異形の命が、削られる声。
あれだけ切り裂かれれば、死なないまでも相当なダメージを負ったことだろう。
事実、異形はその身体のコントロールを失いつつある。
「……いや」
コントロールを失いつつも、異形はこちらに突っ込んできていた。
死にゆく獣の、最後のあがきといったところだろうか。
……そんなもの。予想していないわけがない。
「――纏繞を解除する」
■リタ・ラルケ >
コントロールが、自分に戻る。
異形の巨体は未だこちらに迫っており、避ける時間はない。
その巨体に向けて、両手を突き出す。
「……厄介なことを押し付けるなあ! 集中!」
■リタ・ラルケ >
簡単な話。
避けれないなら、受け止めればいいんだ!
「はああああああっ!」
腰を落として、両足に力を入れて。
その巨体を、受け止める!
■川添春香 >
人には逃げろって言っておいて。
あの子は逃げないつもり。
そんなの……見過ごせるはずがない。
何らかの属性変更と共に巨体を受け止める彼女に向けて。
跳躍する。
白兵戦。苦手だった。もっとパパに色々教わっておけばよかった。
パパ……そういえば、あんなこともしていたっけ。
身体操作系の異能を全開。超軟体を使って足を捻る。
その螺旋の勢いを使って蹴れば。
私の力でも。
「やぁぁぁぁぁぁ!!」
螺旋撃。
コークスクリューブローというボクシングの概念がある。
曰く、捻ることに何のタクティカルアドバンテージもない。
曰く、力学的には捻ったほうが貫通するような衝撃が出る。
曰く……中国拳法では数千年前から当然のようにある、と。
螺旋の蹴りは相手の複眼をヘコませて吹き飛ばす。
それきり、巨大なトンボは動かなくなった。
ピクリともしない。それが不気味だった。
「はぁ………はぁ……」
血の滲む手足をパタパタと振る。
寒風が傷跡に沁みる。
「……ありがとうございました」
「でも! 今のは逃げる場面でしたよ!?」
ぷー、と頬を膨らませて。
「私は川添春香です、あなたは?」
■リタ・ラルケ >
異形の身体が己に触れる瞬間――巨体が、横に吹き飛ばされた。
横を見れば、さっきの女の子が足を振り抜いていた。
ということは――この子が、今の怪異を蹴り飛ばしちゃったってこと!?
「――すっごーい! 今の何!? あなたって強いんだね! びっくりしちゃった!」
それに気づけば、興奮してついまくし立ててしまう。
女の子なのに――っていうのは私もなんだけど――あの巨体を吹き飛ばすなんて!
「ふふーん、大丈夫! 私、結構力には自信あるから!」
この状態は、主に土――というよりは、岩なんかを操る。その影響で、今の肉体はとんでもない怪力を誇るのですっ! 私の自慢っ!
だからあの怪異も受け止められる自信があったんだけど――まあ、結果オーライ!
「あっとと……えっと、私はリタ。リタ・ラルケ! お姉ちゃんって呼んでくれたら嬉しいかなっ!」
相手の自己紹介に、そう返す。
ちゃっかりしてる? そんなことないよ! うん、きっと!