2022/08/02 のログ
ご案内:「常世ディスティニーランド」にドナルド・ピジョンさんが現れました。
ドナルド・ピジョン >  
ディスティニーランド。
学生街から専用バスですぐの、未開拓区。
そんな場所に、その夢の国は広がっている。

夢の国に穢れはご法度。
たとえば、パーク内にゴミが放置されているのを見たことがあるだろうか。
パーク内の至るところにあるガラス窓。
そこに、水垢や埃がついたままになっているのを
見たことがあるだろうか。

そして、数え切れないほどの電飾。
それらが幾つも切れているような光景を見たことがあるだろうか。

おそらくないだろう。
環境面はスイーパーをはじめとしたキャスト達によって、
素晴らしいものに保たれている。

もちろん、衛生的な環境だけではない。
接客についても高い水準の対応が求められる。
キャストは子ども達相手にきちんと膝を折って常に笑顔で対応するし、
ゲストがコンタクトレンズをアトラクション内で失くせば、
それを一生懸命探し出す。

夢の国と言えば聞こえは良いが、
その夢を守る為に日々凄まじい努力が行われている。

アルバイトが多く存在しているにも関わらず、徹底した教育により、
今日もこの地は軽やかなパーク内の音楽と共に夢を奏でている。

ドナルド・ピジョン >  
ディスティニーキャッスル。
ディスティニーランド中央区にその影を落とす巨大な夢の城。
その城を背に今、一人のドナルド・ピジョンが羽ばたいた――。

ドナルド・ピジョン。略して、ドナピジ。
イエバトをモチーフにした彼は、
ディスティニーランドの人気キャラクターの一人(一羽?)である。
ひょこひょこと剽軽な動きで
ディスティニーキャッスル前に現れたドナピジは、
周囲の学生達に精一杯羽を振ってみせていた。

―――
――


(ひえぇ……とんでもない暑さッス~……!)

さて一方、こちらはドナピジの着ぐるみの中。
そこで一生懸命両腕を振っていたのは、
五百森 伽怜――常世学園1年生、
廃部寸前の新聞同好会のメンバーの一人である。
資金不足のため、つい最近になって
ディスティニーランドでアルバイトを始めたのだ。

身体中汗まみれになりながら、
みんなの目を楽しませるべく懸命に動き続ける。


『ごめんね、五百森ちゃん。
 どうしてもドナピジの人が今日出勤できないって……。
 大丈夫、中に入ってぱたぱたしたり、
 ちょっと可愛くポーズ決めたりしてるだけで大丈夫だから。
 給料もちょっと上乗せしとくからさ』

五百森の脳内には今、
肩にポンと手を置いて軽やかに笑みを浮かべる
上司の言葉が思い起こされていた。

(全っっっ然! 全然大丈夫じゃないッス~!!)

保冷剤を入れたジャケットは着込んでいる。
ドナピジの頭部に搭載されたモバイルバッテリーで駆動する扇風機もある。
しかし、それがこの地獄の業火でどれだけ役に立つだろうか。

はぁはぁ、と既に息が荒くなってきた。
別に着ぐるみの中なので笑顔で居る必要はないのだが、そこは五百森。
汗だくの笑顔で、行き交う学生達に駆け寄ってはポーズを決めている。

それはごくありふれた、パーク内の日常。
キャスト達が一丸となって創り上げるディスティニーランドという幻想。
その夢を創る為の、数ある努力の一つ。




その筈だった。

ドナルド・ピジョン >  
『ドナピジじゃん! 写真撮って~!』

『俺も俺も!』

『ドナピジって結構可愛いんだな~』

この熱暑の中で、あろうことか。
数多の――『異常なまでの数の』学生達が、
一斉にドナピジに群がり始めたのである!

傍から見ていても、ちょっと尋常ではないレベルの集まり方。

(な、何だかやばいことになってきたッス~……!?)

夏場の押しくら饅頭、開幕――!!

