2019/05/05 のログ
ご案内:「常世ディスティニーランド」にアガサさんが現れました。
ご案内:「常世ディスティニーランド」にアリスさんが現れました。
■アガサ > パパからの一日早いバースデープレゼントとカードが届いた日の夜。
アリス君からの『明日常世ディスティニーランドに行かない?』なんてお誘いメールは少しばかり私を驚かせた。
常世ディスティニーランド。それは未開拓地区に在る巨大な遊園地だ。
島内においても中々の人気スポットらしく、SNSで検索をすれば瞬く間に様々な惹句が目に映る。
殊更に惹かれたのが夢の国と云う言葉。何しろ此処数日に視る夢と言ったらろくなものばかりじゃないのだから。
「……アリス君はもう来ているかな?流石にこう人が多いと探すのが苦労するなあ」
メールこそ送り合ってはいたけれど、アリス君と直接会うのは転移荒野での一件以来になる。
私の誕生日にフタバコーヒーより先に遊園地へ誘ってくれるだなんて、きっと私の事を慮ってくれているのかと思うと嬉しかった。
折角の鮮やかな五月晴れの休日。悪い記憶なんて忘れて、今日は素敵な思い出にしなければいけない。
私はそう決意して、ディスティニーランド入口で待ち合わせた親友を探して彼方此方に視線を巡らせる。
仲睦まじそうにしている若い男女。
友人と来ているのか賑やかしい同年代。
瞳の無い血塗れ顔の風紀委員の女生徒。
男の子と女の子を連れた家族連れ。
犬系の獣頭人身な、屈強な男性達。
──何しろ黄金週間なだけあって人が多い。きっと見間違いだってある。
私は深呼吸をして、呼吸を整えて、鮮やかな金色の髪色を探した。
■アリス >
白いワンピース装備よし。
麦藁帽子装備よし。
あの惨劇の日から、いつもの服を着なくなった。
あの日を思い出すから。
いつもの白衣を着なくなると、落ち着かないけれど。
それ以上に『あの時と同じ』を徹底的に避けた。
きょろきょろと探している彼女を先に見つけて、駆け寄っていく。
「ごめんアガサ、待った?」
「いやー、人が多いね。私が前に来た時よりずっと多いわ」
彼女のパーカー姿。
いつも通りの親友で。
大丈夫だ、落ち着けアリス。彼女は怪物に掴まれてはいない。
「さ、行こう? 学割がきくからさっと買って遊ぼう! いざ夢の国へ!」
■アガサ > 人混みの中で誰かを探す。
これはもう覿面に背が高い方が有利なのだから私は自分の身長を恨む。
丁度今、隣を颯爽と歩く鮮やかな銀髪の美女と言ったら、まるでランウェイを歩くモデルさんのようで猶更だ。
私もいつか、そう思って目を閉じると、其処に浮かぶのは綺麗になった私じゃあなく、墓標の如き白肌を持つ巨人の姿。
「……冗談」
悪夢の国の住人を想起するには場が悪い。私は頭を振って、脳裏に纏わりつく何かを振り払うようにした。
幸い、それらを入れ替わるように親友の声が訪れてくれた。
「たっぷり待たされた──なんてね。アリス君を探していたからどっちが先に来たかなんて解らないなー。
……と、前にも来た事あるんだ?やっぱりほら、連休って人が増えるものだよ。
非日常を楽しむのなら、それこそ夢の国だなんて惹句は魅力的だもの!」
初夏の装いのアリス君に瞳を柔和に細めて冗談を交える。冗談を言える。きっと大丈夫。
「うん、いざ夢の国へ!」
誰にするものと、言うべくもなく私は頷いて夢の国へのゲートを潜る。
すると直ぐ傍で物販コーナーとも言うべき建物があった。
その名も運命のバザール。食べ物を扱う屋台も幾つか出ていて、カラフルな衣装に身を包んだ園内スタッフが賑やか如く販売している。
「む……いきなり物販とは夢の国は資本主義だね……何か買っていく?」
遠目に香るはシナモンや黄な粉。油で何かを揚げる音も聞こえ、ドーナツの類だと予想しよう。
■アリス >
「ええー、まだ約束の時間には早いのにたっぷり待ったのー?」
「確かに! 連休だし、夢の国だし、プー様だし、デスマウだし!」
手の震えに気付かれないように、無駄に動きながら。
それでも今日という日を大切な人と一緒に精一杯楽しみたい。
その想いに嘘はない。
あれからアガサとは会っていなかった。
会おうと思えば会えたのかも知れない。
でも、会わなかった。
合わせる顔なんて、あるわけがない。
そう思い込んでいたから。
罪悪感が私の小さな心臓を握りつぶそうとしてくる。
「ここはねー、ハニーチュロスが美味しい! あとやっぱり定番といったらこれこれ」
アガサにデスティニー・マウスの耳を模したカチューシャを被せてあげる。
へへ、前に来た時に買ったやつ!
