2020/09/26 のログ
■園刃 華霧 >
「ン―……ぅー……そーダなぁ……
別に、なンもすンなってコトじゃ、ナいんだろ?
なラ、色々、やッテみたラ? そレこそ、"周り"巻き込んでサー」
落ち着かないならなんかするしかないし、その中で何か見つかりゃそれが一番、と思う。
「テーか、サ。さっきモいったケどさ。
大将の、その、おっさん臭い頑固サってどっかラきテんのさ。
ちゃンと、自分、見えてル? そコわかッテなきゃ、繰り返しダト思うナ。」
なんとなく、空虚、というか。
ただ言われたことのオウム返しになっていないか。
向き合ってるようで向き合ってない、などということにはなっていないだろうか。
いや……勿論自分を曲げる、なんていうのは難しいのはよく分かっちゃいるんだが……
「アタシの知ってるヤツに、自分を曲げラんない馬鹿がいンだけどサ。
そいツも、自分ってモンがよく視えてナイってアタシは思うンだよネ。
だカら、未だに苦労シて……まあ、本人は苦労してル気はないんだろうケド」
やれやれ、と肩をすくめる。
「ま、馬鹿はさておき。
ついデなんて聞くけドさ。対人関係ッテ……ゴールはドこサ。
どうイう大将になリたいノさ? なんもカんもはっきリしなきゃ、そりゃヤることも決まらンでしょ。」
■角鹿建悟 > 「――まぁ、能力が使えないのと修復・修繕の仕事は暫く謹慎、という以外は前とあまり変わらないが。
…その、周りを巻き込む、というのはよく分からんのだが…。」
そもそも、直す事ならむしろ周囲お構い無しで突き進んできて――まぁ、その果てがご覧の通り、という状態だが。
…それ以外の事に付いてはむしろ控えめというか、今までが無頓着過ぎたのだろう。
「――まぁ、昔、能力を身内含めて周囲に散々利用されて…揚句の果てに、俺は”誰も救えなかった”。
…多分、そこからかな。誰も救えないなら、何かを直して誰かを救う事に繋げるしかない…まぁ、それをこじらせてこんな有様になったが」
何処から来ている、のかと言われればありきたりだが過去の経験からだろう。
根底は”誰かを救いたい”という願いなのに、自身の力は人は治せない。
だから、何かを直す事で誰かを救いたかった…気が付けば直す事に固執していた。
何かを直して誰かを仮に救えても、その実感が沸かなかった。だからもっと直した。それでも足りないならもっと、もっと、と――。
「――それはまた奇遇、と言うのは不謹慎かもしれないが…。
自分を曲げられない、というか俺は一度圧し折られたが…守らなければいけない”約束”がある。
…だから、直す事は諦めないし今後も続けるつもりだ…また以前の繰り返しにならないようにしたいとは思っているが」
ゆっくりするのは苦手で居心地が悪い。肩の力をちゃんと抜けない。
どのみち、まだちゃんと立ち直れて――再起すら出来ていない。
――これは酷いな、と思う。ここ数日に何人かとちゃんと話して、少しはマシになれた、と思っていたが。
「――正直、そこまで考えつけていないな。前より少しはマシになれたら、とは思うが。
…どのみち、まだ前向きに物を考える、という事が上手く出来る気がしない」
先輩の指摘は的確だからこそ、自分の粗が色々と露呈する。
だけど、どうにかこうにかやっていくしかない。今まで我武者羅に前だけを見てきたが、今はその足を止めてしまっているのだし。
■園刃 華霧 >
「ふーン……?」
過去の経緯は……まあ、聞いた感じだいぶ闇深そうだなあ、という感じ。
そりゃこうもなるっていうのはあるんだろうけれど……さて、となれば。
「利用された……ってのはまあ、そうだな。なんとも言ってやりようもない。
けど、あとの方だな。"掬えなかった"、か。
じゃ、大将はさ。"誰かを救"いたいの? 誰でもない、誰かをさ。
それも、無限に?」
出来なかったことをどうにか取り戻したい。
それはよくわかる。しかし、じゃあゴールはどこさってなるとこれまた闇深そうだ。
ヒーロー願望なんて、持つもんじゃないんだが……さて、どうか。
「"約束"? あっハ。 大将、ソれ。それダよ、そーイうの!
