2019/05/22 のログ
ご案内:「ショッピングモール『セレファス』」にアガサさんが現れました。
ご案内:「ショッピングモール『セレファス』」にアリスさんが現れました。
アガサ > 常世島には色々な物が在る。
例えば大変容以前の、古い日本の街並みを再現したかのような商店街がある一方で、世界中の様々な品物を取り扱う場所も存在する。
未開拓地区にある大型ショッピングモール『セレファス』はそういった場所の一つで、異世界文化への迎合度が高い事で知られている。
……らしい。

「さっすが夏向けセール期間中。常世ディスティニーランドにも負けない人の数だなあ」

大きく広いエントランスホール内。そこに設えられたドーナツのような円形ベンチに座って言葉が転がり落ちる。
見上げると吹き抜け型構造を存分に活かした、天井までの大きな空間にホログラフが投影され、様々な店舗の宣伝映像が流れて行く。
視線を下げるとSNS上で見聞きした噂通り、異邦人街にも負けない多種多様な人達が行き交っていて、
感心したように頷く私の表情はTシャツに描かれたドナルド・ピジョンのように明るい。
時期尚早の夏色に染まった館内にあって、陽炎の如きものの出番などは、無い。余計な■■の姿は情報の渦に飲まれて消える泡のようなものだもの。

「でもこれだけ広いと一日で見て回るのは無理っぽいなあ。あのスタンプ表なんて埋まった人居るのかな?」

ふと横を見ると『御自由にお取りください』と記された立て看板の傍に、幾枚もの大きなカードらしき物が置かれた台が見える。
なんでもお店でお買い物をするとスタンプが貰え、全店制覇をすると記念品が貰えるとの謳い文句だけれど、
700店舗以上を内包するこの施設内を制覇することを考えたら、厳しい事で知られる獅南蒼二先生から考課表に花丸を貰う方が余程簡単に思えた。

アリス >  
ショッピングモールで周囲を見渡して待ち合わせしている人を探す。
もう少し背が伸びたら見やすいのだろうけど。
残念ながら今は身長は平均以下で。

いつか成長するし……背とか伸びまくるし…

胸の前で拳をぐっと構えてその時の自分を妄想していると。
おっと、見つけた。エントランスホール内と言っても広いから探すのに苦労してしまった。

「アーガサ!」

アガサに後ろから抱きつく。
距離が近い? いえいえ、親友だからセーフ!

アガサ > 地獄のようなスタンプラリーの事を頭から振り払うように視線を切り、そろそろ親友と待ち合わせた時間だろうかと時計を視る。
エントランスに置かれた長大な置時計は、ホームページによると有名な時計職人が造り上げたものであるらしく、
幾人かの通行人は携帯デバイスのカメラで撮影をしていた。

「ふぅん……成程成程、折角というものかな──」

アリス君の姿はまだ見えない。
私はベンチから立ち上がり、少し型の旧い携帯のカメラを起動し、撮影をしようとした所で■■に■■締められる。

「────」

違う。
怪物に握り締められたんじゃあない。
親友に抱き締められただけ。
この広いエントランスホールは、あの死の満ちたエントランスホールじゃあない。

「──ぁ……アリス君かあ。ああ、吃驚した……」

口から飛び出そうになる悲鳴を噛み殺し、半鐘のように鳴る心臓を抑え込んで私は努めて平静な声を出す。
視線を下げるとアリス君の手が胴に回っていて、私は確かめるように彼女の手に手を取って抱擁を解き、そのすべらかな手指を撫でた。

「まったくもう、危うく乙女にあるまじき声が出る所だった。この恨みは忘れないぞ~」

心裡に転がる何かをおくびにも出さず、口端を緩めて和やかな雰囲気を出そう。顔色が悪い、そんなことはないさ。

アリス >  
抱きしめた瞬間、彼女の体が硬直した。
そしてその時、私は思い出したんだ。
アガサが後ろからそうされたら、思い出す記憶を。

私は迂闊だ。人の心のわからないダメな女だ。
お前のせいでアガサは死に掛けたのに。
その配慮がまるで足りていない。

いや、違う。今は平静を装え。
父と子と聖霊の御名において。
今もいつも世々にいたるまで……平穏が…

心の中で聖句を唱えると、申し訳なさそうな顔を作って掌を見せた。

「ごめんごめん、アガサの隙だらけな後姿を見たらつい!」

指を撫でられると、にっこり笑って握手の形にして上下に揺らした。

「今日は色々見たいものがあるし、行こう行こう!」

アガサ > 「親友驚かし罪によりアリス君をお昼ご飯奢りの刑に処す」

検察は私で裁判員は私で裁判長も私。
親友に悟られないよう、コミカルに言葉を流して握手をし、アリス君に罪状をでっち上げてから、私は携帯の画面を見せてお目当ての店を示す。
夏に備えたセール期間なのだから自ずとお目当ての店もそういうもの。今回はレジャーグッズを取り扱うお店が本命さ。

