2019/07/23 のログ
ご案内:「どきどき☆常世ランド」にアガサさんが現れました。
ご案内:「どきどき☆常世ランド」に人見瞳さんが現れました。
アガサ > 学生街から出ているシャトルバスに揺られる先は夏に煌めく『どきどき☆常世ランド』
この島に存在する完全屋内型の大型プール施設……なんだけど。

「………去年は『わくわく常世ランド』だったよねえ」

去年訪れた時はそんな名前だったことを憶えている。同時に毎年名前が変わってリニューアルするのも恒例だと。
そうなると昨年と何処がどう違うのか気にもなる訳で、私は親友を誘う前にと敵情視察。
つまりは一人で颯爽とやってきたって訳。

「ああでも中は去年と然程変わりない感じかな?」

昨年と変わらず全体的にハワイアンな調度と音楽に支配された施設内は少し懐かしさを感じさせる。
名物の激流プールも変わらず2Fに回廊状にあるらしく、吹き抜け式の中央部分の波のプールも健在だ。
去年と違う所を上げるなら、プールの奥に海賊船宜しく船があるくらいで、人工砂浜を踏みしめると海に来たんだなあ。
なんて感慨深くもなるんだ。此処、プールだけど。

「で、此処も去年と変わりなし……じゃないなあ!何だかでっかいぞ!?」

マラサダのお店に後ろ髪を引かれつつ、プールらしいプール。ウォータースライダーまで足を運ぶと
私の顔は鳩が豆鉄砲をガトリングガンで喰らったような顔になっちゃうんだ。
去年の比べて明らかに長いしうねっているし、滑るだけで中々の勇気が必要そうな力強さを見せつけている。
こうなると滑り落ちてくる人達の様子が気にもなり、私は受口たるプールに入り、ゆらゆらとしながら眺めもしよう。
どうやら普通のプ-ルとしても機能しているらしく、他にも遊んだりしている人は居るみたい。

人見瞳 > 大蛇がとぐろを巻いているような、大きな巻貝みたいな螺旋の管から、とめどなく水が流れ落ちていた。
その一方の開口部。けっこうな高さのある入口側に私は立っている。
明るい水色の管の中は曲がりくねっていて、わずかに2~3メートル先さえも見通せない。

「はー……これはなかなか」

恐る恐る、という感じで覗き込んでみる私の背中に明るく元気な声がかかる。

「どしたの? 君の番だよ!」
「ええと、なんて言うかこれ………流れ早くない!?」
「あったり前じゃんさー!! ウォータースライダーなんだし。ほーら、行った行った!」
「やっ!? 押っ、押さないで危ない危ない!!!」

入口の枠にしがみついて抵抗する私をもう一人の私が押し込もうとする。

「何でェまどろっこしい。後がつっかえてんだよ! とっとと行きやがれってんだ!!」
「「わーーーーーーーーーー!!!」」

三人目の私に押し出され、二人まとめて激流のジェットコースターへと呑み込まれる。
右に左に振らされるたび天と地とが逆転して、めまぐるしくもつれあいながら落ちていく。

「ひゃああああああああああああ!!!!!」
「あはははははははははははははははははは!!!!!」

重力の働く方向さえもわからないまま、体感時間にして三十秒くらい。
唐突に視界が開け、一瞬の浮遊感に襲われたあと派手な水しぶきがあがった。

「…………ぷはぁ!! 何するんですか本当にもう!! もう!」
「ふっふっふー、案外平気でしょ?」
「そういう問題じゃ―――」
「どいたどいたーーーー!!! 俺様のお通りだーー!!」
「「わーーーーーーーーー!!!!?」」

三人目がカッ飛んできて緊急退避。私たちの時よりいっそう派手に水面が割れた。

アガサ > 悲鳴?怒号?はたまた雄叫びか。盛大に声を上げながら滑り落ちてくる筋骨逞しい巨漢の青年。
本当に滑って来たの?と首を傾げたくなるくらいに平静のままプールに着水する老婦人。
如何な不思議か猛スピードで着水して盛大な水柱を噴き上げ、得意気にするのは紺碧の肌に背鰭を蓄えた水棲系の亜人さんだ。
他にも様々な人達が滑り落ちては愉しそうにしていて、見ているだけでも中々どうして面白い。
時たま危険行為を咎められて係員さんに注意を受ける人もいるけれど、目立った危険は特に無いように見えた。

「激流プールの方がよっぽど危ないと言えば危ないもんねえ……」

耳をすませば激流プールからの悲鳴が聞こえる。ような気がした。
耳をすませても、■■の声は聴こえない。
人間は忘れる事の出来る生き物で、惨劇の記憶は確実に薄れている。
一方で去年、此処の名物たる激流プールで親友が水着を流されたのは未だ記憶に新しいもので、
私はスライダーの出口傍のプールサイドに上がって座って、今年はどうなるものかと鼻歌を諳んじていると次の誰かが落ちてくる。