そレでいいンだよ。結局さ、大将のソレって押し売りだっタわけじゃン?
お互いの顔見て、話しテ、知り合っテ……ってーノが、人付き合イの始まりッテもんでショ。
"約束"ナんて結べルんなら上等な付き合いじゃンかさ。
ッテも、そコで気合入れ過ぎテ倒れるンなら、繰り返し、だけドさ。」
からからと笑う。
「あトな。付き合いッテのは義務じゃナいぞ。権利ダ。
義務で動くンなら、まータ失敗スんぞ?」
おっと、そういえばと付け足す。
「前向きッテか……ンー……
まァ、まずは準備、じゃナいのかネ。
さっきモいったケど。自分と向き合ッテ、どコ"直す"か。じゃナい?」
■角鹿建悟 > 「――ああ、まぁ過ぎた事だし、もう未練は…いや、無い、とは言い切れないか。けどもう故郷に戻る事もないし終わった事だからな。
――人数とかそういうのは多分考えたことは無いな。かといって、特定の誰か、とも違うと思う。
…ただ、明確に自分の力で”誰かを救った”という実感が欲しかっただけなのかもしれない」
無限に人を救いたいとか、果ての無いヒーロー願望は少なくとも無いとは思う。
だけど、ゴールというものは今の時点では多分”無い”。
人数とか特定個人とか関係なく、誰かを救ったという明確な実感が欲しい。
…それを明確に感じた事は…あったかもしれないが、それでも何処か納得しきれていない。
じゃあ、どうやってどこまで救えば納得できるのか?それが難しい。…きっと、それも見失ってしまったのだろうな、と緩く溜息を零して。
「―――”落第街を直す”という荒唐無稽で実現不可能な約束であるけどな。
――俺にとっては大事な約束で違える訳にはいかないものだ。折られようと潰されようと…例え――」
命を落とそうとも。心を圧し折られて挫折をして、まだ立ち直る事も向き合う事も出来て居なくても。
その約束だけは違える訳にはいかない、と強く思っている。
「――自分と向き合う…か」
それが大切なのは分かっている。だが、自分との向き合い方って、どうやるのだろう?
それに、今の状態だとむしろドツボに嵌まってしまいそうな気がする。
「―――難しいな…。」
眉間にしわを寄せてぽつり、と。軽く考えたり思考を柔軟にする事は彼には難しい。
軽く手を顔で覆って一息……ゆっくりと手を離して。
「…物は直せても人の命や心は直せない…か」
自分自身を改める、直すにはどうしたらいいのだろう。
■園刃 華霧 >
「実感、か……ンー……そりゃ、大将……根本的に、やり方間違ってたな?
助けた相手の顔も見ないやり方してりゃ、実感なんざ一生湧くわけ無いだろ?