「と、まあ冗談はおいといて……夏にはまだ早いけれど、ほら去年行った『わくわく常世ランド』憶えてる?
完全屋内型のプール施設。なんでもあそこの改装工事が間も無く終わってオープンするそうだからね。
遊びに行く前に準備はしておきたいかなって。……例えば、流されない水着とか」

毎年改装をしている不思議なプール施設。去年はハワイめいた館内調度が特徴的だったけれど、今年はどうも違うらしい。
私は楽しい思い出で余計な記憶を上塗りするように話題を口に出し、アリス君と手を繋いだまま館内を進む。

「アリス君の方はどう?何か目を惹くお店をピックアップしてきていたりする?」

エスカレータを上がって2Fに上がり、回廊状の通路を歩きながらそれとなく訊ねる。
その横の吹き抜け部分ではホログラフの船が緩やかに行き交っていた。

アリス >  
「えー、控訴。二審。棄却?」

アガサの携帯の画面を見る。
なかなか広くて面白そうなショッピングモール。

「ん、わくわく常世ランドねー、楽しかったわ」
「そうね……上下が一体になった感じの…流されない水着が欲しいわ………」

前回は流された。
異能で何とかしたけど、大ピンチだった。
手を繋いだまま歩いて、あちこち見る。

「うん、屋上でアイスクリーム博覧会やってるらしいよ」
「食べ物の話じゃない? これは失礼。二階に服とか水着とか色々可愛い系が揃ってる店があるらしいの」
「ほら、あれ。マーズデュオっていうの」

手を繋いだまま片方の手で店を指す。

私とアガサは仲良くなった。
年が近い同性の友達というだけじゃない。
心の奥で何かが噛み合った、本当の友達になったんだ。
後はお互いの心に澱のように溜まった罪悪感を一掃するだけなんだけど。

アガサ > 「ふふん、そのようなルールはブレイクさせて貰うとも」

異能名を揶揄して鼻で笑って問答無用で判決が決まり、話題もかたりと切り替わる。

「アイスクリーム博覧会!成程それは素敵だね!勿論あとで行ってみよう。他にもそれとなく目を惹いたお店なら入ってみるのもいいし
……むむ、マーズデュオ。なぁるほど……私が調べてきたお店とは違うけれど、考えてみれば700店舗以上あるんだものね。同じ業種があって当然か」

やがてお目当てのレジャーグッズを取り扱う店舗の前に辿り着く。
夏に対する多種多様な惹句が書かれた垂れ幕が下がり、店舗入口のショーウィンドウにはカラフルな水着から本格的なダイビング用品や、
はたまたキャンプ用品の類であるとか、海と山関係の品物を取り扱っている事が判り易く解る。
競合店舗に対抗しているのか『セレファス最安値!』なんて立て看板もある始末だ。

「私が去年着ていた奴は元々流されないものだけど……ほら、ちょっと白地に向日葵柄のワンピースタイプは子供っぽすぎるかなって」

一年たってもこれっぽっちも変わらない体型に苦笑しながら店内へ。
一年前は、水着を買うのも一人だった。
そして惨劇の館の一件から、私の友人は少なからず減った。
でもそれはいい。噂の尾鰭は所詮は尾鰭だと判っているし、解っている。
大事なのは、今年は一人ではないと言うこと。

「そういえばアリス君。こないだおすそ分けしたお茶、どうだった?植物学の小鳥遊先生肝入りのお茶」

一体何に使うのか気合の入った水中用の槍等を眺めつつ、世間話のようにお茶の話をし始めよう。
それは先生曰く、気休め程度だそうだけれど安静効果があるという代物で、名称こそ不明だが、個人的には悪くない味だった。

