2021/12/02 のログ
ご案内:「堤防」に朝宮 小春さんが現れました。
■朝宮 小春 > 12月になってしまった。
今年も寒くなってきたなあ、なんて吐息をつきながら、手袋を外して堤防に立つ生物教師。
え、今日? 釣りですが。
生徒に自慢された上に、先生はそういうの全くできなさそう、と煽られたら黙っちゃいられない。
生徒の尊敬を勝ち取るためならなんでもする覚悟である。
まあ、11月は終わっちゃったけど、少しくらいなら許されるだろう。
明るい茶色の髪を一つおさげにまとめた彼女は朝宮小春。
この学園の生物教師である。基本的に勉学に関しては優秀な彼女であるが、それ以外のことに関してはぽんのこつである女性だ。
スタイルは良いが、それを見せるほど外に出ないインドア派であり、こうやって外に出ることは非常に珍しい。
そのせいで身体の硬さは化石か何かのレベルである。
■朝宮 小春 > とはいえ、普段ぽんのこつである彼女であるが、彼女の周囲の人は有能が多い。
そして彼女の姉もまた有能である。
姉の残したファイルを確認して、使っていた道具を揃えた彼女に死角はない。
「姉さんは身長もスタイルもほぼ一緒だったし、きっと私にも使いこなせるはず。」
完璧な理論である。
ぐ、っと力を込めて竿を振る。
■朝宮 小春 > [3d6→5+5+5=15]
■朝宮 小春 > [1d10→9=9]
■朝宮 小春 > (大物の ゴツゴツした シビレクラゲ)
■朝宮 小春 > これは大物……!
ずっしりと来る重さに手応えを感じる。
生徒の獲物の写真を見たが、明らかに片手で持ち上げられるサイズだった気がする。
このサイズはどうがんばっても両手でなければ持ち上げられない。むしろ両腕でもキツいんですけど!
足の間にガッチリ挟んで、膝で抑えながら両腕で思い切り引っ張り、全力で巻き上げる。
よいせ、よいせ、よいせ。
彼女の第一の不運は、思ったより獲物が大きかったことだろう。
片手で固定して引くことができれば、堤防から覗き込んで、何が浮かび上がってくるか見ることができたに違いない。
彼女の第二の不運は、なぜか高い堤防で釣り始めたことだろう。
広く海が見渡せて気分がいい、で釣り始めたのだが、ここから落ちたらただでは済むまい。
というか彼女は泳げないのだ。間違いなくゲームオーバーである。
よいせ、よいせ、よいせ。
■朝宮 小春 > \ 迫りくる確実な死 /
■朝宮 小春 > 「うっわっ、ちょっと何かしらこれ…!?」
透明なぶよぶよとしたそれ。
ところどころに岩のようなものがついた巨大なクラゲを釣り上げてしまえば。
その恐ろしい風貌に、慌てて駆け寄ることも、急いで糸を切ることもできずに立ち尽くして。
「っ、きゃ、あぁぁあぁああああっ!?」
ぬるぬるとした触腕がにゅるりと足首に絡みついてくることに、思わず悲鳴を上げて竿を取り落し。
逃げようとして、痺れた足が邪魔をしてその場にすっ転ぶ。
「あ、あれっ!? ……ちょっと、嘘、待って待って待って。」
足が動かない。生物教師なわけで、それが毒由来のものであることはすぐさま理解できた。
このまま全身巻き付かれたら、それこそ何もできなくなってしまう。
海に引きずり込まれても無抵抗でしかない。
「待って待って待って待ってそれは駄目ダメダメ駄目っ!!」
恐怖にパニックになりながらも、彼女の頭脳は高速で回転をする。パニックだからあらぬ方向ではあるが。
■朝宮 小春 > 「えいっ!」
こうなったら自棄である。
足が動かないとしても、とりあえず海に落ちなければ大丈夫。
まだ動く腕を使って、堤防の海側ではなく……その逆の陸地側に緊急避難。
ちょっと高い場所から足が動かないまま転げ落ちる、という愚行であることを除けば、生き残るための最適な戦略である。
「‥…っ、きゃ、あぁぁあぁああああっ!?」
先ほどとほとんど同じ悲鳴を上げながら、堤防から転げ落ちる生物教師。
クラゲはしばらく陸地をはいずって、海へと戻っていきました。
生物教師?