「わお」

茶髪の女の人と茶髪の女の人だ。
彼女達は同じ見目をしていて、双子を直に見たことが無かった私はついついと瞳を丸くして眺めてしまって

「うわお!?」

次にはまたもや同じ顔をした茶髪の女の人が出てくるものだから、驚く声の調子も上がる。
だって三つ子さんなんて見たことが無いんだもの。ついついと目線が追って、コピー機で転写したかのような顔を眼で追ってしまうんだ。
何処かで見た気もするけれど、明確に憶えは無くて首を捻りもするけれど。

人見瞳 > 「こらお前たち!! 危ないことはやめろって言っただろ! 怒られるのは僕なんだぞ!!!」

大きな麦藁帽子をかぶり、競泳水着の上に白いパーカーを羽織った監視員さんが激怒している。
オレンジ色のメガホンが7月の陽光を受けて目に眩しい。

あれも私だ。
グラサンをかけていてパッと見わかりづらいけれど、見る人が見ればわかるはず。
背格好も髪の色も、声までそっくり同じですから。

「「はぁい」」
「わーってらァ!! 野暮は言いっこ無しだぜ!」
「ていうか私、それどーしたの?」
「おっと、こいつァいけねえ!」
「…………わぁ!?」

ワハハと笑う私のセパレートの水着の上半分が行方不明になっていて、慌てて胸を覆い隠す。
まるでぐいっと鷲掴みにしにいくみたいに。傍目にはどう見えてるんでしょうねこれ。

「笑ってる場合ですかーーー!!!」
「まあまあ。どっかその辺にあるんじゃない?」

中学校の頃に着ていた学校指定の水着に身を包んだ五人目の私が流れ着く。
胸にお母さんの字で大きく「人見」って書いてあるやつです。

「…………………私………も…探して……あげる………」
「さっさと見つけないと出禁にするからな!!」

どこかで見た様な女の子がこちらを見て目を丸くしていた。
三々五々に散らばって水着さがしを始める。遠くに流されていないといいのだけれど。

アガサ > 背格好も顔も髪型も、何一つ変わらず水着だけが異なる彼女達を見ていると、私生活で困りそうだなあ。
なんてどうでもよい事が脳裏を走り去っていく。髪型や髪色とか変えたくならないのかな?
ああ、でも仲の良さそうな三姉妹に見えるし、きっと敢えてお揃いにしているんだろうと納得する。

「……………………はい?」

納得していたら監視員さんが怒鳴り込んで来た。
危ない滑り方をしていたと言えばしていたんだから、彼女の怒りは尤もで、そこに疑問の余地はない。
ないけれど、彼女の背格好や声がどう見ても三つ子さんと同じであるなら話は変わる。

「………………………」

四つ子なんてあるんだなあ。と呆気に取られていると私の言葉をいよいよと奪う誰かが現れた。
茶髪の女性だ。胸元に「人見」と苗字が記された5人目の茶髪の女性。
周囲の人達も、不可思議に騒ぐ彼女達の様子が気になるのか視線を送り、けれども一人が水着を流されたと知るやに視線を外した。
水着は、私の足元をクラゲのように漂っていた。

「あ、水着。多分これじゃないですか!」

プールに降りて水着を掴み、高々と掲げて声を彼女達に近づく。
近付いて視るといよいよもって瓜二つな顔が視界を混乱させるから、数度瞳を瞬いてから水着を流された茶髪の女性に差し出すんだ。

人見瞳 > 「「「えっ」」」

私を含めて三人同時に、すぐそばにいた私たちが振り返る。

「……………ぁ………」
「わお! 見つけた人は何%もらえるんだっけ?」
「だいたい1割から2割くらいが相場だっていいますね……ってそれは交番!! ここはプール!」
「あっはっは、いンだよ細けえこたぁ!!」

見覚えのあるそれはどう見ても失われしセパレートの片割れで。
たぶん私が着てもぴったりサイズが合うのでしょう。

「よかったぁ………」

人間の盾で視線を遮っているあいだに私が水着を着けなおす。
プールが出禁になるのも困るけれど、それよりも乙女の危機が去ったことに安堵して。

「おう、恩に着るぜ!!」
「えへへへー。どんなもんです!」
「………見つけた……の………あなた…じゃなく……て…」
「助かったよ。危うくこいつらの道連れになるところだった」

バイト中の私はグラサンを下げて軽く片目をつむり、そのまま監視台へと戻っていく。

「ところで君はどこの誰ちゃんかな。今ヒマ? 私たちと遊ばない?」
「…………………ナンパ…………?」
「ちーがーいーまーすー! そんなんじゃなくってさー」
「どこかにお連れの方がいるんじゃないですか?」
「かもな。ま、無理にたァ言わねえさ」

あとで飲み物くらいご馳走しても罰は当たらない気がしますけれども。

アガサ > 同じ顔に見つめられると何処となく圧があって、激流プールにも負けない言葉の渦に危うく溺れてしまいそう。

「だ、大丈夫。大丈夫ですから、1割貰っても仕方ないですし?」

同じ声が違う言葉を並べると耳が混乱するのだと学んだ。今後、活用される場があるかは判らないし、解らない。
私は流された女生と監視員の女性に声をかけて──一先ずの落着を得る。

