2020/09/12 のログ
ご案内:「常世港」に----さんが現れました。
■---- >
帰省シーズンが過ぎても慌ただしく人員と物資の移動が行われている海の玄関口。いまもそうして重たい荷物が船舶から運び出されている中、作業員のひとりが、タブレットを倉庫の影で操作していた。
「………………………」
港湾部分のマップを手に指先は滑り続け、赤いラインでなにかの導線を描いていく。何かを探している。何かを探し出そうとしている。
■---- >
既に地図は真っ赤になっていた。おおよその目星はついていた。しかし慎重に慎重を重ねなければならなかった。目的は天罰を与えることではなかった。極論、勧善懲悪に興味はなかった。人命救助、治療。そして今は信仰。善悪に拘る人間ではなかった。自分が悪であるという恥しかなかったから、たとえ悪意の行いであってもそれを成したもの言えることなどなにもないから。
「休めませんでしたって言ったら、怒るかな」
青垣山を降り、既に寝ずにこれを続けていた。眠らずの医者が覚醒し続けるのは本人の異能の性質もある。肉体の負担はなくならないが、多少の無茶をしながら完全な動作をこなすことができることは、とても便利だった。
■---- >
これが空振りの可能性ももちろんある。しかし組織に頼れない現状、こうして一歩ずつやっていくしかない。いつもいつも積み重ねだった。人為的に奇跡を起こすにあたって必要な要素の九割はそれだと考えていた。あとの一割はまた別の要素だが、それもまた自分や多くの心に秘められたものだと了解していた。
「……………………よし」
タブレット型デバイスの画面を閉じてしまい込む。踵を返す。影に忍び込む。うっかりやらかしたら終わるか自分が委員会にふん縛られかねない。それでもやった。行くしかなかった。…彼女なら、行くだろう。
だから。
ご案内:「常世港」から----さんが去りました。
ご案内:「深い青は潮風に誘われて」に****さんが現れました。
ご案内:「深い青は潮風に誘われて」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「深い青は潮風に誘われて」に山本 英治さんが現れました。
ご案内:「深い青は潮風に誘われて」に羽月 柊さんが現れました。
■山本 英治 >
表が騒がしい。そういう通報があった。
胸騒ぎがしたので一緒にいた羽月さんと共に雨夜先輩の車に載せてもらい、現場に急行した。
港にはレポートが残されていた。混乱が見て取れる。
そしてそこにあったのは、マリーさんと思しき女性が人体実験されていたという事実。
彼女は限界まで酷使されていた。
そのことが脳髄を怒りで侵す。
現場に急行してきた神代先輩と合流して、レポートを渡す。
「すまねぇ、羽月さん。やっぱ鉄火場に付き合ってくれ」
「アンタの力が必要になる……」
信頼する男の力が、必要になるだろう。
「神代先輩も頼む、力を貸して欲しい」
男と見込んだ彼の存在も心強い。
だが、それだけじゃ決定的なピースにはならない。
レポートには彼女を“廃棄”した場所も書かれていた。
携帯デバイスを取り出す。通話。輝ちゃんに繋ぐ。
「輝ちゃんか? 今から話すことを落ち着いて聞いてくれ」
「マリーさんの居場所がわかった、彼女を救出してほしい……」
「残念だが、風紀の到着よりキミが急行したほうが早いだろう」
「頼む……マリーさんを守ってくれ…」
通話を切って、コンテナが並ぶ港で空を仰ぐ。
溢れる怒りでどうにかなりそうだ。
■羽月 柊 >
男は最近行っていなかったフィールドワークの帰りだった。
戦闘も可能な服装のまま英治と連絡を取り、
近況の報告といったところで──通報が入る。
元々連携・協力しあうという話を彼としていたのだ。
もしかすれば自分の探す情報も入るかもしれないと動向することとなった。
見つかったレポートの情報に眉を顰めるも、
自分の苦い感情以上に、怒りでギリと拳を握る友に気付く。
「……山本、冷静になれ。その為に、俺や彼がいる。」
以前に特殊領域で戦った時の自分じゃない。
今の自分には、相棒の小竜たちが一緒にいる。
だから、今は彼らの隣に立つことができる。
「君の方は久しぶりだな。
互いに随分と変わった所も多いだろうが…今の自分は『教師』だ。
……"大人"として、君たちに協力させてもらう。」
現場に居た理央にはそう話す。
最初に出逢った時の男は、何もかもを諦めていた。
しかしあれから色んなことを経験し、すっかりと変わっていた。
目の前のことから眼を逸らさずに、協力すると言い切れるほど。
変わったのはきっと"殺し屋"と対峙した少年も同じで、
この男がその事件を知るか知らないかは今伺い知ることは出来ないが、
雰囲気が変わったということだけは、互いに分かるはずだろう。
■神代理央 >
『ディープブルー』に当たりをつけ、情報収集を進めていた矢先。
常世港周辺にて、ディープブルーの構成員と思われる者達が集まり始めている、という情報がもたらされる事になる。
