2021/11/15 のログ
出雲寺夷弦 > 「っとと、と」

結構な体当たりの勢いだったが、青年はそれを軽く受け止める。そも結構な体格であるからだが、微塵も体幹は揺らがない。そのまま手を上げて凭れた頭に手を置いた。
相手のこの様は、自分しか見れないものという感覚。少し恥ずかしいものがあってか、ちょっと顔は赤くなるし、視線が少しだけ逸れてしまうものの。
ご飯にする、と返事がすれば、とりあえず色々置いといて、声色と様子から見れる相手の疲労を癒す事とした。

「……よし、んじゃあすぐ準備するから、座っててくれ。
なぁんもしなくていいぞ、暖かいご飯が待ってて出てくる幸せをしっかり噛み締めてもらうからよ」

そう言って、くしゃくしゃと僅かに頭を撫で回す。
良い子だから。なんて子供を諭すような手つきでもある。

伊都波 凛霞 >  
「んー」

頭にポンと置かれる大きな手
あー、なんかもうこれだけで帰ってきたなーって感じがして、落ち着く
存分に甘えさせてくれるものだから、もう

「はーい、期待しちゃう」

彼の料理の腕は軽く自分を凌ぐ
家庭料理については凛霞もそこそこ自信のあるところだったが、レベルが違う
なんか高級料理店も真っ青なものが出てくることすらあるし

そしてはーいと言いつつ、凭れたまま自分からは離れようとしないやつだった

出雲寺夷弦 > くしゃ、くしゃ。安心させるときって、こういう手つきがいいんだったか。
思えば異性に触れること自体、この相手としか機会はないわけで。少しぎこちない動きが図らずも相手の安堵と噛み合う。

離れる気配はないので、なんとなく思ってた通りだなと心中で思いながら、凭れさせるまま一緒にテーブルまで連れていく。
何もしないでいいと言ったのだから、本当に何もさせるつもりもなかったと、椅子を引いて腰掛けさせると、ちょっと名残惜しいだろうからともう一度撫で、そこで一度離れる。



……台所に入った彼が、そこから出てくるまでは早く、鍋掴みを両手につけて、持ってきたのはカセットコンロ、次に土鍋。
テーブルの真ん中にそれを置いて鍋をセットし、蓋を取る。
一瞬彼の姿が見えなくなる白い湯気と共に出汁の芳香が漂い、ぐつぐつと鍋の熱で茹るのは、具沢山の鍋である。
淡い色の出汁に、茸、葱、鶏、豆腐、人参、揚げ玉等の具が浮かぶ。
いずれもお手本のように鍋の中に並べられているもので、この一瞬を切り取れば、ちょっとした料亭の鍋の写真にだって出来そうなもの。
そこからはあっという間に配膳も終わっていく。取り皿は二人分、それから付けダレだとか、追加する鍋の具だとか。
〆用のうどんも並べば、最後に茶碗に盛られた炊き立ての白米も。


「……謹製出汁鍋。最近冷えてきたから、こういうの食べたくなるよなって思いながら準備しといたんだ。
鍋は手軽だけど、色々先に手を込んでおいたからフツーと思って食べるなよ、吃驚させるつもりで作ったからな」

得意げに笑う彼が向かいに座った。茶碗と箸は同じ柄、
さらっとお揃いだ。

伊都波 凛霞 >  
彼にも彼の時間があり、生活もある
多くの時間を彼と共有しているとはいえ、彼にも色々と事情がある
そんな中で、こうやって存分に甘えさせてくれる
家族以外の優しさに素直に甘えられる。というのは幸せだと思った

互いに名残惜しく思ってるあたりがなんともアレ
とはいえテーブルに座って一息、頬杖をついて彼の"仕事"を眺めよう

と、出てきたのは鍋
そっか、もうそういう季節
気遣いの塊のような彼は色々と気にかけて、準備をしておいてくれたのだ

「わぁ…」

立ち上る湯気と香る食欲をそそる匂い
疲労と空腹にこんなに効くものがあるかな?

