2022/10/06 のログ
ご案内:「転移荒野」にレオンさんが現れました。
■レオン >
「ここか……」
転移荒野には異変が起きていた。
一面、見上げるような背の高い植物。
黄色い花をつけ、モサモサと繁茂している。
それは……一見セイタカアワダチソウのようだった。
ただ、通常の3倍ほどサイズが大きい。異界のそれだった。
■レオン >
もし、これが普通にセイタカアワダチソウのビッグサイズだったら問題だ。
地下茎や種子からあっという間に増える。
異世界からの外来種というわけだ。
セイタカアワダチソウと同じ性質を持っている場合、
アレロパシーという仕組みも持っているかも知れない。
アレロケミカルという他の植物を抑制する物質を放出する可能性があるのだ。
危険……よって、これ以上繁茂する前に一面を除草して。
地下茎を燃やし尽くさなければならない。
心が痛むが、危険な転移荒野で活動できる生活委員も限られる。
ここは心を鬼にして、こいつらを全滅させてしまおう。
■レオン >
早速、エッジグレイブを起動させる。
こいつはチェーンソーであり、草刈り機でもある。
と、自分に言い聞かせている。
そのまま音を立てて異界のセイタカアワダチソウを伐採していく。
手応えが硬い。
普通の草刈り鎌では、やはり除草は難しいかも知れない。
三倍大きいセイタカアワダチソウは、三倍の花粉を断末魔に放出していく。
額の汗を拭った。
■レオン >
セイタカアワダチソウの花粉はアレルギー性物質だ。
別名で言うなら、ブタクサ花粉症を引き起こす。
その点で言っても。
お前はこの世界に居場所がなかったんだな。
刈った草はひとまとめにしていく。
後で合流した生活委員会のみんなと野焼きのついでに焼却処分をする。
■レオン >
4、5メートル近いこの植物が繁茂する転移荒野は見通しが悪い。
そういう意味でも、危険な植物だ。
こんなところに、異界の敵対的怪異が潜んでいたら。
そう考えると、足も止まる。
やはり一人で来てよかった。
生徒たちにこんな場所で周囲を気にしながら除草作業はさせられない。
ご案内:「転移荒野」にリタさんが現れました。
■リタ >
己の放浪癖に従って、転移荒野をぶらついていたところ。
響く機械音に誘われて来てみれば、自分を遥かに超える高さの植物が群れていた。
「うおぉ……なんだこれ」
セイタカアワダチソウっぽいんだけど、サイズがおかしい。
もしかして、知らない怪異じゃないだろうな。
草をかき分けてやってみれば――なんだろう。槍? 鋸? とにかく見慣れない道具を持った大人の人が草を伐っていた。
……どこかで見たような気がする、かもしれない。自信はない。
「はじめ、まして。大変そうだけど……これ、何? 何が起こってるの?」
この人の異能の力っていう可能性も無きにしも非ず。一応訊いてみる。興味本位。
■レオン >
声をかけられて驚く。
まずはエッジグレイブを停止、ヨシ。
振り返ると、小さな女の子がいた。
光の加減でグレーがかったように見える白銀の短髪に、
少し警戒の色が見える黒い瞳。
「はじめましてだな、俺は常世学園の教師だ」
「これかー………」
周囲を見渡して。
「門が最近開いただろ? そこから種子が舞って来た異界外来種のセイタカアワダチソウだな」
「普通のセイタカアワダチソウだって外来種だから、ややこしいな!」
ははっと笑って。
タオルで汗を拭い、少し日が落ちてきた空を見上げた。
「君は? ああ、そうじゃない……まずは自分が名乗るのが先だよな」
「レオン・ゼッファーです。どうぞよろしく」
■リタ >
「そういうこと……」
異界の植物と言われればそれが確かにしっくりくるかもしれない。それでもこちらの植物に姿だけは似通っているところがとても面白いけれど。
「あ、えっと……リタ。リタ・ラルケ。学園の生徒で異邦人。よろしく」
自己紹介を返す。既視感の正体はそれか。確かに学園のどこかで見かけたような気がする。言われてみれば。
「で……邪魔だから刈ってる、と。この謎植物を。
手伝おうか? 一応ある程度なら何とかなると思うけど」
放置しておいたら不都合があるのはこちらも同じだ。というか夢に出てきそう。
■レオン >
「きっと何もかも大きな世界から来たんだろう」
「そこには三倍大きなリンゴが成るだろうし、三倍大きなスズメバチが飛んでいるのかも」
ヘタな冗談を言ってから笑顔で頷く。
「じゃあ異邦人仲間か……リタは転移荒野が怖くないのか?」
時々、物騒な生き物が出るけど。と言って。
「手伝ってくれるのか? ならありがたいけど」
「こいつらは硬いぞー」
と、クーラーボックスの中からペットボトルの飲み物を取り出して飲む。
よくわからないけどこのペットボトル、という技術は洒脱だ。
携帯性に優れるし、なんとこの機能美で使い捨て。
■リタ >
「異邦人”仲間”……先生も異世界から来たんだ。
まあ、大抵のことなら生きて戻れる自信はあるから。だからむしろしっくりくる」
自然はいいぞ。その物騒な生き物も含めて。自分の異能もあるし。
「まあ、植物に関しては都合のいい力があるんだよね」
それで、と前置いて。
「燃やす? 凍らす? 枯らす? 片っ端から刈ってくでもいいけど」
選択肢を作れるくらいには大抵何とかなる。
■レオン >
「ああ、この世界は良い。楽園だ。だったら楽園のために何かをしたい」
「そう考えてやることが同じ異邦人……異邦草? の排除なんだからなんとも言えないが」
相手の選択肢を聞くと、目を丸くして。
「異能者、なのか? それはすごいな」
