2020/09/15 のログ
園刃 華霧 >  
「マ……色々アってナ。
 まタ、どッカで話すサ。なンなら、向こうに聞いテ」

事情的には向こうに聞いたほうがいいかもしれないし、とちょっと思ったりもする。

「そウいうこッタ。
 どーセなら笑ッテいった方がマシだ」

けらけらと笑う。
笑って、過ごす。

闇は簡単には晴れることはない。
陰は簡単に暴かれることはない。

けれど いつかは きっと――

ご案内:「常世学園付属常世総合病院」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院」から園刃 華霧さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」に山本 英治さんが現れました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」に角鹿建悟さんが現れました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」に羽月 柊さんが現れました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」から羽月 柊さんが去りました。
山本 英治 >  
悪友が。建悟が同じ病院に入院しているらしい。
何があったかはわからんが、個室とは余程悪いのだろうか。
病院を歩くフリをして事前に調べた個室の前に来る。

中と廊下にナースがいないことを確認して。
咳払いをしてコンコンと叩く。

「いるか? 建悟。いるなら入ってもいいかい」

自分の体はほぼ治っている。
なら、やるべきことはお見舞いだ。
事情もできるなら聞きたいが……
無理に聞き出して建悟を傷つけるようなら、それはダチのやることじゃない。

「甘いモン食えるか? 銘菓『常世の月』のおすそ分けだ」

角鹿建悟 > 「――その声は……まさか英治、か?…あぁ、面会謝絶という訳でもないし構わないぞ…長居はお奨めしないが、な」

最初、ドアをノックする音には無反応に近い有様であったが…馴染みのある声には流石に反応する。
とはいえ、声は何処か沈んでおり、鬱々とした空気が扉越しでも悪友には伝わるだろうか?

ともあれ、今は看護師や医師の姿は無い…一応、”禁錮”扱いなので見舞いが見つかるとうるさいだろう。
だが、今の時間帯は確か巡回などは無かったと記憶しているので、彼を部屋に招きつつ。

「――すまん、今は食欲が全く無くてな…そっちで食べてくれていいぞ…。」

流石に、悪友など見知った相手には警戒心や疑心もあまり起きないが、さりとて事情をすんなり話すのも矢張り躊躇いがある。

――しかし、まぁ…悪友同士、仲良く入院とは何とも言えない気持ちになるものだ。

「――そういえば、風紀が何人か入院したと聞いてたが…英治もその一人だったか」

いや、病院患者の噂話で、”アフロの男が担ぎこまれた”と小耳に挟んではいたので、もしやとは思っていたのだが。

彼を出迎える少年は何時もの無表情だが…目の下にはクマが出来ており、何より――その目付きだ。
無表情でも意志を感じたその瞳は、今では生気も覇気も無い…死人と変わらない眼差しだった。

