2019/06/10 のログ
■アガサ > 「つまり前作も見なければいけない流れだね?」
難解な世界だ。どうしよう、下手な魔術書の類より難しいんじゃなかろうか、これ。
アリス君の説明を聞く私の背景には宇宙が広がり、サイボーグの鮫が泳いでいたに違いなかった。
宇宙に鮫、居るんだろうか。居るんだろうなこの映画の世界。そんな熱い信頼感が今確かにあった。
「ええー本当かなあ。それだとさっきの男の子……いやサメが救助に向かってる訳でも無いのか……
アリス君の説明だと、過去作ではサメが敵だったのもあるみたいだし、その説はありえそうだね」
直線的なレーザーは悉く回避されてしまうと学んだのか、サタンオクトパスはその全身からミサイルを放つ。
勿論ミサイルの当たるサイボーグ鮫軍団では無かったけれど、爆発したミサイルの撒き散らすものは別だった。
「うわあレーザーが曲がった!」
それは金属片だ。中空に撒き散らされたそれらにレーザーが乱反射し、鮫軍団がそうしたようにサタンオクトパスもまた空間を埋める攻撃を展開したのだ。
これにはさしもの鮫軍団も一たまりも無い。でも鮫達は止まらない。
勇壮なBGMを背景に勇敢に戦い、そして遂にはサタンオクトパスに特攻する形で盛大な相打ちを演じたのだった。
「…………」
凄い映画だったなあ。そんな感想が脳を飛び回る最中、館内の彼方此方から啜り泣く音が聴こえる。
横を見るとアリス君が泣いていて、私はハンカチでそっと目端を拭って上げた。
「アリス君は感情豊かだなあ……い、いや私も面白いとは思ったけど……」
エンディングテーマとスタッフロールが流れる。
ワンシーンカット的に子供が救出されるシーンであるとか、彼が母親と抱き合うシーンが映し出される。
そして曲も終わり、暗転するかにみえて暗転せず、ワンカットでも無い映像が流れ始めた。
ホテルで会話をしていたジョンとアレックスが波打ち際を歩いている。
『しかしナンシーの甥は災難だったな、アレックス』
『あの子の看護師は気の毒だったが無事で何よりさ、ジョン』
『しかしなんでサメ共は人類を助けてくれたんだろうな?』
『さあ?サイボーグ化されて恨んでたんじゃ──』
平穏な後日談風の会話をする二人の内、アレックスが大仰に肩を竦めた次の瞬間
『うわああああーーー!!!』
突如として海中から飛び出してきた巨大な鮫がアレックスの足を齧り、あっという間に海中へと引きずり込んで行く!
そこで画面は暗転しTo Be Continued?の表示が右下に踊るように表示された。
勿論館内はそこでまた歓声が上がった。
「サメ、敵じゃんか!?」
私の声もあがった。
■アリス >
「家にあるから……前作のディスク…あるから…家に……」
既に必死だった。
目の前の映像美とそれに連なる重厚な物語に心を奪われていた。
「サメにとっては多分、助けられたら助ける程度の存在よ」
行けたら行くみたいな。行かないパターンねこれ。
サタンオクトパスが飽和攻撃を仕掛けると、会場のボルテージは上がり、そして。
戦いは終わった。そしてスタッフロールの中、誰も席を立つ人がいない。
よく訓練されたファン。もちろん、製作者もそれを裏切らない。
「こ、これ………これ見だがっだ…」
涙声で、ハンカチで顔を拭われながら戦士たちの鎮魂を祈った。
そして。
最後に
サメがアレックスを襲った。
「……次回作…決まったようなものね!!」
大興奮でばしばしとアガサの肩を叩いて。
それから二人で映画の感想を話しながらクレープを食べに行った。
ずっと、ずっと。
サメとサイボーグの親和性について。
話していたとさ。
ご案内:「映画館『ユニヴァースシネマトコヨ』」からアガサさんが去りました。
ご案内:「映画館『ユニヴァースシネマトコヨ』」からアリスさんが去りました。