2021/06/08 のログ
ご案内:「転移荒野」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
雨が降り続いている。

それと関連があるのかどうかはさておき。
転移荒野でも怪異や魑魅魍魎の類が活発に活動しているとの報告があった。
先日、常世渋谷の異世界で成果を出し損ねたお偉いさん方は、今度こそと息巻いて息のかかった風紀委員を送り込んだのだが――

「雑魚ばかり、か。いやまあ、私の異能であればこういう使い方が丁度良いのであろうが…」

ざあざあと止まない雨に混じって、轟音と砲声と地響き。
低級の妖魔だの怪異だの。水辺に関連する者達が湧き出るポイントを、砲弾で文字通り"耕して"いた。

泥濘が掘り返され、小さな水溜まりは熱で蒸発し、蒸発した穴にまた雨水が溜まっていく。
その中で、悲鳴を上げる間もなく吹き飛んでいく妖魔。どんな種類のモノがいたかなど、もう覚えていないし数えていない。

「キリがないな。雨が止まねば、無意味な気もするが」

なんて、天幕代わりに大楯の異形で雨を防ぎながらのんびりと煙草に火を付けた。
最近、喫煙本数が増えている。少し注意しなければならないかもしれない。

神代理央 >  
まあ、良い憂さ晴らしにはなる。
歓楽街での協力者を得たとはいえ…先日の精神への傷痕が、癒えた訳では無い。
まして、父親の期待に応えなければならない身。ともなれば、振るう砲火の勢いが何時もより増していても――仕方ない、というものだろう。

「…数を頼りにしか出来ぬ怪異程度なら、戦略も戦術も練る気になれんな。
それ以上の数と、それ以上の物量で押し潰してしまえば良いだけだ。数字の強い方が勝つだけだからな」

泥濘を踏み締めて転移荒野に砲火を撒き散らす金属の異形達。
雨に濡れながら砲弾を放つその身は、じゅうじゅうと雨粒が蒸発する程に高温と化していた。

ご案内:「転移荒野」にアンジェさんが現れました。
アンジェ > 曇天から降り注ぐ雨の中、あらゆる世界から流れてきたものが等しく濡れていく。
雨粒の中に砲弾が混じるようになってしばらくした後、一人の学生がそこに現れた。

「怪異の群れがいると聞いて来てみたが…これはただの虐殺だな。
 よほど大型の生物がいなければ、私の出番はあるまい」

天幕にも見える大盾の屋根に近づいてみれば、風紀委員と思しき学生が一人佇む。
雨も砲弾も止む気配はなく、彼女は籠手を嵌めた右腕を挙げて挨拶した。

「失礼、風紀委員とお見受けするが…この掃討はどの程度続いている?」

神代理央 >  
投げかけられた言葉に、ゆっくりと視線を向ける。
主の視線に従う様に、尤も近くにいた金属の異形が、背中の砲身をゆっくりと彼女に向けるが――

「…そうだな。まだそれほど時間は経っていない。まだ一時間弱、といったところかな」

腕時計に一度視線を落とした後、彼女の言葉に答えるだろう。
向けられた視線は、彼女の右腕に嵌められた鋼の籠手で一度止まる。

「君の言う通り、私は風紀委員の神代理央という。
異常気象と合わせて発生した水棲型の怪異討伐の真っ最中、というところだ。
……申し訳ないが、一応名前を聞いてもいいかな。見たところ、学生ではある様だが」

未だ響く遠雷の様な砲声の中、彼女に向けて小さく首を傾げてみせる。
疑っている様子は無いが、無数の砲身は向けられた儘。
念の為警戒している、という様子は隠そうともしないだろう。

アンジェ > 絶え間なく続く砲撃の音は怪異の群れよりも多い鉄の塊を想像させるものだ。
返ってきた答えから察するに、いわゆる群れを統率するボスや主といった存在も大型ではないか、この砲撃の雨で吹き飛んだのだろう。

「私はアンジェ、一年生だ。元の世界では騎士をやっていた。
 ……風紀委員はよほど恨みを買うのか?」

向けられた砲身を警戒するように、身体を少しだけ前屈みにした。
それはまるで、砲弾を見てから避けることを考えているかのように。

「安心してほしい、私の能力は剣と甲冑を身に纏うだけだ。
 でーたべーすとか、そういったもので確認できるだろう?
 SNSのアカウントだってあるんだぞ!」

携帯端末の画面を彼に見せれば、そこにあるのは彼女のアカウント。
カフェやレストランで食べた菓子の写真や感想を、つたない日本語で書き連ねたものだ。

神代理央 >  
「一年生………?ああ、そうか。異邦人、か。そうか、そうだよな」

年齢はまあ、兎も角。
自分よりも二回りは背の高い彼女を上から下まで眺めて、一瞬固まる。
しかし異邦人であるならば、まあ体格差も出るだろうと一人納得。

「此の島の警察機構を兼ねているから、恨みもそれなりに…と、言いたいところだが。
生憎、私が個人的に恨みつらみを溜め込んでいてね。
気を悪くしたのなら、謝罪しよう」

と、苦笑いと共に肩を竦める。
彼女の姿勢と仕草を伺う様にしていた異形は、ギシリ、と音を立てて砲身を降ろした。

「…ふむ。確かに、登録されている名前と顔は今私と相対している君と一致する。能力についても、登録されているものと君の主張と相違ない。
改めて、疑って悪かったよ。此方も荒事ばかりでね、少々気が立ってしまっていたかもしれない」