アリス >  
「おーのーれー。ルールブレイカーめ…」

くすくすと笑って、お互いの話を放り投げ合う。

「まー、マーズデュオって大体私が今着てるような服のお店だしね…」
「あ、今日のアガサの服いいよね」

話が二転三転しながら、二人でころころと表情を変えて歩く。
パパとママが見たら目まぐるしいと思うかも知れない。

レジャーグッズの店に辿り着くと、ちょっと良い登山靴が目に付いた。
いいな。私、山も好き。結構登山するし。
今は日帰りしかやってないけど、いつかキャンプもしたい。

「あー、今年はちょっと背伸びですかなアガサ君。逆に私はワンピースタイプがいいなー」
「だって流されないんだもの」

水着を一つ、手に取って体に合わせてみる。
うーん、目移りしてしまう。

「小鳥遊先生のお茶? 私は紅茶の国からの使者よ……評価は厳しくなるわ…」
「とはいっても普通に美味しかったから飲んでるわ。ジャスミンティーより落ち着く気がするしね」

惨劇の館事件から、私はずっとカウンセリングと、異能での治療と、魔術的処置を受け続けている。
心は落ち着いてきたけど。記憶が薄れたわけじゃなかった。

アガサ > 「む、お目が高い。そうとも今日の服装はこのドナルドピジョンがアクセント……!
他は、ちょっと派手かなあって思ったんだけど、アイノ君とか見ているとそういうのもいいのかなって」

ブラウスに落ち着いた色合いのスカート。デニールが薄めの黒いタイツに金色で縁取られたケープ。
そういった以前、良くしていた格好はアリス君の前では出来るだけしないようにしていた。
彼女がトレードマークであった筈の白衣を着ていないのも、もしかしたら同じような理由かもしれなかったけれど、
それを訊ねるのは、何処か憚られようものに思い、私は褒められた事を喜ぶに留める。

「いいじゃないか背伸びしたって。勿論背伸びし過ぎて転んだりはしないよ?ほら、こうしてお茶の話をしておけば──」

そんな風に互いにころころと表情と声を転がしながら、用途不明の水中道具を収めた棚の群れから抜け出でて目標地点の水着コーナーへと到着す。
周囲にある水着群はシックな色合いの落ち着いた意匠の物から、ビビッドな色合いの過激な物まで多種多様。
如何な不思議か布地の少ない水着の方が値段が高い事に、私の眉はぐんにゃりと歪んだ。

「──無茶をしないってものだろう?ああ、でも最初から着なければ流されもしないけど」

子供っぽすぎる意匠は避けたい御年頃だけど、それはそれとしてトンデモナイ物は避けたい。
試しにと手に取ったものはVの字型の過激な事著しい代物だった。そっと棚に戻そうっと。

「あと、山の方はー……青垣山?一応あそこにもキャンプ場はあるけど……どうなんだろう?
事故があったって話は聞かないけれど、ほら、あそこ時々、敵性怪異が発生したりするじゃない」

遠くの壁にはテントの見本写真が掛かっているのが見える。なんでも魔術防護処置済み。天候不順でもバッチリ!らしい

アリス >  
「そう、ドナピジー。素敵よねードナルドピジョン…」
「私もアイノを見ていると色々とこう…服で冒険したくなるのよね」

お互い、以前のような格好をしなくなった。
暑くなってきたから? 違う。
二人とも、あの館の惨劇を意識したくないんだ。

「最初から着なかったら大問題でしょ…」
「んん? アガサ君いま…ちょっとエロい水着を手に取らなかった……?」

アガサが戻したV字のアレを体に当てる。
ギャー。無理。私がグラマラスな体型であっても無理。

「背伸びかー、彼氏ができたら考える……」
「青垣山、素敵な場所よ。普通の登山ルートには敵対的怪異も出ないし」
「紅葉狩り狩り狩りも大分数を減らしたらしいしね」

横目でキャンプグッズを見ながら、水着を体に当てる。

「タンキニかモノキニにしよっかなー……」

アガサ > 「あの何言ってるのか一切解らないんだけど、明らかに何かを喋っている感が面白いんだよね……」

常世ディスティニー公式ホームページによるとイエバト語を操るイエバト族の彼。
翻訳だなんて親切なものは存在だにせず、では一体彼は何を喋っているのだろうか?
それが詳らかになる時、私は一つ成長……は多分しない。
少なくともアイノ君のように服装で大冒険をするような事は。

「え"っこれ?うん。何だか凄いよねえこれ……こんなの着たら絶対にズレるよ。何のためにあるんだろうね。
……もしかしたら、アリス君に着られる為にあるのかもしれないよ……」