「私はこれね、ドナピジのやーつ」
麦藁帽子を外して、ドナルド・ピジョンの小さな帽子風カチューシャを被る。
にっこり笑って『似合う?』と小首を傾げる。
■アガサ > 遠くから近くから、お祭りの日であるかのように賑やかしい■■の音が鳴る。
──勿論、楽器の音。
楽しい音だ。
「……うぇっ!?え、何!?カチューシャ?ワオ、遊園地の定番グッズ……やっぱりあるんだねえ。
アリス君のはドナルド・ピジョン……それってあれかな?あっちでグアグア鳴いている奴……中にスピーカーでも入ってるのかな」
頭部に触れる何かが私の意識を引き戻し、視線を向けるとアリス君が可愛らしいものを被っていて、
私は成程、と納得こそすれ、次に指差す物については首を傾げて疑問を隠さない。
なにあれ、と何時ものように振舞って、次に何時ものように振舞う親友に安心をする。
心裡に幾つかの感情を閉じ込めて、私は親友の言葉に釣られてチュロスを買いに行った。
「……やっぱり夢の国って資本主義じゃない?」
はい、とアリス君の分のハニーチュロスを差し出し、黄な粉チュロスを齧る私の顔は渋い。
すると近くに居たドナルド・ピジョンがグアグアと声を上げながら私達に話しかけてきた。
勿論、何を言っているのか判る筈も無い。もしかしたら私の発言に対する抗議かもしれない。
どうしようか、そう思った所でドナルド・ピジョンはジェスチャーで写真を撮る仕草をしてきた。
「……あ、成程記念撮影?これはあれかな、ドナピジを挟んで撮ればいいのかな?」
どう?とチュロスを齧りながらアリス君に正解を問う。ランドの先達の知恵が必要な場面さ。
■アリス >
「そ、そんなに驚く? ごめんね、急に触ったから…」
「ってドナピジいるの!? どこどこ! いた!! 本物!! 完璧!!」
テンション青天井。
でも、心はどこかブルーだった。
だって、私は。このテーマパークの最後に、彼女へ。
「それはもう、貨幣、マネー、紙幣が全てよ」
「私たちは夢を買うの、とっても素敵な夢よ」
チュロスを受け取って食べる。
美味しい。血の匂いなんてしない。
なんて幸せなんだろう。
「ドナピジ寄ってきたー!! やばい、前に来た時はソロだったからわからなかったけど」
「誰かと一緒に撮影しようって誘ってくれるドナピジ超エモい!!」
喜色満面に自撮り棒を伸ばす。
三人がフレームに入るためには!!
「ほら、アガサ! もっと寄って寄って!!」
笑顔でパシャリ、これは最高の思い出きたんじゃない!?
まだ物販しか見てないのにこのはしゃぎ方!
