2019/04/13 のログ
ご案内:「山奥・廃寺跡」に伊弦大那羅鬼神さんが現れました。
ご案内:「山奥・廃寺跡」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊弦大那羅鬼神 > ――風が荒ぶ。
春が嵐を纏って山に訪れるのか、嵐が山へと春を運ぶのか。
葉が、花が散る程に、今日のその山中は風が吹いていた。どうしてなのかは分からない。
木々が揺れ、大地すらも震えているのか。いつもより風が強い日だと片づけることに、一片の未知が消えない。
廃屋と化した寺院跡へ向かう道すがらに、不思議と、生き物も、それら以外の気配も、存在しない。
そこに、何かが"在る"かのように。
■伊都波 凛霞 >
「………」
山を颪す風に髪が靡く
髪を軽く抑えるように手をまわす、その表情は晴やかなものではなく…
憂うように、変わり果てた寺院の姿を見つめる
落ち着けるように呼吸を深く刻んで、一歩、前に進む
「まだそんなには、時間経ってないと思ってたのにな…」
人が住まなくなった家屋は、痛みも早い…というけれど
此処のほんの少し前までの姿を知っていると物悲しいものを感じてしまう
…先生の言っていた、鬼の住む廃寺というのは此処のことなのだろうか
もし、此処がそうなのだとしたら…その鬼というのは、多分……
もう一歩、踏み出して…軒板を踏みしめ、木戸に手をかけて…薄暗いその中へと踏み入った
■伊弦大那羅鬼神 > ――木戸は、手を置いたときに、きっと音を立てただろう。踏み入る足音さえ、きっと風の中であっても、腐りかけの床では軋むもの。
だから、その音を聞く者が、勘づかない訳がなかった。
「―――グ、ゥァアアアアアアァァァァッッッッ!!!!」
暗闇の中から、空気を支配するような威圧感が放たれ、そして次には、耳をつんざく咆哮が響き渡る。
暗闇に目が慣れるまでの間、その声の元に、一点の、爛々と赤く揺れる光が、闇の中にあるのが見える。
……そして、目が少しでも慣れてくれば、そこには。
襤褸を纏った何者かが、その廃寺の奥に居ることがわかる。
――威圧感だけでも、それが人ならざる者であり、そして噂に違わない"鬼"だと、確信することもできるだろう。
■伊都波 凛霞 >
「───っ」
聞こえてきた、咆哮
その声にその足をぴたりと止める
薄暗さには、すぐ眼は慣れる。慣れてしまう
最初は、その揺らめく赤い炎のような眼だけが
そして少しずつ、その全体像の輪郭が見えてくる
…巨躯
女性にしては長身である自分よりもきっと大きな…
その劈くような咆哮と合わせて考えれば、それは、鬼に違いなかった
「──……二つだけ」
呼吸を再び落ち着けつつ、もう一歩だけ踏み入って、近寄って、言葉を向ける
「二つだけ、知りたいことがあって…、
……なぜ、此処にいるのか…と、……あなたが、彼を殺した鬼なのか…どうか…」
風の音は強い
それに負けないように、しっかりと声に出した
だから鬼の耳にも届くだろう、それに返す言葉を、目の前の鬼が…持つかはわからないが
■伊弦大那羅鬼神 > 届く、はずがなかった。
理性無き、暴虐の風のような咆哮と、何故だかは分からないが、明確に侵入者への怒りを、そして、「ここから消えろ」と、訴えてくるような威圧感は。
そこに理性の介在する余地などない、はずだった。
だから、貴女が一歩踏み入った時、きっとその"鬼"は、間違いなく、何か物理的な干渉を以て、貴女をここから追い出そうとしたはずだ。
そう、動きがあったことが、"貴女にはわかる"からだ。
その動きが、途中で止まったことだけは、貴女にも、予想を許さなかったことだが。
「…………――」
風が、吹いた。
闇へと入る貴方。闇から出でる鬼。
風が、夜空の雲を払った。
風が、何処からか花を運んだ。
風が、その顔を覆う襤褸を、払った。
■伊弦大那羅鬼神 > 「――リ、ン……カ」
■伊都波 凛霞 >
やっぱり、言葉は通じない、と思った
すぐに臨戦態勢をとる
たとえ、相手が鬼だろうと…遅れはとらない
伊都波の血筋は、退魔の家と共に在った
昔とは違う、今なら一人だって…此処から無事に逃げるくらいは
「……?」
襲ってくる、と思っていた
その鬼は暴威を、敵意を剥き出しにこちらに向かっていた、筈、なのに
不可思議な行動をとったその鬼を、見上げて───
「……え?」
鬼と見合うようにして、凛霞もまたその動きを止める
まるで金縛りにでもあったかのように
覗いた鬼のその顔と、口から聞こえたその言葉が、時を止めた
「………夷弦、くん? …え…、お、に……? なんで──」
飛び込んできた、視覚的な情報と、聴覚からの情報
そのどちらもが冷静な思考能力を奪ってゆく
