2020/07/05 のログ
ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」にエルヴェーラさんが現れました。
ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」にソレイユさんが現れました。
■エルヴェーラ >
裏切りの黒、地下拠点の一室。
部屋の中央、テーブルから仄かに現出する青白い光だけが、この一室の唯一の光だ。
無機質なコンクリートに覆われた部屋であったが、赤いソファは柔らかく、
十分に休息をとることができるものとなっている。
その片側に座るエルヴェーラは、ソファに深く座り込み、眠っていた。
座り込み、というのは語弊があるかもしれない。
彼女はソファの端に、寄りかかるように眠っている。
目を閉じ、動かぬ姿はまるで本物の人形である。
透き通った肌は白く、生気を感じさせず。
僅かな肩の上下と、小さな寝息だけが、彼女が生物であることを
物語っているかのようであった。
■ソレイユ >
、 、 、 、 ……
ソレはただ一点を目指し、進んでいた。
「……」
、 、 、 ……
限りなく足音を消し、ソレはそこを訪れた
誰もが入れる場所ではない その一室
無機質な しかしかつての質実剛健さを示す調度品が
わずかに置かれている
「……お嬢、寝ているのか……?」
その部屋の主
一体の人形のような彼女に話しかける
■エルヴェーラ >
「ロワ……」
ぽつり、と漏らすその唇は彫刻のようでいて、
それでいて艶やかさを見せている。
「貴方も、一緒に……」
ぽつり、ぽつり、と。
途切れがちな言葉が無意識の内に紡がれていく。
普段であれば、彼女の表情に、声に、色は無い。
ただただ空しく、虚ろな筈のその声。
しかしその時、彼女の言葉には、確かな色があった。
一匹の蛍が暗闇の草原で放つ光のように微かでありながら、
どこまでも物悲しい、その色。
ソレイユが部屋を訪れれば、
ぱちりと目を開く。
昏い紅の宝石が、彼/彼女/彼らへと向けられる。
「……無形の暴君《フェイスレスタイラント》」
その名を呟く。先の『遠い何処かへ向けた色』は消えていたが、
どことなく、目の前の彼/彼女/彼らに対して、寂しさと愛おしさを
向けるような。
そんな、色を感じることができただろうか。
一つの人形の放つ消え入りそうな彩りを、感じることができただろうか。
■ソレイユ > 「……」
こんなときは、自分の肉体性能が恨めしい
様々な"誰か"が一体となったこの身は、
僅かな音 僅かな形も 簡単に捉える
聞こえたもの 気づいたこと
その艶やかさも その色も
その見つめた先も――
その全てを心に押し込める
どうせ 押し込めてしまえば――
すぐに、消えてしまうのだから
「ミ……お嬢、起こしてしまったか? すまないな」
いつものように、淡々とした言葉で
いつもの呼び方で
詫びる
■エルヴェーラ >
「……すみません」
自らの感情を相手に悟られたことを、察したのだろう。
ずっと無いものと断じてきたもの。
ずっと覆い隠してきたもの。
テーブルの上に置かれた水の入ったグラスから、
水滴が滴り、僅かに木目を濡らす。
濡らして、滲む。
「夢を――」
無機質な灰色に支配された天を見上げる、エルヴェーラ。
その瞳の奥底には、過ぎ去ったあの日の炎が揺らめいていたのだろうか。
「――夢を、見ていました。近いようで遠い、あの日の夢を」
いつもより、ほんの僅かにか細く感じる――五感の鋭いソレイユであれば
問題なく察知できる程ではあるが――その声をエルヴェーラは、漏らした。
「構いません。少し、休んでいただけです。
少し、お話をしませんか、フェイスレス……いいえ、ソレイユ」
淡々とした言葉で詫びるソレイユに、
エルヴェーラは目を閉じて小さく頭を振る。
そうして周囲を確認した後、静かにそう誘いをかけて、
小さなその掌で、すっ、と。
自分の目の前のソファを指し示す。
■ソレイユ > 「……いや」
言葉少なに、謝罪に返す。
察されてしまった
この聡い相手では、自分程度の隠蔽では歯が立たない
わかってはいる
わかってはいるが――
自分が腹立たしい
虚ろな瞳に わずかな火を灯し
じっとりと木目を濡らす水を見つめる
「……そう、か。
ああ――夢、か」
ぽつり、と漏らされた言葉
その声は儚く いつもよりももっと繊細で
砕けてしまいそうで――
「別に、話くらい構わないさ。
私たちなら、それくらい……な」
静かに 指し示されたソファへ音もなく座る
