2022/02/25 のログ
ご案内:「配信チャンネル」にめらん子ちゃんさんが現れました。
めらん子ちゃん >  
……

…………

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『めらん子ちゃんねる』に新しい動画が投稿された。
タイトルはいつも通り文字化けしていて読めない。

普段未設定のままのサムネイルは……恐らく今回も
未設定と思われる。断言出来ないのはサムネイルの
画像が無地の白一色だから。

空白のままの投稿者コメント欄、動画投稿サイトの
平均時間を大幅にオーバーした動画時間も相まって
不具合を疑ってしまいそうな有様。

それが当たり前のように受け入れられてしまうのが
当該チャンネルの特徴と言えるのかもしれない。

めらん子ちゃん >  
動画開始時の画面は一面が真っ白。
未設定のサムネイルは恐らくこの場面を
切り取っていたのだと予想出来る。

低品質な録音機材が立てるノイズ音以外は
音もない虚無の時間。アーカイブで視聴した
場合のみ、動画時間の何分目から変化があるか
コメントで補足されている。

変化があるのは動画開始からおよそ2分30秒後。
くぐもった音と共に、画面端にはっきりしない
人影が映った。黒いコートはきちんと見えており、
やたら画面が白いのはカメラ感度の調整不足による
白飛びが原因だと分かる。

「おはようございます」

白く焼けた景色の中でめらん子ちゃんが挨拶する。
きちんと調整が為されていないのは気付いていたと
見えて、カメラに手を伸ばして感度の調整を始めた。

めらん子ちゃん >  
カメラ感度、および露出の調整が済んでようやく
撮影者の姿と風景がきちんと見えるようになった。

ロケーションは住宅街、と思われるが断定は難しい。
というのも、積もり積もった雪のお陰で映る景色が
ほとんど真っ白になってしまっているから。

昼間のように明るい日差しも相まって、未調整の
カメラでは景色が白飛びしてしまうのも無理はない。

積もった雪の形から辛うじて存在が認識できる
ブロック塀の上には、目鼻のないシンプルかつ
出来の悪い小さな雪だるまが列を成している。

そんな景色の中、めらん子ちゃんは普段の装いに
少しだけ防寒用の装備を足した装い。成人男性用の
ぶかぶかな黒いコートは足首に届くほどの丈だが、
裾の部分が劣化してボロボロになってしまっている。
当然袖も余ってしまうので過剰なくらい折り返して
やっとで手が見えるくらい。

右の手には灰色のミトングローブ、左の手には
白地に赤い斑模様の軍手。右手には作りかけの
歪な雪玉を握っている。

めらん子ちゃん >  
中途半端な防寒のお陰で、吊りスカートから覗く
生足、普段と変わらないローファーがよく目立つ。
寒さに悴んで、頰も太腿も赤く染まっているから
違和感がいや増しになっている。

カメラの露出調整を終えためらん子ちゃんは
危なっかしい足取りで写りの良い場所まで移動。
しかしながら意識はカメラより作りかけの雪玉に
向いており、気もそぞろな様子。

ひらひらと降り注ぐ雪は粉雪と呼ぶには粒が大きく、
牡丹雪と呼ぶには小さい。雪玉を作るには水分が
やや足りないが、作れないほどではない半端な雪質。

もっともそれは人並みに雪玉を作れる人から見た
評価。雪玉を作り慣れていないらしいチャンネルの
主からすれば作りにくい部類に入るようだ。

球形を目指して手の中でころころと転がされる
雪玉の子供は少し力を加えるだけでぼろぼろに
崩れ去る。どうにか押し固めてはみたものの、
出来上がったのは歪な雪塊。子供が遊んだ後に
放置された粘土のような形が精一杯。

めらん子ちゃん >  
でこぼこな雪の塊を玉に近づけるため、左手で
ブロック塀の雪を掬い取って押し付ける。

中途半端にさらさらな雪は押し付けた側から
ほろほろと崩れ落ち、まともにくっついたのは
掬い取った量の半分の半分に満たないくらい。

それでも元の雪玉の大きさを鑑みると追加された
雪の量はそこそこ多い。お陰で凹んでいたはずの
場所は逆に膨らみ、結果として歪は解消どころか
増長してしまったような。

膨らみを目立たなくするため、もう一度雪を
掬い取って押し付ける。膨らみの側の凹みに
雪を足したお陰で、むしろさっきよりさらに
膨らみが伸びてしまった。雪玉を目指していた
はずなのに、歪な雪の塊は楕円に近づいている。

