2020/06/21 のログ
ご案内:「落第街のとある一角」にエルヴェーラさんが現れました。
ご案内:「落第街のとある一角」に角鹿建悟さんが現れました。
エルヴェーラ > ここは落第街。
今日も多くの人々が行き交う。
瓦礫の上に腰掛けているのは、白い髪を揺らす長耳の少女。
視界の端では危険な武器、薬物、果ては人の命までもが金と交換されている。

ここは落第街。
欲望の渦巻く街。

そして、その渦巻く欲望の欠片が残した爪痕の上に、制服の少女は座っていた。
影の臭いが染みついた街で、不思議と彼女が纏う空気は清らかであった。

彼女が小さな腰を乗せている場所。
かつてそこには、5階建てのビルが存在していた筈だ。
そこは、違法部活の拠点だった。
それが、何者かによって破壊されてしまったのだ。
しかしこんなことは、よくあること。これは、落第街の日常だ。
薬物中毒者が道端で倒れているのも、道行く者が無理やり路地裏へ連れていかれるのも。
全て、全て、日常だ。

そんな影の日常の中で、ぽつんと咲く白い百合は、風に揺られながら
目を閉じれば、音を奏で始めた。

「――♪」

どこまでも透き通った、ハミング。
穏やかな歌を、奏でる。
それはある者が聞けば、望郷の念を思い起こさずには居られない歌。
それはある者が聞けば、落第街に似合わぬ安寧を感じずには居られない歌。
それはある者が聞けば、どこまでも深い悲しみに胸を傷めずには居られない歌。

角鹿建悟 > そんな落第街を歩く一人の男の姿がある。
体格は中々にガッシリとした長身の男。服装はありふれた作業着――そして腕章。
右腕に付けられたそれには、【第九修繕特務隊】の文字と共に工具のような紋章が描かれている。

「……依頼の場所はこの辺りの筈だが」

周囲を鋭い銀の瞳で見渡す――確か、派手に破壊されて殆ど原型が残っていないと聞く。
今回は他のチームの面々もあちこちに借り出されており、新入りとはいえ彼一人だけだ。

(――それでも、依頼を受けた以上はこれは俺がやるべき事だ)

そう、改めて心の中で呟いて気合を入れ直しながら歩き回り――程なく、目的地へと辿り着いた。

「―――…ん?」

目的地――かつて5階建てのビルという話だったが、今は破壊されて瓦礫の山。
そんな場所に腰掛けている白髪に――長い耳。…確か、エルフ…という種族だっただろうか?

ふと、風に乗って届く歌声は――男の心に何を去来させただろうか?
一瞬、息を詰めるかのように歩む足が止まり掛けたが…それでも。それでも、”一歩を踏み出して”彼は少女の方へと足を運ぶ。

「――突然済まない。これからここの修繕作業を行うので少し場所を空けて貰いたいのだが」

相手が制服を纏っているのもあり、敬語ではなく何時もの無愛想な口調で語りかける。
彼に悪気は無い…むしろ、仕事とはいえ彼女の歌を止めて場所を空けて貰おうとしている事に少し申し訳ないくらいで。

だが、仕事は仕事だ――受けた依頼は必ずこなす。その信念は曲げない。

エルヴェーラ > 歌を奏でる少女は、ぱちりと目を開く。
鮮やかな紅の中に昏さも湛えたその宝石は、
視界の向こう側から近づいてくる男を映し出していた。

少女は目を細めるが、再びその瞼をすっと、静かに閉じる。
我関せず、といった様子であった。
ただ、瓦礫の山の上で、少女は歌を奏で続ける。風と共に、奏で続ける。

気づけば。
ゆったりとした音色の中に、男の声が響いてきた。
それが自らへかけられた言葉であると判断すればすぐに、
ハミングを止めた白のエルフは、ぱちりと再び目を開いた。
近くで見れば、吸い込まれそうなほどに深い瞳である。
その奥には、どのような色が込められているのか、窺い知ることはできない。
そこに映る色――感情は、無色透明だからである。

「修繕、作業……」

男の言葉を繰り返すように少女は呟く。
穏やかな風の如き澄んだ音色であった。
そんな音色で言葉を紡ぎながら、少女の目は細められた。
紅の宝石は、『第九修繕特務隊』の腕章を映し出す。

「……どうして、直すのですか」

少女は、目の前の男に訪ねた。
それは、とてもシンプルな問いかけであった。
無論、少女は彼が依頼で来たことなど十分理解している。
『第九修繕特務隊』。直すのが『仕事』なのだから。
その上で男に問いかけているのだ。なぜ、直すのかと。