「夷弦のご飯はいつもびっくりするけど、美味しすぎて」

今日のはまたそういうものとは違いそうだ
くすりと笑って、お椀とお箸をお手元に

出雲寺夷弦 > 「……驚かされっぱなしだったの、結構根に持ってるんだぜ、俺」

色々複雑な気持ちを膨らませた苦笑いの顔で言葉を返す。
準備も終わった、取り皿をすっと取り上げて、鍋の中の具材、出汁も含めてたっぷりと。
盛りつけたら、それは目の前のお疲れ様の前に。

「たんとおあがり。……ってな」

魔法が掛けられたような、食欲をそそる具材たちの艶。
食べる前から、視覚からの情報で『美味しい』と訴えられるような。
そしてそれは、その食欲のままに箸をつければ、貴女の口の中から幸せをじんわりと与えてくれるものだ。

「……因みに、ほとんど仕込んだの俺だけど、米と野菜は咬八が持ってきてくれたんだぜ、これ。
『商店街の八百屋の手伝いで、礼に一番の物を沢山貰った』とかで、アイツが大量に持ってきたんだ。
これはもう鍋にするしかないだろって思ったよ」

鼻で選んだらしいし、と小声に添えて、自分の鼻を示した。
嗅覚の効く彼からの仕入れ物ならば、確かに間違いない。

伊都波 凛霞 >  
「何が?」

首をかしげる
脅かすようなことしたっけ、なんて
そういうところはなんというか、鈍感である

「もう疲れてるしお腹も減ってるし、早速食べちゃう」

わー、と破顔して、いただきます、と両手を合わせる
ほくほくと煮えた具材を菜箸で丁寧に摘みながら器へ

「そっか、カミヤくんも相変わらずだなあ」

常世渋谷での一件があった時は心配したものだけど
元気そうで何より、最近顔を見ていないけどそれなら良かったと笑う

出雲寺夷弦 > 「……」

くしゃっ。そんな音がまさにぴったりな顔に変わる。
機嫌を損ねたパグのような眼である。
超人的能力の数多から発揮された『一晩で終わってた』『やっておいた』『もう先に終わらせてた』『もうあいつ一人でいいんじゃないかな』等の単語が装飾としてくっつくエピソードの数々。
随分昔のことでも、それが死という一枚でっかい壁を隔てた過去であっても。

「……もうそれもどうでもいいけど」

憶えている、としても――そんな嬉しそうな顔で手料理を食べ始めてもらえてしまったら、途端に優しく綻んでしまうのだから。

「ああ、アイツ。一度は大怪我大病患ってたけど、……なんつぅか、色々とあった末にすっかり元気になっちまった。
退院したその日に殴りこまれて、いや、もういっそそのまま殴りかかられたときはどうしようかと思ったけど……」

ころころ変わる彼の表情、今度は若干青ざめる。きっと良いストレートが飛んできたことだろう。


――――っていうような話題なんてもんは、口の中に入れた鍋の具材がブッ飛ばすのだが。
淡い出汁の正体たるや、上質な花鰹の芳香、香ばしいいりこ、溶けだした茸の旨味との見事なマッチングを、黄金比率の調味によって昇華されている。
これは市販の鍋ですなんて嘯いて箸をつけさせられようもんなら昇天待った無しの学生財布を破壊し尽くす高級料亭の懐石料理をその手から生み出す至天の板前さえ感涙に咽いだって可笑しくない。

要するに、トンデモ無く旨いのだ。

伊都波 凛霞 >  
「何そのカオ…」

自分を特別視しない、特別扱いしない…というのは謙虚といえば謙虚である
自分の超人的な行動や成果がそんな劣等感をもっとも身近にいた幼馴染に与えていたなんてついぞ知らず
肝心な部分がニブいのはそれらの能力の代償なのだろうか