今度はバランスを取るために側面に雪を押し付け、
また凹んだ場所に雪を足し……と、繰り返すうちに
雪玉になりたかった塊はどんどん歪になっていく。

めらん子ちゃん >  
諦めたのか満足したのか、それともこれ以上雪を
足したら塀の上に乗らない大きさになってしまうと
気付いたのか。歪な雪の塊をブロック塀の上……
先客の雪だるまたちの隣に置く。

雪を握り続けて冷たくなった手に、はあっと息を
吐きかけてみるが、手袋の上から、特にミトンの
上からではあまり効果が無かったようだ。

じっくり時間をかけて手を揉みほぐし、温めてから
また雪を掬い取って新しい雪玉を作り始める。

ひとつ作り終えたからさっきよりは上手に作れる、
なんてことは全くなくて。ぼろぼろと崩れる雪の
ごく一部、辛うじて固まった雪塊はさっきと同じで
玉とは似ても似つかない歪な形になっていた。

同じように雪を足して、凹みを埋めようとして、
余計に歪な形になって、それを矯正するために
また雪をくっ付けての繰り返し。

やはり玉と呼ぶにはやや無理がある形状だが、
今度はあまり修正に固執せず程々に切り上げる。
さっき塀の上に置いた玉の上にそっと乗せた。
何個めかになる不恰好な雪だるまの出来上がり。

泥か何かが混じってしまったのか、色は少しだけ
赤茶けて。お陰で動画開始時に既に完成していた
他の雪だるまより出来が悪く見える。

めらん子ちゃん >  
並んだ雪だるまたちをじぃっと見つめ、こてんと
何度か首を横に倒す。それからまた積もった雪に
手を突っ込み、雪玉を作り始める。

手付きの不器用さも相まって、雪玉もどきを1つ
作るにもそれなりの時間がかかる。しかも形が
歪なことに薄々気付いているらしく、少しでも
上手に作ろうと空回って所要時間が伸びていく。

時間をかければかけるほど雪玉は大きくなって、
相対的に凹凸は目立たなくなる。しかしそれは
上達を意味するものではなく、寧ろ手が悴んで
制御が甘くなっている分歪さは増している。

途中で一度だけ、雪を盛って形を整えるのではなく
飛び出たところを削って調整しようと試みたが……
結果、うまくいかずに雪玉が崩れ去ってしまった。

目に見えてしょげ返っためらん子ちゃんはそれ以降
削る方向での調整はしていない。

めらん子ちゃん >  
塀の上に歪な雪だるまが増えていく。

向かって左から順々に並べている点から察するに
1番左の胴体が崩れた雪だるまが撮影前に作った
最初の1人なのだろうか。

2人目の雪だるまは崩れた1人目の反省を活かして
強く握り固められているが、お陰で他のものより
際立って形が悪い。特に胴体より小さく作る必要が
あった頭は調整が間に合わず、胴体より歪。

3人目の雪だるまは少しだけ頭でっかちに見える。
形を整えるのに夢中になったお陰で大きさにまで
気が回らなかったと予想出来る。

4人目以降は撮影が始まってから作られたもの。
節目の4人目は取り立てた特徴こそないものの、
だからといって先の3人よりうまく出来ている
なんてことはない。

5人目は手が悴み始めたお陰か、4人目と比べて
なお形が悪い。たまたま頭の形が許容範囲内に
収まり、それ以上大きく出来なくなってしまって、
お陰で胴体の大きさの割に頭が小さい。

6人目は調整に拘った結果雪を盛りすぎてしまい、
今までの5人と比べて頭一つ抜けて大きくなった。
調整を頑張っても綺麗な玉には近づけないまま。
大きくなり過ぎたお陰で塀から落ちてしまいそう。

どれもこれも不恰好だが、順番に見ていくと
マトリョーシカのようにだんだん大きくなって、
対照的に色は悪くなっている。

めらん子ちゃん >  
6人の雪だるまを作り終えためらん子ちゃんは
除雪のために道の脇へ寄せられた雪山に座って
休憩中。寒さで赤くなっていた頰は色を失って
白に近付いている。