哀れドナピジは、大勢の学生達にめちゃくちゃに押しまくられ、
ふらふらとしている。羽を動かす元気もないらしい。
倒れるのも時間の問題だろう。


このままでは最悪の事態が訪れてしまう――。

ご案内:「常世ディスティニーランド」に北上 芹香さんが現れました。
北上 芹香 >  
やばい。この暑い中事件が起きている。
もうこの暑さが既に事件なのに。

ドナテロ・フュージョンだっけ………
よく覚えてないけどディスティニーランドの人気キャラクターが
圧倒的人の波に揉みくちゃにされている。

頭の中に選択肢が出てくる。

1.この暑さの中、人混みに割って入ってまで助ける義理はない。見捨てよう。
2.しょうがないなぁ。熱中症で倒れられたら次のドナテロは私だ。助けよう。

 
我ながらしょうもない選択肢しかない。
心の底から人助けの選択肢を取れるのを人はヒーローと呼ぶのだから。

メロディ限界説というものがある。
人が好むイイカンジの旋律は限られるため、
人はあと百年ほどで歌という鉱脈を掘り尽くしてしまう。
過去に誰かが作った歌しか残らなくなる、というものだ。

私はその説自体に興味はないけど、
そこから逆算して人が好むセンテンスを抜き出す、という仮説には興味がある。
すなわち。

北上 芹香 > 「ラ・ラ・シー!!」
北上 芹香 >  
ラ、ラ、シの順番で歌うと人は注目を集めやすい。
大声で歌って、呆気に取られる人だかりの間をすり抜ける。

「行こう、ドナテロ」
「夢の世界へ!!」

そう言ってドナテロ(だっけ…)の手を引いて
笑顔でしゃらんらーなステップを踏みながら従業員スペースまで走り出す。
うわあっつ!! この気温で走るとあっつ!!

ドナルド・ピジョン >  
その旋律の効果は抜群であった。
ドナピジに群がっていた数多の学生達は、
突然聞こえてきた声に、思わず周囲を見渡す。


(え、何……!? 何が起きてるッス……!?)

突然のことに呆気に取られたのは、ドナピジ――五百森も同じ。
薄れゆく意識の中で、それでも自分の羽を引っ張ってくれた
者に縋り付くようにして、一緒に夢の世界へと向かうのだった。

そう、バックステージへ。


バックステージに、他に人影は居なかった。
どのキャストも忙しなく走り回っているのだろう。

そうして、ぜぇぜぇと息を吐きながら、
ドナピジは頭に手をかける。

ご案内:「常世ディスティニーランド」からドナルド・ピジョンさんが去りました。
ご案内:「常世ディスティニーランド」に五百森 伽怜さんが現れました。
五百森 伽怜 >  
「……助かった、助かったッス……。
 夢を守ってくれてありがとうッス……
 ドナテロじゃなくて、ドナルド・ピジョン……
 ドナピジッスけど」

すっかり真っ赤になった顔からは、今も汗がだくだくと
流れている。
顔は五百森、身体だけドナピジの謎の生物は、
大きく息を吸って吐いた後、自分を助けてくれた少女の方を
見やった。

「スイーパーの方っすね。ありがとうございましたッス。
 まさか歌で注意を引いてくれるとは……。
 強烈で、それでも綺麗な声だったッス……。
 アーティストさんか何かッスか?」

大きな声だったが、かなり綺麗な歌声だったように思う。

「……あ、ちょっと手伝って貰っても良いッスか?」

そんなことを言いつつ、
背中のジッパーを北上の方へと向ける。
同時に、お尻の羽が揺れた。

そう、着ぐるみは一人で脱ぐことができないのだ。

北上 芹香 >  
「いえいえ、お礼には及ばないよ」

キャスト用冷蔵庫の奥の方からよく冷えたスポドリを二本取る。
冷蔵庫に吊り下げられてる使用履歴に現時刻を書いて振り返る。

「次のドナテロ・フュージョンになるのはちょっとイヤだしね」
「え、ドナルド・ピジョンだっけ………」

バイトしてるのにうろ覚え。

「うん、常世学園生徒兼、ディスティニーランドスイーパー兼」
「ハードアルバイター兼のガールズバンド#迷走中のヴォーカル兼のギターです」

兼ねすぎ。

「あ、これ一人で脱げないやつなんだ」

ジッパーを下ろす。
桃のようないい香りがした。気がした。

「ホイホイにゃー」

ジッパーを下ろしてスポドリを投げた。

五百森 伽怜 >  
「めちゃくちゃ兼ねまくってるッスね!?
 しかし、ガールズバンドッスか~! 素敵ッスね……。
 今度ぜひ、取材をさせていただきたいところッス!
 