■アガサ > 「あ、御免ね?ちょっとぼんやりしていたから……大丈夫大丈夫」
悲鳴は良くない。驚いた声は良くない。
驚いた事を問う声に大丈夫と、唇を緩やかに曲げて返す。
アリス君が資本主義について雄弁に述べ、チュロスを齧り、ドナピジに歓声を上げている間もそうしていた。
楽しそうで本当に良かったと、思う。
「……え、前はソロだったのかい?アリス君……遊園地好きなんだね。いや私も嫌いじゃないし勿論好きだけど、
一人だとちょっと圧に飲まれそうというか……」
親友の歓声に呼応するようにグアグア鳴いて何かしらのポーズらしきものをキメるドナピジ。
周囲からも煌めくような声が上がる。キメポーズなのかな?と指先を顎に添えての思案ポーズをしていると──
「おおっと解ったとも!……こ、こうかい?」
これまた意識の外からアリス君の声がして、私は慌ててドナピジに寄り添い、フレームの中に入る為に彼(?)に抱き着く。
丁度二人で挟む形で記念撮影をし、幾つものシャッター音が鳴った。
自撮り棒の先で、陽光を受けて輝く携帯デバイスは前の物と違う。そして私のも。
「なぁるほど写真撮影サービスをしているんだね。うん、これは良い思い出になる奴だ。
何とも順調な滑り出しじゃない?そうなると次は……此処、行ってみない?」
ポケットから取り出される私の携帯端末。色こそ同じだけれど、開いて立ち上げてもホロフレームは浮かび上がらず、
少し旧式で有る事が窺えようもの。その画面に園内の地図を映し出し、ファンタジーエリアにある『ねこねこソーサー』を
指で差示した。
■アリス >
「そう? ならよかった」
さっきの反応。やっぱり、彼女も一緒なのかも知れない。
PTSD。心的外傷後ストレス障害。
あんな殺戮の記憶に、14だとか15だとか、その辺の女の子が耐えられるわけがない。
もう嫌だ。
あの館はこの世界から消え果てたのに。
どうして私たちはまだ苦しまなきゃいけないの?
「パパとママが急に仕事が入って、誕生日遊園地ソロをキメたわ」
「いやぁ、ソロ遊園地なんてぼっちがやることなんて思ってたけどね……」
「あれからディスティニーランドの虜だわ……」
笑顔で撮影、笑顔でドナピジと別れて、笑顔で頷く。
アガサの携帯デバイスを覗き込む。
それは、彼女が以前使っていた携帯デバイスではなかった。
あの時、あの怪物に壊されたか、隠されたまま爆炎の中に消えたか。
どちらにせよ、私たち二人が当時使っていた携帯デバイスは永遠に失われてしまった。
「行こ、ねこねこソーサー!」
アガサの手を引いて歩き出す。
片手に持った麦藁帽子に、震える指を隠して。
ねこねこソーサーは、混んでいたけど順番待ちも特になく。
黒猫ソーサーにするか、ブチ猫ソーサーにするか慎重に議論を重ねた結果、ブチ猫ソーサーに二人で座った。
「アガサ、お誕生日おめでとう。これ、プレゼント」
アガサのイニシャルの刺繍が入ったハンカチ。この日のために頑張って刺繍にチャレンジした。
ママに教わって縫ったから、ママが縫ってくれたAAと入ったハンカチに出来が及ばないのが惜しい。
でも、おそろい。
■アガサ > 「……あー……それは、その、御気の毒に……でも、そっか。アリス君はパパとママも島に居るんだったね──」
あの後御両親に怒られたりした?
そう言葉を続けようとして続かず、代わりに、アリス君に手を引かれ、説明をしながら園内を移動する。
ねこねこソーサー。
それはコーヒーカップの内部に座り緩やかに回転する様を楽しむ遊具。
事前にSNSで調べた情報によると、公式サイトでの説明とは裏腹にかなりの危険度を誇ると言われていて、
実態がとても気になっていたものの一つ。でもファンタジーエリアにある実物は、どうみてもそうは見えない。
「……見た感じが普通だね。いやね、SNSだと何だか凄い危険物のように言われていたから、
すこうし気になっていたんだけど……」
ぶち猫ソーサーの緩やかな動きに釣られるように視線は回転し、エリア内をぐるりと見渡していく。
見た所ドナピジはこのエリアには居なさそうで、園内に一人しかいないのかな?と思っていると、
雑踏の中を颯爽と歩くピエロの3人組が視得た。
それぞれが赤・青・黄のテーマカラーらしき装いに身を包み、無表情ながらに滑稽な動作をしながら練り歩いている。
「……あんなの居たっけ?」
公式サイトの紹介に居たかな?と、またもや考えこもうとした所で、アリス君から小さな、でも綺麗に包装された包みが渡される。
「…わ!え、なに。プレゼント?うわあありがとう!パパ以外から貰ったのなんて何時ぶりだろう!今日はいい日だなあ。
素敵な場所にも誘って貰えて、プレゼントも貰えて……」
両手にとって掲げるようにして上がる驚きの声。きっと良い方の驚いた声。
私はきっと瞳を輝かせて、少し大袈裟かもしれないけれど、包装に頬擦りをして中身が何か、布系の物だと察した。
「開けてみていい?いや、断られても開けるとも──わ、ハンカチ。これはイニシャル?私のかな。……もしかしなくても君が?」
包装を解いて中身を見て、視線がハンカチからアリス君へと行ったり来たり。
「ありがとうね!パパから貰ったハンカチもあったんだけど──その、無くしちゃったから」
滑るソーサーの中に居たからか、少しだけ言葉が滑った。そうして転んだ言葉が何とか立とうと、私の口を動かしている。
■アリス >
「ええ、パパとママと一緒に住んでいるわ、でも最近、犬でも飼おうかってパパが…」
それは。PTSDで通院している私を心配したパパが気遣って言ってくれた言葉だった。
首を左右に振る。
犬はかなりの鬼門だ。
上半身同士を縫い合わされ、犬みたいに改造された人間を二人で見てしまったから。
「そう? このねこねこソーサーには秘密があってね……」
誤魔化すように喋る。喋り続ける。
「うん? どれ?」
アガサの声にピエロを見つけて、でもあんなのマスコットにはいない。
まさかの最新キャラクター先行発表!?
