2020/08/25 のログ
ご案内:「常世公園 広場」に池垣 あくるさんが現れました。
■池垣 あくる > 「ふっ!えいっ!!」
公園にて、その場にそぐわない槍を振るっている一人の少女。その腕には、真新しい風紀委員の腕章がつけられている。
「(せっかくなのですから、頑張りませんと……)」
普段からあちらこちらで普通の稽古もしているあくるであるが、今日はいつもより熱が入っている。
ご案内:「常世公園 広場」に月夜見 真琴さんが現れました。
■月夜見 真琴 >
「――ああ、いたいた」
ささやくような甘い声を風に乗せる。
空を薙ぐ槍の軌跡が明かりを跳ね返す様に、
ごく満悦げな笑みをのせて近づいてくるのは――果たして隙だらけの女である。
気を練る様子もなければ歩法に気を使う素振りもない素人の歩みで、
ただ静々と、槍の間合いに邪魔にならないよう距離を置いた場所に。
イーゼルと携帯椅子を立てる。
「ここから見させてもらって良いかな?
風紀に面白い新顔が入った、と小耳に挟んでな。
その麗槍ぶり、ぜひ描かせてもらいたい」
準備をしながら、離れた場所へ声をかけると、
なんともわざとらしい芝居がかった口調になる。
■池垣 あくる > 「ええと……構いませんけれど……」
特段気配を隠すようなこともしていなければ、ある程度の距離で存在に気づく。
しかし、敵意も何も感じられないため、槍を振るいながら返事をする。
「御耳が早いのですね……お名前をお聞かせ願っても?」
言いつつ、稽古の手は止まらない。意識もさして向けない。
優先順位が、槍の方が上ということだろう。
■月夜見 真琴 >
「こと"池垣あくる"の風紀入りとなっては小さな波紋とは行くまいさ」
ころころと愉快げに笑いながら、では失礼して、と椅子に座る。
「風紀委員、月夜見真琴。三年だ。
まあ、いまは名ばかり風紀。新進気鋭の後輩の邪魔にはならぬようにするとも」
上品な身のこなしで椅子に腰を落ち着けると、
淀みのない槍の有様を、筆を立て、銀色の双眸でみつめている。
「――おまえが腕章をつけることになるとは思っていなかったよ。
どういう風の吹き回し、か。差し支えなければ聞いても良いかな?」
邪魔にならぬよう、と言った傍から、甘やかに問いかけた。
■池垣 あくる > 「ああ……やはり有名になってしまっているのですね。お恥ずかしい……」
少し困ったように笑いながら、槍を捻り、穂先に急激な変化を加え、そして首を傾げる。
「ううん、いまいち……ええと、月夜見先輩ですね。よろしくお願いします……ええ、ええ。それは私も、不思議ではありますが」
どういう風の吹き回しか。思えば不思議だ。誰にも求められず、ただ槍を極めることだけに生きてきた。そのためには、風紀とて襲ってきた。
そんな人間が、風紀の腕章を身に着けているなんて。
「――私、負けたんです。完膚なきまでに。一番の奥義を繰り出してもなお、負けました」
ぽつ、と、槍を振るいながら語り出す。
「そのあとも、また負けて。それで、最初に負けた方に聞いたのです。何が足りないのか、何が違うのか、と。
――それで、学びを得まして。ちょうどその方が風紀でしたので、風紀に少し興味が湧きまして」
風紀も、玉石混交だ。なんならいくらでも転がしてきた。
だが、あの女性は何もかもが違ったし、それに、彼女が語った心構えの差を体現しているのは、風紀に思えたのだった。
「ですので、ええ。警邏しておられる風紀の方にお願いして、同行させていただいたのですが。そこで、勧誘を受けまして」
思えば大胆な話だ。風紀を何人も痛めつけた経験を持つ人間を、風紀にスカウトするなど。
それでも、やはり。
「――必要とされたことなんて、ありませんでしたから。風紀にそもそも興味もありましたし、お受けすることにしたのです」
■月夜見 真琴 >
「はっはっは。七転八起の心構えには感服するしかないな。
敗けに学びを得られるとは勤勉さと幸運の賜物、素晴らしい」