■エルヴェーラ > 「……ええ、夢ですよ。ただの、夢」
テーブルの上に置かれたグラスを手に取ると、
その縁につつ、と細い指を滑らして、そのまま
口に含んで、中に溜まった冷たい水を飲み込む。飲み下す。
「ありがとうございます……ありがとう」
ソレイユを見上げた頭をそっと、俯けるエルヴェーラ。
「貴方と出会ってから、もう何年になりますかね。
短い時だった筈ですが、もう随分と長い間、同僚《とも》
として過ごしている。私は、そんな気持ちでいます。
あの時のこと、覚えていますか……?」
それは二人の、出会いの話。
他愛もない、出会いの話。
「忘れて、しまっていますよね」
それはどこまでも透明で、どこまでも静かな問いかけだった。
しかしその言葉は、どこか優しく、穏やかに
紡がれているように感じたことだろう。
■ソレイユ > 「……」
深く ソファに座りこむ
ぎしり、とわずかに軋む音
手を組み 身だけ乗り出し
じっと 相手を見つめる
「あぁ――そう、だな。
確かに私には……たった一日が、ただ続いている。
そんな感覚だが……」
そう、この身は記憶を留めない
この心は何も残さない
目は虚ろを映し 心は空洞
それでも――
「それでも、お嬢と同僚《とも》として過ごしている"時間"だけは、長く感じている。
それに、あの時のことも――」
そう、アレは特別な時であり
ただの一瞬の時であり
此処でなら ありふれた話であった
「僅かながら……此処に、刻まれているよ、お嬢」
トン、と。自らの身体を指す
その声は、わずかに誇らしげだった
■エルヴェーラ >
「一日がずっと続いていく。
貴方たちにとっての一日と、私にとっての一日は、随分と異なる。
そう、そういう話でしたよね」
そう、目の前の相手は、忘れてしまう。
かつての記憶は、あらゆる記憶は、
拭い去られてしまう。
その空洞は紛れもない現実。
仮初の虚では、ない。
「それはありがたい言葉……いえ、これは『嬉しい』言葉ですね」
じっと見つめ返すその瞳は、やはり昏く虚ろな紅色。
それでも、その内側に鮮やかな色が在るのだろうか。
「私の心、そしてこの身にも、刻まれています。
あの日、暴走していた貴方たちは、
『自分』というものを見失って。
その答えを求め続けて、そして……」
するりと、黒の服を緩める。
最早肌に被さっているだけとなった布の端を掴めば、
そのまま下へ。
鎖骨辺りまでの肌が、顕になる。
一点の曇りもない、雪のような首筋、そして肩口。
造り物のような色を見せていたが、それでも肉の柔らかさ、
皮膚の下に通う血の色が、微かに生を感じさせている。
そしてその肩口には、大きな傷跡が見えることだろう。
「この傷を醜いという人も居ることでしょうね。
それでも私にとっては、大切な傷なんです。
……貴方たちに出会えたあの日の、大切な証ですから」
そう口にして、右手で自らの傷跡をそっと撫でるエルヴェーラ。
■ソレイユ >
「昔は……そう、きっとお嬢たちと同じだったんだろうけど、な。
これは、かつて、何を目指したのかもわからない私の、
愚かな過ちの結果……それだけのこと、だけど」
もはや、取り戻せないであろう過去
取り戻すつもりもない記憶
これは選択だ 私が受け入れたもの
「『嬉しい』……そう、か。
『嬉しい』……か」
ぽつり、とつぶやく
見返す空虚な瞳に、虚ろな紅色が映る。
「……」
自ら晒された、白磁の肌を醜く汚す傷を
ただ――見つめる
己が刻んだ傷
己が刻んだ穢
己が刻んだ――
「あぁ――そんなにも、"深"かったか……ソレは……」
溜息をつくように
吐息をはくように
呆然とするように
恍惚とするように
言葉を漏らす
「『私』が……『私たち』が……
『居た』、証……」
■エルヴェーラ >
「ええ、『嬉しい』……だったと思います。おそらく。
いえ、きっと」
彼女の感情は、一時の夢。
後で必死に思い起こそうとしても、
すぐに指の間をすり抜けてしまう黄金の砂粒だ。
「ええ、深く刻まれています。私の、とても深いところまで」
目を閉じるエルヴェーラは、自らの身体を抱き寄せるように、
細腕でぎゅっと小さな胸を抱く。
「私は記憶は失いません。ですが……胸に宿る感情は忘れて久しい」
割れてしまった鏡は、二度と色を映すことはない。
かつて壊れてしまった彼女の心は、最早ガラクタで。
それでも――
「――それでも。この傷はあれからずっと、
何度でも私に思い出させてくれました。
灰色に曇る心を、何度でも塗ってくれました。
あの時の色を、私に思い出させてくれました」
それは痛み――生の感情。
