2020/10/04 のログ
ご案内:「レストラン「Versprechen」」に神名火 明さんが現れました。
■神名火 明 >
予め断っておくと、私は名探偵でもないし正義の味方でもない。鹿撃ち帽を被って指差しをして、相手に膝を屈させる力はないし、罪を裁く権限を持っているわけでもない。むしろその逆、のうのうと今を生き延びている悪しき犯罪者。
本日の趣向はそういうものということを前置きして、個室にしては広々として、内側からしか外を覗けない、窓があることさえわからない展望ルームでひとり待ち人をしている。
ノンアルコールの深い蒼のドリンクは異界由来の果実を搾ったもので、旧文明の人はこの色が苦手という人もいる。グラスを軽く煽って喉を潤していると、どうやら来られたようだ。
「ご無沙汰しております。お忙しいところ、ありがとうございます」
グラスを掲げて、食事に誘った相手に艶然と微笑みかけた。
ご案内:「レストラン「Versprechen」」に松葉 雷覇さんが現れました。
■松葉 雷覇 >
それは、何事もなくごく自然と現れた。
個室の扉が静かに開かれ、白い背広姿の男が一人。
温和な雰囲気を醸し出し、金糸が僅かに揺れる優男。
レンズ越しの深い青が、相手を視認すれば温和に微笑む。
「此方こそお招きありがとうございます。それにしても、申し訳ありません。
ここ最近立て込んでおりまして、プライベートの隙間も……其方もお忙しい中、ご予定を割いて頂いたようで恐縮です」
まずは一礼、会釈と礼を。
そして、対面となるように緩やかに椅子へと腰を下ろした。
この空間が如何なる場所で、"どう言うもの"か。当然、男は理解している。
彼女の手元にあるドリンクを、青の双眸は一瞥した。
「良い色の飲み物ですね。地球産のドリンクではなさそうですが……異世界のものを?」
青の嫌悪の無い現代文化人はそう尋ねる。
■神名火 明 >
「病院ね、やめちゃったんです。今は新しい仕事をしてますけど、昔よりは全然ひまですよ。一日ってこんなに長かったんだなあって思ってます、博士に色々教えていただいたのも、ほんの少し前なのに、三年も前なんですね」
こちらもまたにこやかに、数年越しに知己と憩う時を楽しむ構えだ。こちらから誘った食事で、応じてもらえた。そういえば出会った頃に粉をかけた気がするけど、奥様がいるということで諦めたっけ…みたいなことを追想しながら。
「ええ。皮も果肉も青いようです。名前はなんだったかな。昔は甘いソーダ水に着色しなければ、青い飲み物なんてそうそうなかったんですってね。酸味も甘味も程よくて美味しいですよ。さすがにジュースともなると、ちょっとえぐみがあるみたいで、これくらいに割ったものがちょうどいいみたい」
指し示したメニューには本当に色々とある。何を食べようと周囲に憚ることもない。ポピュラーなものから珍味まで。グラスを掲げた。半透明の深い蒼の向こうから男を見つめる。
「蒼はお好きですか?」
■松葉 雷覇 >
「おや……そうなのですか。新しい仕事の方は充実していますか?