短期間に二度の敗け。彼女の語り聞かせるものに楽しげに笑いながらも、
まっすぐな受け答えには気を良くした様子を見せる。
筆を揺らしながら今しばし、槍の軌跡と、その中核たる少女を眺めている。
「たしか推薦者は理央だったか。
少女のような顔をした。 我々とそう背格好の変わらない。
あれもあれで、最近になって顔つきが変わった――というか。
変化か成長かそれとも、風紀は確かに練磨には良い場所かもしれないな」
ふと気になったように視線をあげた。
と同時に、ひらり。
その槍の型を識るかのよう、刃の軌跡の通る先に、光が綾なした蒼い蝶が舞う。
「必要とされて、嬉しかったのかな?」
■池垣 あくる > 「幸運は、実感しています……実際、そう言われましたし」
二度とも、命を賭けて戦った。全身全霊だった。
それでも、生かされた。これはまさしく、幸運だろう。
そして、そのあとの言葉には、小さく頷きを返す。
「ええ、神代先輩、ですね……あら、そうだったのですね。
とまれ、あの方に誘われまして……ええ、ええ」
もう一度、槍を放つ。そして、捻りを加える。
いい感じのキレで、穂先が跳ね上がった。
「嬉しかった、です。ずっと独り、でしたので……」
■月夜見 真琴 >
「ふふふ。 見目の佳い男子に手を引かれて――とは。
想像以上に甘酸っぱい経緯でこちらに来たのだな」
蒼い蝶は刃にさらされれば、硝子細工のように砕け散る。
破片は光源を吸い込んできらきらと舞い、
その蝶は槍の往く先々、型を知るかのように現れては散っていく。
幻惑魔術の類だ。使い手が誰かは言うまでもない。
「――幼気だな。 槍術と練達ぶりと少しちぐはぐな。
フム。いや、これはなかなか好い。そう描けるものではない」
真新しい腕章を、どこか眩げに見つめながら。
するり、と――槍の一閃を、蝶の一羽が躱した。
「すこしは孤独は癒えたかな。
ああしかし、だ。 風紀委員会は与えるばかりではない。
なったからには――あくる。
おまえは如何な"風紀"となってくれる?」
と、視線は少女に真っ直ぐ注がれた。
表情を苦笑に変えて。
「最近、風紀同士の諍いで少しざわついたばかりでな。
あくるという人間に興味があるのもあるが、まあ、軽い面談と思って気軽に応えてくれ」
面接官ではないしな、と、肩を竦める。
■池垣 あくる > 「そうでしょうか……よくわかりません」
そう言ったところには、本当に疎いあくるだ。
ともすれば、かなり衝動的に風紀に入ったともいえる。
「む……子供扱いされるのは、あんまり好きではありません。っと」
蝶を追うように槍を走らせる。
急に変化させる、真っすぐ突く、鎌の部分に引っ掛ける。
様々な技で蝶を狙い……そして、それは当たったり、当たらなかったり。
「ええ……そうなのかも、しれません。孤独だったのでしょうね、私。
――如何な風紀、ですか」
その問いに、より強く槍を放ちながら。
「私は、槍です。それしか知りません。槍にだけ、生きてきました。槍しか、出来ません。
ですから……お役目のまま、相手を穿つ槍となりましょう。ただの武器と、お思い頂いた方が、きっと正しいのです」
その言葉には、芯のようなものと……一抹の寂しさが、籠っていた。
■月夜見 真琴 >
「槍は孤独に泣くまいさ」
小さい子供を相手にしているかのような苦笑を浮かべて。
打ち損じた蝶はそのまま残り、当たらなければその数を増していく。
きらきらと、蒼い鱗粉を零しながら、あくるを翻弄するように周囲を取り囲む。
「二度敗けた槍を、そのまま槍と扱えというのも、
いささか頼りのない話ではある――まあ言ってしまえば若干危うい」
ひらり。
蝶の一羽が片鎌に停まり、ゆっくりと光の羽根を休ませた。
手に持った筆で、くるくると何かをかき混ぜるように空中を撫でながら。
「今は即戦力を求められるから若干甘いかもしれないが、
今後の面接や適性試験ではいやというほど聞かれる。
