2021/11/30 のログ
芥子風 菖蒲 >  
「…………」

澄んだ青空は、変わらず彼女を見ている。
少しだけ、考えた後あー、と口を丸くした。

「……考えた事なかったや」

そんな事を考えるまで至らなかった。
"そんな事より"出来るのに、やらない方が嫌だったから。
自分が戦えるなら、護れるなら、『きっと死ぬのは怖くない』

───────……けど。

「でも、大切にしてるよ。自分の命も、舞子の命も、皆の命も。
 オレが無茶出来るのは、皆がいるだからだし、自分の命が無いと無茶も出来ない」

「だから、オレはオレに無いものを持ってる、与えてくれる舞子を、皆を護りたい」

「その為に、死ぬ気はない」

護るためにはどんな無茶だってする。
恐怖でさえ踏み越えて見せる"覚悟"がある。
それだけ、皆が、周りにいる人間に"貰ってる"から。
だから、戦う。その為の大切なものに……少しだけ、"位置が違う"けど
自分も大切なものに入ってるのは違いない。だから、大丈夫。
僅かに口角を上げて、やんわりと少年は微笑んだ。まだ、やる事が残ってるんだ。

「こうやって、こう?舞子、戦えるの?」

勘ではあった。
ちょっとしたおふざけのやりとりに感じる、妙な違和感。
少女の心に渦巻いたものに未だ気づかない少年に、その正体を知る事は出来なかった。
不思議そうに談笑に、何時も貰える"暖かさ"を感じながら

少年は一度、眠りについた。
次に目が覚める時は、また皆を護れるようになってるといいなぁ…。

ご案内:「常世総合病院」から芥子風 菖蒲さんが去りました。
ご案内:「常世総合病院」から桃田舞子さんが去りました。
ご案内:「常世総合病院」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
芥子風 菖蒲 >  
常世総合病院。
この季節は体調を崩す人間が多く、病院の人々は大忙しだ。
特にこの常世島は人間ばかりを相手にする訳じゃない。
本来の地球人とは別の異邦の方々の相手をすることも少なくない。
特に、寒さに耐えれられないタイプの方々の搬送は多いそうな。

「…………」

そんな様子を、少年は遠目で見ていた。
病院の受付、大ロビーを遠目で見る病院着の少年。
持ち前の自然治癒力の高さで、なんとか脚は歩ける程度まで回復した。
だが、随分と違和感が酷い。動くと僅かに鈍痛がする。

「これじゃ、まだまだ復帰できないな……」

もどかしさに、思わずため息だ。
リハビリ名目で散歩を許可されたが、此処まで自分が弱いとは思わなんだ。

ご案内:「常世総合病院」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >    
「……う~ん……」

 常世総合病院。
 実は担ぎ込まれる人が多いとか、入院すればだいたいなんとかなるとか、実は凄い病院な気がする、ここ。
 風邪気味な人やそうでない人たちで割とごった返す病院を、気持ちとぼとぼと歩く、私。

「やっぱり寝不足なだけなのかなぁ……」

 近頃、ふと猛烈に眠くなったり記憶が飛んだりするものだからちゃんと普通のお医者さんにかかってみたものの、異能込みで結果は健康そのもの。
 異能も加味した診療もこなすこの病院って、やっぱりとんでもない技術的特異点なのでは……?
 なんて、結局のところ自分の杞憂ですんで、ホッとしたような、……あるいは、何かを取り逃がしたような脱力感に身を任せながら、歩いていると。

「……菖蒲さん?」

 見知った顔の、でも病院着の。
 この服は、あんまり好きじゃなかった。……病院が好きでないのも、あったけれど。

「ど、どうか、されたんですか……?」

 だから、心配げに眉を寄せて、問いかけた。
 この服は、やっぱりあんまり好きじゃない。――その下で、何が起きていてもおかしくないと思えてしまうから。

芥子風 菖蒲 >  
まず一歩、右足を差し出す。
床を踏むだけの感触なのに、ズキリと足首が痛む。
随分と負荷をかけて、肉と骨が"粉砕"してしまったと医者からは聞いた。
一体何をしたのか、自分でも定かではない。
ただ、"自分がやった"という感覚だけはある。

「歩きづらいなぁ……、……ん」

それはそれとして、この状態は非常にもどかしい。
普段出来ない事が出来ない。それだけでも、こんなにストレスだとは思わなかった。
普通の人間ならもっと、この期間は長いんだろうか。
渋面のまま四苦八苦していると、聞き覚えのある声を聞いた。

顔を上げれば、見覚えのある女子生徒がいる。

「真夜先輩」

見間違えるはずもない彼女の姿だ。
少年は足を引きずるように、彼女へと近づく。
ぎこちない動きもそうだが、頭に巻かれた包帯。
病院着から僅かに見える包帯が、傷の凄惨さを物語っている。
もし、"匂い"がわかるのなら、少年の全身はまだ治りかけ、じんわりと血の匂いが漏れ出している。