2023/01/14 のログ
ご案内:「配信チャンネル」にめらん子ちゃんさんが現れました。
めらん子ちゃん >  
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『めらん子ちゃんねる』に新しい動画が投稿された。
タイトルは文字化けしており、投稿者コメント欄に
『子供の頃の夢を覚えていますか』との文言。

活動は不定期、アーカイブの再生数も尻すぼみ。
当初の動画から桁単位で減った再生数はたまたま
プチバズった投稿者の範疇を超えはせず、企業が
抱える常世Tuberと比べるとなお小さく見える数字。

にも関わらず、告知も宣伝もない生放送には
投稿者コメント欄に答える形で子供の頃の夢を
語るコメントが集まっていた。アクティブな
根強いファン層があると見ることも出来るが、
それ以上に "ファン" の語源を思い起こさせる
奇妙な熱狂がある、ような。

めらん子ちゃん >  
白橙色に焼けた画面と軽い足音。光感度設定が
甘いカメラが使われているのか、画面に映る
木製の廊下は温かみより眩しさが目立っている。

「おは」「よう」「ござい」「ますっ」

ダンスのステップを思わせるリズミカルな足取り。
足音を伴奏に、時間にそぐわない目覚めの挨拶を
唱う。白飛びした画面に溶けるルーズソックスの白。
足音にスタッカートを付けるはずのローファーは
屋内からの配信だからお休みだ。

「ゆめを」「見ていました」
「みなさんは」「どうでしたか?」

色褪せ、ワックスも剥がれかけたフローリング。
不特定の間隔で設置された引き戸は統一された
シンプルなデザイン。めらん子ちゃんの歩みに
合わせてスクロールする其処は長い廊下らしい。

めらん子ちゃん >  
画鋲。磁石。古びて黄ばんだセロハンテープ。
壁に垂直に貼り付いたスティックのり。壁紙を
剥がした裂け目を挟むクリップ。青緑色の錆。
多種多様な留め具が壁に掲示物を貼り付けている。

荒い画質と明る過ぎる画面のお陰で細かい文字は
読めないが、どの掲示物も改行のタイミングが
不規則だ。冗長な文章は時に紙の端を通り過ぎて
白い壁にまで掠れた文章をはみ出させている。

「わたしは」「今日も」
「うさぎがしぬゆめを見ていました」

緩い靴下で古ぼけたフローリングを擦り、わざと
滑らせながら奇妙なバランスで歩き続ける少女。
平仮名を思わせる曲線で構成された拙くも意味が
通らない文字で彩られた習字紙が画面外に消える。

めらん子ちゃん >  
カメラはめらん子ちゃんを追って一定のペースで
移動している。強制スクロールのゲームのように
右端から新しい掲示物が映り込み、通り過ぎると
画面左側へと消えていく。その繰り返し。

元々は白かったであろう古い紙に鉛筆で描かれた
あまりにリアルな目が1クラス分。整然と並んだ
紙をはみ出した手形は骨ばった赤子サイズの手から
めらん子ちゃんの頭を鷲掴みに出来る大きさまで
多種多少。

額縁に嵌められた硝子の向こうには半透明の細長い
魚類が及ぶ夕焼け空や規則正しく並ぶ惑星を見下す
青空、星空のど真ん中で月を貪る虚の姿。

裏返しのカバーをかけられた今月のお勧め図書は
ナイフで逆さまに縫い止められ、柄に結ばれた
凧糸の先には旧型のCDディスクが鳥避けとして
揺れていた。

多種多様な掲示物が並ぶ廊下は学校か美術館を
思わせる。使い込まれて画鋲の穴だらけになった
壁紙や、魅せる意図が感じられない飾り気のない
フローリングの雰囲気的には前者が近いだろうか。

めらん子ちゃん >  
「私は」「死んだうさぎの残骸から」
「くらげの骨を拾い上げて生きています」

「誰のものとも知れない魂が土くれになった庭で」
「埋めた骨に食べられて」「夕暮れのバス停で」
「また目を覚まします」

幼稚園児が描いたような歪な人の顔の絵。
同じ顔の張り紙に埋もれた扉をからりと開く。
びしびしと突っ張った紙が破れて、古ぼけた
フローリングに赤い絵の具の水溜りを広げた。

「みなさんは」「どうですか?」
「ゆめをみたことがありますか」
「ゆめから覚めたことがありますか」

「うさぎがしぬゆめを」「みたことがありますか」

併走していたカメラのアングルは窓のサッシから
飛び降りて、めらん子ちゃんの背後にある廊下の
果てへとピントを合わせた。

動画時間一杯使って歩き続けていたはずの廊下の
終わりは未だ見えないほど遠く、窓から差し込む
強過ぎるほどの陽の光を浴びてなお黒々と。

めらん子ちゃん >  
「だから」「私は黒い猫を追いかけて」
「レンズで出来た瞳を覗き返すのです」

「あなたは」「どうですか?」

引き戸の向こうの部屋。右手側の壁には大きな黒板。
色とりどりのチョークが粉受けに山と積み上げられ、
奇妙なバランスで乗せられた黒板消しを支えている。
左手側には生活感に溢れ、しかし一寸の狂いもなく
整然とした配置が歪さを感じさせる勉強机。

椅子の数は机より2つ少ないのに全ての机には
等しく1つずつ椅子が揃えられ、縦列と横列の
総数が異なるのに前後左右の間隔が統一された
それらは正方形を成している。

廊下と反対側にある窓からは同様に眩し過ぎる
陽の光が差し込んで、天井にまで届く黒々とした
机の影と教室を二分している。

めらん子ちゃん >  
「今日は」「これでおしまいにしましょう」

背伸びして教壇に立ち、黒板を背にして呟く。
先生を真似ているかのような似合わない所作。

「おやすみなさい」

手錠に繋がれたぬいぐるみが教卓の上でぱたりと
倒れる。好意的に見てもお辞儀とは呼べようもない
それを最後に映像は途切れた。

めらん子ちゃん >  
【この配信は終了しています】

ご案内:「配信チャンネル」からめらん子ちゃんさんが去りました。