"何を守りたいか"――とか、な。 まあ、そのあたりはおいおいで良い。
経緯が経緯だけにあれこれ聞くのもあれだが、ではおまえ自身に問おう」
その毛先をあくるに向けながら、視線はイーゼルにかけられたカンバスに。
「槍の鋭きを求めるか、必要とされるような人間になりたいのか。
それともまた、別の? ああ、気楽にこたえてほしい。
正解のない問いかけ、だからな。
やつがれがおまえのことを知りたいというのが質問の動機としては大きい」
■池垣 あくる > 「――それも、そうです。でも、なんとなく、寂しいという気持ちを知ってしまった気が、するのです」
槍が奔る。
しかし、その穂先が捉える蝶の数は、少なくなっていき。あくるは蝶に囲まれる。
そのまま、一度槍を休めて。
「守りたいものなんて、御座いません。私が求めるのは槍の鋭さ。この槍を、如何に使いこなせるか。如何に引き出せるか。その最果てを望みます」
ぎゅう、と槍を握りしめる。
そのために生きてきた。そのためだけに生きてきた。それ以外は全て余分と切り捨ててきた。
――だけど。
「それでも……そう、ですね。なんとなく、ですが」
知り合った、二人の風紀。その顔を頭に思い浮かべて。
「――あの二人に、褒められたいなって、思います」
■月夜見 真琴 >
「必要とされたことで、却って自分の内側の寂寞を自覚してしまったというわけか。
まあ、良いのではないかな? 新しいことを識れるというのも。
やつがれはただの槍より、寂しがる槍のほうが面白いようにおもう、珍しいしな?」
そのまま立ち上がると、蝶の群れのなかを進み。
槍をふるうことをとめた彼女の近くへそっと近づいた。
「霜月一天流。 修める道は千辛万苦と聞く。
武の最果てとは大きくでたものだが――ああ、そうそう。
そうだ!それ! そういうのが聞きたかった!」
少し唇をねじって。槍について語る彼女にはどこか唇を捻じりながらも。
他人、を言の葉に乗せると、とたんに上機嫌に声を弾ませた。
立てた人差し指にひらりと蝶の一羽が乗る。
「理央と――凛霞かな? フム。 あの二人に。
"だれか"が理由。冥利栄達とはまた違うが、うん。
すごくいい。 良いな、あくる。 おまえはとてもおもしろそうだ。
しかし、たぶん――槍を磨くだけでは、だめだな」
両手を後ろに組んで軽く腰を屈め。
見上げるようにして、その表情を覗き込んだ。
■池垣 あくる > 「むう……褒められてるのか小馬鹿にされているのかわかりません」
ぷく、と頬を膨らませて月夜見を見る。
蝶の群れをぺいぺいと払いながら。
「ええ、ええ……この身全てを捧げて修練しても、まだ届きません。それほどまでに遠く、故に焦がれるのですが……え、えっと」
急に上機嫌になった月夜見に少し驚いてびくっと体が跳ねる。
「ええ、そのお二人ですが……ええと、これが、良いのですか?
槍を極めることよりも、褒められたいという稚気の方が?
そして……槍だけではダメ、とは?」
見つめ返す目には、困惑の色が宿っている。
槍の力でなんとか、と思っていたのに、どうすればいいのかわからなくなっている状態だ。
とにかく、槍以外の選択肢に疎いのである。
■月夜見 真琴 >
「はっはっは! 無論、両方だとも。
なにせこの槍は拗ねてさえ見せてくれる。
誂ってもみたくなるものさ――それは良い兆しと思うがなあ~、やつがれ」
払われる蝶は、まるであざ笑うように宙空をふわふわと飛んだ。
振り払えばそうして舞い、風に乗って揺蕩う動き。
「ふむー、まあ、槍の修練は問題なく続けると良い。
おまえからそれを取り上げたらなにか色々とよろしくなさそうな向きがあるしな。
――そう、そうさな、では少し、より曖昧な質問になる。
おまえのみたまま考えたままをこたえて欲しい、池垣あくる」
鼻歌まで歌い出しそうな心地で、指先をくるくると回した。
それを更に大きい円で、蝶がゆっくりと飛び回る。
「そのふたりに武力以外のなにかを感じなかったかな?
