2020/10/04 のログ
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」に角鹿建悟さんが現れました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」にレオさんが現れました。
角鹿建悟 > 裏常世渋谷――そう呼ばれる場所に偶然迷い込み、そこで遭遇した怪異――『朧車』の討伐に”協力”してから既に数日が経過している。
あの時に負った怪我は地味に重傷であり、特に無茶をした両腕の骨折は中々に酷いものだった。
肋骨も数本骨折しており、ちょっとした挙動でも痛むがそれも少しずつ慣れてくる。

「……さて。」

今日は午後から風紀委員会の『事情聴取』がある。勿論、そこまで重いものではない。
ただ、それもフォローしてくれた”師匠”の口添えのお陰だ…本来なら生活委員はクビ確定だろう。

(…風紀の避難指示を無視、及び負傷した特別攻撃課隊員の装備を無断拝借、並びに無断使用。風紀の討伐作戦への強引な協力による討伐、か)

結果的に倒せたとはいえ、相応にやらかしているのは事実だ。すっかり問題児の一人になりつつある気がする。
窓の外の秋空を眺めながら、ふと時計を見遣る――確か”手が空いている”風紀の人員を寄越す、と上から通達されてはいたが。

レオ >  
「――――失礼します」

気構えする入院患者の病室の扉を、ノックする人物が一人。
ノックの後、入室の許可が入れば…その扉を開け、一人の青年が入ってくる。

カツ――――カツ―――

「お時間取らせてしまって申し訳ありません。
 本日の”事情聴取”を担当させてもらいます。レオ・スプリッグス・ウイットフォードです。」

そう言いながら中に入ってきた青年は―――――

足にギプスをつけて松葉杖をついていた。

角鹿建悟 > 「――どうぞ。」

病室の扉をノックする音。何時もの無表情を緩やかに扉の方へと向けながら返事を返して。
こちらの許可の言葉に、扉を開けて一人の少年が病室へと入ってくる。

「――生活委員会所属の1年、角鹿建悟だ。よろしく頼む。……そちらも怪我をしているようだが平気なのか?」

まず、目に付いたのはその足のギプスと松葉杖。風紀の職務での負傷なのか、それ以外が理由か。
どちらにしろ、上が言っていた”手が空いている者”を派遣するという通達の意味を理解する。

両腕は動かせないし肋骨も骨折しているこちらは、一先ずベッドの上で上半身だけ起こして佇んでいる状態だ。

「…それで、聴取の件だが…具体的にどのくらい話せばいいんだろうか?」

レオ >  
「あはは……角鹿さんと同じく、朧車との戦闘でちょっと。
 足を骨折してまして、今は戦闘が出来ないので……他の仕事を回してもらってます。

 休めとは言われたんですが、じっとしてても怪我が治る訳でもないし、体の他の場所は元気なので。」

少し苦笑してそう話す。
実際の所休暇を取っても構わないと言われたのだが、どうにも”何もしない”というのが苦手で、こうして仕事をする事になった。
入院するか、とも言われたが、足以外はそこまで酷い怪我もしていない。動きにくい事を除けば、普通に生活もできる。


……まぁ、毎日来てくれる女の子に、甲斐甲斐しく世話を焼かれてしまっているが。


そう言いながら、ポケットからメモ帳を取り出し、えーっと…と確認をとる。
あまり慣れてはいない様子で、聞いた指示と質問を照らし合わせているようだ。

「まぁ、僕の怪我に関しては置いておきまして……そうですね。
 一応、角鹿さんには黙秘権が適応されます。
 なので、話したくない事に関しては個人の判断で話さない事も出来ます。

 ただ、一応非常時とはいえ風紀委員側からの避難を拒否、戦闘にも関与しているので…
 これに関しての事情を説明せずに、此方側が勝手に状況証拠だけで角鹿さんの処遇を決定すると……
 あんまりいい結果にならないかもしれない…とは、思います。