それこそ、あれだ。自分が直したところでも見て回っていったらどうよ。
まあそういう意味じゃ、向き合えってのは正解なのかね。」
最初から何かを間違えていたんじゃないか。
そうなったらゼロから叩きお治す必要だってあるだろう。
まあそれも自分で考えなきゃいけないんだろうけど。
「ま、実感がほしい、が正解じゃないかもしれんし……それこそ、
色々やってみて"自分"を探るしかないんじゃないの?」
やっぱりそこに戻る。
自分が何を欲しているか分からなければ、結局ゴールにはたどり着けないだろう。
で
「あのさー、大将。おまえさんがなにをどう約束したかとかは、まあ好きにすりゃいいと思うし馬鹿にする気もないんだけど。
でも一個だけ、突っ込ませてよ。」
すごく、気になって仕方ない。
「折れて潰れて死んでりゃ……それ、約束破ってないか?」
なんか盲目って怖い
目的と手段が入れ替わると言うか、なんというか……
「もー、大将さー。そういうところが、おっさんっていうか、さー。
堅いっていうかもーさー」
やれやれ、と肩をすくめる。
「さっきから、アタシとやってるじゃん。
なんでそーなったの、とか、なんでそーしたいの、とか。
そういうのだよ。」
まあ、その中で見たくもないものを見たりもするんだけど。
あと、知りたくもないものを知ったりとか。
「アタシもこの間、さんざっぱらしてきたよ。
それこそ、人生の最初から全部さかのぼっていろいろ考えてみた。
アタシが、どういう人生で、どうなってきたかってさ。
……ま、全部わかった、なんて偉そうなことは言えないけど。」
トゥルーバイツからこっち、こういうことを考える機会が増えた。
お陰様で、色んなコトがわかったようで……また色々謎も増えたり……全く困ってはいる。
ただ、少しはマシになった気もしてるし。
「勿論、ダメージでかいことも多かったし。
そういうのヤなら、なんともいえんけどさ。」
■角鹿建悟 > 「――直した場所か。…あり過ぎて全部回るのは骨が折れそうだな…。」
と、全部回ろうと最初から考えてる辺りが、こう、極端というか或る意味で生真面目が過ぎる。
そして、結局の所――確固たる自分を見つけられるかどうか。
それもこれも退院して――からになるのだろう。まだまだ精神的に不安だが。
「――――…。」
一瞬、息が詰まる。死んでも直す、という少し前の破滅的な自分の考え方、行動を思い出す。
少しの沈黙と共にゆっくりと目を閉じる。…駄目だ、こういう所がいけない。
「……そう、だな。約束は生きて果たさないと…。」
どうにも、癖というか自分の命も平然と天秤に掛ける癖がついてしまっている。
誰も救えていない、という”思い込み”が自分の命を軽くしてしまっている。
「――…そうか……あぁ、そうか」
今初めて気付いた、とばかりに瞬きをする。盲目というか自分の事すらロクに見えていない。
自分を遡る――遡る?昔を思い出す?あの思い出したくもないのを思い出す?
「――ッ…!」
胸元をグッと掴んで歯を食いしばる。…数秒…深呼吸…よし、落ち着いた。
「…悪い先輩、ちょっと取り乱しそうになった。…ああ、クソ…。」
珍しく乱暴に悪態を己に零して、もう一度深呼吸をする。故郷も家族も、ロクな思い出が無い。
■園刃 華霧 >
「マージで気づいてなかったのなー。
そりゃ重症だわ、確かに。
"約束を守る"ために"約束を破"ってたら世話ないよな。」
人を愛するあまり、逆に愛する相手を追い詰めるバカが居る。
自分を軽く見た結果、そういうミスが生まれる。
結局のところ、真に相手を見ていないのだ。
「まー、だからそうだな。
他のやつと向き合うっていったら……"自分"が"こう"したら"相手はどう思う"っていうのを大切にしないとな。
で、一番やっちゃいけないのは"オレみたいなやつ、どうとも思われてないだろう"って発想。
そいつは、相手も馬鹿にしてるからな?」
まあ大将の場合、そこまで想像が及ぶかが未知数だ。
ただ、会話のところどころで普通の発想も持っているのはわかっている。
だから、案外できるのではないだろうか。
「別に、気にしないけどさ。やっぱ重い?」
話の様子から、そうだろうなあ、とは思っていた。
自分だって、昔なんて思い出したくもないところあるのに。
「んー……」
少し、考えるようにする。
そして