……ええ、時間が経つのはあっという間です。私も研究に熱中していると、ほんの数年さえ、明日のように感じてしまいます」
本当にあっという間だ。一日という時間が24時間とは言うが、自分にとっては実に短い。
彼女の出会いもよく覚えている。実に愛想よく、可愛げのある声だった。
身持ちが固い、と言えるかは怪しいが隣にいる人間は常に大切にしている。
そう、片時も忘れた事は無い、彼女も、あの人も、昨日よりも鮮明に脳裏に思い起こす事が出来る。
「成る程、それは興味深い。異邦人街の方に出回っているでしょうか?その果実に興味があります」
レンズ越しに彼女を見る男の雰囲気も、声音も、何一つ変わっていない。
数年前から、もしかしたらそれ以前からも……。
「はい。海のように深い"青"、好きな色です。宇宙(そら)の青、海の青。
どちらも"未知"が詰まっている。大変興味深い……神名火さん」
そう。
「貴女はどうですか?」
何一つ、変わってはいない。
■神名火 明 >
「でも結構高いみたいですよ。たしか農業学科のほうで、果樹園での栽培が成功しそうだとか聞きます。もうちょっとしたら安くなるかもしれません。トライ・アンド・エラーを重ねて、一個ずつ、私たちは色々できるようになっていくんですもの」
それはある意味では未知への冒涜でもあるかもしれないが、冒険し開拓していくのが人間の歴史でもあるといえた。信仰心を知ったばかりの女は未だ医者の気配を壁に吊るした白衣のようにそこに置きながら、変わらない男を眺めた。
「嫌いになりそうです」
青い色は。
苦笑いを浮かべて、甘酸っぱい炭酸を軽く煽った。強めの炭酸なのは、えぐみを誤魔化すための刺激なのかもしれない。
「空も海も好きですけどね。蒼い瞳の好きな人もいます。けれど深い蒼となるとしばらくは引きずりそうなことがあったばかりですから。それで、なぜ今回はこのようなことをなさったのです?」
具体的な名詞もなく、強い感情も挟まずに、世間話の一貫として問いを向けた。
■松葉 雷覇 >
「貴重なものには相応の対価が付きます。特に、異界の技術は大変興味深い。
どれもこれも、地球人(われわれ)にはない貴重な物です。寧ろ、提供してくださって有難い限りですよ。
ええ、私達も一歩一歩、積み重ねて皆さんの未来に繋がるように、と。その成果が表れていれば喜ばしい限りです」
日進月歩。技術も人も日々進み進化し続ける。
《大変容》以前でさえ、人類は多くの未知へと挑み続けた。
そして今、その未知は爆発的に増え、そして爆発的に解明される。
技術点のブレイクスルー。余りにも多くの壁が連続で取り払われた。
それは今でも、変わらない。人が思う以上に、人の技術は進歩し続けている。
男は何も変わらない。未知への開拓。好奇心に勝るものは無い。
「おや……それは、何か嫌な事があったのですね?」
一切の悪気なく、小首を傾けて尋ねた。
動作に合わせて揺れる金糸。その問いかけには……。
「ああ、彼女が協力してくださると快く仰ってくださったので、"軽いもの"に付き合って頂いただけです」
"何も変わりなく"答えた。
男は、今も昔も、嘘は吐かない。
■神名火 明 >
「異邦人に対する治験は、人権とか何かで侃々諤々ですからね。法廷もよく荒れてるとか。医学会でもだいぶ、特に薬学にまつわるところは随分と弁護士が儲かるだとか風の噂で聞いてますよ」
鈴の音が鳴れば、見た目にもこだわったオードブルが運ばれてくる。もとの素材がなんだったかわからないくらい美しく整えられた皿の上が、もともとどんな野菜だったのか、どんな生物だったのか、それを考えるのが余計だったりすることもある。
「それでも外からやってきた単一個体への治験のデータがどこまで役に立つかといえば、リスクとリターンの釣り合いがあまりにも取れていないように思いました。同郷の人間が一定数居るともなればともかく、消耗の激しさを鑑みると疑問がいくつか浮かびます」
少しだけ声が顰められて真面目な声色になるが、そこに怒気や糾弾の色はなかった。教師の言葉に、純粋な疑問を投げかける生徒みたいにして、そこでオードブルを一口ふくんで咀嚼する。美味しい。
「軽いもの、というのは、軽い『何』だったのでしょうか?実験そのものが主目的ではないのではないかと考えたのです。それならもう少しスマートにやれた筈ですから」
カップなど残していかないはずだった。
■松葉 雷覇 >
「ええ、未だ多く問題があがりますね。彼等も詰まる所、我々と変わらないと言うのに……嘆かわしい事です」
万人に平等になるような世界で無いのは百も承知だ。
異界から来たもの"異物"と忌み嫌う人物だっている。
愚かと誹る事は無くとも、嘆息位は漏れてしまう。
困ったように、苦笑い。色とりどりのオードブルを見れば「趣味ですか?」なんて、何気なく尋ねてみる。
「成る程、よく見ていらっしゃる。それは、"新しい職場"で得た知見ですか?」
感心の声を上げた。
それでも雷覇変わらない。
その笑顔を、容易く事は無い。
「彼女の"心"についてご存じですか?神名火さん。
貴女にとって彼女は、どの様に見えました?何処までその"心"を知っていましたか?」