「殴られたんだ」

いつものことだなあ、なんて
昔からの彼らなりの間柄なのだ
変わらず仲良し、ということで頬も綻ぶ
そんな談笑をしながら、まずはお豆腐をお口へ

「ふわ…」

最初にお豆腐を選んだのは大正解だったかもしれない
アツアツの食感と共に鼻に抜けるような香ばしい匂いが口の中いっぱいに拡がって
筆舌に尽くしがたい、とはこのこと
いろいろな言葉を並べるにも、浮かばにくらいの…美味しさ

「…おいひい」

そういう時には人は、こういう反応しかできなくなるのだ

出雲寺夷弦 > 「……二発」

そっと零したけど、もうその返事が出た時には相手の語彙力は無事"トンだ"らしい。

「……おーい、まだ豆腐の一口目だけだぞ?特製の付けダレで味変してもいいし、他の具も食べてみろよ」

そう言いながら、まぁとりあえず自分も作ってる間結構お腹を空かせていたのだから。鍋の具を自分の取り皿にも盛って、一口。

――――神妙な顔に変わり、暫くの無言。
さっきまでの表情はいずこへか。それはもう、かなり真剣な顔で。

「……いりこの仕込み、甘いな。花鰹はこのままでいい、茸……がちょっと煮詰めすぎちまったか。白出汁が強すぎるのもあるな、タレをつけることを考えるならもう少し出汁のほうが強くあるべきだったが、いや具は具でタレでも出汁でも、けど、いや、ここはもう少し……――」

板前だってそこまで独り言は出さない。自分の料理に対する分析が口から駄々洩れである。無論そんなん理解を追いつけられる人間なんて片手の指の数ほどのこと。
あなたが思考を溶かす程に美味しいと感じるこの鍋も、彼にとっては改善の余地があるらしい。
まだまだ進化し続ける彼の料理の研究たるや、果たしてその先にあるものは料理の新時代か、黎明か。


……そんな光景も、実のところは。

「……凛霞、飯の後にはしっかり風呂も準備出来てるからな。布団も今日の昼間は晴れてたから干してふわふわにしてある。
…………あと、その」

頬を掻き、少し視線は逃げゆく先で。

「……必要なら、"俺付き"で、寝られるようにも、するし」

今も、そしてこの後の眠るまでの時間も、幸せの要素だ。

伊都波 凛霞 >  
「相変わらずっていうかなんていうか…一般家庭で出てくる味じゃないんですけど」

ほわー、なんて感激しつつ、つぎの具材へ
次はお葱と、鶏肉
どちらも出汁との相性は最高で、身体も温まる最高の鍋具である
つけダレにつけて、あーんっと大きく口をあけて、一口で
凪の甘みと、鶏のしっかりした味が口の中で溶け合って、出汁はそれを邪魔せずなおかつ濃厚
つけダレもしっかりと絡み、表面を少し冷ましてくれるのが更に良い塩梅…

「~~! 美味し…… …夷弦ー?」

エプロン男子におーい、と声かけ。気づいてくれたなら、くすくす笑う
彼の悪い癖というかなんというか、真面目なのだ
真面目すぎるとも言う…求道者か何かとしか思えない人種である

お風呂も湧いている、気が効きすぎて申し訳がないくらい
その後の言葉は、言いにくいというよりは視線を逃しているので丸わかり
気恥ずかしいのだ、ということが
そんなところは、なんだか可愛らしくも見える

「あれ、先に入っていいの?
 そっちは一緒に入ってくれないんだ」

なので、ついそんなことを言ってしまったり

出雲寺夷弦 > 一般家庭の味じゃ驚かせるには足りないんだ。という答えを言いかけて、
好きな人に喜んで欲しいし何ならその方向で天辺を目指したい、という言葉の方が良いのかもしれない。
なんならそれよりもっと気の利いた言葉を言えれば尚良し。
が、そんなことが出来たらもっと先にそういうのを出来ている。

気付いたときには、あんまりにも可愛い顔で笑ってくれるし、嬉しい言葉も出てくるし、そして極めつけにはそっちは一緒に入ってくれないんだなんて。

……一緒に?入って?どこへ?

