2020/08/15 のログ
ご案内:「配信チャンネル」にエコーさんが現れました。
■エコー > 『今日の課外授業は『バーチャル』をテーマにした座学を予定しています。
ノートと筆記用具を持って、音を流して動画を見れる環境にいてください』
そんな事前告知を経て、エコー個人の授業用ライブ映像が流れ始めた。
非実在性友達系馴れ馴れしいバーチャルティーチャー・エコーはスタジオを模したVR空間にいた。
リアリティある奥行きにしっかりとしたクオリティのCGで彩られたそれらは、本物と見紛う程に迫った立体感を醸し出している。
そんな中、エコーは普段通りの涼し気なワンピースドレス姿で教鞭を手に、黒板の前に立つ。
「やっほー、みんな元気してる~?
お盆は何か楽しくすごせてる? 花火に温泉にバーベキューに心霊体験!
友達とか、あるいは彼氏彼女とか! ラヴがパーリナイでワンナイトしたり! 先生恋バナ好きだからそういう子がいたらコメントかボイチャで教えてね~。
あるいは帰省したり奇声を発したりウェーイって叫んだり、ばかっぽい体験が出来ていたり、思い思いの夏が過ごせてたら私嬉しいな!」
■エコー > 今日は夏期講習! オンライン授業で座学の時間だよ!
基本的に私の授業を取っている人向けで授業をするけど、この回線は全公開しているから特に関係ない人が見ても大丈夫だよ~。
私と雑談するだけっていうのも大歓迎! 先生いちおう授業の最中だから生返事でしか答えないけどね」
一度背を向け、黒板に文字を書いていく。白い文字でデカデカと『Virtual』と書かれていた。
「テーマはバーチャル!
バーチャルは知ってるよね、美少女のガワになったりするアレ! そう私みたいな!
……私最初っからバーチャルだからね! 中の人とかいないもん!」
ボケた生徒の一人のコメントにこ~らこらと笑いながら返信する。『遅れた、間に合う?』といういそいそとしたものには「はい間に合うよ~こんにちは~」とゆったりと返答する。
「……で、今日のテーマはバーチャル。これをもうすこ~しだけ学術的に偉そうにしたものだよ!
頭の固いご老人たちがこねくり回して作ったそれっぽいことを、それっぽく論じながら、面白おかしく教えていくね」
■エコー > 「じゃあまず『バーチャル』って聞いたら何を連想する?
コメントには~『ゲーム』『仮想的』『テクスチャ』『CG』に『仮想』『電子マネー』。ほーうほうほう」
電子マネー、良い線いってる! 仮想って上げてくれた人も広義的にはそう!」
黒板にコメントで寄せられた単語をぎっちりと書き連ねていく。
その中でも特に印象的だったと思われる仮想とマネーをぐるぐるに円を描いて印象付ける。
「バーチャルマネー、つまり仮想通貨ね。電子決済ともいうけど、駅に乗るあのカードとか、クレジット何かもその内の一つ。
元々バーチャルはバーチューっていう言葉が由来で、更に遡ると『物が物足らす本質』というのが原義に当たるの。
仮想通貨、例えばクレジットという物は見た目はただの硬いカードだけど、ナカミはお金のやり取りをするためのツールや個人情報の入ったデータの塊。これが本質ということ。
見かけはお金じゃあないけど、お金として機能するもので貨幣の代用として使われるものだよね」
仮想空間であるこの場所は何でも出現させることが可能だ。たとえば黒板に書いている最中に改札のデータを読み込み、エコーが手に持った電磁カードで改札を通る小芝居を打つことも可能なのである。
■エコー > 魔法のランプから出てきた青い魔人よろしく、指パッチンひとつで自分が通った改札を消してゆっくり歩く。
「この事からバーチャルは中身が伴った情報のあるもので、『仮想』とも訳されるこれは学術的にはちょっと違うの。
仮想は中身がすっかすかで情報そのものを本質とした情報の無い、中身のない箱みたいなものでね。
モデリングの中身よりガワを重視するみたいな感じ。モデリングに態々胃とか突っ込んでたら手間でしょ?
