2020/09/11 のログ
ご案内:「火災現場跡」に角鹿建悟さんが現れました。
■角鹿建悟 > ――9月某日、深夜未明に学生街の3階建ての建造物から出火、瞬く間に火は建物を飲み込んだ。
それから半日ほどが経過して…消火活動、人命救助、そして現場検証。その全てが滞りなく終わった。
後はその建物を解体して更地にでもするのが普通だが――この島ではちょっと違う。
「――見事に焼けているな…完全に崩れ落ちてないだけ全然マシ、か」
黒い作業服に、左腕に生活委員会の腕章を付けた背の高い一人の少年。
仏頂面に銀色の瞳でその激しく焼け跡が残り、所々が崩れ割れている建物を見上げていた。
(――調子はいまいちだが、問題ない。……やれる)
ここ最近は体調の悪化が進行している――原因?分かっている、今までの”ツケ”が回ってきているのだろう。
だが、それはそれだ。直すのが最優先。何時も通りで彼の中の当たり前。
「――さて、始めるか…。」
焼けて煤けた壁の一角に右手を触れさせる。実際は触れなくても能力の範囲内なら直せるが、この方がより正確だ。
右手の甲から、時計盤のような幾何学模様が浮かび上がれば、その長針と短針が少しずつ逆時計回りに回り始める。
――響く音は歯車の動作音。機械的に、無機質に、徹底的に、容赦なく。
――さぁ、今日も直そう。仕事の始まりだ。能力の発動と同時、まず崩れかけた建物の一部が”巻き戻る”ようにその形を元へと戻していく。それがスタートだ。
ご案内:「火災現場跡」に月夜見 真琴さんが現れました。
■月夜見 真琴 >
この島において、どの程度から「不可思議」と言っていいものか。
画材鞄を抱えて散歩をしていた名ばかり風紀委員がしかし、
その光景を見てさしたる驚きを浮かべなかったのはひとえに、
"そういう能力者"がいるという噂を、小耳に挟んでいたからである。
足を止めた。
「いやはや、判っていても。
実際に見てみればまさに"聞きしに勝る"有り様だな」
覆水を盆に返す。物理法則に対する暴挙。
その光景の"仕掛け人"に対して、愉快そうに。
甘やかにささやく声を、背後からかけた。
白い女。
それが、すこし距離をあけた位置に立って。
重たげに鞄を足元に置くと。
"戻る"光景を、キャスケットの鍔下からまじまじとみつめている。
■角鹿建悟 > 「――俺はそんな有名人という訳ではないんだが…。」
背後から唐突に聞こえてくる愉快げな声。そちらには振り向かずに甘い囁きにも似た声の持ち主にそう返す。
その間にも、少しずつ割れた窓が元に戻る、崩れた破片が元の場所に正しく砕ける前へと戻っていく。
煤けた焼け跡も綺麗サッパリと消えていく光景は魔法じみているが――
その手に浮かぶ時計盤、歯車が回る音、魔法みたいな光景に反してそれはむしろ機械的で遊びが無い。
――”直し屋”と彼が呼ばれる所以。無駄無く徹底的に、そして早く。
物の数十秒で建物の半分程度は修復完了。そのまま顔だけは後ろへと向ける。
――白い女。真っ先に浮かんだ第一印象がそれだった。何処か浮世離れした陽炎じみた空気。
重たそうな鞄を足元に置きながら、キャスケットの下から見つめる視線と目が合う。
「…多分、初対面だとは思うが――”聞きしに勝る”というのはどういう事だ?」
きっとお互い面識は無いだろうが、彼女の先の口ぶりは…どうも自分の力か何かを聞いた覚えがあるような感じに聞こえた。
■月夜見 真琴 >
「それはおまえが、みずからの風評に興味がないだけなのだろうさ。
"直す"者、の噂はようくこの耳にきこえてくるし。
先日やつがれの居宅に生活委員を招いた。
その折にいろいろとうたってもらったのさ、角鹿建悟」
ここで出会えたのは偶然だが、と。
携帯デバイスを取り出して、カメラをその現場に構える。
"壊れたものが、戻っていく"――胸の内側をざわつかせる情景。
「もしもの時に頼れるアテは多いほうがよかろう?
ましてここまでの離れ業となれば――
ああ、問題がなければ撮ってもいいかな?