魅力というか――ああいや、そう――あれだ。
おまえ的にはこう言うとわかりやすい、かな?」
手首を返し、指先を戸惑う表情に向ける。
「"強さ"――どうだ? 思い起こしてみてほしい」
■池垣 あくる > 「よくわかりませんが、良い気はしません……」
ぺいぺいぺいぺい。払うも、蝶にはひらひらりと避けられて、さらにぺいぺい。
流石に槍を振るうことはしないが、若干意地になっている。
「槍は当然続けますけれど……ええと、お二人の強さ、ですか?」
頑張って蝶を払いつつ、うーん、と考え込む。
凛霞はともかく、理央とは戦っていない。
強さと言われて、ピンとくるものはない。凛霞はとにかく強かったが、それゆえあまりに底知れない。
だからこそ、思考を飛ばしたのは二人の『共通点』だ。
「強さかは、わかりませんが……なんというのでしょう。なんだか、揺るぎない感じが、しました」
地に足のついた感じと言おうか。
多分何かがあっても、この人たちはこの人たちのまま、立ち続けるのだろうなと。
そんな感じがあった。
■月夜見 真琴 >
蝶は、払おうとすればするほどに。
とらわれればとらわれるだけ、翻弄する動きを増す。
そうなるのが楽しいと言わんばかりの性根の仕掛け人はしかし、
教師のように顎に手をあてて考え込んで、すこし。
「わるくない」
と、彼女の返答に対して、愉快そうな色を発した。
「実際に槍を向けた凛霞だけならず、理央からもそれを見て取ったのは。
少なからず人を見る目、あるいは見ようとする意思が在ったということだ」
理央本人の武練はお察しだしな――と苦笑しながらも。
「その"揺るぎなさ"。 おまえには在ると思うか?」
蝶の群れにとらわれて、敗北に二度膝を屈しながら。
槍と人との狭間で揺れて、寂寥と、心を知りつつある少女に。
いつしか真っ直ぐに銀の双眸を向けて、女は甘やかに問いかけた。
■池垣 あくる > 「むー、むー」
ぺいぺい。
蝶の群れに翻弄されつつ、頬を膨らませる。
そのまま、続く問いには、少し目を逸らして。
「――ありません。最近は、悩んでばかりで。どうすればいいのか、迷ってばかりですから……きっと今の私、すぐ揺らぎます。揺らいで揺らいで、わけがわからなくなってしまいます」
■月夜見 真琴 >
「――良いじゃないか。
自覚ありとすれば、何をすればいいかは明々白々。
むしろおまえ、風紀に入ったのは本当に都合が良かったな」
可愛らしく考える様子を少し意地の悪い笑みで見つめながらも。
「あくる。 おまえがあの二人に認められるような人間に。
武人に。風紀委員に。揺るぎなきものになりたいというなら」
簡単な結論を告げるのに。
人差し指をふたたび立てる。ひら、と蝶がそこに停まる。
「"強さ"を、"盗め"」
■池垣 あくる > 「なんだか、意地悪な感じです……」
むー、と蝶と戯れ(本人は払っているつもり)つつ、盗め、という言葉に首を傾げる。
「盗む、ですか……?武術的技能ならともかく、精神的なものを……?」
それは、盗みようがないのではないか?と問いかける。
■月夜見 真琴 >
「おや?今頃気づいたのかな?
人を誂い、欺いて、悔しさに歯ぎしりする様を愉しむ風紀委員が、やつがれだよ?」
自己紹介がまだだったかな?なんてにっこりと微笑みながらも。
「そう。相手をようく見ようとすること、
凛霞と理央に"揺るぎなさ"を見て取った意志の動き、
それだ。それをもっとよく深くまで見ようとすることだ」
わかるか?と、観念的かつ直感的な言葉をむけた。
「"強さ"――それは、武力に依ったものではない。
風紀にも、暴力という手段を持たぬものはいるからな。
そうした者たちにも、"強さ"がある。
むしろそうした者たちからこそ、心に秘めた剣槍を見て取るのが楽しい。
多くの"強さ"を知って、多くの"強さ"と関われば、次第に。
"自分に何が足りないのか"ということを、具体的に知ることができる」
当然、と視線を彼女に向けた。
「――そして自らの心を磨くのだ。
"強さ"を"盗む"というのは、やつがれからすればそうしたこと」
■池垣 あくる > 「……風紀なのに意地悪です」
むすー。風紀と言えば基本的に善人が集っているものだと思い込んでいたが、どうにもそうでもない様子にむくれる。
「見る…見る…つまり、あのお二人の精神性を見取って、どうすればそれに倣えるのか考えろ、ということでしょうか…?」
ううん、と唸りつつ首を傾げて。
精神的な強さは、個々人の資質に大きく左右される。