角鹿建悟 > 最初こそ、こちらが近付いていく間に少女は男の存在に気付いたようだが、全く我関せずの態度。
それでも、こちらとして仕事なので声を掛けてみたが…今回はちゃんと反応はあった。
瓦礫の山から周囲に響く風のハミングは、不思議と心をざわつかせる何かがある。
だが、それでも揺るがぬのが己の仕事への誇り。
歌を止めた彼女が再び目を開きこちらを見る――深い色合いの瞳。それを臆さず銀瞳で見返し。

「……そうだ、今からこの瓦礫の山と化したビルを”元に戻す”。…それが俺の仕事だ」

長々と説明をするのは苦手だ。彼女が鸚鵡返しに呟く声に、静かに首肯しながら少女の次の言葉をジッと待つ。
涼やかな声色にも動じず、目を細められてもただ見返す。たかが仕事、されど仕事。
彼女が何を言おうが構わない――だが、一度受けた依頼は必ず完遂する。

(――違う…”必ず直す”んだ)

それが、自分の唯一の取り得で、それだけをただ磨いてきたのだから。
――と、彼女の問い掛けが意外だったのか、男がやや目を丸くする。
だが、それも直ぐに元の巌の如き強い意志が宿る眼光へと戻り。

「――俺にはそれしか出来ないからだ。それに…壊すのは簡単だ。けれど――直すのは決して簡単じゃない。」

それは、彼の一方的な思い込みかもしれない。破壊だって簡単とは言い切れないだろう。
それでも、だ――直す事が破壊に劣るとは思わないし、表裏一体…どちらが欠けても成り立たない。
緩やかに、一度息を整えるように静かに吐き出しながら改めて顔を挙げて白髪の少女を見つめて。

「―誰に感謝されずとも、誰に認められなくても、誰にも気付いて貰えないとしても。
――俺にはこれしか無いんだ…だから、俺がやる。落第街だろうが学生街だろうが関係ない。
――そこに壊れた物があるなら。俺は、絶対に直す――諦めない。」

そこまで言い切ってから、少女に緩く首を傾げてみせる。これで満足か?と。
自分は言葉足らずで、どちらかといえば言葉より行動で語る方が性分だ。
今の言葉で彼女がどう思うかは知らない。だが、やる事は変わらないのだ。

エルヴェーラ > 「『それしか出来ない』……『壊れた者があるなら絶対に直す』……」

またも、鸚鵡返し。瞳はじっと、男を見つめたまま。
少女の顔色は、変わらない。そこには何の色もない。
しかし今この瞬間、彼女の意志は感じることができるだろう。
それが貴方の答えかと、丁寧に確かめようとする意志を。


「あなたの言う通り、一度壊れたものを直すことは簡単ではありません」

少女は男の顔から視線を逸らすと、辺りを見渡した。
見れば、男が依頼されたこのビル以外にも、多くの爪痕が残されている。
崩れかかった壁。破壊された石畳。ねじ曲がった街灯。そして
爆発を受けてひしゃげた窓枠も転がっている。
少女は悲しむ様子も、怒る様子もなく、ただそれらをじっと見やった。

そうして、再び男の顔に目線を戻す。

「これが落第街の日常。変わらない姿。学生街とは根本から異なります。
 『絶対に直す』。『諦めない』。でも。
 貴方が直しても、またすぐに壊される。貴方の行動は無駄になる」

そう口にすれば、少女は瓦礫の上に舞っている砂埃を人差し指で掬うと、
ふっと息を吹きかけて青空に飛ばす。

「貴方が苦労して。汗を流し。物を直しても。
 誰かが暴力で以て。血を流し。物も破壊する。
 壊して、直して、また壊されて。
 それでも貴方は、この瓦礫を直すと、そう言うのですか?」

宙で揺らしていた足を地へ下ろしながら。
少女は最後に、男に問いかけた。

「もしもこの街が壊れてしまった時、
必ず直すと『約束』……してくれますか?」

角鹿建悟 > 彼女はこちらの言葉にどう思うだろうか…そして、どう答えるだろうか?
その瞳からも表情からも何も読み取る事は出来ない…無色透明…色が見えないから。
それでも、その瞬間――ああ、初めてその瞬間。彼女の意志らしきものを男も感じ取れた。

「――そうだな。これでも落第街には依頼で何度か足を運んで…直して、壊されて、また直して…そんな事の繰り返しだ。
”お前たちは壊すことしか出来ないのか”と、正直そう言いたい気持ちだってある。
壊すなら好きにしろ…だが、直しもせずただ風化させるままに放置するのは俺は許せない。
―――だけど。」