ああ、混乱する…っていうのは、こういうことを言うんだ、と
そう考える冷静な自分さえ、その心中にはいない
本当に現実を見ているのか、それとも夢を見ているのか…
どこまでも現実感のないリアルの中で、ただその鬼を見つめて、立ち尽くしていた
■伊弦大那羅鬼神 > 視線が、交錯する。赤い、片方が失われている目が、真っ直ぐに見据えていた。
蓬々に伸びた頭髪は白く染まり、けれど所々に、赤い、人の毛の名残のように残る色彩があった。
ひび割れ、そこが赤熱し溶岩のような穏やかな明滅をする体表には、無数の傷を受けた跡のように、心臓に近い場所が、布の向こうからでもうっすらと輝き。
「……ッ……リ、ンカ」
――見開かれた目と、その口が。
記憶の果て、何処かにいて、二度とそれは、帰ることがないと、そのはずだったそれが。
今、目の前に、ありとあらゆる矛盾を抱いて、そこに在る。
ただ、それは間違いなく、"そちらと同じくらいの動揺を見せている"。
それが、鬼であると断ずるならば、『仇』であると断ずるならば。
これ以上無い、絶好の『機会』なのだ。
「……っ、リ……んか。りん、カ……」
その機会を上塗りに、鬼の口から聞こえた声は、絞り出すように、"名前"を呼ぶ。
それが、どれだけ、待ち望んだ響きであったかのような震えと、それを口に出すことが、どれだけ、長く長くできないでいたかのような拙さと。
■伊都波 凛霞 >
「──…待って、待って……」
一歩、後退る
頭の回転は鈍いほうじゃない得られた情報を丁寧に整理して…
できるわけがなかった
なぜ、どうして、疑問ばかりが浮かんでは、消えてゆく
「…どうして、私の名前…、どうして、その、顔……」
後退った、その一歩を…一歩、もう一歩だけ、前に進む
自分の名前を、掠れるような声で呼ぶその鬼の前、へ…
彼は鬼の討伐に出向いて、戻ってこなかったという
もし、彼が鬼に喰われて…今のこの姿になったのだとしたら
この鬼は……彼の仇敵である
けれど、それならば…
「…なんで、私の名前を呼ぶの…?」
風の音にも負けそうな、小さな声で、視線で…問いかける
■伊弦大那羅鬼神 > 踏み入れる。鬼の威圧感に、今この状況が貴女に与えうるすべての疑問に迫るその一歩目は。
ふと、足元に残された小さな窪みのようなものを踏みつける。
鬼は、尚もそこにいた。近づいてくる、貴女を見据え、何度も、何度も、何度も呼ぶのだ。
「りん、か……っ」
ぎしり。足音が、一つ。
鬼のほうが、後退った。そして、そうすることでようやく、
その廃寺の中の光景が見える。
細かい傷のようなものが無数にあった、壁にも、床にも、柱だった木片にも、石にも、瓦礫にも、何もかもに、同じような傷が、いくつも、いくつも、いくつもいくつもいくつもいくつもいくつもいくつもいくつもいくつもいくつもいくつも――――――――
『| `/ ×`』
『 ヽ| ヽ/ ┳┓』
『リ `/ ┳┓』
"それを刻み続けなくてはいけない"。
そんな一念がなければ、指も頭も、追い付きやしない。
そこら中に、刻まれた、名前。
■伊都波 凛霞 >
「答えてくれないの…?
それとも、答える術を持ってない、の…?」
鬼が下がる、それに合わせて、もう一歩…
すると見えてくる、その鬼がこの廃寺で何をしていたのか…というその全貌
「……もしかして…」
鼓動が早くなる
これは、胸の高鳴りだとか、そういった類のものではなくて…
人が"まさか"という"ありえない"ものに直面したときの、してしまったときのもの
「ずっとここで…誰もいなくなった、"出雲寺の家"で…」
見渡す、床、壁
そこに刻まれる、何度も何度も、鬼が呟いていた、自分の名前
でも彼が、理由は知らずとも、一度も私をそう呼ばなかった名前を…
疑惑は疑惑に繋がって、少しずつ解を導き出す
眼の前の彼は、鬼なのだろう
けれど、その面影や、行動……
彼が、鬼に喰われ…その中で、遺っている、のだとしたら…
「──…出雲寺、夷弦…くん……?」
その名前を、呼ぶ
■伊弦大那羅鬼神 > ――――ずっと。
その時間は、彼が、世間一般に"行方不明"となった日から。
この傷を刻み続けた理由は、今この目の前の鬼が、口に出すことはない。
それを言えるだけの何かが、この鬼にあるのかは分からない。
けれど、それをしなくてはいけないと、この行動を鬼にさせることが可能な人間は、一人しかいなかった。
「――――り、ん、か」
崩れ落ちる。鬼が、両膝を、ゆっくりと着く。
片目が、ゆっくりと、今まで得ることなどなかったものを得たように。
その名前を、得た瞬間に。その鬼は、ゆっくりと崩れ落ちたのだ。
ようやく、"立ち続けている必要がなくなったかのように"。
■伊都波 凛霞 >