だから、一概に盗むことは難しい。だが、共通点となるものを見出し、それと自分の差異をちゃんと比較すれば…どうすればそこに至れるのかを逆算できる。
その上で、その道を歩けと。そういうことなのだろうか、と解釈した。
■月夜見 真琴 >
「風紀は善人の集まりではないよ」
にっこりと微笑んだ。
そこの認識は、改めておかなければならなかった。
「ああ、あの二人から学ぶことはとてつもなく多いだろうさ。
でもそれだけではない。もっと多くと会って盗め。
風紀委員。他の委員会の委員に一般生徒、教員たちに違反部活。
"風紀委員会(われわれ)"は、多くの者と関われる集団だ。
その機構(システム)は、有効利用するべきだよ――あくる」
考えて、答えを出そうとしてくれる。
その姿がとてつもなく好ましく思えた。楽しい。誂い甲斐がある。
そっとその頬に手を添えると、彼女の瞳を覗き込み。
「この瞳も"槍"とせよ。
そうすれば、いつかあの二人に比肩し凌駕する"槍"に、"風紀"になることも、
決して絵空事ではないとおもうよ――やつがれは、ね?」
情熱と努力が、必ずしも結果に繋がるとは限らないが。
■池垣 あくる > 「そうなのですね……いえ、もうショックは受けませんとも、ええ」
ちょっとふら付きかけたのを踏ん張る。そろそろ、自分の意識が常識と乖離していることに気づき始めた。
多分これから、もっとたくさんくらくらする。慣れないと、と変な方向に決意を固めて。
「たくさん、たくさん出会う……から、そこからたくさん、学びなさいと。
敵からも、お味方からも、そうでない人からも……それらを見て、学び、私自身を練り上げなさいと。
そういうことで、御座いますね?」
じっと目を見つめて、問う。
自分なりに考えた解釈。きっとこういいたいのだろう、きっとこうすれば強くなれるのだろう。
その、自分なりの答え。
■月夜見 真琴 >
「開口一番を槍の一撃とするよりは、多くを学べそうな気がするだろう?」
ふかくうなずくと、上出来だ、と。
生徒を褒める教師よろしく朗らかに笑った。
「まあやつがれは強くなろうとか考えたことがないからな。
そういう生き方はしたことがないのだがね。はっはっは」
腕を組み組み、高らかに笑って見せて。
「おまえが"正義"のための槍となってくれるのが、やつがれの利益。
それを期しての助言、さ。
――おまえの今後には期待しているよ、ああ、あと」
踵を返し、蝶の群れをひきつれて椅子のほうに戻っていく。
あ、そうだ。と思い出したように振り向くと。
「 」
■月夜見 真琴 >
「ないしょ、だぞ」
と、悪戯っぽく微笑んで、唇の前に指を立てると。
そのまま椅子に戻って、彼女の稽古を見つめようとした。
■池垣 あくる > 「確かに、今までのやり方は、間違っていた気がします……」
むう、と唇を尖らせつつも、素直にそこは頷く。
とりあえず仕合、まず仕合、何はなくとも仕合。
思えば、無理矢理すぎる以上に、ちょっと思考停止過ぎた。
そして。
「…………」
耳打ちをされれば、じっと、月夜見を見つめて。
「――頑張ります」
笑顔で、頷いた。
穏やかで、無邪気で、でも真剣な笑顔で。
そして、また槍を構える。
「……えいっ!」
放たれた突きは、正確に蝶を貫いた。
■月夜見 真琴 >
「――お美事!素晴らしい!
未完の美は少しずつ補われていくのもまた、美しい。
未生の薔薇よ、その荊棘からの咲きぶり、今後も――」
鋭槍一穿、見事に蝶を貫いてみせた動きに手を叩き。
あえて筆を取ると、少し難しい顔をした。
「――さっきまでのぎこちない感じも良かったな。
ああすまん、ちょっとさっきまでみたいに槍を奮ってもらって良いか?」
なんて、なんとも自分勝手極まりない声をかけながら。
晩夏、夏季休暇の終わり際に、新たに一幅すばらしい素材を得たのだった。
槍持つ少女は妖精に化かされたことになるか、それとも。
"果て"の在り方は、未だ来たらず。
■池垣 あくる > 「逆に困ります……せっかくの上手くいった感覚が逃げてしまいそう」
むすーっと頬を膨らませる。
そして、そのオーダーを完全に無視して、様々な技で蝶を貫いていく。
独りでただ槍と共に生きてきた少女は、周囲に人を、そして人への興味を得た。
槍への向上心が、どのような形で結実するのか。それとも、結実しないのか。
それはまだ、わからない。
ご案内:「常世公園 広場」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「常世公園 広場」から池垣 あくるさんが去りました。