山本 英治 >  
沈んだ声に心がざわつく。
俺が認めた男の一人、角鹿建悟。
職人的な気質を持つ建悟が、どうしてこんなに。

「なんだ、ズタボロになってICU帰りかと思ったぜ」

部屋に入って、できるだけ明るい声を出した。
アフロじゃない髪を撫でて笑う。

「山本英治教授の総回診でーす」

そして食欲がないと言われれば。
常世の月を持ったまま表情を歪めてベッドサイドの椅子に座る。

女心と秋の空。外は曇り空が広がっていた。

 
「ああ、違反部活生と戦ってな……」
「神代先輩とか、羽月先生とか……一緒に入院してっからさ…」

とはいっても神代先輩は重傷だったんだけどな、と付け加えて。

「おいおい、良い男が台無しじゃないか、その目の下のクマぁ」
「ま……俺もなんだけどな………」

自分の目の下を撫でて苦笑する。
未来の幻影に罵られてロクに眠れてない。
外は立ち込める暗雲が雷鳴を準備しているのが見えた。

角鹿建悟 > 「確かに、仕事柄あちこち出向くが…別にいざこざに巻き込まれた訳じゃない。ただ――…。」

そこで一度言葉を切る。ゆっくりと息を吐き出す…我ながら疲れ切った老人みたいな溜息だな、と。

「――ずっと、がむしゃらに走り続けてきた。…それを、あっけなく止められた。…そんなところだ」

彼の明るい声は相変わらずだ。…だが、今の自分はその明るさに応える気力が無い。
彼に済まない、と勿論思っている――だけど、駄目なんだ…今の俺では。

ベッドサイドにあった椅子に腰を下ろす悪友を見る…その瞳は変わらず死んでいる。
それは――末路。それは――残骸。それは――走る事を止められた者の姿だ。

「羽月、という教師はよく知らないが…神代、というのはあの『鉄火の支配者』か?…俺でも名前くらいは知っている有名人が入院か…。」

直す事以外に殆ど関心を持たない少年でも、有名人の噂くらいは多少は記憶に残る。
とはいえ、面識は全く無い…あくまで、有名人だから知っているという程度。

しかし、その有名人が重傷…あと、俺は知らない羽月という教師に、この悪友もか。

「…風紀の仕事絡みか何かは俺には分からないが…派手にやったみたいだな…。
…あと、何度も言うが別にいい男じゃない…このザマを見れば分かるだろう?
―――まぁ、お前も寝不足気味みたいなのは意外だったが」

寝ても何度も夢に見る。幻とはいえこめかみに拳銃を当てた先輩が、そのまま躊躇いなく引き金を引くのだ。

――角鹿建悟に”人は直せない”。だから、自分の無力さを嫌というほど痛感した。
それが幻であろうと無かろうと。――何度も幻聴が聞こえるのだ。”お前は誰も救えない”と。

視線をふと悪友から窓の外に向ける。暗雲立ち込める空…遠雷でも聞こえてきそうだ。

山本 英治 >  
「………そうか」

相手の溜息は深く、重く。
広い個室の足元に転がっていった。

建悟は私生活を犠牲にして仕事をしてきた。
いや、本人には犠牲にしてきた自覚さえない。
直すということに愚直に取り組んできた。

そのバックボーンが折れるような出来事が、あったのか。

「ああ、その鉄火の支配者さ。その神代先輩と肩を並べて戦ったんだぜ、すげぇだろ?」
「羽月さんは……俺が信頼する男で………今回、巻き込んじまったが…………」

言葉が続かない。
角鹿建悟という男の走ってきた──走り続けてきた道を思えば。
あまりにも重い。

ぽつ、ぽつと。それは次第に継続的に。
いつしか雨が執拗に病室の窓を叩いていた。

「おい、建悟……俺が認めた男にいい男じゃないとはなんて言い方だ」
「いくら俺が認めた男でも許さんぞー?」

雨はひたすらに降りしきる。

「人を殺したよ」

その言葉の直後、雷が鳴った。
うるさいくらいに。虚しい病室に響いた。

角鹿建悟 > 分かっている。このままではいけない事くらい。だけど、立ち上がる気力が沸かない。
…いや、立ち上がり方が”分からない”。…俺はどうしたらいい?どうすれば、また前みたいに――…

(違う――それじゃ”繰り返し”なんだ。あの人が俺を”止めた”意味を…俺は…考えなきゃならない)

故郷を捨てた、家族を捨てた、過去を捨てた、青春を捨てた。
今ここに居る悪友や、師匠、同級生や先輩など知人友人も少しずつ増えた。
――でも、きっと俺は彼らの”声”を無視して走り続けてきたんだ。
全部を投げ捨てて、自分を投げ打って、無意味で無駄だと分かり切っていても。
直して、直して、直し続けて―――その果てが”これ”なのか。

「……確かにな。俺には想像もつかない激闘でもあったのだろうが…。
巻き込んでしまった、というなら本意じゃないんだろ?…お前が信頼した男なら許してくれるんじゃないか?」