 後は…朧車と裏常世渋谷に関する情報は風紀委員の方も今後の対処のために重要視している所ですので、出来れば裏常世渋谷に入る直前から、脱出までの経緯を話して頂ければ嬉しい、といった所でしょうか。
 ただ、これに関しては義務ではなく、情報協力という形になります。
 無理に聞くという事はないので、どうしても話せない事情がある場合は此方も話さないで問題はありませんね。」

角鹿建悟 > 「―――……。」

彼の言葉に、少々目を丸くする。彼が朧車との戦闘で負傷した、というのは奇遇ではあるが風紀ならばあの存在の討伐に駆り出される者も多いだろう。
僅かに驚いたのはむしろその後の言葉で。…だから、無表情を僅かに何ともいえない顔へと変えつつ。

「――”奇遇”だな、俺も”ゆっくり”するのがどうにも慣れないというか苦手でな。
…何かしていないと落ち着かない…まぁ、出来る事が殆ど無いのは分かっているんだが。」

休息も休養も必要だと、一度折られた今は身に染みているが…けど、性分はそうそう変われない。
何もせずゆっくりしているのは、つまり何もするな、と言われている気分になる。

もっとも――彼は入院はしてはいないようだが、こちらは見事に入院という明確な違いはあるが。

そして、余談ではあるが目の前の少年みたいな環境には残念ながら置かれていなかった。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる相手、なんて居る筈も無いのである。

まぁ、それはさて置くとして。慣れない様子で聴取の準備を整える彼を何時もの無表情で見遣りつつ、彼からの言葉を静かに待つ。

「――特に隠すほどの何かは無いが…まぁ、そうだな。最初から経緯を説明するなら。

まず、俺はその時、偶々常世渋谷に赴いていてな…時刻は14時前だったのを覚えている。
――だが、気が付いたら常世渋谷と同じ形をした薄暗い街並みに迷い込んでいた。
…この時点で俺は裏常世渋谷や、俺みたいに迷い込む”神隠し”の存在は全く知らなかった。

それから、1時間くらいは街を探索していたが…そこで、いきなりあの怪異…『朧車』が建物を破壊して襲い掛かってきた。」

そこで一度言葉を切って一息。朧車の顔の形状、車両の特徴も簡潔に伝える。
交戦経験などもある彼ならば、それが最初に確認された『イ号』型の朧車と同型と分かるだろうか。

「――当然、風紀ではない俺にしかも単独で朧車を倒す事も、ましてや逃げ切る事も不可能。
奴の突撃を必死で回避はしたが――見事に吹っ飛ばされて建物へと突っ込んでしまってな。
――丁度その辺りだったか。風紀の精鋭――特別攻撃課の隊員達の討伐作戦と”重なった”らしい。
――俺は、特別攻撃課隊員の『不凋花 ひぐれ』に救助された。彼女とは前に面識もある」

あまり、一気に喋りすぎも彼がメモを取るのが大変だろうと、そこで一度彼のほうを見て様子を確認する。

レオ >  
「…あはは、似た者同士って事でしょうかね」

小さく苦笑し。

「じゃあ、事情聴取を始めますね。

 …成程。14時前…昼、と。
 気が付いたら…
 1時間程歩いて、朧車に遭遇……不凋花先輩と?…成程…」

話を聞きながら、メモにその内容を書いていく。
重要そうな情報にはマルをつけ、話を聞き漏らさないように質問は区切りのいい所でするのか発言は相槌に留めている。

その証言の中に自分の知る人物の名前が出てくると、少しだけ相手の方を見たが…それ以外はメモの方を書くのに集中しているだろう。

そして少しメモを取る時間をもらい、書き終えた所で此方から質問を始める。

「成程、大体事情は分かりました……1,2点質問いいですか?