堤防から落ちて失神していますが。
→ 本日の釣果 無し。
足首に毒を注入。 転げ落ちて擦り傷、頭にたんこぶ。 メガネにヒビ。
ご案内:「堤防」から朝宮 小春さんが去りました。
ご案内:「常世総合病院」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
■芥子風 菖蒲 >
常世総合病院に入院して一週間近くが経った。
既に体はほぼ回復し、退院許可も秒読みだ。
今は病院内の中庭へとやってきた。セラピーと運動の一環であり
芝生と優しい大木が敷き詰められた空間はやはり落ち着く。
少年は大木を見上げ、とん、とん、とリズムよく軽く跳ぶ。
「足は……よし」
もう問題ない。
これで何時でも戦える。
ただ、斬られた傷だけは治りが遅い。
まだ完治していないせいで、退院が遅れている理由だ。
「アイツ……どんな斬り方したんだ?」
脇腹を一瞥しながら、気だるそうに呟いた。
ご案内:「常世総合病院」に貴家 星さんが現れました。
■貴家 星 > 顔見知りが入院したと聞いた。
当然と見舞うものであるが、何やかんやと年末ともなれば風紀委員は忙しい。
ゆえにこうして遅参となって、せめてものと手土産に天満屋の天婦羅セットを携えての見舞いとなった。
「おらんではないか」
肝心要の菖蒲殿が病室におらぬ!あれ?もう退院した?と尻尾を膨らませながら看護師さんに問うてみると、
中庭に向かったとの言葉を得た。
「おーい菖蒲殿。怪我をしたと伺ったのだが……その様子だと息災かのう」
中庭に向かうと後ろ姿を見つけるもので、早速と声をかけよう。肩に手をポンと置いてな。
■芥子風 菖蒲 >
徐に大木へと手を伸ばす。
少年の背では、枝に届かない。
でも、自分の力さえあれば手が届くはずだ。
もっと、何処までも。何時かあの空まで──────…。
無意識に発光する異能の光、青空の光。
治りたての足に力を込める時、は、として光が消える。
「あれ、星。久しぶり。どうしたの?」
入院中全く顔を合わせれなかった友人を見た。
視線を向け、ぱちくりと瞬きすれば首を傾ける。
ちょっとだけ、いい匂い。
「まぁ、元気かな。腹の傷以外は治ったよ。星は元気?」
■貴家 星 > 手を伸ばす菖蒲殿。僅かに生じる陽光とは違う瞬き。
はて上に何か?と顔が追うも何も無い。
菖蒲殿に「どうしたの?」と問われると、それは此方の台詞じゃいと額を人差し指でつついてくれよう。
つんつん。
「見舞いよ見舞い。同じ所属の者が負傷して入院したとあれば見舞うのが人のなんとやら。いやまあ私は狸であるが」
「狸であっても仲間が怪我をすればなんやかんやとするものである。人情ならぬ狸情という奴じゃ」
「と言う訳でこれは見舞いの天婦羅。全部海老だけど菖蒲殿も海老、好きであろ?」
瞳を瞬く菖蒲殿に天婦羅の入った袋を渡して満足気。
然るに丁度良さそうなベンチを見つけ、これまた勝手に彼の手を引いて並んで座る形となろう。
立ち話もなんである。
「怪我の仔細までは聞いておらなんだがその様子では軽傷……いや軽傷か?」
「腹……いや腹は不味かろう。はらわたに大事無いか?天婦羅食べられる?」
「これならば食べ物ではなく年末限定のクリスマス仕様サンタネコマニャン人形とかのが……」
菖蒲殿の様子は元気そうというかいつも通りであるが、言葉の内容は些か剣呑である。
つい、色々と質問を重ねてしまうが、彼の問いには言外に答える形になるやもしれぬ。
つまり私は元気である。
■芥子風 菖蒲 >
「……何?」
つんつん。なんだか額を突かれる。
今一少年は意図が理解できていない。
何してるか気になったから聞いただけなのに。
相手の言う事が尤もだとは思わない。むーん、ちょっと怪訝顔。
「ああ、お見舞いに来てくれたんだ。ありがとう、嬉しいよ」
「天ぷらは好き、かな。せっかくだし一緒に食べよう」
見舞い品とは言え、全部食べるよりは一緒に食べたい。
