2020/06/30 のログ
ご案内:「青垣山」に池垣 あくるさんが現れました。
池垣 あくる > 「――ここなら多分、人目もありませんね」

調べたところ、立ち入り自体は自由だが、危険ともされている場所。
奥まったところまでいけば、わざわざ来る人間はそういないだろう。
いや、見られれば殺せばいいだけなのだが。
――そう平然と思考するほど、少女の倫理観は壊れていて。
その狂気のまま、奥へ奥へと進む。

すると、目当てのものが現れた。

『プギッ!プギッ!』

「へぇ……実際に目にすると、大きいですねぇ」

野生のイノシシである。
いやまあイノシシに絞ってたわけではないが。要するに『動く巻き藁』になってくれるものが出てきて尚且つ、人目がなさそうなのがここだったというだけだった。

「ふふ……当主さんがやっていた秘密の稽古……如何程のものでしょう」

笑みを浮かべ、手に持っている片鎌槍……神槍『天耀』を構える。

池垣 あくる > 神槍『天耀』は、変幻自在の槍術を可能にする片鎌槍。
しなりやすい柄に無数の使い方を持つ形状の穂先。
対人においてその変幻自在は非常に有効だが……一方で純粋な威力に欠け、巨大な動物相手には扱いが難しい槍でもある。
また、この山中という地形は、長物である槍にとっては本領を発揮しづらい場所。
ひたすらに不利を重ねている状況であり、故に本来は『天耀の戦場ではない』と言い切ってしまえる状態だ。

――だが、常世学園に来る前、あくるは見た。
師が、夜な夜な山に入り、そしてイノシシを仕留めて帰ってきたのを。
それだけではない。熊を仕留めてきたこともあった。
通常なら不可能なこと。ならば。

「(そこに、一天流の秘事があるはず……!)」

ならば挑むしかあるまい。
何処までも強く、何処までも槍を極めんために。

『ブギャーーー!!』

殺気を感じ取ったか、威嚇を重ねるイノシシに対して。

「――おいでなさいな」

待ちの姿勢で構える。

池垣 あくる > 『ギィィ!!!』

叫びながら、突撃してくるイノシシ。
――イノシシの突進は、おおよそ時速45㎞。
加えて『猪突猛進』という言葉のイメージとは裏腹に、左右に曲がる、急停止、急発進など自由自在だ。
つまり。人間には対処不可能、

しかし。

「思ってたより、遅いですね……クス」

笑みさえ浮かべながら、あくるは槍を突き出す。
真正面から、そのまま串刺しにしてくれんと。

――あくるにとって、この程度の人外レベルは人外に入らない。そういう環境で槍を覚え、その中で天才と称されてきたのだから。

思ったより簡単だった……そう思いながらまっすぐに突き出した槍は、しかし。

『プギャアアア!!!』

「!?」

イノシシに『突き刺さること無く』、槍を押し返してくる。
そして。

「っ、あああああっ!?」

その突進に抗することが出来ず、思い切り吹き飛ばされた。

池垣 あくる > 「ごげっ……!!」

大きく吹き飛び、木に背中から激突。
強烈な痛みと共に血を吐く。
それでも槍は放さなかったのは、槍使いとしての意地故か。それとも天才の為せる業か。
随分と吹き飛ばされたために直ぐには追ってこないが、イノシシがこちらを探している気配を感じる。
わざわざ仕留めに来ている気配を、感じる。

「(迂闊……ごぼっ。魔獣化、してるなんて……)」

天耀の穂先は間違いなく、イノシシの額を捉えたはず。いくら天耀が威力に劣り勝ちかつ、鍛えているとはいえ女性のあくるの腕力と言えど、突進の威力に真正面から合わせての突きなら額を貫くことは容易なはず。
それが出来なかったということは、魔獣化して、強度が跳ね上がっているのだ。

「がはっ、ごぼっ……う、ぐ……」

ふらふらと立ち上がる。
受け身は何とか取れたので、まだ致命傷には至っていない。
しかし、これは、かなりまずいことになった。

「天耀の弱点が、モロに出てしまう……」

池垣 あくる > 前述したとおりの、直接的な威力の低さ。
特に、突きの威力が顕著だ。
通常よりもしなりやすくなっている天耀の柄は変幻自在の技を産む反面、威力を流してしまいがちなのである。
刺さってしまえば問題はないのだが、刺さるまでが遠い。

「ふぅ……ふぅ……」

呼吸を整えて待ち受けていると。

『ピギィ……』

イノシシが、現れた。

『ピギャアアア!!!』

再度の突撃。それに対して、まだ動き回れるほど回復していないあくるは。

「シッ!!」

愚直に突きを放つ。
――否、愚直に、ではない。

「腸をブチまけて……!」

狙いは腹部。
槍を寝かせて足元に突き込みつつ、イノシシが接近した瞬間に鎌を立て、引く。
頭部は当然、一番堅いはず。
だが、それ以外の部位は?
腹部は?脚部は?
あらゆる個所を狙い、刈り刻む変化が、天耀にはある……!