 まず、気が付いたら裏常世渋谷にいた…と言っていますが、直前、覚えている範囲でいいので最後に”表の常世渋谷”にいたと記憶している場所は何処か分かりますか?
 ここを歩いてた事までは覚えている…といったもので構いません。
 
 もう一つは……そうですね、具体的に、朧車と遭遇した時の情報や、そのときの場所を教えてもらえますか?
 朧車は何処から現れたのか、そのとき自分がいた場所はどんな場所だったか、という感じですね。
 これも、分かる範囲で結構です。」

大丈夫ですか?と確認のために相手の方を鈍い金色の目で見る。

角鹿建悟 > 「――あまり良い事ではないんだろうけどな」

こちらは無表情のままだが、緩く肩を竦めて…少々、肋骨に響いたので僅かに動きが止まるが。

「――質問は構わない。事情聴取とはそういうものだからな…。それで、質問とは?」

彼――レオと名乗った少年がメモを取りながら項目を整理するのを静かに待つ。
一度、こちらに視線を向けられたがひぐれ師匠の名前を出した辺りだっただろうか。
面識でもあるのか?と、思ったが同じ風紀委員なら面識があっても別に不思議では無いだろう。

「――スクランブル交差点を渡りきる前後…だと思う。記憶違いでなければな…。
――朧車と遭遇した状況…奴は建物を突き破っていきなり現れた。その時点での俺との距離は100メートル前後…俺から見て真正面から現れたな。
場所は――常世渋谷の地理はまだ把握しきれていないが、黒街に近い一角だったと思う。」

鈍い金色の瞳を、静かな銀色の双眸で見返しながら、簡潔に質問へと答えておこうか。

レオ >  
「――――…


 成程…」

『あまり良い事ではない』と言った相手の顔を少しだけ見て、少し目を伏せ、そのまま事情聴取を続ける。

裏常世渋谷に入った時の事、朧車との接触前後の事は、大体聞く事が出来た。
次は……

「…では、その後。
 風紀委員所属の不凋花先輩……不凋花ひぐれと接触した後について、お願いします。
 そうですね……武器の無断使用、という報告があったので、その辺について詳しく説明を頂ければ。」

風紀委員、それも特別攻撃課の武装の無断使用は、本来なら重罪にもなりえる行為だ。
一般人が武器を許可をされていない地域で使う事自体が法に触れるのだから当然ではある。
が……裏常世渋谷での非常時。
説明を聞いて、それらの是非を判断するのが、後ろめたい理由や行動が無ければ最善でもある。
勿論、それを盗んだ等なら話は別だが……今回はそういった事も無いと報告されていた筈だ。

角鹿建悟 > 「――もっとも。良し悪し如何に関わらず――…


そう、簡単に矯正できたら苦労は無いのかもしれないけど、な。」


きっと性分なのだ――ゆっくりとした時間は大事で、それが今の自分に必要なのは分かっていても。
”何もしない”というのは――結局、”動かない”という事に繋がる。
動かないのは嫌だ――折れたとはいえ、我武者羅に突き進んできた身だから尚更にそう思う。

けれど、それでは駄目なのも散々突き付けられている。…悩ましい。自分との折り合いが上手く付けられない。


――気を取り直して、彼の促しに応じて続きを語り始めようか。

「ああ――朧車の不意打ちを回避した俺は、近くの店舗に飛び込むように吹っ飛ばされた。風圧がかなりのものだったからな。
そのタイミングで、特別攻撃課の討伐作戦が始まって、俺はひぐれ師匠に偶然救助された。

――その時に退避を勧められたが俺は”拒否”した。…理由は我儘で単純だ。
…俺は”破壊するだけ”の奴はどうにも我慢がならない。だから朧車の暴走行為は看過出来なかった。
足手まといなのは理解していたし、状況もまだその時は把握しきれていなかったけどな。

――だから、それが最善と分かっていても、俺にはその時点で自分だけ”逃げる”という選択肢は無かったんだ」

自覚はしている、反省はしている、だが後悔はしていない。きっと何度でも同じ選択を自分は同じ場面があればするだろう。
ただ、それよりも語るべきはその後の特別攻撃課の武装の無断使用だ。

「――ひぐれ師匠と合流した後、ヤツが再び暴れまわってな。その時に負傷して一時気絶していた特別攻撃課隊員の装備…プロテクターと閃光手榴弾一つ、そして――鉄槌の形をした『決戦兵装』を無断拝借した。ヤツを倒す為には俺には強力な装備が必要だったからだ。」