少しばかり口元を綻ばせて、引かれるままにベンチに座った。
勿論抵抗なんかしない。寧ろそうしてくれるのが、嬉しい位だ。
「まぁ、一週間くらいで治ったし軽傷、じゃないかな。
うん、ダスダカ……なんだっけ?まぁいいか」
「とりあえず、ソイツに斬られた上に知らない内に足が折れてた」
結局未だに犯人の名前は覚えきれていない。
話す言葉もざっくばらんだが、一切嘘は言っていないが色々端折り過ぎだ。
少なくとも、普通の人間から見れば十分な重傷だったのは間違いない。
彼女が持ってきてくれた天ぷらを前に、いただきます、と手を合わせる。
「ネコマ……何?よくわかんないけど、そう言うの好きなの?星」
■貴家 星 > 「む、良いんかのう。まあ私も当然海老天は好きであるし?折角のお招きを断るのも野暮というし?」
ベンチに隣り合った所で嬉しい言葉を引き連れて包みを開ける菖蒲殿。
如何な不思議か割り箸が二膳入っているのは、きっと海老天が沢山入っているがゆえのお店の人の仕業だろう。
ともあれ割り箸を開け、小さなプラスチック容器に別入れとなった天つゆも取り出す。
中庭は一時の天婦羅空間となり、周囲に芳しい香りが漂い行く。
「しかし、うーむ……菖蒲殿がそう言うなら軽傷なのやもしれないが……」
「下手人であるその……ダスダカ何某は相当の手練れ……いや知らずに足が折れるて」
菖蒲殿は剣術の達者である。いつぞや訓練施設で見た技の冴えは見事なものであったと記憶している。
そんな彼が怪我をする。のはどういうことかと思うと、私がやたらに酸っぱい梅干を食べた時のように眉をゆがめるのも無理からぬこと。
「ともあれ無事であるなら何よりで……え?ネコマニャン?いや、これは私より──」
とは言えそう言った渋面も美味しい天婦羅と、無事の菖蒲殿を思えば晴れやかになる。
なるのだが、次の彼の言葉には時間が止まったかのようにピタリと止まりもしよう。
不味い、ネコマニャンは私も好きだが特別に好きなのはレイチェル・ラムレイ先輩である。
しかし此処で勝手に彼女の趣味を詳らかにするのは、些か宜しく無い気がする。
「──いや、うむ。私が好きなのである。ほれ、こういう奴」
ポケットから携帯端末を取り出し、菖蒲殿にもよく見えるように画面を提示する。
そこにはサンタクロースの恰好をしたネコマニャン。猫のマスコット調のキャラクターが記されていた。
■芥子風 菖蒲 >
とりあえず天つゆを器に溜めて、海老天を箸で挟んでちょんちょん。
しっかりつゆにしみ込ませたらかぶりと一口。
うん、さくさくの衣をしっとりさせて、ぷりぷりのエビがしっかりとした歯ごたえ。
濃密な身は旨味が溢れて、衣の油を中和してくどくしないいいエビだ。
もっさもっさ。ほっぺをリスにみたいに動かしてもくもくと海老天を食べていく。ごっくん。
「悪い奴……かはわかんないけど、危ない奴、かな。
よくわかんないけど、相当斬りたがりだし、強いよ」
一度剣を交えれば相手の事がよく分かる。
なんて境地には至っていない。そもそも、敵と分かり合う事を考えていない。
ただ、直感的にあれは危険だと言う事は骨身に染みている。
特にあの獲物。あれはなんなんだろうか。やっぱり、あの太刀筋が一番嫌な感じがする。
んー、とうなり声を上げ乍らぼりぼり尻尾をかみ砕く。尻尾迄食べる派だ。
「よくわかんないけど、足に凄い負荷がかかったって」
医者曰く、そう言う事らしい。
当の本人がよく分かっていない。火事場のクソ力なのか。
「けど、人は護れた」
少年にとって、それで十分だ。
自分の痛みも傷も省みない。
それで充分だ。少年は何処か、満足気だ。
二尾目をつゆにつけてる最中、星の携帯端末を見る。
成る程。何か猫っぽいマスコットキャラ。コイツがネコマニャンらしい。
「ふぅん、こういうのが好きなんだ」
少年は興味が無いらしい。
「……それで、星より何?ネコマニャンが好き?」
だが尻切れトンボは見逃さないから耳ざとい!不思議そうに横目で見てくるぞ!