回るソーサーの中で一瞬視界から消えると、次の周回の時には三人のピエロは見えなくなっていた。
「ふふふぅ、私がママにもらって嬉しかったものをアガサにもって思って」
「ちょーっと、スキルが足りなくて不恰好になったけどねー」
にへへと笑って。
それから彼女が無くした、という言葉と共に言葉に詰まったのを見て。
あの館でなくしたんだ。
と、直感的に理解してしまった。
視線が泳ぐ。跳ねる鼓動。右手を胸に当てる。
狗上先生に教わったおまじないで、何とかフラッシュバックを抑えこんだ。
「……怖かったよね」
「私も……だよ。今は心を治すために通院してる」
短くそう告げると、ブチ猫ソーサーの中央にあるテーブル部分に手をかけて。
「これはね……こうするものなのよ!!」
そう言ってテーブルを回すと、ソーサーが高速回転を始める。
笑いながら。笑いながら。笑いながら。
■アガサ > ソーサーは澱みなく滑り視界もそれに添う。
視界の片隅で先程みた筈のピエロ達はもう何処にも居なかった。
多分、あれは本当にただの見間違いだろう。安堵する思考がソーサーから零れて何処かに転がって行った。
「………犬は」
それからのこと。
首を振るアリス君に私がどう言おうかと悩んだ所。
アリス君の明朗な声と笑顔に私の顔もきっと釣られたのだろうと思う。
釣られたものだから、彼女が不意に表情を変える事について行けず、釣られた魚が何も出来ないように、私の顔色も変わってくれない。
何か言葉を、そう返そうとするのに、アリス君はそうはさせまじとソーサーのテーブルを勢いよく、回した。
「う"わっ、ちょアリス君!?おち、落ち着きたまえ──うおわああっ!?」
くるくるくる
狂、狂、狂。
狂騒に駆られたように回るソーサーの内で、我ながら15にもなる乙女が上げるに相応しくない悲鳴が響き渡る。
何処かで、満足げに笑う白い怪物の声が聴こえた気がした。
嵐のように巡る視線には何も映らない。楽しそうにしている人達ばかりが居て、その内の数人が猛スピードで回る私達を撮影していた。
「アリス君、ストップ。ストーップ!あんまり!回ると!バターになる、よ!」
思考も身体も何もかも溶けて食べられてしまう虎が脳裏に浮かびもし、私はソーサーを抑え、親友に声をかけて落ち着けよう試みる。
■アリス >
「あははははっ」
しばらく笑いながらソーサーを回していたけど、次第に回転が落ち着いていって。
「あー、目が回った………」
人差し指をクルクル回して目が回ったことをアピールしつつ。
ぐったりとした様子を大げさに見せて、おどけた。
私は彼女に一刻も早くあの館のことを忘れてほしかった。
でも、それはきっと無理なんだ。
そのことを再確認するために遊園地に来たようで、惨めな気分になった。
ねこねこソーサーが終わると、先にひょいと下りて手を差し出し。
「次、どこに行く? ほんの三ヶ月ほどだけど、人生の先輩がどこにだって連れていってあげよーう」
■アガサ > 制止虚しくソーサーはSNSに語られる恐るべき危険度を顕し続ける。
でも、どんな物事にも終わりはあるのだから、ソーサーもいつかは止まる。
私達の体力と引き換えに。
「お、お昼ご飯食べる前で良かった……き、君無茶をするなあ……」
ソーサーの猛回転に耐え切った身体を左右に揺らす私の言葉は音程が未だに行方不明であるかのように危うい。
フラつきながらソーサーから出ても私の足取りは未だ蹌踉めいていて、差し出されたアリス君の手に頼ってもそれは変わらない。