「……うん」
もう一度呼ばれたその名に、小さく、深い、頷きと共に応える
あの時、報せを聞いて胸が潰れそうになった時の気持ち
遺骸もない通夜に参列した時の、言葉にもできなかった時の気持ち
色々なものが溢れそうになるのを、抑えながら
崩折れる、その鬼へ…歩み寄り、屈み込んで…
「おかえり」
結構頑張ったほうだと思う、涙声を、堪えるのを
そう言って、膝をついた──彼へとその腕をまわして、抱く
互いの額が少し触れて…自身の異能、サイコメトリーが発動する
彼の、記憶の中へと、自身の意識が潜ってゆく───
あの時帰ってこれなかった彼は、この出雲寺へと帰ってきていたのだ
誰もおかえり、を言ってくれない、誰もいなくなってしまったこの場所へ
■伊弦大那羅鬼神 > 腕が回り、引き寄せられる。
あの時より、ずっと大きくなった、"彼"の背丈は、貴女には少々重いかもしれない。
額がふれあい、その刹那に、貴女の異能によって『記憶が読み取られていく』過程で。
『……ああ、くそ』
『……ずっと、お前の名前……呼んでやれなくて、ごめん』
『――凛霞』
――鬼に喰われる間際に、彼が最後に思考したことは、そんな、なんてことのない後悔だったのだと。
記憶の中のその声は、死へ直面し、最後の一念が滲んだ、掠れ声。
その後の記憶は、理解しえる形の情報というものではなかった。
読み取ることはできないが、そこには確かに、"痛苦"があったことだけは、読み取れた。
"彼"は、今世に後悔をした、たった一つの心を。
傷として刻み続け、この日を、ずっと、ここで一人。
待っていたのだ。
■伊都波 凛霞 >
流れ込んでくる、鬼のもつ記憶
そこから聞こえてくる声は、自身のよく知る声、知っていた声───
「…そ、っか……」
僅かに遺っていた疑念も確信へと変わってゆく
その過程で、今までは堪えられていたものが決壊する
身体は震えるし、熱いものが頬を伝うし、声も上擦って
「私のためだけに…帰ってきたんだ……」
彼がいなくなって、出雲寺が潰れてしまって…
思い出すから、その様を見たくなくて…ずっと避けていたこの場所に
「ごめんね。ほんとなら、もっと早、く…」
こんなに長く独りで、過ごさせることもなかったのに、と
ただただ、自分の弱さと、臆病さが疎ましく思えた
■伊弦大那羅鬼神 > 身体が震えたことに。
頬が濡れていたことに。
声が上擦っていたことに。
鬼は気づいてか、腕の中に抱かれるまま。……その腕が、動く。
ただその動きはひどく緩慢で、或いは、その行動がほとんど無意識に動くことなのか。
背中を、ただ一度きり、僅かに触れる程度に掌が叩こうとした。
「…………りんか」
名前を、呼ぶ。
そう呼べるから、呼んでいる。
そして、"鬼"の中に、彼がいることを示す。
だから、優しく背中をたたいて、名前を細く呼んだ。
「………り、んか」
初めて、小さく。
「…………、……た、ダ、……ィ……ま」
■伊都波 凛霞 >
「……うん、…うん───」
背中を軽く叩かれ、名前を呼ばれて……確かに聞こえる、ただいま…という、言葉
現実なのに現実感のない、廃寺の奥での鬼との邂逅…幼馴染との、再開
もしこれが夢だったらなんとも残酷なことだろうと思う
どうせなら、あの時から全てが夢だったら…そう思わないわけじゃない
でも、今はただこの現実に残された、それを享受しなければならない
もういいか、誰も見ていないのだし
強いフリをしなくても誰も責めないのだから
堰を切ったように、嗚咽が漏れる
あの時には涙も出なかった、その分も、今──
■伊弦大那羅鬼神 > 嗚咽が聞こえたことに、
……背中を叩くために回していた腕は、そのまま。
きっと、嗚咽に耳を傾け、何か出来うることがあるのならば、動くこともあったかもしれなかった。
ただ、それが出来ない以上、鬼は何かをすることはないのか、
ただそのままそこに在り、腕の中に居た。
――いつしか、その鬼は腕の中へ寝息を静かに立て始めていた。
それは、あまりにもあどけない、長い長い夢から、"今"へと帰ってくるための眠りのように。
とても、とても、穏やかな。
ご案内:「山奥・廃寺跡」から伊弦大那羅鬼神さんが去りました。
■伊都波 凛霞 > ………
……
…
辺りはすっかり静かで、気がついたら風も止んでいて
聞こえるのはただただ、安らかな寝息だけ
その頃にはちょっと誰かに見せるには憚られる気がする、眼の腫れ方
顔全体が熱い気がするし、もうしばらく此処で時間を…
は、ともかくとして…
「……これから、どうしようか」
先のことも考えないといけないことに気がついて、誰に問いかけるでもなく、そう零していた
ご案内:「山奥・廃寺跡」から伊都波 凛霞さんが去りました。