「迷ってもいい。悩んでもいいよ。自信がなくたって、構わない。
そういうときにこそ――他の、周囲の『友達』や『頼れる人』が効いてくるんだ。」
朗々と、口にする。
「だから、みんなと“分かち合う”んだ、とさ。
受け売りだけど。」
へらりと笑う。
「大将、多分もうやってるんだろうけれど。
独りで全部抱え込むなよ? 」
■角鹿建悟 > 「…返す言葉も無いな…。」
ああ、本当に。俺は今までどれだけの人と向き合わず、その声や警告、感謝を聞き流してきたのだろう。
…もう、何度目だ。こうやって気付かされて後悔するのは。きっと、何度もあった。
――それなのに、指摘されて初めて気付くなんて俺はどれだけ愚かなのだろうか。
「――先輩の言いたい事は…多分分かる…と思う。
…ただ、今の俺では…いや、前の俺もあれだが、正直な所、肝に銘じていてもつい悪手を選んでしまうかもしれない。
…今まではきっと、気にしないというかきっと直す事に集中してそれを意識から遠ざけていた。
けれど、今後はそうも行かない――頑張らないとな」
とはいえ、漸く立ち直りかけた段階で、どれだけそこをきっちり自分に言い聞かせられるやら。自信は無い――けれど、頑張らないと。
「――この島に来た時点で、過去なんて完全に捨てた――つもりだった。
勿論、捨てたとどれだけ思い込んでも、あった事は消せないし自分を形成してきた一部だ。
…だから、自分と向き合うなら過去の事もきちんと俺の中でちゃんと消化しないといけない…分かってはいるんだ」
己と向き合うなら、思い出したくなくても…見つめ直さないといけない。
しんどい、気が重い、苦しい、痛い。それをぐっと飲み込む…やらなければ、俺は同じことの繰り返しだ。
「――誰かに頼る…抱え込むな、か。……ああ、頼るかもしれない、相談するかもしれない。
…けど、やっぱり背負うべき所は自分できっちり背負わないといけない気がする」
不器用で、人との接し方に慣れていなくて、まだ心が立ち直れてなくて。
誰かに頼る、相談する、――甘えるのはガラじゃないので遠慮するとしても。
「――分かち合う……何時かそれが出来ればいいと思ってる」
そう出来ればいいのだろうけど。今はまだ自分の背負う所は自分で背負うべき、という意識が強い。
ふ、と苦笑を浮かべる。ああ、先輩や悪友や姐さんやシスターにこれだけ言われて。どうして自分はこう、変に堅物なんだろうなぁ。
■園刃 華霧 >
「ま、今までゼロか、下手すりゃマイナスだったんだ。
いきなり全部なんもかんもできる、なんて都合のいい話はないよな。
ただ、大事なのはさ。
指摘されて、気づいたことは忘れない。それだけだよ。」
忘れてさえいなければ、正すことはできる。
忘れてしまうことこそが一番危険なことだ。
「あったりまえだろ! 大将のモノは大将のモノ。
背負うのは最後は自分自身だろ?
けどさ。それを一緒に背負ってもらうのが、繋がりってもんだ。
巻き込んでも貰えないってのは、辛いもんなんだぞ?」
まあ、不器用人間だしなあ。簡単には行かないだろうな。
「そうそう。一歩ずつゆっくり。
やれることを少しずつ、だ。
しっかりな、大将」
ぺちぺちと強くならない程度に体を叩いた。
■角鹿建悟 > 「――いや、ゼロだったらまだマシだろう。多分――マイナスだったんじゃないかと自分では思ってる。
――忘れない、と言い切れないのが俺の弱い所だな…今は弱い所ばかりだが」
肝に銘じても、そう誓っても、きっと自分は凄い弱いのだから…心が。
まずはそれを自覚し認める。本当に立ち直れるのは何時になるか分からないけれど。
「――先輩の言葉は分かる。少なくともちょっと前の俺よりは。繋がり…縁は大事でありがたいものだと、ここ最近身に染みた。
――けど、まだ一緒に背負って貰う、という考えに至れない。少しずつ何としていきたい、が」
不器用なのは明白だし、折れた心はまだまだ不安定だ…芯はあってもぐらぐらと危なっかしい。
「――ああ…何とか頑張ってみる…ありがとうな園刃先輩」
緩やかな動作で、軽く体を叩かれつつ頭を下げて。圧し折られて多少マシになっても、まぁ角鹿建悟はこういう不器用人間なのはやっぱりまだまだ変わらない。
■園刃 華霧 >
「んじゃ、これ。アタシの連絡先な。
ぶっちゃけな。"分かち合う"なんてのは……ただ聞いてもらう、だけでもいいんだぜ?
