2021/11/29 のログ
ご案内:「常世総合病院」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
ご案内:「常世総合病院」に桃田舞子さんが現れました。
■芥子風 菖蒲 >
ふと目が覚めた。
最初に目に入ったのは、白くて綺麗な天井だった。
なんだか意識がぼんやりとする。視界もぼやけて、意識も半分。
目を擦ろうにも、指が動かない。
「……?……ここ……」
だんだんと意識がハッキリとしてきた。
そうだ、確かあの仮面の男と戦ってそれっきりだったはず。
如何やら意識を失ってしまったらしい。なら、此処は病院のようだ。
ふんわりあったか、大きなベッドが自身の体を包み込んでいるのがわかる。
体は……。
「……っ、てて……」
鈍痛。
じんわりと全身が痛みが広がる。
そこらじゅうが痛いし、包帯の圧迫感が凄い。
特に、片足はギプスで固定されているのか動かない。足首が折れてるらしい。
何とも不自由だなぁ。ぼんやりと、少年は病室の中で眉を下げた。
「……トイレ、どうやって行こう」
■桃田舞子 >
今日は友達の……あっちゃんのお見舞いに来た。
詳しいことは、聞かされてない。
・・・
芥子風菖蒲は歓楽街で哨戒中に違反学生と戦い、負傷。
それくらいしか私みたいなモブに知り得る情報はない。
見舞いのフルーツはもう十分にあるらしいので、
私は枯れたという花の換えを持ってきた。
そこで見たのは。
意識がないはずの、あっちゃんの。
喋っている、姿……だった。
「あっちゃん!?」
駆けつけて、ナースコールを押す。
意識が戻ってる。意識が戻ってる。意識が戻ってる!!
「すいません、すぐ来てください。芥子風菖蒲さんの意識が戻ってます」
そう告げてから、改めて彼の痛々しい姿を見た。
どんな戦いをしたら……こんなことに…
■芥子風 菖蒲 >
「!」
不意に聞こえた声にびくっと肩を揺らす。
ナースコールの音、聞き覚えのある気配に、声。
青空の目をぱちくりさせながら上半身を起こし……。
「っ、てぇー……舞子?」
じんわり、脇腹が痛い。
皮膚の内側で血が広がるような錯覚。
ああ、そうだ。此処を深く斬られたんだ。
あの太刀筋を避けれないとわかったからこそ、無理矢理根元で受けたんだ。
根本だけでも、十分深く刃は届いた。
恐らく相手がもっと諦めが悪かったら、"出ていた"かもしれない。
痛みに顔をゆがめつつ、ちらりと舞子の方を見た。
「ビックリしたー。急に何?どうしたの?オレは大丈夫だよ」
ベットの上で、少年は何時もと変わらぬ態度で接してくる。
■桃田舞子 >
「うん、私だよ、お見舞いに来た桃田舞子です」
腹部創傷。骨になんらかの被害がいっている足首。
素人目に見てもわかる、重傷の姿。
すぐにお医者さんと看護師さんが来て意識レベルを確認し、
そして状況を説明した後………割とすぐに引っ込んでしまった。
ここも忙しいのだろう。
でも……でも…………
簡素だ。こんな、あっちゃんがこんなに傷ついているのに。
「大丈夫なわけないよ………」
「こんなに怪我して、どうしちゃったの………」
泣きそうな声で、上半身を起こしたままの彼に問いかける。
いつもと変わらない声。
いつもと違いすぎる姿。
見ているだけで心に疼痛が走った。
■芥子風 菖蒲 >
ん、と軽く手を上げようとしてもだるいし痛い。
異能の影響で、自然治癒力は高い方のはずなんだけど、それでもこれだ。
これはもう暫くはベッドの上の生活かもしれない。少し憂鬱だ。思わずため息。
「そっか、ありがとう。仕事とかは大丈夫?舞子も忙しそうだったし」
交通課や町のパトロール。
細かい雑務を探せば風紀委員は忙しい。
それは身を以て知っている。少女の態度とは全く正反対。
少年は"何も変わらない"、何時もと同じ態度で淡々と答えている。
「大丈夫だよ。ちょっと怪我しただけだし。
……どうした、って言っても……戦っただけ?」