車を走らせ、現場で合流した山本から現場に残されていたというレポートに目を通す――その内容に感じるものは、限りない、限りない怒り。
「……勿論だとも。力を出し惜しみする程、精神状態に余裕がある訳でも無い。何より、こいつらは――シスターに手を出した、不届者だからな」
異能を発動する。
湧き出る様に大地から現れる異形の群れ。
巨大な砲身。針鼠の様に突き出した砲塔。大地を踏み締める多脚の異形達。
大楯の両腕を構え、その健脚で戦場を駆け抜ける大楯の異形。
そして、天空に鎮座する金属の真円――。
「…ええ、御久し振りです。今は、羽月先生と御呼びするべきなのでしょうね。私達は所詮『生徒』でしかありません。
…頼りにさせて下さい。先生」
かつて、古書店街で出会った青年。
あの頃とは、御互いに立場も考え方も変わってしまったかもしれない。
それでも、一人の女性を助ける為に集った"仲間"であり、彼が纏う雰囲気は出逢ったあの夜とは確実に異なるもの。そしてそれは、好ましく思える様な、そんな雰囲気。
彼等となら、きっと成し遂げることが出来るだろう。
一人では出来ない事も、力を合わせればきっと達成出来るだろう。
だから、少年は力を振るう事を躊躇わない。
己の力は今日、誰かを救うためにあるのだから。
そうして、鉄火場に突入する前に。
一通だけ、短いメールを担当医である女性へ。
『シスターの居場所が分かった。宜しく、頼む』という短いメールを、レポートから得た情報と共に、彼女に。
■**** >
不意に、多脚の異形が一機爆炎へと包まれた。
港の空が朱の炎に染まっていく。
『────思ったよりも釣れたな』
"ソレ"が何時そこにいたのかは分からない。
ただ、"ソレ"はそこにいた。
三人の頭上、コンテナの上に"人影"がいた。
文字通りの、"人影"だ。全身黒塗りの、人型のナニカ。
何かしらの認識阻害が掛かっているのがわかる。
神代と羽月には、それが魔術の類では"無い"事が分かり
研究者である羽月には、それが科学の力。科学迷彩であることがわかる。
とはいえ、門外漢な羽月には詳しい原理まではわからないだろう。
人影はそのまま音もなく、コンテナから降り立った。
何処となく生ぬるい潮風が、全員肌を撫でた。
『しかし、思ったより目立ちすぎたな。
まぁ、許容範囲と言えばそうか。"アレ"は想定外だが、まぁいい』
"人影"ののっぺらぼうが大通りを一瞥した。
声音から男のようだ。言葉とは裏腹に慌てた様子はない。
何処までも淡々とした声音だ。
『まぁ、初めまして。風紀委員と教師諸君。
手短に済まそう。聖女殿は無事だ。
私の予想では、程なくして救出されるだろう』
ゆらり、"人影"が波風に合わせて揺らぐ。
『私の名は……そう、"ブラオ"とでも名乗ろう。────さて』
『君達は釣られた"魚"だ。我々の実験に付き合って頂こうと思う。
大人しくしていれば、程なく済むわけだが……命の保証はしかねる』
『とはいえ、此方も出来る限りの善処はしよう。
"被検体"を死なせるのは、学者として二流だ。
私は一流を自称するが……諸君等の返答や如何に?』
■山本 英治 >
羽月さんに言われて、頷く。頷いては見せるものの。
俺の頭は感情を捨ててくれないらしい。
「大丈夫だ羽月さん、分別くれーはつくさ……」
そう言ったのに、俺は。
轟音。爆炎に消える異形。
コンテナの上を見る。
目を凝らしても空間を黒く切り取ったかのような漆黒だ。
人型のそれは、俺達に語りかけてくる。
「釣られた、ねぇ……」
拳を握って相手に突き出す。
「話は終わりか? そんなに臭い飯が食べたいとは奇特なやつだ」
「俺さ……怒ってっからよぉ………」
「“命の保証はしかねる”ぜ、ブラオぉ!!」
近くのコンテナを触る。20フィートコンテナ。
2,200~2,400kgか。
どうやら中身は空らしい。
積荷がないのは、良いことだ。
だってよ。
「簡単に死んでくれるなよッ!!」
異能を使って力任せに蹴り飛ばせるからな。
空のコンテナが鉄の塊としてブラオに襲いかかる。
■羽月 柊 >
不随意的な異能しか持たぬ無能力の柊は、
研究者という"知識"と、周りから"力を借り受ける"ことで舞台に立っている。
身につけた魔法装飾は魔力を身体に遠し、それを感知出来る。
故に、相手が誰か分からないことが分かる。
しかし、高位の科学は……それを知らぬモノから見れば魔法のようだ。
頬をヒリつかせる火の気と、それに似合わぬ冷えた声に、
男は口を開く。言霊を紡ぐ。
『焔は我が同胞の詩、訪れるは雪の女王の抱擁!』
焼けた異形の炎が自分達へ被害を及ぼさないようにと、
火と司る小竜のフェリアが鎮め、
氷を司る小竜のセイルによって周囲に火災が広がらぬようにしようとする。
英治は以前に共闘した分、立ち回りはなんとはなしに分かる。
彼の怪力からの自衛も頭に入れて動かなければならない。
そして理央の能力は召喚能力かとは思うが、完全に把握できていない今の状況ならば、
視野の広い大人の自分が今は後方の支援に回るべきだ。
「……学者ならばもっと上手くやることだな。
生と死が一流と二流を分ける?