重罪確定の告白を素直にする。隠すつもりは最初から無い。ひぐれ師匠が便宜を図ってくれてはいたが、それでも語るべき所は語らなければならない。

「そして、ひぐれ師匠と”共闘”して奴を止める為に動いた。…これも一応語ったほうがいいのか?」

そこで一度レオへとまた視線を戻す。

レオ >  
「いえ、そのあたりは不凋花先輩からも報告義務が出ていますので、大丈夫かと。

 …とりあえず、この位ですね。」

ふぅ、とメモを書き終え、少し思案する。
ここから先はこの情報を見た風紀委員の上の役職の先輩が判断する事であって、自分が判断する事ではない。
なので、事情聴取だけなら、ここで終わりである。

なので、ここから先は、仕事外の話。

「…そうですね、僕個人の判断ではありますが……
 状況的に、退避の言葉を無視した事は問題行動だとは思います。
 風紀委員として、一応僕らにもそれ相応に守らないといけない義務と方針がありますので……
 その上でそういった場での行動を許可されている、というのはありますから、ここは当然、処罰の対象になる事も覚悟してください。





 ただ、その後の行動に関してですが…
 僕としては、お礼を言いたいです。

 非常時で、そのときに貴方が個人的な事情で行動をしたとはいえ……それで不凋花先輩ら数名の命は実際に助かっています。
 勿論、角鹿さんが素直に退避した場合、もっとスムーズに討伐が完了して、負傷者も少なく済んだかもしれませんが……
 僕はその場にいた訳ではないですし、その場合の結果を見た訳ではありません。
 最終的に、死亡者はいなかった。
 負傷者数名、貴方に至っては全治にかなり時間もかかる重傷ではありますが……説明を聞いた限りでは、その場その場の判断で此方側が助けられた場面も多かったと僕は思います。
 
 僕はその場に居なかった人間な上、そんな権限もないので、そのときの行動に関しては是非を問う事は出来ません。
 なので、一個人の感情としてでのみで申し訳ないですが……
 
 不凋花先輩を助けてくれて、ありがとうございます。」

深く、頭を下げた。

角鹿建悟 > 「――…そうか、師匠には本当に迷惑を掛けてしまったな…今度礼でもしないといけない、な。」

嘆息を一つ。自分の行動が原因で友人にして師匠的存在の彼女に余計な負担を強いてしまった負い目はある。
既に聴取の大まかなそれは終わり、今レオが語っているのは彼個人の判断であり、仕事外の話であるが…実際問題行動でしかないのは正論だ。

「――ああ、生活委員会から外される事も、最悪退学も視野に入れているから問題ない。
それを承知でやった事だからな――後悔するくらいなら最初からやらないで素直に退避していただろう。
――あの時の俺は武器が無かった。それに能力も使用を禁じられていた。
だったら、使える物は何でも使う。自分の立場がどうなろうとそれは後で考えればいい」

左手首に巻かれた黒いリストバンドを見る。異能封印制御装置…今の男は能力を自由には使えない。
…一応、事前に申請を出せば限定された時間内のみ一時使用は許可されるが。

「―――礼を言われる事は何もしてないつもりだ。だからそんな頭を下げる事でもない。
そもそも、やらかした人間相手に感謝の気持ちを示すべきじゃないだろう。――だが」



――人と向き合う事、自分と向き合う事。それを己は覚えないといけないから。



「その”感謝”の気持ちだけは有り難く受け取らせて貰う。だから、もう礼はいらない。

――正直、丸く収まったのは奇跡的だからな…一歩間違えたら死人が出ていただろう。
その死人は俺だったかもしれないし、ひぐれ師匠や気絶した隊員だったかもしれない。

――俺は盛大にやらかしただけかもしれないが、……ああ。」


そこで、口元だけ薄く笑みを浮かべてこう告げよう。


「―――”誰か”を救えたのなら俺はそれで良い。ヤツの破壊行為を見逃せなかった、のもあるけどな」

レオ >  
「‥‥‥‥ある人に。
 『人は機械にはなれない』と言われました。
 どれだけ機械的に、事務的に動こうとしても……僕らが生きている限り、そこには個としての意志が存在する、と。
 