ああ、だけど。多くの爪痕が未だに残る瓦礫の山、その周囲を見渡して…そして、再び少女に視線が戻る。

「――俺の行動が徒労だろうと、意味が無かろうと…ああ、無意味だったとしても、だ。
それで諦めろと?誰かに放り投げろと?…出来る筈がないだろう。誰が許しても俺が俺自身を許せない。
――誰が諦めても俺は諦めない。俺は…直すんだ。壊れた物を。何度でも…絶対に。」

無意識に拳をギリッと握り締める。ああ、自分でも少し熱くなってるのは分かる。
らしくない、かもしれない。けれど。ここを曲げたらそれは角鹿建悟という人間じゃなくなるから。
少女の指先から吹かれるままに宙に舞って行く砂埃――自分の”末路”が”ソレ”だとしても。
だから、少女が地に足を下ろして問い掛ける言葉にも迷わず答えるのだ。
そもそも、男に迷いは無い――そんなものは、もうとっくに乗り越えてここでこうしているのだから。

「――言われるまでもない。…むしろ上等だ。落第街が壊れたら”俺が必ず直す”」

大それた『約束』だと自分でも流石に思う。少女も本気では信じてくれないだろう。
――それで?だから?…そう、これは依頼でもある。

「――角鹿建悟という男の生き様に誓ってもいい。その時が来たら俺に任せろ」

エルヴェーラ > 「……そこまで言いきるのですね、貴方は」

顔色がなくても、伝わる。
言葉がなくても、伝わる。
少女は、男の熱意を紛れもない本物だと認めたようであった。
瓦礫を降りた少女は、ここで初めて男を見上げる。


「角鹿建悟。それが、貴方の名前なのですね。
 私のことは、シエルとお見知り置きください。
 今後も落第街に訪れることがあるのなら……
 また顔を合わせることもあるでしょう」

ぱちりと見開かれた瞳は、覚悟を決めた男の顔を映し出している。
少女は判断を下す。この男から、感じたのだ。
揺るがぬ決意を。

――そう、きっとこの男になら任せられる。


「壊れた落第街を直す。
『依頼』は、確かに頼みましたよ、角鹿建悟さん……」

それはあまりに、大規模で、大それた依頼。
過酷で、残酷で、終わりのない依頼。


――それでも。

シエルと名乗った少女は表情はそのままに、
男に向けて丁寧に頭を下げれば、瓦礫の山を背に歩きだした。

角鹿建悟 > 「――ああ、むしろ何度でも言うさ。…俺が必ず直すってな」

不可能?無理?ただの狂人?ああ、好きに言ってくれて構わない。
俺は俺の矜持と全てを賭けて直すだけだ。足りないなら足りるまで努力を。
それでも足りないなら、親方や先輩の力を借りて。それでも足りないなら――

「何を使ってでも俺は絶対に直すし諦めない。」

初めて。その時初めて彼女が”こちらを見た”気がした。
見上げてくる視線を、揺るぎの無い瞳で見下ろす…その覚悟を示すが如く。

「――シエル――覚えておく。…そうだな、ここの依頼は絶えそうにないし。
――顔を合わせたなら、挨拶くらいはさせて貰うさ…君の問い掛けで俺も気を引き締めたよ」

彼女がどんな判断を下したのかは分からない。認められたのか、それとも違うのか。

「―――任せろシエル。俺は壊れた物は必ず直す男だ。。」

ああ、それこそ自意識過剰の大馬鹿者と笑ってくれて良い。
むしろ、そのくらいの大言壮語が丁度良い…直す事の厳しさを、自分はとてもよく知っているから。
…その上でこの道を進み続けると誓った。光り輝かなくても、影の裏方には裏方なりの矜持を。

「――さて。中々大きな依頼を受けてしまったが」

彼女に会釈を返し、その後姿を最後まで見送れば一息。ああ…大きいどころではないが。

「――いいじゃないか。俺の人生を賭けるならそのくらいの方が燃えるだろう」

ふと口元を緩めたが…それも一瞬の事。直ぐに頭を切り替えて修復作業へと取り掛かろうか。


――およそ1時間。そう、たった一時間でその日、朽ちた瓦礫の山は下の5階建てのビルへと戻っていただろう。

ご案内:「落第街のとある一角」から角鹿建悟さんが去りました。
ご案内:「落第街のとある一角」からエルヴェーラさんが去りました。