図らずも階段状に大きくなった雪だるまたちを
眺めながら、小首を傾げて考える。もし7つ目を
これ以上大きく作っても、塀の上に並べるのは
難しいだろう。

考えて、考えて。こてん、こてんと首を倒して。
よし、と小さく呟き、雪山からぴょんと飛び降りる。

しかし、彼女が履いているのは雪道を歩くのに
向いた靴ではなく、寧ろ滑りやすい部類に入る
ローファー。着地の際に足を滑らせて背中から
すっ転んだ。

幸い、路面には除雪の後に積もり直したと思しき
厚い雪の層があったため、後頭部は打ち付けずに
済んだ様子。

めらん子ちゃん >  
何事も無かったかのように起き上がる彼女は
カメラから目を逸らしている。

今までと同じように両手一杯に雪を掬い取って、
不器用に固めて、丸めて、ぽろぽろ取り落として。
今度は出来上がった塊を雪の層の中に埋めた。

クッションを踏む猫のように、両手で雪に埋めた
塊をぎゅっと押し付けて。何度か繰り返してから
掘り返すと、平たく歪ながら今までよりずっと
大きな雪塊が出来ていた。

平たい雪の塊を抱え、辺りを見渡す。
比較的雪の層が厚い場所を見つけ、また埋めて
上から体重をかける。何度かそれを繰り返すと
球形からはほど遠く、しかしギリギリ転がせる
大きさと形になった。

7つ目を大きく作ると塀の上に乗り切らない。
それなら開き直ってとびきり大きいものを作ろう、
と考えたのだろう。

めらん子ちゃん >  
雪の塊を転がし、路面に積もった雪を巻き込んで
大きくしていく。大きな雪玉の作り方と言えば
この方法が思い浮かぶ人もきっと少なくないはず。

しかし転がすだけで綺麗な雪玉を作るというのは
言うほど簡単な作業ではない。手のひらサイズの
雪玉すらまともに作れない不器用さならなおさら。

めらん子ちゃんは一度画面外に消え、数分後に
戻ってきた。転がしていた雪玉……に、なる
予定だった塊は贔屓目に見ても玉とは呼べない
形になっている。俵型と言う表現が近い。

形だけ見れば小型の雪だるまたちより玉から
外れているが、めらん子ちゃんはどことなく
満足げ。大きいものができたという達成感で
目が曇っている。

直接地面を転がした所為か、雪玉……もとい雪俵の
赤い汚れは小さな7つの雪だるまより目立っている。
めらん子ちゃんは然程気にした様子もなく雪の塊を
作り直し、また転がし始めた。黒いコートの裾が
引きずられ、白く染まっていく。

めらん子ちゃん >  
めらん子ちゃんが画面外で雪玉を転がしている間、
胴体の崩れた1人目の雪だるま、際立って形が歪で
不安定だった2人目の雪だるま、大きく作り過ぎて
塀から落ちそうになっていた6人目の雪だるまが
次々飛び降り自殺していく。

バランスが悪かった3人目と5人目の雪だるまは
ぽとりと首だけを落としてただの雪玉に戻った。

画面外に消えためらん子ちゃんはさっきより
長く時間をかけて帰ってくる。出来上がった
雪玉……少なくとも俵型よりはまだ玉と呼べる
それは転がした時間に見合った大きさ。

そうなるとさっきの俵が頭になるのだが。
そちらもそこそこの大きさ、重量がある。
めらん子ちゃんは途方に暮れた様子で2つの
雪塊をしばらく眺めていた。

初めは普通に持ち上げようと試みたが、
彼女の細腕では当然の如く上手くいかず。
気付かないままに落下した雪だるまたちを
踏み潰して路面の雪に還してしまった。

めらん子ちゃん >  

最終的に胴体側の雪玉を休憩に使っていた
雪山に寄せ、傾斜を利用して頭側の雪俵を
乗せることに成功した。

図らずも赤い汚れが目を模って見える。

一仕事終えためらん子ちゃんはようやく一息。
はあ、と大きく吐いた息は真っ白に凍りつき、
真白い景色の中で溶けるように薄らいで消えた。

寒気に晒された肌は雪景色に合わせたように白く、
しかし疲労から流れた汗が首筋をつぅと伝い落ちて
襟の中へと落ちていった。

「今日は」「これでおしまいです」

達成感で晴れやかな声、と表現するには些か疲れが
勝ち過ぎていたものの、舌足らずな声はほんの少し
楽しげに聞こえたような。

「おやすみなさい」

左手の真っ赤な軍手は後ろ手に回し、ミトンの
グローブをはめた右の手で軽く手を振って。

そのまま、映像は途切れた。

めらん子ちゃん >  
【この配信は終了しています】

ご案内:「配信チャンネル」からめらん子ちゃんさんが去りました。