2020/07/20 のログ
ご案内:「スラム」にアルン=マコークさんが現れました。
マルレーネ > 「………。」

泣きだす少年を、そっと頭を撫でる。

「…………勇者。
 フルネームを得た人間を、候補。予備。」

言葉が、情報量が渋滞を起こす。
正直、何もかも信用しきるには情報が足りず、疑うにしても情報が足りない。

「………例えば私がフルネームを呼ぶとなると、私が彼のようになってしまって、貴方のように時々しか出てこれなくなる?

 ……候補とか、予備、というのはちょっと、よく分からないのだけれど。

 貴方は、その候補ではない?」

アルン=マコーク > されるがままに撫でられて、呼吸も徐々に落ち着いてくる。
美人と触れ合っているということよりも、今はその手付きの柔らかさに安心を感じていた。

「いや……俺が乗っ取られてるのと、『勇者』の感染は、多分別で……
 俺が出てこれないのは、俺の異能が暴走してるっぽいんスよね。
 この辺、マジで感覚っつーか、ふわっとした話になるんですけど」

身をマルレーネに預けきって、完全に脱力している。
身に纏う魔力は、外からではほとんど感知できない。

「名前をあいつに知られると、気の根っこみたいな……
 見えないなんかが伸びて、縛られるっつーか。
『勇者』が活動するための力……魔力、みたいなやつ? を吸われ続けるんです。
 そんで、当代の『勇者』が死んだら、代わりの身体として使われる、みたいな」

そして、ははっ、と小さく、振るえた笑い声をあげる。

「俺は……もうダメっすね。
こんなこと、知ってるはずのないものを知ってる、共有させられている。
『勇者』は完全に、俺に根を張ってる」

その表情を、なんとか笑みに似た形にしようと努力しているのが見て取れる。
唇を歪ませ。目を細めて。

「だから、俺は。
『これ』を……広めたくないんです。
 お願いします。力を貸して下さい。
 お願いします……」

マルレーネ > 暴走、か。
異能という言葉に関しての知識も薄いから、それに関して判断もできない。

「落ち着いて。」

よいしょ、っと抱いてあげれば、子供をあやすように頭を撫でる。
こういった事態に、怯え、怯み、嘆く性格ではない自分を、ちょっと嫌いになる。

「アルンは、私を斬りたくないと言いました。
 勇者ならば斬らねばならないと。 でも、斬りたくないと。
 貴方の言葉が正しいのなら、アルンは迷わないはずでは。」

そっと撫でながら、そうやって問いかけ。

「アルンが勇者なのか。
 それとも、彼もまた何かしらの"勇者"と呼ばれる存在に憑かれているのか。
 私には、それが分かりません。

 ………力を貸すといっても、どうやって?」

目を細めたまま、そう問いかける。
お腹の奥が冷えていく感覚。 それは、彼を信用していないでも、信用しているでもない。
自分が今、危険な場所にいることを。
危険な選択肢を選んでしまうことを、体の芯から実感する冷え方。

アルン=マコーク > 「あ、はい……ありがとうございます、落ち着きます……
 あの、でもあの、これ、
 これ続けられると、別の意味で落ち着かないっつーか……!」

年甲斐もなく涙をぼろぼろ流し、興奮に紅く染まっていた頬が、今度は照れから赤くなる。

「あいつ、そんなこと言ってたんですか?
 それは……うーん、どうなんだろ」

マルレーネの言葉を受け、悠一は唸りながら、顎に手をやって考え込む。
その姿は、アルンのしていたものとよく似ていた。
同じ身体の持ち主なのだから、似ているも何もないのだが。

「俺は、あいつ……アルンが全部の元凶だとおもってたんスけど。
 そうか、あいつ自身も、『勇者』が感染ってるだけ、ってこともあるのか……」

眉間に思い切り皺を寄せて、目を閉じる。

「『勇者』とは知識は共有させられるけど、感情とか、そういうのまではわかんないんスよね。
 だから……アルンがどう思ってるのかまでは、わかんないっす……」

すんません、と軽く頭を下げる。
どんなことであれ、深々とお辞儀していたアルンとは違う。

「……この島って、なんかそういう……
 異能とかに詳しい人とか……いるんじゃないかと思うんスけど。
 なんとか、そういう人に渡りをつけてもらったり、できないっすかね。
 俺がこうして、長い間『出て』こられてるの、マジで奇跡みたいなもんだと思うんで」