だからまあ、気軽に友だちに…くだらないこととか、なにか話す…とかそんなトコから始めてみ?
もう、出来てんだから」
からから笑って連絡先を押し付ける。
「さテ、長居しチったな。
すっかり忘レてたケドこれ、お見舞いナ。」
差し出されたのはせんべいのセット。
実に渋かった。
まるで中年男性向けのような…
「ほいじゃーね、大将!
忘れんな? もう、取っ掛かりはできてる、ってな」
そういって止めなければ扉から出ていこうとするだろう
■角鹿建悟 > 「…あ、あぁどうも…。…要するに、極端な話…気晴らしくらいにでもなれば幸いって事か。
ー―くだらない事…軽口の類は不得手なんだが、まぁ善処はしてみる…話題も、まぁ頑張ろう」
連絡先を押し付けられて、僅かに戸惑うがちゃんと受け取る。
ついでに、見舞い品を受け取る――せんべいセットだった。自分は有り難いけれど。
…緑茶が欲しくなるセットだ。インスタントでもいいので緑茶無いだろうか。
ともあれ、せんべいセットを受け取れば軽く頭を下げて。
「ああ、改めてお見舞いありがとう。近々退院も出来ると思うんで――…」
そこで一度言葉を切り――ごほん、と咳払い。そして、その言葉で先輩を見送ろうと。
■角鹿建悟 > 「またな――”華霧”先輩。次会う時は病院の外で」
■園刃 華霧 >
「ああ。またな、大将。病院の外で」
笑って、女は病室を後にした。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」から園刃 華霧さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」から角鹿建悟さんが去りました。
ご案内:「風紀委員専用訓練フロア」にレオさんが現れました。
ご案内:「風紀委員専用訓練フロア」にレイチェルさんが現れました。
■レオ >
『新入り、模擬戦どうだ?』
訓練の休憩中の青年に、風紀委員の”先輩”が声をかける。
こういった誘いは風紀委員に入って、よくかけられるようになった。
理由は、なんとなく察している。
「……すみません、今日はちょっと。」
やんわりと、断った。
断られた”先輩”は、少し拍子抜けしたようにその場を後にする。
どうしてもと”お願い”されれば断れなかったが、1回は必ず、こう答えるようにしている。
そうしないと、きりがないから。
それくらい、訓練中は色々な”先輩”に模擬戦に誘われる。
理由は単純。
”自信をつけたいから”
風紀委員に入って早数週間。そんな新入りにも関わらず、レオの名前はそれなりに知られていた。
その理由は様々だが、一番大きいのは…おそらく”『鉄火』の代行者”という異名がつけられたせいだろう。
風紀委員で『鉄火』といわれれば、一人の人物の顔を誰もが思い浮かべる。
それはいい意味でも、悪い意味でも。
それの代行。
そんな意味合いの異名。
新人として名前と顔を覚えられるのには、それで十分だった。
…が。
そんな”有名人”になりかけているから、模擬戦に誘われている‥‥…目をかけられているのかというと、それも少し違った。