 …角鹿さんのとった行動は、確かに風紀委員という役割、システムから見て違反者と言えます。
 でも、その行動は貴方の個としての意志から選ばれた行動です。
 ――――『良くない事』と断言は、僕には出来ません。」

機械になりたいと思っていた。
その気持ちは今でも変わりはしない。
機械であればどれほど楽かと、思う事は少なくない。

でも、なれないのだ。
苦しいと思う事を苦しまずにやる事は出来ない。
苦しいという気持ちを封じる事しかできない。
機械のように、であって、それは結局機械ではない。

…だとすれば。
個人個人が抱える、自分の価値感、それに伴う行動を。
『良くない事』と断言する事は……自分には出来ない。
それが過ぎれば身を亡ぼすとしても。
分かっていてもそれだけでどうにか出来る事など、この世には少ないのかもしれない。

ただ…
一つだけ、問う事にした。

「角鹿さんは、大事な人は…‥‥いますか?」

角鹿建悟 > 「――そうだな。俺はきっと”そうしようとして”…あの先輩に止められたんだろうな…。」

独り言のように呟いて一度目を閉じる。人は機械にはなれない。
だが、自分はまるで機械仕掛けの歯車時計みたいに、直して、直して、直し続けて――きっと、壊れていた。

その前に精神を圧し折られたのは、矢張り良い転機だったのだろうな、と思うし。

「――機械仕掛けの歯車時計。少し前の俺は正にそんな感じだったよ。
生活委員会の修繕部隊の一員として、ただ直す事”だけ”に没頭して――ある先輩に”止められた”。

止められて分かった――人はどれだけそうあろうとしても機械にはなれない。意志や心は殺せない。
――いいや、例え殺せたとしてもやっぱり機械にはなれないんだろう。」

レオに語る言葉は、まるで彼に語るというか独り言のようで…ただ、つらつらと無意識に言葉が出ているかのよう。
ふと、我に返ったかのように言葉を止めれば…「変な事を言ったな。すまない」と緩く謝罪を述べて。

「―――”居た”よ。今は誰も居ない。――それに、その大事な人は”俺が殺した”。」

――ゆっくりと、だがハッキリと口にする。過去を思い出すのは苦痛でしかないけど。
彼の問い掛けは短くも重い気がして。ならば、それに答える声も短くも相応の重みを乗せて。

レオ >  
「…‥‥‥‥」

『大事な人はいた。』

『俺が殺した。』

まるで……鏡を見ているようだ。
在り方は違う。でも、在った事は酷く、似通っていて。
その前に構成された要素と、そこから先に進んだ道が、違うだけ。
一つの点だけが近くて、まるで……交わっているようで。
まるで他人を介して自分を見ているようだった。

「…”同じですね”
 …いや、忘れてください。」

ぽつり、と呟いてから…その言葉を取り消した。
似た者同士。
だとしても……自分の事を彼に話す必要は、ない。
勝手に投影して、勝手に同族のように思っているだけなのだから。




だが、だからこそ。
”同じ”だからこそ、”同じ言葉”を……

「『そしておまえがもし、大切に想われることがあれば…おまえみずからのことも、大切にするように』

 ……僕が、別のある人に言われた言葉です。
 今、僕がずっと考えて……自分の事を見る切欠になってる言葉で。
 
 貴方にとって、は兎も角…
 貴方の事を大切に想っている人がいるなら、考えるべき事なのかも…しれませんね。」

角鹿建悟 > 「――いいや、忘れるのは無理だな…ただ、深く聞くつもりは俺からは無い。
――そういう、心の内を話せる相手が、他にちゃんと居るなら尚更にな。」

自分も、話せる相手は皆無ではない――だけど、全てを曝け出せる、ぶちまけられる相手はまだ”誰も居ない”。
今の、まだ精神が立ち直りきれていない自分は、誰かに吐き出す程の度胸も無い。