「……へ」

何処ってそんなのさっき出した単語の場所。『風呂』のこと。
数秒で理解し、耳まで一気に。

「ッ!!」

土鍋の中の鍋より加熱されたかというくらい露骨に真っ赤になりながら、目線だけゆっくりそちらに戻っていく。
……昔の自分なら多分、その後取り乱しながらあーだこーだというのかもしれないけれど、そこでちょっとくらい、漢らしいことを言うという気持ちと、好きな子に喜んでもらえればという心と、
何より今は、『疲れている凛霞のことを癒してあげる』という目的。

「……り」

「――凛霞が、良いなら……背中、流すために、一緒でも、いい、けどさ」

――よく頑張った、男子高校生。

伊都波 凛霞 >  
「ふふー、顔真っ赤ー」

お行儀悪く、お箸で顔を差しながら微笑む凛霞
少し意地悪な感じもするけど、その反応が可愛いから、つい言っちゃう

それでも精一杯の答えをもらって、大満足
一緒にお風呂。恥ずかしくないこともないけれど、それ以上に可能な時間はそれだけ一緒にいたい裏返し

「じゃあ背中流してもらおーっと。
 それはそれとして、今はお腹いっぱい食べなきゃ」

こんなに美味しいお鍋、煮崩れちゃったらもったいない

出雲寺夷弦 > 「……風呂入る前はしっかり食べないと湯当たりするからな。疲れたまんま湯船に浸かると危ないし」

箸の先から逃げるように今度は顔ごとそっぽへ向く。横顔は真っ赤。だが、恥ずかしいは恥ずかしいとして、
……嬉しいと思ってしまう。邪な感情とかそういうのではなくて。
時間の共有、という部分でだ。

「……ああ、まだたっぷりあるからな。たっぷり食べて、腹一杯にしてからゆっくり入ればいいさ。
……その間にだって、俺も一緒にいるからさ」


ここで振り返る。美味しそうに鍋を食べる、凛霞をしっかり見た。
優しく、嬉しそうに、夷弦は笑った。

「――――凛霞」

「笑ってるその顔が、こう、今すっげぇ幸せそうで、俺もその顔を見ていて……幸せになれる。これからも、そういう幸せをかみしめて貰いたいからさ、次は何が食べたいか、明日は先に聞いてもいいか?」

伊都波 凛霞 >  
「…うん」

一緒にいる
その言葉がどれほどに支えになることか…
思わずこっちまで応えるのに視線を落としてしまう

そして視線を戻せば、彼の優しい笑顔が目に入って

「こんなくらいで幸せって言ってくれるんなら、いくらでも笑えるよ。夷弦の隣にいれたら」

うわーーー我ながらよくこんな惚気けたセリフ言えちゃうんだねえ
なんて思わずにはいられない

「いつでも聞いてよ。私、夷弦に作ってもらいたいもの沢山あるし」

にっこりと満面の笑みで
そんなこと、わざわざ確認されなくてもいつだって

出雲寺夷弦 > 「……」

――嗚呼、夢だろうか。
なんて、無粋な想いが過ってしまった。
けど、夢じゃないし、夢なんかにするものか。目の前の、死ぬほど、死んでも、好きな子の言葉。

満面の笑顔に、思わず。

「……じゃあ、一生となりにいるよ、俺。お前の幸せのために、その幸せを、一緒に掴みながら」

とか、口を滑らせたもんで。






「…………」

――真っ赤になって、もう一度視線は逃げた。
撤回は、しない。するもんか。
茹る鍋の白い湯気の向こう、割と本気で照れつつも、言った言葉を撤回しない夷弦は、ふっと振り返る。


「……おかわり、要るか?」


――――夕餉は、もう少しだけゆっくりと過ごすとしよう。

ご案内:「学生街・アパートの一室」から出雲寺夷弦さんが去りました。
ご案内:「学生街・アパートの一室」から伊都波 凛霞さんが去りました。