特殊な環境でない限り『仮想的』なキャラクターは中身を持たず、ガワだけが存在する。
ちなみに私はちゃ~んと中身が詰まってるんだよ! 夢と希望とみんなの愛で!」
きゃぴるんと、両頬に人差し指を付きつけながらポージングを取る。あざとく可愛い感じにキメた。ついでにカメラも顔に寄せてアップにしていた。
■エコー > 「んもうみんなノリがわるーい」
『草』とだけ返信されたコメントにぶーぶー文句を垂れながら授業を続ける。
「実質的に存在するものは『バーチャル』で、その反意語は名目上と訳される『ノミナル』。
ちなみに『ノミナル』の反対語は『リアル』、つまり現実だね。
すっごいよね、リアルとバーチャルはこの世界では同じ意味を持つの。
リアルとバーチャルが対になるわけじゃあないってことは覚えておいてね」
ちなみにリアルの反対語はイマジナリだけどここは覚えなくても良いよ。
今後控えるまとめのテストとして出す範囲を明示的にしつつ、これまで出た言葉をずらずらと並べて図式にする。
「バーチャルが中身に情報のある実質としたものということを踏まえた上で、『バーチャル』の種類について教えていくね。
見た目は現実ではないのにその意味を含むモノ。さっきの電子決済は良い例だったね。
キミたちの中には免許を持っている人はいるかな、教習所とかに行くとシミュレーターがあるでしょう。車とかの運転が出来る、ゲーセンにある感じのアレ。
あれもただハンドルを回して遊ぶだけの見た目だけど、本質としては車に乗る訓練としてあるでしょ? だからそれは意味ある情報として、バーチャルの定義に含まれるの」
■エコー > 「はいじゃあ問題! みんな大好きテレビゲームはこのバーチャルに当てはまるかな!?」
古今東西あらゆるゲームをずらずらと並べて見せる。
■エコー > 「は~い正解は~~~?」
どぅるるるるるる。セルフ音声によるドラムロールと、無駄に凝った照明装置が忙しく動き回る。
スポットライトにチラチラと映る二等身程のちっちゃいエコーが〇と×のプレートを掲げて待機しているのがチラチラと映っている。
「〇! 勿論当てはまる!」
ドンドンパフパフ。またしてもセルフボイスによる音と、クラッカーの演出と共に〇のプレートを掲げたエコーが笑顔を浮かべて飛び跳ねていた。
バーチャルとゲームの定義は『コンピュータの生成する仮想的な空間』において遊ぶことが主な定義なの。だからバーチャルという文言単体だとこれは成立するんだ~。
ちなみに最近は三次元的なゲーム、VRとかが昨行ってるよね~。
ここに来ると更に定義は加わって、『その空間においてリアルとバーチャルが相互的に自由に認識しつつ』そして『その環境にいる生物がシームレスに空間を認識している』かが追加されていくの。
私の話すバーチャルはむしろそっちが本題に近いかなぁ。
何言ってんの分かんない、と思うかもしれないけど、例えばVRゴーグルを外したらちゃんと外の世界が見えたり、ゲームに没頭しててもピンポンが鳴ることが把握出来たりすることが分かるよね、っていうことなの。
没入型のゲームとして意識をなくして、ゲームの中に閉じ込められちゃった!! っていうのがアニメの演出としてあるけど、アレはバーチャルゲームの定義的にはおかしいよって突っ込みが入るのよ。
そういうタイプのダイブ型のゲームや、外の認識が出来なくなるものはバーチャルとは定義されないことは注意してね~」
■エコー > 「私がこうして色々なオブジェクトを置いといているけど、机にぶつかったら痛いでしょ。
キミたち現実世界の人間はそうならないように制御できる。あるいはゲームに没頭しながらチャットを撃ったりするゲーマーさんもいるかもしれないよね。それもおんなじなんだよ」
エコーは並べたゲームの中からVRゴーグルを装着しつつ、ゲームの一つでポチポチと遊ぶムーヴをしながらチャットを打つ。
この廃ゲーマー的スタンスが定義です、という注訳のを入れたフリップボードを掲げたチビエコーが画面の端から説明を加えた。
「バーチャルゲームはその世界に没頭しながら現実の動きを同時に出来ることが一つの定義! よ~く覚えておいてね!」
■エコー > 勢いよくVRゴーグルを脱いで机の上に置くと、大量のゲームを並べたテーブルをチビエコーたちが撤去していく。
スタジオ風ということもあってか、あるいは即座に消すのに処理が大変だったのか、アシスタントに任せて授業は〆に入って行く。
「そういうわけで今日はバーチャルとは何か?ということで軽く定義について触れました~。
次回はもう少し踏み込んだバーチャルの構成要素と、人の機能との相互性について学んでいくからよっろしく~」
勉強になった、おもしろい、まるで理科の授業みたいだった、理屈っぽい、良い睡眠導入教材だった。様々なコメントが流れていく中たのしげに微笑みながら首を傾げる。
「もしよかったらまた次回も見に来てね。あと楽しかったお話とか雑談も出来たら嬉しいな~。
それじゃあ今日はここまで! 良かったら高評価ボタンとチャンネル登録をお願いね!
ばいば~い」
友人とのボイチャを終えるような爽やかな挨拶と共に終わりをつげ、配信は恙無く終わりを迎えた。
そして最期には
本日の配信は終了しました。
そんな文言が流れていくのだった。
ご案内:「配信チャンネル」からエコーさんが去りました。