2021/12/05 のログ
ご案内:「配信チャンネル」にめらん子ちゃんさんが現れました。
めらん子ちゃん >  
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『めらん子ちゃんねる』に新しい動画が投稿された。
生放送枠での投稿とそれに反した時間帯の動画内容、
未設定のままのサムネイル、文字化けしたタイトル。

動画投稿者としては杜撰とも言えるそのスタイルは
不定期に継続する投稿のお陰で『そういうもの』と
捉えられている節がある。

投稿者コメント欄には『お住まいはどちらですか』と
記載されている。その所為か動画開始直後に住所を
特定されない程度の範囲で自身の住まいを公開する
コメントが多く寄せられていた。

めらん子ちゃん >  
「おはようございます」

霞む景色の中でめらん子ちゃんが手を振っている。
カメラのレンズには結露に似た水滴が付いていて、
霧とも煙とも付かない曇りで視界は悪い。

「寒くなってきました」

呟くめらん子ちゃんはいつもの装いの上に鼠色の
カーディガンを羽織っている。霞んだ景色の中で
分かりにくいが、吐息も白くなっている様子。

「寒い日は、こたつが恋しいと聞きます」

「アイスとみかん、どちらがお好みですか」

寒さに震える声で囁くように問いつつ、悴む手を
頻繁に組み替えている。生白い指は関節だけ赤く
なっていて、冬の寒さを感じさせる。

めらん子ちゃん >  
とん、とん、くるり。不規則なステップを踏んで
見せびらかすようにカーディガンを棚引かせる。

しかし風が当たって冷たかったらしく、不規則に
楽しげな足取りはすぐに鳴りを潜めてしまった。

霧の中に浮かぶ街並みのシルエットは都会らしい
賑やかさの中に歪さを感じさせる。異種の文化を
ぶち撒け、どれを排するでもなく受け入れた末に
元の形を失ったような混沌とした様相。

玩具箱にも似た雑多な雰囲気の街の中で投稿者は
ふらりふらりと歩いている。時折吹き抜ける凩に
吹かれて、特徴的なツートンカラーの髪がそよぐ。
風向きと無関係な方向へ流れる霧はまるで彼女を
誘っているかのよう。

点滅する赤信号のランプは霧を断続的に赤く染め、
不安を煽っている。めらん子ちゃんはどこ吹く風。

めらん子ちゃん >  
ロケーションは交差点のど真ん中、天候は曇天。
太陽の角度から察するに早朝か、それとも夕方か。

誰もが喧騒を思い浮かべるであろう街路は眠りに
落ちたかのような静寂に包まれて、聞こえるのは
めらん子ちゃんの足音だけ。

交差点を無秩序に走り回る横断歩道はあみだくじを
思わせる。歩道を伝って交差点を抜けるとまた別の
交差点に出た。

27時間営業のコンビニの前ではサインポールが
逆向きにくるくる回り、疎に立てられた11本の
歩行者用信号機は同じ方角を向いている。

右、右、左、直進、左、右、左、直進、後方。

信号の本数だけが異なる交差点に突き当たるたび
気まぐれに曲がってはまた似た交差点に辿り着く。
3度反転して引き返すと、押しボタンの代わりに
捩くれたガス灯と黄色の三角コーンが立っていた。

めらん子ちゃん >  
ガス灯の中には蛍光色のトイレ用芳香ボールが1つ。
めらん子ちゃんはポケットから取り出したマッチで
それに火を付けた。青白い炎が揺らめいてガス灯は
涙を流すように透明な液体を垂らし始めた。

一歩退き、手を合わせて一礼。踵を返してその場を
立ち去ろうとして足を止める。右腕に繋がれている
ぬいぐるみを持ち上げ、むぎゅっとぬいぐるみにも
手を合わせさせてから改めて交差点を後にした。

ようやく見えた交差点の外の街並み。
街路樹は全て引き抜かれて倒され、代わりに蚕の
繭で飾り付けられた樅の木が舗装路を突き抜けて
彼方此方に生えている。

ぱり、ぱりと踏み締めた氷が割れる音がする。

無人の移動販売者から垂れ流されるベージュ色の
液体はアスファルトの上で薄く凍り、透き通った
黒緑色の丸い粒を閉じ込めていた。

めらん子ちゃん >  
通りに並ぶ建物はその殆どがお店の類らしい。

ショーウィンドウは目が痛くなりそうな灯で
照らし出されており、ウェディングドレスや
学生服、鋏の突き刺さったクリスマスケーキ、
玩具の家で暮らす黄金虫など、雑多な品物が
並んでいた。