――お笑いだ。砕けたこのザマで何を励ましの言葉なんて投げかけているんだ俺は。
――俺の道は”行き詰まり(デッド・エンド)”…だが、悪友の道はそうじゃないだろう。

ぽつり、ぽつりと。俺たちの気分をご丁寧に演出してくれたのか雨粒が窓を叩き始める。
…全く。いっそ憎たらしいくらいに晴れてくれたならまだマシなんだけどな。

「――その認めてくれた男がこのザマなんだ。…正直、今は何もやる気が起きない程度には腑抜けだよ今の俺は」

そう、肩を緩く竦めて―――次の瞬間、悪友の言葉に完全に少年の動きが止まる。

人を殺した。――単純な言葉で明快な事実…そして、彼だけでなく自分にも重い言葉だ。

――俺は誰も殺した事は無い。けれど、俺は形振り構わず突き進んできた。
…誰かの感謝の言葉を聞き流して、誰かの差し伸べた手を跳ね除けて。

…きっと、知らない、知った誰かを傷つけた。…きっと、俺も或る意味で”人殺し”だ。

それでも、いや、――英治の方が苦悩しているんだろう。このザマの俺が…なんて声を掛けてやればいいのだ?

山本 英治 >  
「ああ……そうだな…………俺が信頼した男なら…」

そう言って常世の月の包みを一つ開く。
口の中に放り込む。カスタードクリームの無闇に甘い味がした。
世の中、甘くないってのは常識だ。

でも……こんなにこの男に辛辣にするこたぁねぇ。
そう思ってしまう。

「腑抜けちまったのは俺も一緒さ………」
「殺した時に相手の異能に呪われた」

「今は死んだ親友の幻影が俺を罵ってくる」

ざあざあ。雨音。ざあざあ。
少しくれぇ静かにしろよ。
大事な話をしてんだからよ。

「ロクに眠れねぇ。今は鎮静剤と睡眠薬漬けだ」
「俺は安寧と親友の正しい姿を失い」
「建悟は進むべき道を見失った………」

でもよ。羽月さん。園刃。
人生ってのは……俺たちの進んできた道は。そうじゃねぇ。
だろ?

「それでも……人生は失うばかりじゃないぜ」
「俺は絶対、風紀に復帰して見せる」
「だからよ、建悟………お前も明るい見通しが立ったら、もう一度立ち上がってみないか」

「いつまでも……」

外を見ると、俺の視界を雷が叩いた。

「雨じゃあねぇんだぜ」

角鹿建悟 > 「―――…。(信頼、か。……俺は、英治や他の誰かを信頼した事があったんだろうか…?)」

自分自身に疑心暗鬼になる。今までの自分を己なりに振り返る……ああ、少し理解した。
……角鹿建悟は大馬鹿者だ。少なくとも、本当に自分は前だけを見ていて…。

身近な友人たちを全く”見ていなかった”のだと。…大馬鹿者なりに気付いた。
…だけど、気付いたとしてもどうすればいい?分からない…全く分からない。

「――それは……まさに呪い、だな…。」

死んだ親友。彼にとってかけがえのない誰かが、その思い出が、その姿が。彼を苛み続けているのだろう。
…雨足が少しずつ強くなる。…ああ、全くだ。少し静かにしてくれないか…邪魔なんだ。

「…お互い、お先真っ暗、とは言わないが…先行きがまさに暗雲だな…。」

いや、暗雲どころじゃないか。きっと、俺なんかより英治の方が苦しいだろうに。
だって、俺は直す事を放棄して無気力に過ごせばそれでいいだけなんだ。
―――本当に?
…だってそうだろう?直す事しか出来ないのに、そんな男に何の価値がある?何が他に出来る?