きっと、彼の呟きからして。自分と彼は似通った部分があるのだろう。
だったら――彼も、きっと大事な人を”殺した”経験があるのかもしれない。

「――大切に想われる相手には心当たりも何もないが…そうだな。少し似たような事は指摘された事はある。
人と向き合う前に、まず自分と向き合う事――だから、俺は今、自分自身をどう向き合うか考えてる」

自分を認め、信じ、受け止め、そして見つめ直す事。…まだまだ出来ていないけれど。


「『あなたが出会う最悪の敵はいつもあなた自身であるだろう』」…最大の壁は何時だって自分自身だ。

――レオ、アンタも色々抱えてそうだが…お互い自分に”負けない”ようにできるといいな。」

とある格言の言葉を呟くように口にしてから、レオの方へと静かな眼差しを向けて。

レオ >  
「――――そう、ですね。」

少し苦笑して…静かに、そう返した。

自分をどうするのか。
自分自身をどう向き合うか。
互いに、それをずっと、考えていて……
その感覚を、共有できる相手。

「……仕事での形ではありましたけれど。
  話せて、よかったと思います。

 ……そうですね。お互い…”負けない”ように」

そう、少しだけ微笑んで。
彼を見た。

不安定で…明日死ぬかもしれない、危うく漂う”死の気配”がそこにはあった。
でも、それはまだ、はっきりとはしていない。
雲や霧のように、不定形でぼんやりとしたもの。
それは、近いうちに死ぬかもしれないが、その要因は避けようのあるものを意味した。

「(あぁ……)」

自分に漂う”死の気配”の方に意識を向けた。
霧のようにぼんやりとした気配の中に……まだ薄く、しかしはっきりとした水の塊のような気配があった。
ゆっくりと、注意して感じなければ分からないほどの速度で、しかし着々と近づいてくる”死の気配”

”避けようのない未来での死”が、そこにはあった。

「(今になって、羨ましくなるなんてな)」

それは、少し前まで何とも思わず…むしろ少しだけ救いのようにすら感じていたもの。
今はそれが…心苦しい。

「……お大事に、なさってくださいね。」

そんな”嫉妬”を押し殺して。
相手の体を労わる言葉を残して、一礼の後……青年は立ち去るだろう。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」からレオさんが去りました。
角鹿建悟 > 答えは簡単には見つからない。今まで最低でも6年間、或いはそれ以上放置してきた問題と向き合うのだ。

答えは出ないかもしれない、立ち直りきれないかもしれない、きっと、中途半端に終わるかもしれない。

(だけど、少しでも――昨日の俺よりも少しは前に進みたいな)


現状は――どうだろう?無茶をして怪我をして、折れても曲げられない、変わらない性分があるのを自覚して。
――未だに、俺は俺の事が全然理解できていないのかもしれないけど。

「――――少なくとも、今この時間を無駄にしないようにはしたいな。」

勝てずとも、己を見詰め直しそこに見出せるものがあればいい、と。
相手の視線に、不思議そうに銀色の瞳を瞬かせる。彼には死の気配なんてものは分からない。

今すぐ死ぬ訳ではない――ただ、明日、ぽっくりと死んでしまいそうな危うさ。
それは、直し屋の頃の自分と変わらない――何時だってこの少年は危なっかしい。
だからこそ、はっきりはせずとも死の気配が濃いのだろう―ーだが、肝心の彼には何も見えない。



「ああ――そうするよ。けど―――…。」

彼が立ち去るのを、軽く会釈をしつつ銀色の瞳で見送りながら。その銀の目は何を見ているのか。

「―――”お大事に”…か。それはアンタの方だろうさ、レオ。」

俺みたいな、ただ脆かっただけの歯車時計よりあの少年の方が、背負う物も大きく重いだろうに。

ああ――”嫉妬”だ。俺は彼が羨ましい。どうすれば、それだけ背負って、それでも笑って立てるのか。

ぽふっ、とベッドに寝そべりながら目を閉じる。全く、無いもの強請りだ。

「―――ほんとに―――脆いな」

俺は。何時か言われたあの言葉を苦笑いと共に呟けば、何時の間にか眠りに囚われていようか。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」から角鹿建悟さんが去りました。