が。しかし。

「なっ!?」

イノシシは、飛んだ。鎌の部分を、飛び越えるように。

池垣 あくる > ――これは、あまり知られていないことではあるが。
イノシシという生き物は、1mくらいならば助走なしで飛び越えるほどの脚力があるのだ。
ましてや助走付きかつ、魔獣化しているならば、それ以上も容易。
そのままの勢いで、あくるに突進していき……。

「あっ……」

ギリギリで、一瞬で飛び退る。
あくるの異能『縮地天女』。効果は、5mほどの超高速移動。
突撃を受けるギリギリで何とか異能を発動し、必死に逃げ延びる。

「っつ……ああもう、なんでこんな」

言いながら、胸に手を突っ込み、自らの胸を締め付けていたサラシを投げ捨てる。
先ほどの攻撃がカスり、破れてしまった。
抑えつけていた93㎝のバストが解放される。

「(――鬱陶しい。動きづらい)」

あくるは、時に羨ましがられるこの巨乳が嫌いだった。動くの邪魔にしかならない。槍の邪魔にしかならない。そんな胸が。
しかし、そっちに意識を割いている余裕はない。

「これは……」

かなりまずい状況だ。

池垣 あくる > おそらく、直線的な突きならばイノシシの反応速度を超えて当てることは出来る。
が、それだと弱点を探る戦い方が出来ない。
変化を織り交ぜた突きは、その変化の一瞬で対応される。当てることが出来ない。


死。
どうしようもなく逃れえない『死』が目の前に迫っている。
しかしそれでも。


「極限、ですねぇ」


にやりと、怪しく笑みを浮かべる。
身体は痛みを訴え、技は通用しない。敢えて整えた不利な条件は、見事に自分をがんじがらめにしている。
求めていたのはこれだ。
願っていたのはこれだ。
これを乗り越え、その先に光を見出す。それのなんと恍惚なことか。
その歓喜の悦楽を見据え、凄絶に笑みを浮かべながら槍を構える。

「(――奥義、その型のおおよその当たりはつきました)」

追い込まれれば、その極限を打破するために必要なものも炙り出される。
伝え聞いていた技の名も、おおよその見当をつけるのに役に立つ。

しかし。

「(出来るか、どうか……)」

研ぎ澄まされた思考の中に迷いが浮かぶ。
求められるのは、精密極まる槍の操作。まさに槍と一体にならねば成立しない奥義だ。
そこに、わずかな不安がよぎる。
が。

池垣 あくる > 『ブギィィ!!!!』

迫りくるイノシシ。迷っている時間はなく。そして何より


「もっと、もっと先へ……!」


道を外れてもなお揺るぎない槍への想いが、全てを上回った。

「――――――ッ!!!」

槍を繰り出す。
捻りは加えない。捻れば穂先が揺れ、威力が逃げる。
しなりやすいということは、素材の弾性が高いということ。
ならば。理論上は。

「(『完全にまっすぐ力を通せば、弾性による反発から突きの威力はより高まるはず――!』)」

後はそれを出来るかどうか。実行できるかどうか。
槍がイノシシに到達する。額に当たる。強い抵抗を感じる。

池垣 あくる > 体重を乗せる。穂先にすべての力を集中させる。
柄に芯を通し、変幻自在をすべて捨てた一撃にすべてを乗せる。
抵抗が極限を迎え――

『ビ、ギャアアアアア!!!!!』

あくるの槍は、イノシシの額を貫いた。
耳をつんざく悲鳴を上げ、そこからだんだん静かになりつつ、地面に倒れ伏す。
しかしその悲鳴すら、あくるにとっては凱歌のようにしか聞こえず。

「――――ふ、ふふふ……」

凄絶な笑みを深めて、そして。

「ふふ、あははははは!!!霜月一天流奥義『天孫一烈』、手にしましたよ!!貴方が教えてくれなかった技を、自分で手に入れましたよ!!あははははははははは!!!」

狂気を宿してけたたましく笑う。
今この場にいない師に向けて笑う。
悦楽を満面に浮かべながら、高笑う。

「っはははははは……っふぅ、今日は気持ちよく寝れそうです。ふふふ……」

ひとしきり笑ったのち、槍を一振るいして血払いをし、そのままその場を去る。
満面の笑みをその顔に貼り付けたまま。

ご案内:「青垣山」から池垣 あくるさんが去りました。