研究の徒ならば、研究を続けられる位置に居なければならない。」
こうして止められてしまうようなモノを、学者などと呼べるモノか。
「俺たちと対峙した時点で、学者ですらない。」
■神代理央 >
轟音と共に焔に包まれる多脚の異形。
先手を打たれたか、と小さく舌打ち。
投げかけられた声に視線を向ければ、其処に佇むのは正しく"黒子"と言うべき様なナニカ。
魔力の流れを見れば、魔術による認識障害ではない事は分かるが――逆に言えば、それしか分からない。
そして、それ以外の情報は必要無い。何故なら、ブラオと名乗った存在を、許してやるつもりなど無いのだから。
「ほう?初めまして、と挨拶をする礼儀は持ち合わせていたか。塵を漁る様な溝鼠にしては、随分と教養がある様だな」
「溝鼠が"学者"を名乗るとは笑い種だが…まあ、良かろう。貴様が二流だろうが一流だろうが、どうでも良い事だ」
山本は近接戦闘型。そして、羽月先生はどうやら支援に回ってくれるらしい。つまり、己は異形の指揮と攻撃に存分に集中出来る、という事。ならば――
瞳を細める。
静かに片手を振り下ろして、異形達へ思念を送る。
「ジビエにするには小汚い。ベリー・ウェルダンになるまで焼き上げてやろう」
残った多脚の異形の群れが、轟音と共に砲火を放つ。
砲弾の行きつく先はブラオ――ではなく、その周囲。
コンテナから降り立った彼の周囲を焼き尽くす様な砲弾の雨が降り注ぐだろうか。
それは、山本が放り投げたコンテナが対処された時の為の次手。
避けられるのか、受け止められるのか。何方にせよ、ブラオの"逃げ道"を塞ぎつつ、牽制代わりの一手になればとの砲撃。
未だ敵の手が読めない以上、空中に鎮座する真円は未だ動かない。
無数の小さな球体を従僕の様に従えた儘、地上の戦闘を睥睨するかのように煌めいているばかり。
■**** >
20フィートのコンテナ。
人一人を殺せる鉄塊はブラオに届く前に"真っ二つ"になる。
『──────』
両手首から飛び出す青白い光。
荷電粒子を磁場で収束させた"レーザーブレード"。
人類が生み出した万物を両断する光の剣。
今や人類は、神話上の武器を此の手にしている。
『想定内だ。では、"実験"を開始する』
元より、ブラオは逃げるつもりは無かった。
飛び交う砲弾に向かうように、"ぬるり"と影が揺らぎ、前進。
周囲を吹き抜ける爆炎を飛びぬけ、"人影"が宵闇へと飛び出した。
『それは違うな、羽月研究員。
如何なる場所ですら、探求を諦めないものが研究の徒成れば……』
『私も研究者だ』
"カシュッ"。
何かの音がする。
『────音の無い世界を体験した事はあるか?』
ブラオのわき腹から黒い球体が射出された。
爆発物には見えないが、地面に着弾すると同時爆ぜた。
但し、『爆ぜる音は聞こえない』
それだけではない。君たちの声も、物音も、足音も
ありとあらゆる『音』がこの場から消え失せた。
『声』により連携力は奪われ、『音』により確認も出来ない
初めて体験する『音』無き世界に、君達は立っていられるだろうか?