「痛みこそが、生の証。
私が、貴方たちが、『生』きていた――『痛み』の証。
そして、この『痛み』はどこまでも、あたたかい」
痛覚は、感情と一緒に消え去っている。
それでも確かな痛みが、傷と共に彼女の記憶の中には生きている。
そこまで口にした後、言葉は空白を置く。
まるで、何かを感じようとしているかのように。
エルヴェーラは、すっと黒の布を引き上げる。
そうして指先でささっと整えると、再びソレイユの方を見やる。
すっかり、元の通りに。
「すみません……私らしくありませんね。こんな風に自分を
伝えたことなんて、今までなかったのに」
何が彼女を変えたのだろうか。それはあの『問いかけ』だったろうか。
それは、『夢の中の彼の姿』だったろうか。
■ソレイユ >
「……そうか。
それは――私も『嬉しい』な」
心に宿る温かみ
この温かさも明日の今には消えてしまっているかもしれない
だとしても、これは尊いものだ、と思える
「それに、な。お嬢。
『痛みこそが本当の生を教えてくれる』……だったか」
感情は、ある
むしろ、多すぎて 時に溢れてしまいそうで
時に壊れてしまいそうで
壊れた蛇口のようなソレ
代わりに、記憶だけは底の抜けた器のように
こぼれて、落ちていく
「私も、ね……」
ぱちり、ぱちり、と
男物の、その上着を脱いでいく
中から現れるのは
筋肉質の男のような
繊細な女性のような
奇妙な肉体
そしてそこには――抉ったような、奇妙な模様
それは一部のものだけがしる"文字"
彼女独特の、複数の意識だけが読み取れる奇妙な記号
自ら己に刻み込んだ言葉
それを、見せる。
「なに……気にするな、お嬢。
誰しも、何か言いたくなるときはあるだろう。
私とお嬢の仲だ。
気にするな。」
熱のない肉に、熱がこもり
熱のない心に、熱がこもり
確かに、それはらしくのない姿
"彼"のことなど、この二年、出てくることもなかったはずなのに――
きっと、"なにか"があったのだろう
きっと、"なにか"にあったのだろう
それは――"なに"か
■エルヴェーラ >
「ああ――」
それを見て。その言葉を見て、エルヴェーラは声をあげる。
「――刻んで、いたのですね。貴方たちも」
そう口にして、ふっと『笑う』。
それはどこまで透明で、しかしどこまでもあたたかくて。
確かに『生』きている、一人の少女の微笑み。
エルヴェーラは静かに立ち上がる。
その足の向かう先は、ソレイユの傍。
何か言おうとして、しかしそれが上手く言葉にできないような。
もどかしい口元を見せるエルヴェーラ。
しかして、数秒の後。
「……今日は――」
その音は、今にも溶けてしまいそうな雪の結晶であった。
か細くて、どうしようもなく弱々しくて。
悪の矜持など、背負っているようには思えなくて。
ただ一人の小さな少女が、そこには立っていた。
「――今日だけは、隣に居てくれますか、ソレイユ」
その記憶。この感情。
明日の今には零れ落ちてしまうものだとしても。
今だけは。ただ、今だけは。
離したくない。必死に繋ぎ止めていたい。
彼女の内に残された灯火は、今確かに揺らめいていた。
■ソレイユ > 「あぁ……
私の記憶も 私の心も 私の肉も
すべて すべて 底抜けで
すべて すべて 一時の夢だとしても」
ぐにゃり、ぐにゃり、と晒された肉が蠕動する。
それでも、その模様だけは、変わらず"ソコ"にある。
「コレ、だけは……此処に"在る"
此処に"刻まれている"」
静かに、小さな笑みを浮かべる
それは空虚な顔に一瞬だけ浮かんだ、子どものような笑み
「……」
言葉を、待つ
たとえそれが、何であろうと
いえば、全てが砕けてしまうような、なにかだったとしても――
そして
「いつだって、お嬢――」
そんなことは、問われるまでもない
そんなことは、言うまでもない
そんなことは、最初から――
「私は……いるさ。
『私』は『私たち』は……
地獄の底まで――隣に、いるさ」
それは、あの時の気持
あの時の想い
行き着く先はなんだろうと
行き着けぬ先がどこだろうと
成り果てた先がどうなろうと
この身 この生命を 賭け
それが許されぬことだろうと
それが歪みであろうと
それが『悪』にとっての『悪』だろうと
最期まで、堕ち果てるだろう
ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」からエルヴェーラさんが去りました。
ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」からソレイユさんが去りました。