それから、

「つーか、なんで俺が出てこれたんだ……?」

小さな声でそんな独り言を漏らし、頻りに首を捻っている。
マルレーネの様子を気遣うほどの余裕は、なさそうだ。

マルレーネ > 「………少なくとも、あの場で迷う必要が彼にはない。
 ここで私を斬ったところで、彼にとっては問題はないのだから。

 少なくとも、彼自身もまた考えて動いているはずです。
 ただ、私には分からないことばかりですけど。

 直接、"勇者"とやらとお話しできるなら、それが一番なのですが。」

……………うー、ん、と少しだけうめいた。
一番苦手な話だ。

「………私もここに来たばかり。
 しかも、異能という言葉には触れたばかりの人間です。

 このまま、研究施設などに行くのが順当なのか、とは思いますが………。
 私には、そういった知り合いがいないんですよね。」

渋い表情を浮かべながら、頭の中で知り合いを探す。
いいや、少なくとも"直接"依頼できそうな人は、いないように思えた。

何より。

危険を感じる話だ。

アルン=マコーク > 「うーん。お姉さんがそうまで言うなら……
 ああ、俺、引っ込んでる間のことは、はっきりわかんないんスよね。
 夢の中みたいな、ぼんやりした感じで
 誰かが名前を言おうとしたときは、ヤバいヤバいヤバい! ってなって無理やりでてこれたんスけど、基本は『アルン』が表にいるからなあ……」

うーんうーんと、お互いに唸りながら。
しかし、唸って何かが解決するはずもなく。

「あっ……そうなんスか。そっか……
 こっち来たばっかりなのに、変なトラブルに巻き込んじゃってたのか。
 すいません。俺……全然お姉さんのこと、考えてなかった……」

肩を落として、あからさまに落胆した様子を示して。
それでも、マルレーネに向けて頭を下げた。
ごめんなさい、という言葉は細く弱々しい。

「いつまでこうして出てられるかわかんねーし……
 ああ、どうすりゃいいんだよ~~」

頭を抱えて、首を振り始めた。
……なんだか、あまり緊張感がない行動でもある。

マルレーネ > 「………なるほど。
 別にいいんですよ、私はシスター。 神に仕えるもの。
 手を差し伸べる力があれば、手を差し伸べる。
 それは私が昔から教えられていたことです。

 何でも相談してほしい、と書いて修道院に貼っていますからね。」

軽くウィンクをして、微笑みかけながら。

「ならば、………今のうちに、何が起こっているかメモに残すか、……声を残すかして、学園に提出するのはどうでしょう、か。」

「例えば今、貴方にフルネームを伝えたとしても、その予備にされてしまうという効果はあるのですか?」

一つ提案をしながら、更にもう一つ問いかける。

アルン=マコーク > 至近距離で受けたウィンクの破壊力に、胸を撃ち抜かれる。

「おお……マジで……こんな優しさの化身みたいな人がこの世にいんのかよ……」

撃ち抜かれた胸に手をやり、よろよろとよろけてしまう。
神さまなんかまるで信じちゃいなかったけど、今だけは神様この人を生んでくれてありがとう、と心の中で感謝の祈りを捧げつつ。
ありがとう神様。つーかマルレーネさんが神。

「そっか! メモ! そういうの全然考えてなかった、さすがあ!」

飛び上がらんばかりの喜び。
一気に顔を綻ばせ、悠一はポケットをさらい、それから落胆の表情へと一気に変わる。

「あの……なんか、書くもんとか持ってます……?
 こいつ、携帯も手帳も何も持ってきてなくて……」

手ぶらでホウキだけ担いでくるとか信じらんね~! と愚痴をこぼす。

「それは多分大丈夫っすね。俺はあくまで『予備』なんで……『勇者』のアルンに知られなきゃ、根は張られないっぽいです」

前に出てきたときも、それで防げてたっぽいですしね、と付け加える。

どうやら、その辺りは悠一の中で、自明の感覚として備わっているようだった。
超常の感覚。
それは、つまり目の前のごく普通に見える少年が、既に人間ではない何かに変質してしまっていることを示していた。

マルレーネ > 「……であれば、すぐに戻って私の修道院に行きましょう。
 そこであれば、書けるものはあるはずです。」

喜んで落ち込んで、表情が良く変わる少年に目を細める。
その細め方は優しさだけではないのだけれども。


「………予備になった後は、ただただ、そうなった順番から憑いていく形ですか?
 それとも、肉体的に優秀な順番から?」

疑問点は尽きない。 歩きながら、少年に問いかけて。

問題があるとすれば、彼女はこちらの世界の人間ではないから。
ここの世界の人間のベースを知らない。

つまり、異常だとも気が付かないことだった。

アルン=マコーク > 「あざっす! マジ助かります!」

悠一は深々と、二つ折りになるんじゃないかというくらい深く頭を下げた。
もはやそれって、前屈してるだけなんじゃないだろうか?
ともあれ、そんな大げさな身振りのせいもあって、悠一は気づかない。
目の前のシスターが、未だ自身を警戒しているということには。