「――明るい見通し、か。……けど、悪いな英治。…今の俺じゃあ…立ち上がり方すら分からないんだ」

赤子より酷いもんだ。今まで、何もかも投げ捨てて直す事に費やしてきた。
――これが、その清算だ。このまま沈んでいてはいけない。それは分かっているけれど。

「――英治。……直すしか知らない、それしか出来ない奴が…どうやって”立ち上がればいい”?
…俺には分からないんだ。こんな事、誰かに聞くもんでもないのは分かっているんだけどな…。」


ああ、くそ…こんな”弱音”なんてあの”白い少女”に漏らした以来だ。


―――…そうだ。折れても残骸と化しても。一つだけ、忘れてはいけない”約束(のろい)”があった。
今は、それすら満足に出来ないが……例えこんな有様でも。それは”忘れない”。

「――悪いな、英治…今の弱音は聞かなかった事にしてくれ。」

どうすればいいか分からない、それでも…約束一つ守れないのならば。
――そんな男は死んでいいだろう。…ほんの少しだけ、気力を奮い立たせる。

まだ、立ち上がるにはとても至らなくても。その火種は…不器用に掴み取る。

山本 英治 >  
「ああ、呪いだ。殺した相手にやるにしたって、やることがヒデぇ」

苦笑して常世の月を二つ、デスクに置いた。
食欲が出た時にでも食べればいい。

「なに……雨雲が厚い時は傘を差せばいい」
「それも億劫なら、建物の中にいりゃいいのさ…」

気休めの言葉に終始しそうになった時。
ふと、建悟の口から弱さが漏れた。
事情はわからないにせよ。俺に言った言葉だ。

俺の言葉で返す義務がある。男の義務だ。

「なぁ、建悟」

相手の目を真っ直ぐに見る。
雨は今も窓を打っていた。

「お前は俺の信じた男だ……だから」
「いつか、気付けるのさ。自分にありがとうと言ってくれた人の眼差しに」
「自分のために缶コーヒーでも奢ってやろうか、って考えた誰かの心に」

「そしたら、絶対晴れる。青空が見えるさ……」

億劫そうに立ち上がって、銘菓が入った箱を下げた袋を持ち直す。

「またな、建悟。俺がまたなって言うからには…必ずまた会いに来るからな」

口元だけで柔和に微笑んで。
病室を後にした。

雨脚は、少しだけ弱まっていた。

角鹿建悟 > 「――そんな呪いを背負ってお前は――…」

大丈夫か?辛くないのか?…そんなありきたりな言葉は言うべきではない、と思った。
だけど、なら何て言えばいい?人と”向き合って来なかった”自分がどのツラ下げてコイツに言葉を投げ掛ければいいんだ。

デスクの上に二つ置かれた差し入れを見る…常世の月…だったか。生憎と今はその月すら見えそうに無い空模様だが。

だから、思わず漏れた弱音は自分らしくないと打ち切りたかった。
けれど、悪友はこちらの目を見据えてハッキリと、彼なりの言葉で答えてくれる。

「―――…。」

彼の言葉はシンプルだ。勿論、本当に何時か俺がそれに気付いたとして立ち直れるか分からない。
けれど――…。

「―――流石に、カンカン照りの空は暑すぎて勘弁願いたいものだけどな」

顔は無表情のまま、瞳は変わらず未だに死んだまま…だけど、ふっと軽口じみた言葉が漏れた。
――ああ、俺はこれ以上無いくらいに圧し折られてしまったけれど。また立ち上がれるのかも分からないけど。

――火種を掴んだ、言葉を受け取った、まだ――”終われない”。


だから、億劫そうに立ち上がって部屋を後にしようとする悪友に俺はこう告げよう。

「ああ――”またな”悪友。次は晴れた日にでも」

そう、言葉を掛けて…少しだけ、きっと空元気なそれでも笑顔で見送れただろうか?

(――立ち上がれるかも分からない、繰り返しになるかもしれない。だけど…)

約束(のろい)を胸に、友の言葉を記憶に、火種をその手に握り締めながら。


――今は脆くても、いずれ強く芯を持って立ち上がる為に。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・個室」から角鹿建悟さんが去りました。