「燃やすのは延焼が怖いし、焼却許可をもらっている時間まで一時間早いな」
「枯らすか、刈ることで手伝ってもらえるとありがたいな」
地下茎もあるから枯らせたらなお良い。
処分を考えると気が遠くなるような時間が必要だ。
■リタ >
「ん、りょーかい。まあ……うーん」
草の力を枯らす――即ち命を絶つ――ために使うのは、何か嫌なしこりが残りそうだなあ。"彼女"の性格的に。
でも、まあ。言った手前だ。やろう。
「先に言っとくけど……もし私が泣いたらごめんね?」
まるで他人事のようにそれだけ言って、目を閉じて――集中。
「……精霊纏繞」
■リタ >
――そうして、数秒もすれば、その髪は緑に、瞳は翠に染まって。
……。
力が身体中を駆け巡る感覚が、します。けれど今からすることを思うと、つい憂鬱になってしまって。
「はぁ……」
大きく溜め息。正直に言えば――気が乗りません。ここで生きている、生きようとしている子たちを"手にかける"わけですから。
「ごめんなさい、セイタカアワダチソウ(?)さん……」
名も知らぬ植物とはいえ、これから枯らす命に、深く頭を下げました。
■レオン >
「……“私”が泣いたら?」
何のことだろう。
少女はまるで自分を他人事みたいに表現していた。
すると。
見る間にリタの髪の色が緑に変わっていき。
さっきとは少し印象の違う言葉遣いで……
目の前の命に頭を下げた。
「リタ………さん?」
思わずさん付けしてしまう。
若葉を思わせる翠の瞳。彼女に何が。
■リタ >
「はい、リタです……って、どうして敬語なんでしょうか?」
と、そこで思い当たりました。
「あ、そうですよね、びっくりしますよね、いきなり……」
少しばかり眉を下げて、驚かせてごめんなさいと謝ります。
「えっと、これがわたしの力なんで……ああいえ、姿を変えるのは本質じゃないんですけど……」
説明が難しくなって、つい慌ててしまいます。うぅ、落ち着けわたしっ……。
……ふぅ。深呼吸。
「その、簡単に言いますと……今のわたしは、植物を操ることができるようになっていて……こういう風に……」
近くのセイタカアワダチソウ(大)さんの茎を一つ、両手で包み込みます。そうして――その中の命を吸いとると――見る見るうちに、その株から生気が消えていきます。
「……うぅ、ん……」
やっぱり、気分はよくないです……けど、これも誰かのため、先生のため……頑張らなきゃ。
■レオン >
「だ、大丈夫……! 落ち着いてくれ…」
いや一番慌ててるのは自分だが?
とりあえず属性変化みたいな……感じの…異能なのだろうか…?
そして両手で包み込んだ大きな異界植物は。
成長の砂時計をひっくり返したかのように萎れていき。
「リタ……」
首を左右に振って。
「辛そうに見える。後は俺がやる」
「手を汚すのは一人で十分だ」
確かに彼女の力はすごい。
けど、今の彼女は植物を愛している……
言ってみれば、俺とは違う慈愛の心を持っているように見えた。
そんな彼女にこんなことを手伝わせるのは、良くないことだ。
俺の肩に白い翅を持つ蝶が乗った。
■リタ >
「いえ……」
ぶんぶんと首を左右に振って、雑念を払います。
「でしたら猶更、わたしにやらせてほしい、です。
人の住む場所に立ち入った子が、人の手によって駆除されるのもまた、自然の摂理です。それを止めることや捻じ曲げることは、できません。誰にだって」
ひとがひとのために生きるのが、自然の在り方の一つでなくてなんというのでしょう。
縄張りに立ち入った、害を為すもの、不都合を生むものの命を奪う。自然界では当たり前のこと。
「この子たちがここに来てしまったのは、この子たちにとって不幸だったかもしれませんけど……けど、だからこそ、目の前の命から目を逸らしてはいけないと思うのです」
それが、他の命を奪う、人間という強者に課せられた義務であるのだと、思うのです。
「ですからせめて、この子たちを『看取る』ことくらいはさせてください。お願いします」
■レオン >
ああ。そうか。
この子は人間の都合で刈る草を。
看取るつもりでいるんだ。
目を強く瞑る。
次に目を開いた時、肩の蝶はひらひらと飛んでどこかへ行ってしまった。
「わかった、やろう」
エッジグレイブを起動させて。
「俺はこっち、リタはそっちだ」
「辛くなったら休む、OK?」
と、まだ未開封の飲み物が入ったクーラーボックスを人間のほうの手で指して。
「やろう……ここには異邦人しかいない」
楽園で。
俺たちに罪はあるのか。
■リタ >
「はい。先生も無理はしないでくださいね? 草を刈るのは重労働ですから……気が付かないうちに疲労がたまってしまっていることだってあるんですから……」
言いかけて、一秒。
「……って、ごめんなさい! その、先生相手に偉そうにお説教みたいになってしまって……えっと、とにかく、お互いに無理はしないで、疲れたり辛くなったりしたらお休みする、ですね!」
慌てて言い繕います。
それから、指し示されたエリアの方に歩いて行って――また一礼。
「ごめんなさい、皆さん。今からわたしたちは、あなたたちの命を奪います。
もし、どこかまた違う場所で生まれたときには、精一杯生きてください。勝手かもしれませんが、それがわたしの願いです」
返事がないことを重々承知で、そう語り掛けます。自己満足、かもしれませんが。これから奪う命に対して敬意を払うことも、また大事だと、そう思うのです。
とん、と一つ、靴の裏で大地を叩いて。
それから、周囲に満ちる命を少しずつ、少しずつ、足先から体の中へ。近くの草から順次に、ゆっくりと時間をかけて枯れていきます。