 あたしは五百森 伽怜っていうッス。
 ディスティニーランドのキャスト兼、
 新聞同好会のメンバーをやってるッス」

こちらもこちらで、自己紹介。

ジッパーを脱がして貰えば、そこから出てくる
保冷剤入りのジャケット。

投げられたスポドリを受け取れば、
一気飲みしてぷはぁ、と一息。

「……しかし、本当に申し訳ないッス。
 まさか、あんなことになってしまうとは……」

異常なまでの人だかり。
上司からの頼みを、一度断った理由。

「あたし、何というかその……ちょっと人を引っ張っちゃう性質が
 あるんスよね……異能、じゃないんスけど。
 こう、生まれ持った性質みたいな……」

流石にあの光景を見られたら誤魔化せないだろう、とややオブラートには包みつつも、
ストレートに伝える。
北上から少し視線を逸らしながら、ため息混をついた後に
しっかり頭を下げる。

北上 芹香 >  
「あー、メインジョブはバイトヘルだから」
「ごめんバンドのためにバイトしてるんだった……逆だろうか」

小さく手を振って自分の分のスポドリを開封する。

「北上芹香。よろしくね」

あんなことになってしまう。
つまり、彼女にとっては察知できた事態。
生まれ持った性質。
つまり、彼女にとってはコントロールできない事態。

「青春ってさ、ゴマ油に似てると思うんだ」
「若い学生をヘイフリック限界で締め付けると」

「青春という輝かしい概念が絞り出される」
「当人にとっては苦しいんだけどね、ゴマ油絞られるわけだし」

「というわけで喋りにくいなら喋らなくていいヨン」

何がというわけでなのかわからない。
でも、ため息混じりにコントロールできない性質の話を聞かされると。
こっちも悲しい気持ちになりそうだから。

五百森 伽怜 >  
北上芹香と名乗った少女が口にした難解な言葉をそのまま復唱しようとする。

「ヘイ……? ヘイヘイ……? フリフリ……?」

失敗した。


ちょっと難しい言葉で理解ができなかったが、
それでも彼女が伝えたかったことは最後の一言から
しっかり伝わってきた。

「ありがたいッス。どういうことなのか説明しろー、って
 怒られてもおかしくないと思ったッス。
 芹香さんは良い人ッスね」

ため息はさっきので十分吐いた。
北上の言葉を受ければ、まだ赤みが引けていない顔で、
精一杯に笑顔を見せた。

そのまま、
バックステージに置いてあった鞄から錠剤を取り出して
スポドリで流し込む。


「ふー、お陰様で落ち着いたッス。
 ちょっと早めにはなっちゃったッスけど、
 一応今日のドナピジの出番は終わりッスから、
 まぁ何とか凌ぎきれたッスね……」

夏場は、着ぐるみの出番が短くなるのだ。
オンステージの方を見ながら、一息ついてスポドリをもう一口。

「そうだっ、助けて貰ったんだからお礼の一つもしたいッス!
 言ってくれればこの五百森、頑張ってお礼するッス!
 何か出来ることはないッスか……!?」

ばっと立ち上がって、北上の近くへと寄れば、
ぐっと拳を握ってそう口にする。

北上 芹香 >  
タオルで汗を拭いながら人差し指を立てる。

「リピートアフタミー」
「ヘイフリック限界」

言わせて意味があるわけじゃないけど。面白いから。

「あ、今の部分歌詞に使える気がする」

メモを取る。

「いいよ、言いづらいことの一つや二つ誰にでもあるしね」
「私にとって中二病を罹患して13歳の頃に猫の妖精だって周囲に言いふらしてた時期みたいなもん」

五百森ちゃんの笑顔は朗らかで。
ララシーの価値はあったかな。と思ったりした。

「私はまだスイーパー地獄が待ってるけどね………」

夢の世界にガム吐き捨てたヤツへの怨嗟で鬱ソング作ったこともある。
夏場のスイーパーとは地獄なのだ。

「あっとぉー五百森選手近いですよー近い近い」

熱意を見せてくれてる以上、なんとも無碍にはしづらい。
次にドナピジの内蔵パーツになりたくない一心という邪念で助けたのだけれど。

「えーと……新聞部なんだっけ」
「小さくでいいからバンドの名前のっけてよ」

「欲しい知名度欲しい欲しい欲しい知名度欲しい知名度」

五百森 伽怜 >  
「へいふりっくげんかい……」

ひとまず鞄から取り出した端末で意味を調べてみる。
細胞の分裂回数の限界。
それと青春を結びつける眼前の少女のセンス。
やはりアーティストってすごいんだ。
五百森は浅い理解の中から深いリスペクトを抱いた!