■貴家 星 > 味わうように海老天を頬張る菖蒲殿に対し此方は食べるペースがちょっと早いかもしれない。
サクサク!海老!油!うまい!うまい!等々シンプルに海老天=美味しいに支配され、きっと、いや間違いなく上機嫌な顔である。
「ぬう危ない奴……そうさなあ、年末に差し掛かると師走と称し諸々忙しくもなるが、騒擾沙汰も増えるのが困りものよな」
「私は主に失せ人探しであるとか、そういう方の委員活動をしておるが行先知れずも中々多くてのう……」
人斬りに切られ人知れず処分されてしまった誰か。が浮かべば上機嫌な顔は一時消えて、尾もしんなりと萎れるものである。
視線も下がり、自然と菖蒲殿の言葉が示す足へと向かう。折れた、との事だが平気に歩いておるように見えたのう。
「人を護れる菖蒲殿は凄いと思うが、うむ……まあ、そのな。自分を護るのも大事にせぬといかんよ」
海老天を食べる手を止め、それとなく入院着の上から彼の太腿を撫でてみる。特に違和感などは感じない。感じる術も無い。
それでも何処となく、労わるような手つき。
入れ替わるように飛んで来る矢の如き質問。
「……ま、まあ人並みには好きであるよ?それで、まあ、うむ。先輩でネコマニャン好きな人がおってのう」
「自然と色々詳しくもなるというか……おお、そうだ今度共にネコマニャンカフェなど詣でてみるのはどうかのう」
「なかなか甘味が美味であり面白い所なのだ」
不思議そうな視線を避けようと視線が右往左往と宙を泳いで溺れて沈む。
中庭に不自然な誤魔化し笑いが響く。
■芥子風 菖蒲 >
「……ごめん、オレがもうちょっと強ければ安心させれるのかな」
別のあの人斬り怪盗ばかりが問題じゃない。
表に出てこようとする違反者や、必要以上に暴れる危険人物は後を絶たない。
一人で限界がある事は理解しているけど、思わずにはいられない。
自分が弱いと、誰かに迷惑が掛かるんじゃないんかと。
芝生に落とす青空は、何処となく憂いを帯びている。
「ダスクス……何とかをあの時捕まえれれば……、……」
そうで無くても、"斬れていたら"終わった話では無いか。
そうでもしないと止まらないのか。違反者に対する怒り。
物静かな少年の内側に潜む歪さが、殺意となって徐々に瞳孔が開いて……────……。
「……ん、星の方も大変そうだね。大丈夫?」
ふと、青空はちゃんと広がった。
彼女の隣ですごむような事をしても、意味は無いから冷静になったのだ。
「ちゃんと大事にしてるよ。生きてないと、戦えないから」
彼女の心配とはまたずれた返答だ。
その"大事"とは、何方かと言えば"物"を大事にする感覚に近い。
勿論、死ぬ気はないし自分の命もちゃんと勘定に入れている。
だが、それは飽く迄消耗品。皆を護るために、常にギリギリまで削るもの。
少年にとっての自分の命とは、羽衣よりも軽いものだ。
太ももを撫でられると視線を落とし、くすぐったいよ、と嬉しそうに身を僅かに揺らした。
「ネコマニャ……何?」
なんだ。そのネコマニャンと言うのはそんなに人気なのか。
世間の流行りとはよく分からないし、もしかして風紀でプチ流行中?