「私はえーっと、アガサ・ナイトって言います。常世学園の2年生で、今日は独りで下見に来たんです。
今度友達と来ようかなあって。えっとー……人見さん?は御家族で来たんですか?」

右も左も同じ顔の中、5人目の彼女の胸元の名前を見て訊ね返す。
ある意味で連携の取れた言葉の流れは仲の良い姉妹だろうことを思わせて自然と表情が緩む。
私に姉妹や兄弟は居ないけれど、もし居たら楽しかっただろうなあって、与太な思考が浮かんでは水底に沈み、
思考を踏みつけるようにスライダーから誰かが水飛沫を伴って落ちてきた。ごく普通(?)の青年だった。

「此処、一寸お邪魔になってしまうかも……あ、そうだ。
あっちに去年と変わらなければ美味しいマラサダのお店があるんです。座れますし、良かったら行きませんか?」

水飛沫の掛かった顔を振りながら指差す先にはハワイアンな様子の屋台が見える。

人見瞳 > 「おーーーーーーい!! ボール持ってきたぞー皆の衆ーーー!」

お化けスイカよりふた周りくらい大きなビニール製のビーチボールが投げ込まれる。
半分くらい透明に透き通っていて、ありったけの肺活量を振り絞って膨らませるタイプのアレですね。
七人目の私は既にうっすらと日焼けして、トロピカルな色合いのパレオを颯爽と着こなしている。

「さっすが私! 待ってましただよー」
「同級生だったんですねー。私は人見瞳、ここにいる全員―――」
「…………………えい……」
「わぷっ!? 何するんですかーー!!!」

水泳帽を被っている私に水を浴びせられ、とっさに条件反射でやり返す。
アガサを巻き込んで水しぶきとビーチボールが姦しく飛び交う。

「俺も人見瞳だ。そっちも同じく。あらよッ―――と!」
「そうそう! ご家族っていうか、ご本人さま! かな! とぅっ!!」
「………我が名は…レギオン…………同一人物…であるがゆえに……」
「普通にしていると自分でも見分けがつかないので、言葉遣いを分けているんです。中身は皆同じなんですけど……あうっ!?」
「余所見は禁物だぜ!! オーライオーライ!」
「ところでマサラダ? マラサダ??って何??? 誰か知ってる?」

私会議緊急招集。議題はマラサダの正体について。六人の私が円陣を組んでアガサを囲む。

「インド……的な?」
「語感で言いましたよねそれ。もっとハワイアンな何かでは?」
「ロコモコ丼か!!」
「知らんて。よくわかんないけど、お世話になったみたいだしお姉さんが奢っちゃおう!!」
「ヒュー太っ腹ー! さっすが私!! ゴチになりまーす!」
「はいはい。おサイフは一緒でしょーが」
「…………わーわー……」

そういうことになった。

アガサ > 名前と学年が明かされると私の言葉と態度がくるくると変わって気易いものへと様変わり。
やたらに広い学園だからか、同学年でも初対面なんてものが珍しくないのだった。

「……あ、なぁんだ。同学年だったんだ!てっきり上級生かと思ってしまったよ。
ほら、此処の学園ってその辺色々あるから……瞳君だね。改めて宜し──」

ひとみ・ひとみ。同じ言葉を繰り返す姓名は不思議な響きで面白い。
こうなると残りの皆さんの名前が気になるのだけど、訊ねる言葉を遮ったのは元気の良い"聞き慣れた声"だ。
顔を向けるとすっかりと夏色模様の瞳君のそっくりさんが来る所で、言葉を失うと横合いから水飛沫がかかり、
後を追うようにビーチボールが柔らかくぶつかる。そして、彼女達の言葉もぶつかってくる。

「……ぶ、分身……?いや、違うよね。えっと……」

全て統てが瞳君である。彼女達はそう言った。
魔術の類でそうしているなら、誰かが本体である筈だけれど、彼女達は中身が同じだと言う。
そうであるなら異能の方で、原理がどうなっているのかと思考の波に意識が埋まりかかった。
だから気が付くと私は瞳君達のスクラムの中心にいて、口元まで水没して見上げるばかり。
12個の夕焼けのように赤い瞳を、夜のような紫色の眼差しで見守っていた。

「それにしても瞳君……のは異能?名前呼ばれたりすると不便じゃないかい?」

閑話休題《それはさておき》
平和的な緊急会議が終わってから私達は、人工砂浜を眺望できるウッドデッキ上に配された白塗りのテーブル群と数々の椅子。
フードコート的な場所なのか、様々なハワイ的料理を謳った看板が惹句に彩られて目に賑やかな屋台達。
そういった場所に移動をして席を取る事になった。テーブル上には沢山のマラサダ──ハワイ風揚げドーナツが並んでいて、
私はその中からイチゴクリームが詰まった物を手に取って頬張りながら率直な疑問を口にする。
少なくとも学園の先生方は苦労をしているに違いない。