2022/09/06 のログ
ご案内:「青垣山」に出雲寺 夷弦さんが現れました。
出雲寺 夷弦 > その日、青垣山の天気はとても良かった。

夜になって尚も、灯りを持たずとも月光で周囲を見渡すことが出来る程、雲はなく。
何時もより少しだけ強い風が常に吹いているからか、晩夏の余熱を冷ましていくには充分な涼しさの気候。


「…………、ここら辺でいい、か?」

こんな日だから、青年は此処を訪れた。
その装いと、手に持った大きな槍。
学園の制服ではない、彼の、彼だけの装いで。

「…………、んじゃ、始めるか」

出雲寺 夷弦 > 「――試運転、開始」

――握っている槍は、その穂先の付近に大きな機構を持っている。
車か、若しくはバイクのエンジンに似た部位。
明らかに片手で握って保持できるような重量ではなさそうなそれを、ぐっと握って構える。
青年の躰は、その重さに振り回されることもない。構えた瞬間には、時が静止したかのように一切の挙動を止める。


……そして、大きく息を吸った。

「……"生命(いのち)を奉じ、鉄の心臓に胎動を。ひととき己を燃し、この槍に払魔の焔を"」

――握った拳から、柄へ、青年の躰は薄らと蒼く、『燃える』。
言葉によって解かれたのは、躰の内側に迸る力。
蒼く醒めた炎は、延焼し、槍へ、穂先へ。

槍の機械は、その炎を吸って、巨音を立てて駆動を始めた。
炎を得て、蒼く煙を吐き、振動し、槍の先端を紅く赤熱させ始める。


「"雲出ずる所に在りて、魔を堰く(せく)役を担うが務め。一歩踏みしめ、永久(とわ)に譲らん、此の戦場(いくさば)。この命――"」

言葉を紡ぐ、紡ぐ程に蒼く燃える。槍も躰も包まれて、
鉄の獣が穂先で吠える。踏みしめた地面と踵の間に、煙と光が立ち込める。

「"燃え尽きるまで!!"」

最後の発破。声と共に地面を蹴ると、青年の躰は、槍の穂先から、


"傘"のように噴き出す炎に引かれ、軌跡を刻んで、前方へと一気に加速した。

出雲寺 夷弦 > 「ッ……!!」

――槍に引かれるまま、彼の躰は徐々に地面から離れていく。突き抜けながら、木々の合間を右へ左へと飛んでいく。

「っちょ、……こいつっ、前より全然――っ!!」


足裏からは煙と光。彼自身が一つの飛行物体となって、いよいよ地面との距離は開き、とうとう、"空"へと舞い上がる。


槍に万力の如く力を込め、振り落とされないように制御する顔は、かなり険しく歪む。

「ッ落ち着け、落ち着け、落ち着け……っ!!」



――空高く上がっていく。その過程で段々とスピードは乗るが、挙動は落ち着きを取り戻していく。

槍に引かれながら、足裏からの光がバランスを取る。
そうして彼は槍と一体となり、山肌を縫うように飛ぶ。

「……よッし、ヨシ、ヨシ良い子だっ!このままこのまま――ッ!!」


……星空を縫う。木々を凪ぐ。旋回しながら、槍に手を掛けるまま、ちょっとずつ姿勢も自在に、線となった世界が制御できていくほど鮮明になる。

出雲寺 夷弦 > ――――遠くから、流れ、尾を引く星のように、

「―――到………ッ!!」

轟音と共に、地面を削り取りながら足から着地し、槍を振りぬいた。

……盛大に舞い上がる土煙の中から、違え方向にもう一度槍を振り、
土煙を振り払った。


「着ッ!!」

…………舞い散る葉でボロボロになったジャケットに、
抉れた地面に喰い込んで土だらけの足。
大きく声を張ったはいいが、恰好はついていなかった。

「…………」


小さな吐息から、その場にゆっくりしゃがみこみ、
……抉れた地面に足を投げ出し、座り込んだ。

「……ッつ、かれたぁ……」

――生命力を焔とし、放出する。
槍の機能に振り回され切った彼の躰は、くったくたになっていた。

「……けど、これくらいならまぁ、実戦で使える、か。
……鬼の生命力……無尽蔵だなほんっと」

出雲寺 夷弦 > 「……よい、せっと」

重く立ち上がる。地面から足を引っこ抜くと、脱いで靴に入った土や石を掃い、ジャケットを叩く。

まるでひと悶着あった後のような恰好に苦笑いして、槍を肩に担いだ。

「……凛霞に、どう説明しようかな、これは。
……って、武器の試運転で空を飛んできた、なんて言ってどう反応されるかなぁ」


……夜空を仰ぐ。




「……昔なら、決死の技も、今は"試運転"で済む。
――すっかり、人間じゃなくなったな、俺も」



そうして、歩き出す。帰り道は穏やかに歩いて帰ろう。
これ以上汚れて帰ると、心配をかけたくない相手の、曇る顔が頭に浮かぶから。

……道中、ジムにでも寄って、シャワーだけでも浴びて帰ろうと決めた。

ご案内:「青垣山」から出雲寺 夷弦さんが去りました。