ふぅん、と適当に相槌を打って。
「それで、その先輩って星の先輩?どんな人?狐?」
どういう連想ゲームだ。動物繋がりだ。なんで。
■貴家 星 > 「いやいや狼藉を働く与太郎などは、良くも悪くも他者などどうでもいい輩かと思うゆえな」
「菖蒲殿は菖蒲殿のままでいてくれるほうが私などは安心──」
様々に混ざる話題の行方。近頃の島内の話であるとか可愛らしいマスコットの話であるとか。
美味しい天婦羅の話でもあったろうし、これからの楽しい諸々のことでもあったに違いない。
「──」
それらの最中に、菖蒲殿が意識をしたかは判らないが漲る殺意に言葉を失う。
獣の本能が恐れるものに尾がぶわりと膨らんで、ベンチの隙間から垂直に立つ。
「ま、まあまあそう逸らず逸らず!菖蒲殿は独りではないんじゃぞ」
「皆で協力すれば宜しかろう。風紀の刑事部には頼れる先輩方もおるしのう!」
菖蒲殿の太腿から手を離し、携帯端末と箸を持った両手をはためく鳥のように動かして鼓舞とも慰留ともつかぬ動き。
ちゃんと大事にしているとの旨には安心こそすれ、殺気は少々恐ろしい。
「そ、それで~……うむ。頼れる先輩方にしてネコマニャン大好きなのが其方も知っておろうレイチェル殿じゃな」
空気を換えようとせんがために名前を出そう。
今頃くしゃみでもしておられるやもしれん。合掌である。
■芥子風 菖蒲 >
「……ああ、あの人か。昔は凄かった……って、人?」
確か刑事課の部屋の奥に居た眼帯の少女。
書類の山に囲まれてて、何時も大変そうなイメージだ。
刑事課へとよる時とかに、ちらりと見た事はある。
そこまで強い興味がある人ではないが、一つだけ少年は思う事がある。
「……オレは」
一拍子。
「オレは、"あの人みたいになるのはゴメン"だって思うかな」
徐に、口に出した。
青空の瞳が大木を見上げる。
「オレが独りじゃないのは知ってる。星も舞子も、皆もいる。
オレは助けられてばかりだから、皆の代わりに戦ったり、護る事でしか恩を返せない」
「オレの異能は、戦うしか出来ないからさ。
あんな風に戦えなくなるのはゴメンだね」
そこに如何なる事情、理由があるかは知らない。
だが、一線を退く理由はなんであれ退いた事に変わりはない。
戦えないものでもきっと、やる事はあるだろう。
だが、少年は違った。少年の立ち位置は、常に誰かの前だ。
自分の護りたい誰かの前に立ち、難題を蹴散らす。
菖蒲は自分の異能の価値はその程度でしかない。なら、それを果たせなければ意味がない。
……生きている意味が。
何気なしに齧った三尾目。何だかちょっと不味いや。
「それにあの人、最近遊んでばかりなんじゃないの?
さっさと引退すればいいのに。書類整理する人で、そんなに少ないの?」
少年にとってのレイチェル・ラムレイとは、ある意味"恐怖"の対象なのだ。
いつかああなってしまうのが怖い。
少年の性分も合わさり、何処となく冷たい物言いではあるが悪意がある訳じゃない。
ただ、当たりばかりは強かった。はぁ、と無意識に漏れた溜息。
よっこいしょ、とベンチから立ち上がる。
「天ぷらありがとう。美味しかったよ。
大丈夫、明日にはオレは戦えるから。そのレイチェルなんとかって人の分も」
「星や舞子達の分まで戦うから」
そればかりは、自分で決めた事だ。
歪な覚悟のまま、少年は僅かに笑みを浮かべた。
「そろそろ冷えてくるし、部屋に戻るよ。星も部屋にくる?」
■貴家 星 > 予想外の言葉だった。
はためくような手は真実時が止まったようになり、赤い瞳ばかりが数度瞬く。
続く言葉も何処か、何故か、隔絶としたものを思わせる。
それは私が妖であるからで、
それは菖蒲殿が人であるからか、
或いはまた違う何かがあるものか、解らないし、判らない。
今、私がどんな顔で菖蒲殿を見ているのかも。
「………お、おう。口に合えば何より……いや、病み上がりは無理をしてはいかぬよ」
「私とて、些少には」
戦う力はある。
異能、雷伯。
他者を殺生せしめる妖の雷。
調整こそすれ、余人に見舞うものではない。
だから私の分まで戦うと言う様に、些かに困惑したのかもしれない。言葉は宙を彷徨い泡のように消えた。
「……と、ともあれ。そうじゃのう。では部屋までは同道しよう。さ、御手を拝借と相成ろう」
「手を貸すくらいは私にだってできるからの」
それでも。
彼の道行きが健やかであればと願おう。私の名の通りに。