なので大冒険は親友に押し付けようと思ったから、そうする。
私は手を日本的なゴーストのように垂れ下げ、声音をそれはそれはわざとらしくおどろおどろしくしてみせた。
でも、アリス君は大冒険もしなければ、背伸びをする事も無く、踵をきちんと地に着けている。
それはとても嬉しい事で、騒ぐ彼女を眺める私の瞳は緩やかに細くなろうというもの。

「む、そうだったんだ?青垣山。私が行った時はそれはもう大変で……そうそう、その変な名前の奴!
そういうのかと思ったら、私の時はすっごく大きい桃の樹で──」

大変であったことをさも笑い話のようにする一方で、桃の樹の怪異は単なる動く樹だったとの説明に留めた。
グロテスクな要素を親友の耳に入れる必要は無いんだもの。必要なのは

「アリス君ならモノキニ似合うんじゃないかなあ。……あ、こんなのもあるよ」

私は棚から白黒ボーダーのボディスーツのような奇妙な水着を取り上げる。
親友の耳に入れるべきものは水着へのアドバイス。それと愉快な会話だけでいい。
私の手にした水着は恰も囚人服のようにも見え、ついてくる丸い帽子と合わさって猶更滑稽に見えた。

アリス >  
「そうなのよー、イエバト語を人類が理解するのは大分後になりそうねー」

私もアイノと出会った後にチューブトップを買ったのだ。
でもママに見つかってそれとなく怒られた。
そもそも私のSIZのステータスだと似合わない……から…いいもん……

「いやいやいや、私がこれ着たら取っ掛かりがなさすぎてフルオープンアタックでしょ」
「って誰が取っ掛かりがないだー。少しはあるし」

大きい桃の樹の話を聞きながら、彼女の大冒険に想いを馳せる。
きっとアガサのことだから。なんだかんだ言いながら何とかしたんだろうなぁ。

「え、なになに。ってこれ囚人服みたいなのじゃーん」
「帽子までつけちゃう」

おどけた様子で体にボーダーの水着を合わせて、左手で帽子をつけてみる。
これはこれで色あせないナイスデザインなのだけれど。

アガサ > 「話していたら何だかお昼は鶏肉が食べたくなってきた……なんて、思ってしまう時点で理解は遠いのかもしれない。
でもアリス君の体型については少しは理解があるとも!……いや変な意味じゃないよ?ほら、私よりは……ね?」

フルオープンアタック。そんな様子は想像するだに大惨事過ぎて私は瞳を丸くしてから声に出して笑った。
Vの字水着はそっと棚に戻り、来るべき主が訪れる時を待ち続ける事になる。多分。

「そうそう囚人服みたいだろう?こういう奴も面白いかなって。色もなんだか沢山あるし、もしや売れ筋だったりするのかな?」

ふと、白黒ボーダーの囚人服めいた水着姿となった私とアリス君を想像する。
そんな二人がプールで和やかに泳いで……泳いで……
……いや、これ泳いで脱獄している真っ最中だ。きっと、アルカトラズのような場所からの。
私はかぶりを振って余計な思考を断ち切り、イエローのタンキニを手に取る。

「……うん、でも私はこっちにしようかな。やっぱり夏は鮮やかな色合いのが似合うってものさ!アリス君はどうする?」

特に柄は無いシンプルでビビッドな代物を手に取って私はレジに向かおうと。

アリス >  
「お昼は中華料理とかどう? 鶏肉とか美味しいでしょ」
「ああ、うん……アガサも成長するわよ…」

残酷すぎるお為ごかしを口にしながら二人で笑って。
こういうのはセクシー系に任せた。

「多分、露出を好まない人には良い選択肢なんじゃないかしら?」

想像する。この水着を着た二人を。
大昔はこのタイプの水着が主流だったと何かの本で読んだので。
自然と二人ともレトロな世界でアイスを食べながら海に……

あ、アイス食べたい。

「私はこれにするわ」

セルリアンブルーのモノキニを買って。
そしてそれからはお楽しみ。
いや、今も十分楽しんでたけど。

「アイスが食べたくなったので、アイスクリーム博覧会に行きましょう。ハイ決定」

一人で決めて屋上に二人で上がる道連れスタイル。
そこには色んな種類のアイスクリームのお店がたくさん並んでいた。

「……あの『インディカ米から作ったアイス』シリーズってどう思う?」