前線に立つ時に、快勝で終わるなんて稀だ。
異能者の戦いは、命の削り合い。
実力差が余程開いていない限り、互いに無事では済まない。
今回も怪我を見れば痛み分け。んー、と少し困った顔で少年は首を傾げる。
「街で暴れてる奴を止めれはしたけど、捕まえれなかったしなぁ……
舞子、何か知ってる?なんか仮面をつけたヘンタイっぽい奴」
そんな心の痛みさえ気づかない。
少年にとって、目の前にある"非日常"は粛々と受け入れられていたもの。
それが彼女にとってどう見えてるかなんて、想像がついていない。
だから、何時もと変わらず話せる。日常に帰ってきたからこそ、そうしてる。
因みにゴシップ記事なんてみてるはずない。残念。
■桃田舞子 >
軽く手をあげようとして、顔を小さく顰めたのが見えた。
日常の動作すら困難な……そんな動きだった。
「そ、それは忙しかったけど……」
「今はあっちゃんだよ、意識が戻って本当に良……」
「……良くはないか、この怪我は…」
表情を歪めて、看護師さんに貸してもらった花瓶に花を入れる。
生花技能とかあればよかったのかも知れない。
私みたいなモブには特殊なことは何一つできない。
「…それ、怪盗ダスクスレイだよ………」
噂に聞いている。殺しも辞さない凶悪な強盗犯だ。
魔剣の類を持っていて、それが異常な切れ味で戦闘能力が高いって…
……斬奪怪盗ダスクスレイ。
それがあっちゃんを…………こんな姿に…
「……喉、乾いてない?」
「お腹すいたとか………」
心配する言葉をかけながら。
私は。心の底で。
あっちゃんをこんな姿にしたこの街の闇を憎んでいた。
■芥子風 菖蒲 >
「そうかな?別に生きてるし、良いと思うけど」
死んだわけじゃない。腕も脚もその内動く。
だったら今は休むだけ。少年にとっては、"その程度"だ。
日常に生きる人の事を理解していない訳では無い。
ただ、元々あった"ズレ"。少年のズレは今、ウキボリになっている。
「花……あったんだ。フルーツ盛り合わせもあるし……オレ、そんなに寝てた?」
本人からしてみれば一瞬の事だから、あまり自覚がない。
んー、と天井を見上げた時に耳元のピアスが無いとことに気づく。
ピアスも外されたらしい。そう言えば病院着だ。思ったより、寝てたかもしれない。
「んー……ん、ダスクス……?長いなぁ」
あの仮面の男はそう言う名前らしい。
一応覚えておこう。そう思った矢先、ぐぅ、と腹の虫が鳴いた。
「腹減ったなぁ。肉……とかはダメ?舞子、フルーツ剥いて……、……?」
「……どうかした?」
きょとん、と少年は舞子を見やった。
別に鈍感と言う訳じゃない。その心の底に渦巻くものが分からずとも
機敏の変化には気づいた。何時もより元気がない事も。
「もしかして、舞子もお腹空いてる?」
少年は、何時もと何も変わらない。
■桃田舞子 >
「良くないよ……」
「私、あっちゃんが怪我したら心配するよぉ……」
強がりじゃない。本当に彼はそう思っているんだ。
怖いと思う。危険だと思う。
私が……私が、少しでも露払いできるなら…………
「事件当日の日時を知らないけど、今の今まで意識不明だったよ」
「ダスクスレイ。斬奪怪盗とか、色々通称はあるけど……」
「ううん、なんでもない」
「お肉は許可をもらわないと。リンゴ、剥くね………」
リンゴを丁寧に消毒して、ウサギさんに剥く。
ウサギさんにすることで、皮も食べる。
リンゴは皮のほうがビタミンが多い。
「私は大丈夫だよ、っていうかあっちゃんいつも通りすぎー」
ウサギ型のリンゴを彼の口元に持っていく。
モブだから。戦い向きの性格じゃないから。
そんなこと、関係ない。関係……あるか。
風紀委員がするべきことは……私だってするべきことなんだ…
■芥子風 菖蒲 >
「って言っても、戦えば怪我するし気にしても仕方ないよ。
頑丈になる異能ってわけじゃないし、オレはオレに出来るやり方しか出来ないから」