点在するおかしな風景や商品、存在しない文字で
書かれた看板に目を瞑ればクリスマス商戦で賑わう
街の景色に見えなくもない。

遥か遠くに見える時計塔がチャイムを鳴らしている。

「この季節、皆さんは何を思い浮かべますか」

カメラを横目に、めらん子ちゃんが呟く。
くしゃみを噛み殺しつつ、寒風に晒されて赤く
染まった鼻の頭をハンカチで軽く押さえている。

「学校の試験でしょうか」
「これから来る冬休みの楽しみでしょうか」
「クリスマスに貰えるプレゼントでしょうか」
「年越しのご馳走や来年への抱負でしょうか」

めらん子ちゃん >  
曇ったショーウィンドウを指で軽く撫でると
赤く湿った線が残った。つぅとガラスを伝って
流れ落ちる赤色は血涙に似ている。

「私は」 「プレゼントを貰ってみたいです」

ざらり、手首に繋がれた手錠の鎖が音を立てる。
首を吊られたようにぶらりと揺れるぬいぐるみは
口の縫い目が破れて白い綿を吐いていた。

店と店の間の路地裏は、部屋の掃除を強制された
子供がゴミと玩具を押し込んだような散らかり方。

濁った液体を染み出させる黒いビニール袋からは
くすんだ白い棒が突き出して、大人2人分くらい
ありそうなブードゥードールに突き刺さっている。

更にその先、明らかに今の通りとは毛色が異なる
黒く澱んだ街は、テクスチャを読み込み損ねた
ゲームの風景のようなシルエットに覆い隠されて
好奇心に駆られた猫たちを拒んでいた。

めらん子ちゃん >  
「ここから、ずっと西に進んで」
「少しだけ、北の方へ歩いたところに」
「ビルのように高いお店があるそうです」

歩道に設置されたベンチの背もたれに触れると
粘ついた黒い液体が糸を引いた。地下道に続く
トンネルの入口を囲う壁の柱に手を拭い付けて、
所在なさげに辺りを見渡してみる。

「今の季節は、プレゼントやご馳走を買うための
 お客さんで賑わっているのかもしれませんね」

「少しだけ、羨ましく思います」

ベンチの代わりに休めそうな場所も見当たらず、
結局歩道の縁石に腰を下ろして白い息を吐いた。
舌足らずな声から、感情は読み取れない。

めらん子ちゃん >  
強い風が吹き、路上のゴミをさらっていく。
落ち葉、L字型の金属棒、誰かの学生証。

めらん子ちゃんはくしゅんと小声でくしゃみをして、
赤くなった鼻をぐずぐず言わせている。ハンカチで
軽く鼻を拭いて、寒さで色を失いつつある華奢な
手にはぁっと息を吹きかけた。

「温かい部屋は、良いものです」
「寒いのは、あまり好きではありません」

「皆さんは、どうですか」

「    」

車も走っていないのに、すぐ近くからけたたましい
クラクションの音がした。めらん子ちゃんの
呟きはかき消され、驚いたようにカメラが揺れる。

めらん子ちゃん >  
再び風が吹き、縁石に座らされていたぬいぐるみが
転げ落ちてじゃらりと手錠が金属室な音を立てる。
めらん子ちゃんはそれを合図にしたよう立ち上がり、
白い息を吐きながら大きく伸びをした。

黄色に光ったまま変わらない信号機を見上げて、
駆け足で道路の反対側へ。見たことのない銘柄の
煙草とペットボトル入り飲料、ホットスナックが
ごちゃ混ぜで売られた自動販売機が立っている。

その隣の店は照明が消えていて、更にその隣は
割れたガラスによってずたずたに引き裂かれた
雌鶏型の食品サンプルが並ぶ店。白い羽毛が
一面に散らばり、カラメル色の液体で足跡が
付けられていた。

明らかに容量を無視したナニカで満たされて今にも
破れそうなランドセルを扱う店。底の抜けた巨大な
砂時計の砂が落ち切るのを今か今かと待っている店。
一定のノイズを流し続ける自動の手回しオルガンが
無数に立ち並ぶ店。USBケーブルが蛸の足のように
いくつもはみ出しているストーブを扱う店。

何処か不自然な品が並ぶ店の前を、覗きもせずに
淡々と通り過ぎていく。

めらん子ちゃん >  
はたと足を止める。丁度その先には境界を示すかの
ような黄色の線が引かれており、ミニチュア模型を
裁断機でばっさり切り落としたように店舗が半分で
途切れていた。

境界の先はまた此方とは雰囲気の違う街がある。
夜でもないのに薄暗く、不健全な煌びやかさで
彩られた退廃的な街並み。

黄色の線を踏み越えないように、ふらり、ふらり。
不規則な歩調で横に歩きながら向こう側を見ようと
首を傾げる。車道のど真ん中には通行禁止を示す
赤と黄色の道路標識が立てられており、何度も車に
ぶつかられたようにへし折れていた。

じぃっと境界の先を見つめていためらん子ちゃんは
諦めたように白い息を吐くと、不安定な足取りで
くるりと方向転換し、カメラに向き直った。

「今日は、これでおしまいです」

「おやすみなさい」

舌足らずな声で行われる、普段通りの結びの挨拶。
しばしその場でたたらを踏みながらもじもじして
いたが、なかなか映像が途切れない。

髪を手櫛で梳いたり、とんとんと道路に爪先を
打ち付けたりして待っていたが、それでもなお
撮影が終わらないと悟ると、カメラのレンズに
蓋を嵌めて強制的に画面を真っ暗にした。

……それから10分近く、真っ暗な無音の画面が
続き、ようやく動画が終わった。

めらん子ちゃん >  
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