「それは流石に面白すぎるッス。
 でも、そういう時期ってあるッスよね……」

たはは、と笑う五百森。
その笑顔からは馬鹿にしている様子は微塵も感じられない。
ただ無理のない、まっすぐな共感のみが感じられる笑み。

「そっすよね……スイーパー地獄。
 お疲れ様ッス」

本当にディスティニーランドのような
遊園地を綺麗に保っているキャストには頭が上がらない。

「めちゃくちゃリズミカルッスね!? 欲しい知名度欲しい欲しい……。
 でも分かったッス! そういうことなら全力記事にするッスよ!
 小さくじゃなくてこう、ババーンと特集を組むッス!
 #迷走中、そのヴォーカル兼ギターの北上 芹香の魅力に迫る! 
 これッス!」

口にすれば、鞄の中から写真を取り出す。
その写真をスッと空中で振ったかと思えば、
その手には大きなノートとペンが握られていた。

「まだ時間は大丈夫ッスかね……?
 あたしはドナピジの後はちょっと時間空いてるッスから、
 もし良ければ、取材など……!
 あ、掃除は後で手伝うッスから!」

記者魂が燃えてきたらしい。
きらきらと輝く瞳でメモを取る姿勢を見せている!

北上 芹香 >  
「まぁかっこいいから使ってるだけで意味知らないんだけど」

ミネラルタブレットを噛む。
美味しいとは思えないけど生きるためには仕方ない。

「中3で音楽始めて目が覚めて」
「猫の妖精のくだりは忘れてくださいと必死に周りに伝えたけど私は無力だった」

人好きのする笑顔。
そして人を虚仮にした色の見えない声。
めちゃくちゃいい人だ!!
汚れちまった苦しみに今日も酷暑が責め立てる!!

「園内で犬を放し飼いをしたクレイジーお客様の飼い犬を笑顔で追いかけた時はさすがに死にたくなったよ」
「というかこれスイーパーの仕事じゃなくない」

え、軽い気持ちで言ったのにマジで記事を作ろうとしてくれてる。
これはこっちも襟を正して対峙せねばならない。

「え、あ、じゃあお願いします」

ソッコーで敬語になった。
緊張感カチコチ。

五百森 伽怜 >  
「ええっ!? 意味知らなかったんスか!?
 何というか、すごい世界に生きてる方な気がしてきたッス……」

この人、すっごいフリーダムな人のようだ。
やっぱりアーティストたるもの、常人の感性とは異なるのだろう。

「……ああ! あの時の人だったッスか。
 グッズ販売してた時に、走って行く大きな犬を追いかけていく
 人が居るのを前に見たッス……」

夢の国どころか、戦場。
日々の業務はまるで兵士の戦いである。

「じゃあ、今回はシンプルに3つ質問するッス!
 中三で音楽を始めて目覚めて……ということでしたが、
 音楽を始めたきっかけって何だったんスか?
 
 あと、尊敬する人物についても教えて欲しいッス!」

やや、ちらっちらっと視線は逸らしながらも、
興味津々の表情で取材を行っていく。

北上 芹香 >  
「逆に考えてみよう」
「よくわかってないムズかしい言葉をうろ覚えの意味合いで使った時気持ちよくない?」
「あーあーダモクレスの剣ダモクレスの剣みたいな」

バイトヘル中はボーントゥビーフリーくらいの気持ちでないと。
正気に戻ってしまうからダメ。

「あの時、本当は笑顔じゃなくても良かったのかもしれないけど」
「笑顔のほうが怒られないかな?と思って笑顔でワンちゃんを追いかけさせたいただきました」

夢を守るために流される汗と涙の物語。
綺麗なようだが実際は冷や汗と血涙なのだ。

「音楽を始めたきっかけは中二病の症状の一環で洋楽聴いたらシビれたから」
「尊敬する人物はピーター・ステートヒル」

ピーター・ステートヒル。
人気絶大なバンド『シークレット・ステラ―』のボーカル。

「シークレット・ステラーをシースーと略した人を脳内で何度殺してもいい」
「これをロボット三原則と言います」

汗も引いてきた。休憩は大事だなぁ。

五百森 伽怜 >  
ふむふむ、と頷きながら北上の話を聞く五百森。
彼女の口から語られる言葉は独特で、とっても個性的で。
たまに宇宙人なのだろうかと思ってしまうこともある。
しかしこの時間は、一緒に居て心地よいと思えた。

「ピーター・ステートヒル!
 あたしも聴いたことがあるッスよ!
 良いッスよね、シークレット・ステラー!
 なるほどなるほど……それが始まりだった、と……」

一生懸命メモする。
ここはバックステージなので、写真撮影は流石にできない。
メモの中で、目の前の少女の語り口や表情も書き入れていく。

(ロボット三原則は絶対違う気がするッス……
 けどま、お話をしてて楽しい人ッスね~)

