2021/02/17 のログ
神代理央 >  
「……羅刹と神楽、という名前は信憑性がある、か。
しかし、作戦……?思っていたよりも規模が大きい組織か…しかし、公安からは…」

咳き込み、俯く少女を見下ろしながら思案顔。
まるで、少し難しい宿題を出された生徒の様な、そんな顔。
己が薬物を投与し、動きを止める少女に視線を向けてはいても――意識は、向けていない。

「……戦力を集める必要があるか。場合によっては、特務広報部外…風紀委員会そのものの戦力を当てにしなければなるまいか…。
些か不愉快ではあるが、致し方あるまい」

そこまで呟いて思考が纏まったのか。
漸く、少女に気が向いた様に視線は色を取り戻す。

「……ああ、すまないな。折角きちんと答えてくれたのに。
気分はどうかな。気持ち良くなれる薬も、ドーパミンを過剰生成する薬も混ぜておいたのだが。
貴様達がばら撒いていたものだ。効果の程は確かだと良いのだがね」

意識があるかどうかすら怪しい少女に。
穏やかな声色で、言葉を投げかける。

> 確かに、快感も感じられ、興奮を煽るクスリであることは間違いない。
しかしそれはあくまで、適量を使われた場合だ。

水に溶かして飲まされ、適量を超え…行き過ぎた快感は、地獄の苦しみとなる。

それが焔の身体に異常をきたさせ、急激な嘔吐を引き起こした。

「ぁ……………」

多少の耐性は、少しだけ意味を成した。
普通なら、水に溶かされての摂取…用法用量を守らない使い方は、『蜘蛛』が忌避する通り廃人化を招く。
だが、以前に投与されていたことがあるため、ぎりぎりのラインで堪えていて。
ただ、話せるかというと、微妙なラインだが。



―――焔は今まで。
体制や男に対して不満、不審を抱いていたり、それを壊そうとする羅刹に従っていた部分があったが。
直接、風紀委員に対して恨みは無かった。
しかし、薬を投与され、精神が極限まで追いつめられることによって…着火する。




「…………ろ………………」



うわごとのように、呟く言葉。

> 「―――――――ころして、やる」
> 蚊の鳴く様な声。
それを最後に、がくん、とまた首が落ちる。
後に残るのは、嘔吐の痕と、静けさだけ。
起きているかどうかも定かではないまま…うわごとのように、唇だけが、動いていて。

神代理央 >  
「…用法用量は正しく、か。この反省は"次"に活かさねばならんな」

ころしてやる、と少女が見せた反抗の意志。
反抗、という程生易しいものではないのだろう。
それはきっと、一人の少女が、一人の人間が極限まで抱いた殺意。
そんなもの――これまで、幾らでも向けられてきた。

「……私だ。捕虜が意識を失った為、尋問を中断する。
…ああ、そうだ。あの薬物は『オーダー通り』に施したと、木本さんに伝えておいてくれ。
それと、捕虜は近日中に移送する。此処では『治療』が捗らない。本庁の設備では、オーバードーズに対する治療にも限界がある」

懐から取り出した通信機。
素早く操作すると、虚ろな少女に背を向けて、何時もの様に穏やかに。しかして尊大に、言葉を続ける。

「………ああ、そうだ。其処で良い。車両と護衛の手配は任せる。念の為、腕が立つ者もつけておけ。恐らく、私は立ち会えぬからな」

「…………うん、ああ、そうだ。それでいい…ん?
ああ、刀々斬か。上手くやっている様じゃないか。
今度、ちゃんと褒めてやらないとな」

「ああ、それと。移送まで尋問を行うのは構わんが、手は出さぬ様に厳命しておけ。どれ程の効果があったかは分からんが…」

其処で、一瞬少女に視線を向ける。

「……犯罪者を悦ばせてやる義理も無い。精々悶えさせておけ。
悶える気力があれば、だがな」

短い電子音と共に、通信を切る。
吐瀉物の痕と、唇だけを動かす少女の頬に触れて、そっとその顔を持ち上げようとするだろうか。
それが、叶ったのなら――

「……可哀相に。ああ、本当に。
けれど、仕方の無い事だ。しょうがない事だ。
だからせめて憐れんでやろう。それもまた、風紀委員としての仕事の内だからな」

それだけ、少女に告げたのなら。
興味を失った、と言う様に少女から離れて――其の侭、牢から立ち去るのだろう。
かつり、こつり、と。よく磨かれた革靴が、床を叩く音と共に。

> 『移送』


『治療』


だって、さ。




つたわ、った?


ボス。



ううん。『    』





牢の中。
取り残された、『焔』は。



ただ、扉が閉じられる直前。
その唇を笑みの形に浮かべて、凄惨に笑った。


彼女の心の奥で、新たな光が…暗い痛みを糧に、生まれていく。

ご案内:「拘留所」からさんが去りました。
ご案内:「拘留所」から神代理央さんが去りました。