風紀委員の端末で情報を確認した後。
と、謝罪の言葉を告げる表情と視線が、彼女が差し出した携帯端末に視線を向ける。

「………何と言うか、可愛らしいものばかりだな」

と、写真の種類や、その拙いながらも一生懸命さが見える感想を目にすれば。
くすり、と笑みを零して改めて彼女に視線を向けるのだろうか。

アンジェ > 目の前の風紀委員はこちらよりもかなり背は低いが、口調と漂う雰囲気はベテランのそれだ。
おそらく戦場の類も経験済みなのだろう、と彼女は心中で思う。
騎士として過ごしてきた経験の方が長い彼女にとって、これはありがたいことだった。

「いや、気にしないでほしい。学園を守る者ならば警戒してしかるべきだろう。
 私も騎士をやっていた頃は捕まえた魔術師からひどく恨まれていたものだ」

砲身を下げた鋼の異形を横目で観察してみれば、もはや怪異にも見える形をしている。
彼らが響かせるこの砲撃音を聞いていれば、撃たれた相手は恨む間もなくあの世に行きそうなものだ。
少しだけ笑みを見せた彼の姿からは、とてもそんな能力は想像できないが。

「いや、これは可愛さ目当てではなく純粋な味だ!
 私のいた世界ではめったに食べられるものではなかった菓子が、誰でも簡単に食べられる…作ることすらも!
 だからこそ、その持ち帰りを邪魔する怪異共は絶対に…絶対に!殲滅しなければならんと思う!」

まるで経験があるかのように、言葉の最期には砲撃したばかりの砲身と同じくらいの熱量を込めた彼女。
その熱意は、雨が降りしきる中怪異の群れがいると聞いてすぐさまやってきたことからも分かるだろう。

神代理央 >  
「そう言って貰えると助かるよ。
君の様に、理解が早い生徒が多ければ我々の仕事も楽になるんだがな」

データベースで確認した時、彼女は大分年上だった。
だから少しだけ言葉遣いに悩むが――取り敢えず、出会った時の儘でいくことにした。
多少偉そうに思われるかもしれないが、此方は学年は先輩。
今のところ、彼女が気にしている様子も無いし。

「…そうやって力説してくれるくらいには、この世界の菓子を気に入ってくれているようだな。
私も、甘い物が好きでね。君の様に、甘味に熱意を持ってくれる人がいることは嬉しく思うよ」

これは、純粋な本音。
ちょっとだけ嬉しそうに笑いながら、小さく頷いてみせる。
尤も、直ぐにその表情は真面目なものへと変わる。
彼女が、菓子の為だけに動いていない事くらいは流石に分かる。

「とはいえ。自警団の様に勝手に動かれるのは好ましくない。
此の島の警察機構はあくまで風紀委員会か公安委員会だ。
他にも対怪異の組織はあるが…学園としては、生徒が単独で怪異と戦闘行動を行う事を推奨してはいない。
自らの安全の為にも、行動には注意して欲しいものだな」

それは、風紀委員会として告げる言葉。
公的な組織に属さないものが、危険な地域を訪れる事への警告。
例え怪異相手とはいえ、生徒が力を振るう事は好ましくない、との意思表示だった。

アンジェ > 甘味好きの同志が見つかったことは嬉しく感じた彼女だったが、
続く言葉には少しだけ顔をしかめた。
彼女としては魔術を研究する常世財団は信用することが難しく、
実質的な下部組織である学園側を信じ切ることはできないのだ。

「確かに……その地に来たなら、その地の法に従うのはどの世界でも変わらないと私は思う。
 だが、私には力がある。それに戦闘の経験もだ。
 もちろんやることを全て見逃せとは言わないが……菓子を狙う不届き者を成敗することぐらいはいいだろう」

自らの信条と、状況を考えて出てきた答えだった。
委員会をないがしろにするつもりはないが、頼り切ることはできない……
彼女の複雑な内心を表すものだ。

「だが、この有様では私の出番はないだろう……当分は通学路を見て回るぐらいにしておくつもりだ。
 ありがとう、神代風紀委員。君もこの学園の騎士だな」

そう言って、彼女は荒野を一人歩いていく。
後日、この日に出会った彼がある店のオーナーであることを知って驚くのは、また別の話だ。

神代理央 >  
彼女の言葉を聞き届け、じっとその佇まいと表情を見つめる。
やがて、小さな溜息と共に苦笑いを一つ。

「駄目だ、と言っても聞くタイプではないな。
出来れば風紀委員会に是非勧誘したいくらいだが、其処はまあ…君の意志に任せよう。
不届き者を成敗することは止めはしない。だが、自ら危地に飛び込む事を推奨はしない。
それだけは、覚えておいて欲しいものだな」

彼女の想いを強くは引き留めない。
また、此の場で風紀委員会への加入の意志を見せない、ということは何かしら思う所もあるのだろう。
まだ出会ったばかりの彼女に諸々無理強いを言う事も無い。
今は、彼女がどう行動するかを見守るだけだ。

「そうしてくれ。君の様に正義感が強い生徒が見てくれている、というだけで生徒達も安心出来るというものだ。
…騎士、騎士か。ハハ、私はそんな大層なものじゃないよ」

と、小さく笑って彼女を見送ろうか。
彼女と立ち話をしている間にも続いていた砲撃によって、既にあらかたの怪異は片付いている。
彼女が立ち去ってからそう経たぬうちに、此方も帰路へとつくのだろう。

――後日、何となく覗いてみたSNSで彼女の投稿を発見し、その写真が自分がオーナーを務めるスイーツ店のものだった事を知った時は、流石に笑ってしまったのだとか。

ご案内:「転移荒野」からアンジェさんが去りました。
ご案内:「転移荒野」から神代理央さんが去りました。