既に"戦わない"なんて選択肢は無い。
少年は自分の護りたいものの護る方法が、これしかない事を知っている。
小さな体に、不愛想な態度。それに不釣り合いな夢。
それを自覚しているのはかわからない。だから、こういうやり方しか出来ない。
「そんなにかぁ」
ちょっと驚きだ。
自然治癒能力が高い方だから、こうやってベッドの上にいる方が稀だ。
アイツ、やっぱり強かったんだ。痛み全身の傷が、それを教えてくれる。
けど、この"足"だけは違う。アイツは足を折るような力技はしてない。
「(そもそもオレ、どうやったんだ?)」
最期の記憶が曖昧だ。
確かに、あの仮面に一撃を入れていたけど、その間が"抜けている"。
自分がやったという確信はあるが、答えに辿り着けない。
「……まぁ、いいか」
とにかく、護れるものを護れたんだ。
深く考えるのをやめて、良しとする。
「って言っても、実際大丈夫だし……死んでないなら、その内動けるようになるよ。
そうしたら、また舞子も皆も護れるし、戦える。それまで少しもどかしいけどね」
休むことだって大事な事だって知っている。
自分の大事なものがそこにあるのも知っている。
今もその一人が、目の前にいる。ああ、だからこれ位のお休み平気だ。
またすぐに、何時だって皆の為に、前に出る。
剥かれたリンゴを見るとむ、と唇を尖らせた。
「……そんなに子どもに見える?」
男の子、ウサちゃんリンゴにちょっと不満。
■桃田舞子 >
「……………」
さすがに絶句した。
怪我を気にしても仕方ない?
出来るやり方しか出来ない?
……危ういと思った。
今のままだと、彼は成人することはできないかも知れないとも。
「とにかく、ゆっくり休んで」
「仕事はみんなで穴埋めするし」
「私も……できることをするから。ね?」
そうか。彼は。
弱者を。私たちを護ろうとして。
こんなことになったんだ。
じゃあ、彼を追い詰めているのは。
弱い私………なんだ。
「違う、皮を少し食べたほうが健康には良いの!」
さすがにそこまで子供だとは思っていない。
かといって皮がちょっとついたリンゴを出したら、
彼は下手だったな……と思いかねない。言いふらされたらコト!
■芥子風 菖蒲 >
「……?舞子……?」
押し黙ってしまった彼女。
何か悪い事でも言ったのだろうか。
不思議そうに目線を合わせる少年は、その心底を察する事は出来ない。
「大丈夫、ちゃんと休むよ。しばらくはパトロールも出来ないから、舞子や他の皆に頼むよ」
「迷惑かけてごめん」
出来ない事、出来る事は誰にだってある。
だから"今は"任せれる人に、自分の穴埋めを頼んだ。
日常を生きて、風紀を取り締まる彼女の仕事っぷりは知っているから、"ソッチ側"は任せた、と。
彼女の"出来ない事"をするのが、自分の役割なんだから。
「そう言うもん?……そうかなぁ」
今一納得できないけど徐にリンゴに手を伸ばした。
ああ、気だるい。腕に見えない重しと縄で縛られているようだ。
苦悶と焦りが、小さく途切れる吐息になった。
漸く手に取ったそれを口元に運び、齧る。
程良い甘味と濃密な蜜の味が丁度いい。
「ん、美味い」
■桃田舞子 >
「……あっちゃんは…怖くない?」
「もしかしたら死んじゃうかもって……考えない?」
ああ、彼の答えはわかってる。
わかっている。では何故聞いたか。
私の中の覚悟に……私の中の弱さに、彼の声で響かせるため。
この街の闇を、赦さないために。
「誰も迷惑だなんて、思ってないよ」
「もし本当にそう思っている人がいるなら、私がこうやってこうやってこうだよ」
ふん!と似合わない空手ポーズで笑って見せた。
笑いながら。私は。
・・・
歓楽街の巡回に志願することを決めていた。
「それにお見舞いの時のお約束だしね」
彼にリンゴを食べさせてから。
看護師さんに挨拶をして帰った。
その日のうちに、私は裏の世界に足を踏み入れる手続きをした。
私にできることを。私がやるしかないんだ。