イーゼルを建てて、眺めている時間はなさそうだ、と」
ああ、とそこまで語って、思い出したように。
「風紀委員の月夜見真琴。三年だ。
とはいえ、これは十割がた私事。
看過できぬというのなら、こっそりとやらせてもらう」
■角鹿建悟 > 「――まぁ、否定はしない。誰に何をどう言われようが、俺がやる事は変わらないからな」
実際、己の評価に興味なんて全然無い。直す事が己の中の最優先――先に待つのが自滅だとしても。
…しかし、こちらは彼女の事は全く知らない。――とはいえ、進んで知りたいと思う事も無い。
人に興味が無い――と、いうのは聊か極論に過ぎるが、直す事に比重を傾け過ぎているのは否めない。
「――仕事の依頼なら、何時でも受け付けるが――離れ業という訳でも…いや、まぁ構わないが」
携帯を取り出してカメラを今、まさに修復の真っ最中の現場に向ける白い女。
やつがれ、という独特の一人称といい変わり者、というイメージも強く…まぁ仕事の邪魔にならないなら別にいいか、という割り切り。
「風紀の――月夜見先輩、か。俺の方はどうやら自己紹介は必要無さそうだな」
少なくとも、名前や容姿、そして能力の大まかな効果はその”噂”に含まれているだろうから。
そうやって会話をぽつぽつとしながらも集中は切らさずに、修復は続けていく…時々、体のあちこちが”軋む”感覚に陥るが、まだ…平気だ。
■月夜見 真琴 >
「壊れたものを巻き戻す」
初秋の風につぶやいて、その後に携帯デバイスのカメラが作動する音が響く。
画面を確認し、写りの良さに上機嫌に口許を笑ませた。
「その響きに惹かれる者は、どれほどいるだろうね。
不可逆を可逆にせしめるその行いは、奇跡であるとさえいえよう。
離れていないのであれば偉業と言って差し支えあるまい。
壊すより直すほうが、よほどむずかしいことなのだから」
続いて、少し立ち位置を変えて写真を撮る。
"戻っていく"光景、巻き戻しの過程。
それはここにいなければ視られないものだった。
結果よりもそれが視たくて留まっている。
だから、つづく言葉は他愛のないこと。
銀の視線は時折、少年を背後から観察しながらも。
「鉄筋だけならず木造も直せるのかな」
ふと思いついたように問いを投げた。
■角鹿建悟 > 先輩たる白い少女の声と、時々カメラの作動音を耳に入れながら視線は建物へ。
――全体の3分の2くらいはほぼ終了しているが、勿論最後まで手抜きはしない。
…と、いうより手抜きができない性格だ。だから、細部まできっちり直していく。
「――以前も奇跡だとかそんな例えをされた事があるが…。別に奇跡なんてものじゃあない。
…ああ、でも壊すより直すほうが難しいのは同感だ。…幾ら直してもキリが無い」
ぼやきにも聞こえるが、実際にはそこに感情は乗っていない。壊されたら直す、その繰り返し。
無意味であろうと徒労であろうと、直す事くらいしか己には出来ないのだから。
時々、後ろの先輩が立ち位置を変えて写真を撮っている。
…こんな光景を見て面白いものだろうか?男にはさっぱり分からない。
「――と、いうより物体なら素材関係なく直せるが。…ああ、生物は無理だぞ。
俺の能力はあくまで物を直す事に特化した力だからな…治癒系の異能者とは別口だ」
それが最大の欠点であり、そして――無意識に刻まれた後悔の念でもある。過去を捨てた男はそれを意図的に思い出す事は無いが。
時々、何か”見られている”ように感じるが気のせいだろう、と思い直し残りの修復作業を黙々と進めていく。
時計の針は逆しまに、歯車は機械的に――その力は無慈悲に正確に、感傷を許さず直していく。
■月夜見 真琴 >
「生物は不可能。だが木造の建築物は直せる。
となると、おまえ、あれかな。
双蛇の大樹。あれを直すのは無理だろうか」
青垣山に樹立する、樹齢も知れぬ大木があった。
大の大人数人でも囲めない太い幹は、途中から、
二又に分かれ、まるで二頭の大蛇か龍が絡み合う様に見えたという。
その樹は、ある時"片一方が何者かに切断されて枯れ落ちて"、
"片一方は切断されずにより多く緑をつけている"という、
不可思議な状態に陥っていた――が。
「落雷によって幹が半ばまで消し飛んでしまった、あれだ」
二年ほど前。
今は太い巨木が、その有り様を焦げ落として失してしまっているばかり。
少し何かを懐かしげに思い起こすようにしながら。
あの樹は、今も"生物"であろうか。
もしきっと、切り出されて木材となっていれば治せるのだろうが、
あるいはすでにあの大樹は"死んで"しまった生き物だから、直せないのか。
「ああ、それと――おまえ、ちゃんと眠っているか?
休んでいるか? 四肢の関節の動き、全体の挙措。
凡そ肉体労働であろう修繕担当であるのに、少しぎこちなくみえる。
治癒の異能者にかかったほうがよいのは、おまえではないのかな」
差し出口になるが、風紀委員会にも「風紀中毒」と真琴がよぶ働き詰めがいる。
あの少女のような顔をした少年、だとか。だからこれは老婆心だ。
■角鹿建悟 > 「――双蛇の大樹?…聞いた事はある気はするが……その樹木が”生きている”なら無理だと思うぞ」
己の能力の欠点でもあり、そして制約でもある”生きているモノは直せない”という点。
その枷が取り外されてしまえば、それこそ直す事に関しては何でもアリになってしまう。
――だが、そうはならない。他ならぬ彼自身がそうしてしまっている。
「――ああ、確か途中から二又に分かれているんだったか……そうだな…。」
直す事に関しては良くも悪くも真面目だ。修復しつつも、件のその大樹の”修復”が可能かどうかを検討する。
(大樹だからつまりは生物…とはいえ、枯れ落ちているなら死んでいるから物体扱い…そうなると…”死体”と同じ、かもしれないな)
「――結論から言えば、”直せる”。ただ、それは元の綺麗な状態に戻すだけで、蘇らせる訳じゃない。
――つまり、見た目”だけ”再生させるようなものだ」
つまり、直す――元の形には戻せるが、その戻した部分は見た目だけで中身は完全に死んだまま、という訳だ。
死人と同じ――元は生物だった”物体”を修復した場合、あくまで直せるのは形だけ。
心や魂、そして失った命は絶対に元には戻らない。どれだけ巻き戻そうとも。
「――睡眠や食事は取っている、問題ない。――それよりも、まず直す事が先決だ」
彼の歪み――その駄目な所を端的に表したかのような一言。最低限食事も睡眠も取るが…
睡眠は疲労を取るだけのもの、食事は栄養さえ取れればいい、という味気ないもの。
食事の楽しさや睡眠のリラックスを…少年は全く考えていなかった。