2019/05/23 のログ
アガサ > 「うん、じゃあお昼は中華系だね。後でレストランエリアを見に……アリス君。なぁんで目を逸らしながら言うのかなあ~?」

親友の優しい言葉が身に染みる。でもアリス君の綺麗な瞳は海を泳ぐように揺れている。
それを捕まえようと私の身体は彼女の視線の先に先廻りをしようとするのに、どういう訳か逃げられる。

「あ、逃げる気だね?ようし逃がさないぞ!」

かくして二人で館内を忙しなく移動をして屋上へ。
屋上に出ると鮮やかな空と爽やかな風が迎えてくれる。
学生街に程近いと言っても未開拓地区は何処か野生みを感じさせもしてくれて、
同じ未開拓地区に在る筈の常世ディスティニーランドとも違う空気だった。

「……お米ってアイスになるのかなあ。あっちの魚アイスとか言うのも気になるし……おや?」

多種多様なアイスの屋台が連なる屋上。
多種多様な人種が行き交う賑やかしい屋上。

「…………ねえ、アリス君。あれ、異邦人街で見た事あるような」

そういった場所で、私が指差す先に在るのは勿論アイスクリームの屋台。でも問題はそこじゃあない。
問題なのはそこの店主。卵型の胴体に手足が付いたようなロボット。私は彼(?)を異邦人街のお祭りで見た事があるんだもの。

『ナニニシマスカ』

アリス君の手を引いて近づいてみると、相変わらずの一辺倒な売り文句。でも札に書かれたメニューはきちんとアイスらしいものだ。
その中にはアリス君が気にしていたお米アイスも有るし、激辛唐辛子アイスなるキワモノ系もあるけれど。

「ほ、他も見てみる?」

隣の屋台では凍らせた牛乳をカキ氷的に砕いたものに、シロップとアイスを乗せた変則的な代物を扱っているのが判る。
此方の店主はアラブ系と思しき男性で、私を目が合うと愛想よく手を振ってくれた。

アリス >  
「なにも……なにもないったらぁ………!」

早歩きに逃げ出す。
ショッピングモールで走るほど子供じゃないけど。
はしゃがないほど大人でもない。

「お米とか魚とかアイスにしていいの…? 合法?」

違法アイスがあるかはともかく。
屋上の空気は少し熱気があって、それでいて風はまだ五月なんだと思わせる。

「あ、本当ね。安全ごすのロボットじゃない?」

我ながら覚え方がひどい。
激辛唐辛子アイスとかやっぱり違法なんじゃない?

「……私、濃厚なミルクのソフトクリームとか、爽やかなフレーバーのトルコアイスとか想像してたから」
「このテンションの気温差に風邪をひきそうだわ」

私も愛想よく手を振り返してみる。
うーん、どれを食べようかしら。

アガサ > 「このロボット、自我があるのかなあ。それとも誰かが店番的に設置しているのかなあ」

『ナニニシマスカ』

相変わらず問いかけても同じ言葉が返るばかり。
他にもスッポンの血アイスだとかキワモノが多々ある中で、それらに混じる普通のアイスはどうにも普通ならざる何かに見えなくもない。

「えっと、じゃあ私は……隣の屋台に……」

悩むアリス君を他所に、私は愛想の良いアラブ系のおじさんの店へするりと移動し注文をする。
頼んだものはチョコレートの奴で、頼まれるやいなやにおじさんは鮮やかな手付きでナイフを手にし、
凍らせた牛乳の塊をまるでバターでも斬るように削り、プラスチックの器に盛り、チョコレートソースをこれでもかとかけてから
シナモンの粉が舞う程にかける。