模擬戦に誘う”先輩”は、全員ではないにしろそれとは別の思惑があった。
「……」
委員会内異能犯罪対策用模擬戦闘成績。
個人戦結果。
16戦7勝9敗。
現在、負け越し。
”先輩”たちが模擬戦に誘う理由が、それだった。
つまるところ”強くない”から。
”勝てそう”だから。
理由は個人個人で違いはする。
自信をつけたい。
単純に勝てる相手とだけ戦いたい。
自分の模擬戦の成績を良くしたい。
『鉄火の支配者』にいい感情を持っていない。
…つまるところ、『鉄火』の看板を曲がりなりにも背負った自分を、踏み台にしたいのだ。
「……神代先輩に申し訳ないな」
スポーツドリンクを一口飲んで、ぽつりとつぶやいた。
■レイチェル >
各自休憩に入っている風紀委員達。
他愛もない談笑をしている者達が居れば、
風紀委員の在り方について語る者達も居る。
ぐったりと床に倒れている者達が居れば、
己を高める為にトレーニングを続けている者達も居る。
各人各様の休憩時間を過ごす彼らを背に、一つの人影が
静かに新人風紀委員へと歩を近づける。
腰程までに流れる金の髪は訓練フロアの明るい照明を受けて、
普段よりもまた一段と鮮やかに、艶やかさを増して輝いている。
歩く度にその金色と、ツーサイドアップの形で髪を結ぶ黒を
揺らしながら近づくその風紀委員は、右腰に手をやりながら、
ふぅ、と一息。
「なーに、しけた顔してんだよ」
柳眉を少し下げた形で、仄かな憂色をその顔に浮かべながら、
レイチェルは新人風紀委員に話しかける。
彼女がその唇から発する音は、
先ほどまで厳しく後輩達を叱咤していた彼女の声とは
似てもにつかぬ、棘一つない穏やかな調子の声である。
「レオ・スプリッグス・ウイットフォード……だったな。
どうした?」
レイチェルは、後輩の名前を覚えていた。
――真琴が注目してた新入の風紀委員、こいつだな。
レイチェルは彼の隣まで近寄ると、
そのままゆっくりと腰を下ろす。
同時に、ふわりと流れる金色がレオのすぐ横で羽毛の如く
軽やかに舞う。
「……模擬戦、受けないのか?」
他の風紀委員達とはかなり距離が空いている。
故に、この声は周りの者達には聞こえないだろう。
膝を抱える形で座る彼女――レイチェル・ラムレイは、
レオに目線を合わせる形でその顔だけを、
彼の方へ向けて小首を傾げている。
レイチェルは。
彼が、他の風紀委員からの模擬戦を快く受け容れていないことは、
よく知っていた。そしてごく一部の者達ではあるが、
彼に向けて決して褒められぬ動機で以てそういった話を
持ちかけていることも、気付いていた。
だからこそ、ただそれだけを問いかけた。
単純で、簡潔な問いかけであったがしかし、
相手の瞳をしっかり見つめるその輝く紫色の瞳は
心底心配そうに、若々しくも濁りを湛えた金の瞳を
見つめている。
■レオ >
「え? あぁ、えっと…はい、僕がレオですけれども……」
声をかけたのは、見知らぬ先輩。
金髪に眼帯…怪我でもしてるのだろうか?