「ん~、どうなんですかね。
『知識』だからマジなのかわかんないスけど、こいつの世界だと、人間の半分くらいは『予備』なんですよ」

シスターの歩調に合わせながら、ホウキを担いで横を歩く。
しかし、その内容は穏やかではない。
全人類の半分が、『勇者』に感染しているということは。
既にその世界の人類は、『勇者』に敗北しているということになる――

「んで、『勇者』の選ばれ方から見ると……
身体が強くて、魔法の力がすごいやつが選ばれてる感じですね。多分。
でも、『勇者』が生きてる間は、継承されることはないみたいっスね」

遠い記憶を探るように、視線を上に向けながら、悠一はそう答えた。

マルレーネ > 「………なるほど。
 彼は……便宜上、彼って言うけれど。
 自意識はあるの? 彼が恣意的に、次は誰にしようか決めているとか、そういう。

 それとも、本当にウィルスのように、ただただ機械的に選ばれて変わっていくだけ?」

囁くように尋ねる。
正直、自分にできることは少なすぎる。

アルン=マコーク > 「どうなんですかね……
 そういう『記憶』……アルンが、他の誰かに話しかけられてる、みたいなのはないですね。
 あいつが自分で全部やってると思ってた。
 俺、お姉さんに言われるまで、『勇者』っていうもう一つの何かがいるとか思わなかったんで、でも」

一度そこで言葉を区切って、うーんと唸りながら。

「そう考えるなら、割と……勝手に、自動的に反応してる『何か』があるのかもしれません。
『根』を伸ばすのは、あいつの魔法じゃなくて、ほんとに根っていうか……
 植物とか、きのこみたいな、そういう意志のない、仕組みとしてやってるような感じはします。
 ああ、でも。アルンは、あいつにはもう既に、心とかはないのかもしれない……。」

話しながら、自分で納得していくように、言葉を一つずつ選ぶように。
悠一は慎重に答えていく。

「『予備』にされてから、苦しいとか、悲しいとか、怖いとか。
 そういう感情が薄くなった気がするんですよね。
 今も、絶対ヤバい、こんな化け物、怖くて仕方ないって思ってるはずなのに、あんまり危機感がないんです。
 俺の心も、もう元の俺とは違うのかも」

悠一はあはは、と明るく笑う。
笑える話などどこにもないのに。

「……だから、お姉さんも、俺をあんまり信じないで下さい。
 俺はもう、『勇者』の側、化け物側なんで」

マルレーネ > 「………………。」

ふー、っと頭を抑えながらため息をつく。
頭が痛い。 激流のような情報量に、いきなり現れた人格。
その人格も既に変わり始めていると彼は言う。

元々世界についても、異能についてもよく分からない状況の中、白紙を渡されているような、そんな感覚。

「早くメモに残して、学園側に渡しておきましょう。
 私一人でできることは限られています。」

ゆったりと言葉を返しながら、足を速めて。


「意識があるなら。
 彼にそういう意識があるなら、案はありました。


 小さな子供二人よりも、もっと肉体的にも、精神的にも、そして魔力に関しても潤沢な存在がここにいるんです。
 子供二人なんて手放してしまえばいい。
 交換でなら、私はフルネームを口に致しましょう。」

囁くような言葉。


「もしくは。
 私が終わらせるか。」

アルン=マコーク > 「そっすね……お姉さんに頼り切りになるのもよくないし。
 なんとか、専門の人に診てもらいたいッスね」

マルレーネと同様に、帰路を行く足は自然と早まる。
ただでさえ、どうして出てこられたのかわからないのだ。
いつまた、同じように引っ込んでしまうかわかったものではない。
早くたどり着けばそれだけ、多くを伝えるチャンスとなる。

「うえ!? だ、ダメでしょそれ!」

ぐるりと横を振り返り、決意の籠もった言葉に反駁する。

「俺は……こいつ、俺の異能で呼んだやつだし。自業自得っつーか……
 いいんですよ。でも、お姉さんまでこんなのの相手しなくていいって!!」

怯えたような表情で、マルレーネに必死に訴える。

「『予備』が増えたら……それだけ、こいつのできることが増えていく。
 俺を監禁するとか、そういうんじゃ済まなくなるし……
 と、とにかく! マジでやめて下さいよ!」

慌てた様子で何度も引き止め、翻意するよう訴える。
だから、囁きは聞こえなかった。

「頼みますよほんと……俺、お姉さんみたいないい人に、そんなんさせられないよ……」

行く足は更に早まる。
修道院まで、そう長くない。

ご案内:「スラム」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「スラム」からアルン=マコークさんが去りました。