『シュクラン!』

そして爽やかな笑顔と共にお皿を渡してくれた。
ちなみにお値段500円。そして謎の言葉の意味は「ありがとう」という意味らしい事が店名に記されている。

「アリス君の方はどう?決まった?これ、結構量が多いから良かったら食べる?」

ご丁寧にスプーンは赤と青の二つが突き刺さっていたものだから、私は赤い方をアリス君に刺さった器ごと向けてみた。

アリス >  
「自我があるなら失礼なことは言えないわよね…」

といいながらじろじろと失礼な視線をぶつけているのだけれど。
スッポンの血アイスの隣にバニラアイスがあるのはかなり恐ろしい。

私はそれとなく周囲を見て回って、カップのずんだアイスにしてみた。
まずは一口。ミルクの味が濃厚で、ずんだの香りがして、全体的に甘さのバランスが良い。

「決まったわ、ずんだアイス。私もスプーン2個もらってきたから食べていいわよー」

食べさせてもらうと、確かに美味しい。
チョコレートと牛乳の相性もさることながら、シナモンの工夫が飽きさせない。

「ねぇ、アガサ。私たち、とんでもない噂を立てられてるの知ってる?」

あえて、その話題を出した。
なんてことない、っていうことにしたい。それだけのために。

「二人で他の人を足蹴にして生き残った、みたいに言われてる」
「はー……経験してないとわからないのかしら、このサバイバーズギルトが」

かといって誰かに経験してもらいたいなんて欠片も思わない。

アガサ > 「もしかしたらドナピジみたいに彼独特の言語があるのかも……」

ロボットの自我について幾つかの言葉を交わしてからのこと。
私が注文をしている間に会場をぐるりと回ってきたアリス君の手には緑色のアイスが収まっていた。
聞けば枝豆を使ったものだと解って、私は数度瞳を瞬いてそれを見る。抹茶かと思ったんだもの。

「へえーずんだ……ずんだ?変な名前だねえ、どれどれ……」

食べさせて貰うと独特の味がした。甘くて、冷たくて、ずんだの風味。
美味しいか不味いかで言うと、食べ慣れないものだから首が少しばかり傾きかかりこそすれ、
不味くは無いのだから一口二口とスプーンが進む。そしてまた首を傾ける。そんな不思議な味だ。
そんな風に二人で互いのアイスを味見しながら、設えられたベンチに並んで座った所で、
アリス君が世間話でもするように、他愛の無い話でもするかのように口を開いた。

「…………うん、知ってるよ。SNS上で好き勝手言われてるのも知ってる。
全く勝手に言ってくれちゃって酷いものだよね。おかげで私の友達も減っちゃってさ?
でも、公的には風紀委員会と生活委員会の人達が否定してくれている事だもの。
人の噂なんてアテにならないものだよ。例えば魔術学の獅南先生って知ってる?
あの人もSNSだとそれはもう好き放題言われてるけど、実際会ったらそんなことない、素敵な先生だったもの」

話を聞いてからのこと。
溜息を吐く親友に苦笑し、私も何てことの無いように話をする。
ああ、このチョコレートソースは中々だね。そんな事を言うように。

「だから私は気にしないようにしているよ。それに、アリス君がそんな酷い子じゃなくて素敵な子だって私は判ってるもの。
百聞は一見に如かず。噂を立てる人達も、一度君と話してみればいいのにね」

アリス君がそうしたように、私も他愛の無い話でもするかのように言葉を述べ、
けれどもその中に愛のある言葉を混ぜて私も溜息を吐いた。

アリス >  
「ずんだー。昔、パパとママと本土の旅行に行った時に食べたのよ」
「あの時はずんだシェイクだったけどね?」

ベンチに座って青空を見る。
どこまでも続いている、蒼穹。
二人でアイスを食べながら、噂話について言及した。

「アガサの友達が減ったのはひどいわね……」
「私の友達はそういうの気にする人はいないからいいけど…ただし六人しかいないわ」
「獅南先生か……人の噂なんて、アテにならないものね」

二人でチョコレートソースのビターでスイートな味わいについて語りながら。
平行してSNSワールドの怖さについて話したり。

「……ありがとう、アガサ」
「アガサもとっても素敵よ。私の大切な親友だもの」

そう言って笑顔を見せる。
大丈夫、あの館はもう存在しない。だから、私は…私たちは、大丈夫。
太陽の加減が、少しアクセルを踏みすぎていて。
午後が始まろうとしていた。

アガサ > 「ええーそうなんだ?私、この島に来るまでは本土に居たのに見た事無いぞう……パパなら知ってるかなあ」

今度聞いてみよう。と私は確と頷き、後日義父から『急にどうしたの?』なんて返事が来ることになる。
でもそれは後の話。

「気にしてないよ。それに、噂くらいで離れる人は友達じゃなかったんだよ、元々ね。
いっそ自分で呪術の使い手だとか流して……いや、これはちょっと恥ずかしいね、うん」

今はあっけらと声に出して笑って、なんでも無い事のようにするだけ。
親友に褒められて、ちょっぴり顔に熱が灯るように面映ゆくなるだけ。

「ありがとう、アリス君。君が私の親友で良かった。
──でも、お昼ご飯を奢る刑は減刑しないよ?」

そして、誤魔化すように猫みたいに笑う。
屋上の時計台はまだお昼を示したばかりで、この後はお昼ご飯を食べて、また二人で色々なお店を見て回る事になって
きっときっと、賑やかしい一日になるに違いなかった。

ご案内:「ショッピングモール『セレファス』」からアガサさんが去りました。
ご案内:「ショッピングモール『セレファス』」からアリスさんが去りました。