とある少女の『異能疾患』を一時的に再現したものだ。
音無き世界でさえ、"人影"が揺るぎない。
青白い軌道を描き、一直線。黒き疾風が飛び込む。
狙いは当然、『羽月』だ。その胴体を両断せんと、叡智の光が迫りくる。
実に、"手慣れた"動きだ。ブラオは、明らかに君たちの事を"知っている"。
■山本 英治 >
蹴り飛ばしたコンテナは。
両断された。
鋭利なる光刃。レーザーブレード。
そしてブラオが出した黒い球体が着弾すると。
周囲から音が消えた。
そうか、そういうことか。
フザけやがって。
ぶっ飛ばされねーとわからないらしいな。
わかった後に後悔する時間くらいは生かしておいてやる。
羽月さんを狙った相手の突進に合わせて。
俺は異能を切った。
この場面は拳法で対応するしか無い。
羽月さんの前に立ちはだかり、吠える。
「────────」
ったく。この世界を見てきたアンタの苦悩がわかるぜ。
光刀を持った相手の手を横に払い。
相手の脛を狙って蹴りつける。
刮地風(かっちふう)。
剣道三倍段ってのはわかる。
わかるが、こっちにゃ三人の能力者がいることを忘れてくれるなよ、ブラオ。
■羽月 柊 >
言霊を紡ごうとする唇が音を出さない。
『───ッ!』
光の刃が迫る。
焦ってはならない。
まだ自分の異能を完全に把握できていない自分が、冷静さを失う訳にはいかない。
この"借り受ける"力を、暴発させてはならない。
これが、柊"独り"ならば、確かに決定打だっただろう。
男は"音"によって魔術を構築するからこそ、
いつかの少女の異能は、彼の喉元に簡単に刃を突き立てられたのかもしれない。
しかし、今は──違う。
目の前に、彼が立つ。
彼には"友"がいて、"仲間"が居て──"相棒たち"がいるのだ。
友人に庇われる。
それに合わせて小竜の一匹に桜の視線が流れれば、
炎の小竜の口が開き、弾丸のように炎が飛ぶ。
それは英治の攻撃に合わせてブラオの肩を穿とうとする!
確かに男と小竜は一心同体だ。
故に、普段は男が彼らの魔力を操ることで、戦いは成り立っている。
柊は彼らの"増幅器"のような役割を担っている。
今封じられたのは、柊が使える分の"魔術"に過ぎない。
男自身は、今全くの無力な人間になり果ててしまった事には間違いないだろう。
だが、小竜たちは彼の付属品ではない。自我を持って共に生きている。
故に、──男が戦えないならば、己の力で戦うことも出来るのだ。
ここで1人と1匹を相手にするならば、理央が叩ける隙も出来るだろうか。
■神代理央 >
音が、消える。
異形への指示には問題ない。己の従僕とは思念で繋がっているため、指示を出すのに本来音声や体の動作は必要無い。
普段のアレは、まあ言うなればカッコつけだったり己の気合の表明…みたいなもの。
問題は――味方である二人に、己の攻撃範囲を伝えられない事。
基本的に広範囲に渡る攻撃である己の異能は、味方への伝達が行えなければ非常に戦い辛い。
羽月先生に迫る凶刃。
その攻撃には、山本が対応してくれている。全てを切り裂く光刃をいなし、更に蹴りまで入れる鮮やかさは近接戦闘に長けた彼ならではというところか。
そして、ブラオの隙をつくように羽月先生の小竜がブラオの肩に炎弾を放った。庇われながらも戦闘面において『一手』を増やし、近距離からの同時攻撃への対応を迫る。
であれば、己の打つ手は一つ。
思念を送る先は――空中に鎮座する、真円の異形。
真円の周囲に展開していたサッカーボール程の球体の群れが、母艦たる真円から離れてブラオへと迫る。
本来はシールドを張るか、低出力のレーザーを打つ程度の用途でしかないが、今の状況では飛び道具は控える。
即ち、単純な体当たり。そしてあわよくば、零距離からのレーザー。
先ずは男の動きが阻害出来ればそれで良い。
少しでも隙が出来れば、前衛で戦う二人のサポートになるだろうと。
■**** >
『──────!』
成る程、思ったよりカバーリングが早い。
異能を無しにしても大した体捌きだ。
音無き世界で感心してる最中、払われたレーザーブレードは空を切った。
彼等の連携力は確かなものだ。侮ってはいない、"想定の範囲だ"。
英治の放った蹴りは、即座に此方の膝で打ち合い、威力を互いに殺す。
『──ッ……────!』