いつも通りの取材を行うことで、
五百森は五百森でかなり落ち着きと
元気を取り戻してきたようだった。

「じゃあ最後ッス!
 ずばり、#迷走中のアピールポイントと、
 初めて聴く人にオススメの曲を教えて欲しいッス!」

さらさらとペンを走らせ、目は合わせないように
少しだけ視線を上げた。

北上 芹香 >  
「いいよね、ピーター・ステートヒル」
「ビビっと来たし、いつかピーター・ステートヒルを目指したいと」

「いうか」
「ぶっちゃけなりたい。ピーター・ステートヒルに」

あ、後で写真送ろっか?
とか聞きながら。
でも携帯デバイスのテキトーなカメラよりも新聞部は立派なカメラを使っているのか……

「落ち着いた?」
「本領発揮って感じだね」

制汗剤をしゅっと自分の脇に吹いて。

「オーケイ、最後だね」
「アピールポイントはいつどこで見ても迷走してること」

「おすすめの曲は『走れジュリエット』、ライブハウス『クルスニク』でライブする時は必ず歌ってるからさ」

目を合わせないのはナンデだろーとか思いながら。

とりあえず笑って。

「いい記事にしてね」

五百森 伽怜 >  
「なるほど、まさに人生の目標ってやつなんスね!
 憧れる、っていうくらいなら結構あるッスけど、
 『なりたい』っていうほどなら、相当ッスね」

写真を送ろうかと聞かれれば、ありがたいッス! と感謝の言葉を。
そして、そんなやり取りをしながら、
気遣いのできる人だなと感心する五百森であった。

「迷走がアピールポイント……
 つまり色んな方面にチャレンジしてるってことッスね?」

勝手にリフレーミングした。

「ライブハウス『クルスニク』……ッスね!
 それじゃ、そこの所もしっかり載せておくッスよ」

そうして、ノートをパタンと閉じて。

「それから、これは個人的に。クルスニクでのライブは
 見に行かせて貰うッスよ!
 せっかくこうして知り合ったわけッスから……。
 音楽活動、頑張って欲しいッス! 応援してるッス!」

ぐっと、改めて拳を握る。

「任せて欲しいッス。きちんと音楽を聴いた上で、
 バンドの魅力を伝えてみせるッス!」

さて、結構な時間が経ってしまっている。

「それじゃ、そろそろ行くッスかね。
 あたしはこれからフリーッスから。
 一緒に掃除しに行くッスよ!」

ちょっと伏し目がちなウィンク一つ。

北上 芹香 >  
「人生の目標は売れることなんだけど」
「最終的にはピーターと同化したい」

虚ろな目つきで言ってから。
正気に戻って会話を続ける。

「そういうコト」
「ジャンルも定まらない、メンバーの衣装の方向性も定まらない」
「いつまでいってもチャレンジャブル」

マジで真剣に私のことを記事にしてくれそうでちょっと感動する。
IMT(五百森ちゃんマジ天使)。

「ありがとう………!」
「五百森ちゃんこれ私の連絡先ー、と強引に握らせる」

ああ、SNSの悪意に疲れ果てていると。
このストレートな笑顔に癒される。

「オッケーディース、仕事まで手伝ってくれるなら言う事レス」

私もウインクをして。

「それじゃ……夢の国を隅々まで清潔に保つとしますか」

改めてスイーパールックになって帽子を目深に被った。
……なんか、視線を合わせられない理由がありそうだし。

五百森 伽怜 >  
「同化する……」

(何だか重いッス!?)

すらすらと語ってくれては居たけれど、
もしかしたら芹香ちゃんも色々あったのかもしれない。
それでも、あたしの性質について深掘りしなかった彼女の言葉を
思い出して、ここは一旦飲み込んでおく。


もしこの人との関係が続いていくのなら。
いずれ、そういうことを話すことになるのかもしれない。

「でも、そういうの素敵だと思うッス。
 一つの何かを貫くってのも素敵ッスけど。
 そういうチャレンジングなスタイル、憧れるッスよ」

連絡先を握らされれば、お礼をしつつ名刺を返す。

「了解ッス、きちんと水分もとったし、ばっちりやるッスよ~!」

こちらはこちらでさっと着替えて。
帽子を目深に被った彼女を見て嬉しくなって、
思わず笑みを漏らしながら。

一緒に、光の中へ歩いて行く。

ああ、まだ夏は始まったばかりだ――。

ご案内:「常世ディスティニーランド」から五百森 伽怜さんが去りました。
ご案内:「常世ディスティニーランド」から北上 芹香さんが去りました。