「ほら、アリス君だって身体がまだ揺れているじゃないか。まったく、とんでもない人生の先輩だよ」
震えている手を掴んだまま、私は唇を尖らせてそれはそれは判り易く不満顔となる。判り易いだけにそれは見せかけで、
何処に行きたいかと言われると泡のように消えてしまうものだけど。
「次は……じゃあ、あれ!観覧車なんてどうだい?ゴンドラそれぞれに何だか妖精がくっついてるのがちょっと変わっているよね」
指差す先は巨大な観覧車。丁度その周囲にはトランプをモチーフにしたと思われる特殊部隊のような人達が理路整然と行進をしていた。
統率の取れた、まるで全員がそういう機械なのではないかと思われる所作に、遠巻きに見る人達の歓声が此処にも届いてくる。
「お、丁度ミニパレードみたいなのをやっているね。今ならあっちに注力する人が多いからそう並ばずに乗れたりしないかな?」
今度は私がアリス君の手を引いて観覧車へと向かおう。
■アリス >
肩で息をしながら笑う。
はしゃぎすぎてるかな? でも、楽しい思い出を作りたかったから。
「そういう意味でも、お昼ご飯を食べる前にねこねこソーサーは乗るべきなのよ……」
にっこり笑って、手を差し出したことを内心で後悔した。
手が震えているじゃないか。
彼女にこのことを気付かれたくはなかった。
「わかっちゃいないわねアガサぁ…」
テレビの通販番組のアメリカ人のようにわかりやすく落胆してから、ビシッと指差す。
「あなた、彼氏ができてディスティニーランドでデートする時に途中で観覧車に行こうって言うかしら?」
「言わない………だって遊園地デートでのラストは夕暮れの観覧車と相場が決まっているから」
「アガサ、あなたは甘いわ! まずはトランプの機械化歩兵小隊のミニパレードを見学しながら、迷宮に行くわよ!」
手を引っ張って強引にアマジンの大迷宮へと向かう。
このアトラクションは今のうちが空いているし。
何より……今日は最後に二人で観覧車に乗りたかった。
■アガサ > 「えっ、そ、そう……?」
指を差されるとガンマンに銃を突き付けられた悪人のように両手を上げて降参の形。
続く説明をそういった姿勢のまま聞いて、どうなのか、と視線をそれとなく泳がせると
周囲の幾人かが頷きながら此方を見ていて、顔に火が灯りそうになる。
「わ、わかったからアリス君……ほら、他の人も見ているから──」
姿勢を解除し、恥ずかしさから顔を抑えていると手を取られ、親友に抗弁を交えながら雑踏を進む。
微笑ましく私達を見ている人達の中に、坂井先輩が居た気がした。
「……えっと、それで此処が大迷宮だね。ええと公式サイトによると、制限時間内に最後のエリアまで行ける人はかなり稀らしいね。
…………中ではぐれたりとかしないでね?」
隠し扉に怪人に豊富な仕掛け。そういった本来ならば惹句の類に視線が泳ぐ。
視界の隅が青白くなるような気がして、含羞に染まった筈の顔の熱が下がるのが解った。
でも、意気軒昂と踏み出すアリス君に連れられると、強引だなあと思うより先に、その頼もしさに安堵もしよう。
ソーサーの回転に飲まれて消えた『心を治すために通院してる』。そんな言葉が嘘であるかのよう。
私は入口で係員の男性に、緊急時に係員を呼ぶ用のブザーを手渡されながら、
不安と安心が珈琲カップの中でぐるぐるに混ざりながら、
傍らの親友に声をかけて、改めて手を握る。