綺麗な人だ…というのが初見での感想だった。
公安の先輩も確か、金髪だったな……
模擬戦をしないのかと言われれば、青年は少し苦笑をして返事を返す。
「…しょっちゅう声をかけてもらってるので、他の人とやった方がいいかな、なんて。
僕、模擬戦の成績あまりよくありませんから。」
成績がよくない。
少なくとも、前線に出張る風紀委員として見れば、彼の戦績は決して良いものとは言えなかった。
風紀委員は戦闘ばかりが仕事ではない故、勿論全体で見るのであれば悪い成績とまではいかないが……
居住区や商店街の巡回や、よくて繁華街の警備をやるような、”戦闘を基本としない役職”と同程度というのが、模擬戦の成績から見られる評価だろう。
今日も既に一戦終えてはいるが、”キレ”がない。
身体操作に戦闘慣れしている人間特有のしなやかさを感じさせる反面、動きの節々が、ぎこちないのだ。
特に、攻撃。
遠慮のような、戸惑い、躊躇いのような、動きのぎこちなさ。
それは自分でも、自覚している。
■レイチェル >
「オレは、レイチェル。
4年生のレイチェル・ラムレイだ。よろしくな」
年相応の笑顔を見せるレイチェルは、
青年の曇りも苦笑も、そのまま真っすぐ受け止めるかのような
視線を向けている。
「こう見えて新人の訓練は普段からよくやっててな。
さっき、お前の動きを遠目に見させて貰ってたんだ」
別の風紀委員のトレーニングに付き合っていた最中、
視界の端に入ったレオの動きも追っていたのだと、
レイチェルはそう語る。
「へぇ」
成績が良くないのだと苦笑するレオに対して、
レイチェルは僅かに目を細めて、その言葉を
確かめるかのように、先よりももう少し深く
首を傾げて見せた。
「模擬戦の成績だけじゃ、計れないものがあるだろ。
お前は間違いなく良いもん持ってるよ」
穏やかに笑うレイチェルはしかし、一瞬たりとて彼から
視線を外すことはない。
「ただ、な。
今さっきお前の動きを見てたが、ちぐはぐな印象だった。
戦闘には結構慣れてるだろ、お前。
だってのに、攻めの手に躊躇が露骨に見えたんでな。
その気になりゃ、勝てただろ。
お前がそうしないのは、何故だ?」
そこに責めるような声色はない。
ただ、表出している彼の『躊躇』の裏にあるその曇りを、
何とかできるならしてやりたいとレイチェルは思ったのだった。
しかし、それだけではない。
模擬戦などで多くの風紀委員と絡んでいる以上、この問題は
彼だけの問題に留まらないからだ。
■レオ >
「レイチェル先輩、ですか…よろしくおねがいします
良いもの…」
レイチェルと名乗った自身の先輩に、微笑んで挨拶をする。
気さくな人だ。”先輩”を思い出す。
そういえば…あの人にも同じような事を言われたっけ。
もうずっと昔の事のように感じてしまう。
「…そんな事はないですよ。
手を抜いてるつもりはないですし、先輩達も強いですし。
戦闘に関しては、慣れて……まぁ、慣れては、いるかもしれません。
島に来る前も戦う事は多かったので。」
島に来る前。
自分が各地を転々としてた頃は、何度も危険に見舞われた。
それ以前は、師匠との剣の修行で何度も殺されそうになった。
それ以前は……
戦ってばかりだった気がする。
「……まぁ」
ただ、模擬戦での戦いに関しては。
”慣れていない”と言うほかなかった。
「そうしないというより……純粋に手探りなんですよね。
なんていうか、”こういう戦闘”が…ですかね。」
そう言いながら、模擬戦をやっている先輩達を見る。
真面目に、相手に”勝つ”為に戦っている。
”勝つ”為に。
■レイチェル >
「成程。実戦経験は豊富だが
こういう訓練は不慣れって訳か」
彼の話を聞いて、レイチェルは得心がいった。
ならば、動きの根底にあるのが戦い慣れたそれだったとしても、
剣の振りに躊躇が出るのも頷ける。
要するに。
「つまる話が、勝ち負けじゃなくて、
『殺す』か『殺される』かの戦いしか知らなかったって訳か」
その点、他人の気がしない。
レイチェルもまた、そういった世界に生きていたからだ。
そうして突然、この学園へと飛ばされてきた。
故に、彼の悩みについては頷ける所があった。
「……生温いか? 風紀委員会は」
少年の顔を見るその紫瞳が、少しばかり見開かれる。
それは『学園の先輩』というよりも、『戦場に立っている者』が
湛える鋭さと悲しみを湛えた瞳であった。
しかし、それも一瞬のこと。
レイチェルの口はふっと笑みを浮かべる。
そうして目を閉じて、軽くニ、三度頭を振れば一言、
口にするのだった。
「オレも、昔はそうだったさ」
殺すか、殺されるか。
そういう駆け引きをしてきた中で、
突然目の前に広がったこの学園生活は光に満ち溢れていた。
輝きすぎて、目が眩むほどに。