弾丸のような炎が"人影"の肩口を穿った。
同時攻撃の対処は出来ない。
瞬く間に肩を燃やす。熱が、音もなく炎が"人影"の肩を焦がす。
揺らめく"人影"、ダメージはあるようだ。
そう、"想定の範囲だ"。
『山本 英治ならばそうする』、ブラオは知っている。
『────』
音もなく空を先、"人影"から無数の針が飛び出した。
ただの針ではない、命中した物体に『弛緩剤』が注入される特別性だ。
勿論、これもただの『弛緩剤』ではない。目の前にいる豪傑。
『山本英治のオーバータイラント』の筋力指数を『無力化』する事を想定されたものだ。
一発一発は"無力化"に至らずとも、"異能を切った"今ならばどうだ。
尤も、異能を再発動すれば多少の『弛緩剤』なら止まりはしないだろう。
────……当然だが、針の射程には"羽月"もいる。
この毒針を、二人は如何に対処するか────。
当然、"一手"に過ぎない。
山本と羽月への"足止め"だ。
"黒風"が、吹き抜ける。
即座に二人を抜け、迫りくる無数のボールが次々と青い軌跡に引き裂かれていく。
それこそ糸を縫うように、音無き爆風の中、黒風が迫る最中────上空へと飛んだ。
空中に鎮座する真円の異形の真下。"人影"の全身からバチバチと"紫の電流"が迸る。
『──────!』
瞬間、神代と異形達を包み込み紫の電磁パルス。所謂、EMPと呼ばれるものだが
ただのパルスではない。『一時的に異能を停止される』力を持った電磁パルスだ。
神代理央の異能を、ブラオは知っている。無数の連携力と圧倒的手数。
それを"少しでも"止めれれば、ブラオにとっては十分な時間だ。
空中でレーザーブレードが躍る。
青白い光波が宙を波打った。レーザーブレードから放たれた"飛ぶ斬撃"。
羽月と山本へ一つずつ、神代へと二つ。
人を両断する程の威力は持ちえない光波だが、人体を焼くには十分すぎる光だ。
更に時間差で、神代の頭上へと一直線に飛び込む"人影"。
そのレーザーブレードが、体を引き裂かんと迫る。
あっという間に展開された波状攻撃。
迫る神代の後方にいる多脚はEMPの『圏外』ではあるが、砲弾を撃ち込めば自傷は避けられない。
一手一手、着実に詰めてくる。さぁ、如何出る──────。
■山本 英治 >
硬打に対応された!?
やはり、こちら側の戦術を研究してきているらしい。
その時、放たれた針。
おそらく薬毒。羽月さんも射程のうち、即座に体を張ってかばう。
多少なら、力任せに突破して………
その力が。
入らない。
異能を全開にしても。
筋力が上がる感触がない。
「─────ッ!?」
そうか、そういう風に造られた薬物。
徹底的にこっちをメタってやがるッ!!
戦えない前衛ができることなんて。
一つしかねぇだろ。
自分の分に飛んできた光波を回避し、神代先輩に飛んできた光波を受ける。
死んでなけりゃ儲け物ッ!!
身体を灼かれ、蹈鞴を踏む。
二回分の飛ぶ斬撃は。俺の力を奪う。
その時。俺の心の中に。感情が染み出してきた。
■羽月 柊 >
本来ならば、多対一の有利さはその弾数の多さだ。
同時に"複数の選択肢"を迫ることによって、
目標のキャパシティをオーバーさせる。
しかし洗練された戦の手のモノ相手には、そう簡単にはいかない。
連携の隙さえ突いて崩してしまえば、簡単に捌けてしまうこともある。
特に相手が絡め手…ひとつひとつ動きを止め潰しにかかるならば、尚更だ。
故にこの音の無い空間は、その連携を崩すのに有利な環境足り得る。
続けて氷の小竜が追撃を行おうとするが、
放たれた針を見て小竜たちはそれぞれのブレスで針を打ち落とすのが精いっぱいだった。
英治に刺さる分までは対処しきれない。
──だから。
普通の人間に光の速度が避けれるはずはないのだ。
英治が避けた後で時間差で己に迫るそれを。
気が付きはしても、逃げ切れる訳がない。
かろうじて胴体に当たる事は避けれたとしても──。
「―――ッッ!!!!」
己の左肩を焼く痛みから、逃れられはしなかった。
かろうじて蹲ることは避ける。脚が動くなら…動ける。
戦っているからこそ、足手纏いだけは避けねばならない。
生き物は、己に生命の危機が迫る時、ある程度の痛みを無効化できる。
……とはいえある程度でしかないが。