2022/12/16 のログ
ご案内:「送電塔」に白梟さんが現れました。
白梟 >  
「あー……さっむ」

今日は穏やかな天気であったものの日が落ちたころから吹きはじめた風はまるで、
昼間の陽光は嘘であったかのように雪じみた灰色の小雨を舞い上げている。
既に日は落ち、足元から冷え込むような冷気の中、人里離れた場所にある鉄錆びた塔の根元で小さな光が瞬いていた。

「前金は振り込んだ。
 後はそっち次第。じゃ」
 
耳元に中て、点滅する機械に無表情な口調で言い切った後、一方的に通話を切ると端末を二つ折りに。
ひときわ激しい閃光の後、小さく煙を上げスクラップと化したそれをそのままぽいと近くの茂みに投げ込んでおく。
逆探知が出来るほど長い時間喋ったわけではないけれど、絶対に不可能という訳でもない。

「……2時間、いや、1時間かな」

仮に襲撃が来るとしたら早くてもその辺りか。
なんだかんだ”お尋ね者”なので今回の”業者”も信用はしていない。
原則商売というのは信用が物を言うが、組織に絡んでいない相手で、しかもお尋ね者ともなれば売り渡すような業者も少なくはない。
上手くいけば前金を回収し何らかの組織に恩を売った上に商品を渡さずにネコババできるわけで、それはそれは魅力的に見えるだろう。
当然こちらもそのつもりで色々下準備はしたうえでの商談だが……念を入れるに越したことはない。

「まぁ、ただ狙撃されたくらいじゃ痛くも無いけどさぁ
 おきにの服に穴が開くのはノらないしなぁ……」

この辺りは何もない事から人が近寄らず、立地の関係上見晴らしが良い。
既に降りた夜の帳と周囲の森に紛れて近づけば塔の根元まで覗き放題だ。
つまり狙撃しやすい環境なのでそのうち移動したほうが良い。
来るとしたらどの辺りから来るかねとあたりを見渡し、ふと一点に視界が留まる。

「……もう随分経ったなぁ。
 くく、まったく月日が経つのは早くて驚くね」

遠く視界の先にはスラムと称される”ごみ溜め”がある。
去年の今頃にはあの辺でヤンチャしていたのだけれど、表の浮かれた空気が伝播したのか今では浮かれ気味とでも言っても良いほどにぎやかになっている。
ここから見れば手のひらの上に乗るようなその場所が煌々と赤く燃え上がり、その陽炎の下で色々と面白可笑しくやっていたのはほんの一年ほど前の事。

「あんまり愉快な思い出とは言い難いけど、悪くはなかったな。うん。」

あまりに下らないと唾棄したくなるような事もあった。
多少なりとも減ったとはいえ、この島における致命的な欠陥は今でもその病巣を生々しく晒し続けている。
仕方がないのだろう。この島は特異点なのだから。
良くも悪くも中途半端な者達が集い、発展途上の力が幅を利かせる。

白梟 >  
「けど嫌いじゃないんだよなぁ……この島」

ある意味この島はこの世界にたった一つある希望といってもいいかもしれない。
既存の法や抑圧、理不尽に対する恨みや嫉みによるものではなく、
正しく新しい時代を謳う新しい法則が生まれるとしたらこの島を置いて他にはない。
そう考えているからこそ、そこに旧態依然とした古い法則を”無責任”に持ち込み
押し付けてくる連中を白眼視しているわけだけれど……

「なんかちょっとだけ、変わってきたのかなぁ」

去年とは別の意味でいま、日影が暖かくなっている
伊達と酔狂で駆け抜けるような連中が、確定板とにらめっこして罵声や怒声を上げながら
舞台で演じられる狂騒に身を焦がしている。
宛ら古代コロッセオのよう。実際に見たことはないですけどね?

「ふふ、楽しい舞台になるといいね」

敵味方問わず魅了するような、彗星みたいなお祭り。
いや、1か0かみたいなつまんない話の外側で跳ねる熱気の発現とでもいうべきか。
それは確かにこの島の空気を少しだけ変えている。
主催者がいるとしたら実にロマンチストだろう。
きっと飛び切りに性格が悪い愉快な奴に違いない。

「それにしてもさ」

ふと先程投げ捨てた端末のあるあたりに意識を向ける。
既に煙は消え、熱を失い寒々とした空気と同化するように急速に冷えていくそれに
ちょっとしたお願いを兼ねた先程までの会話を反芻する。

「なーんか勘違いされがちだよねあたし。」

別に革命家を気取る訳でも、反体制を掲げる訳でもないんですよ?
あんな恨み辛みを大義名分に昇華したと言い張る無責任な連中と一緒にしないでほしい。
私にとって綺麗な星がそこに在ったから、私はそれと踊っただけだ。
アナーキストどころか国家主義者の気だってありますのに酷い誤解だと思う。
まぁ仕方ないんですけどね。

白梟 >  
「まぁ、仕方ないか。
 そう言っておけば他人事に出来るし」

鉄塔に寄り掛かり、風の音に耳を澄ませる。
泣き叫ぶような風の音は、去年も、そのずっと前からも少しも変わらない。
そしてきっと、何年も後も変わることはない。
この島だって多分そうだ。誰かが足掻き、踊り、歌ったとして
何かが劇的に変わる日なんてのは、来ない。
それを確信し、甘えつつ振りかざす連中だって居なくならないだろう。
勿論それを許容し看過しながら無関係を気取る連中も。
変わらない。そして自分がそれを変えられるなどと自惚れてもいない。
そもそもそんな使命感なんかない。そういうのは政治家とか活動家を称する誰かか
もしくは英雄がやってくれればいい。

「……楽しければ何でもいいんだけど。
 その結果、アタシが排斥されるとしても、さ」 

もっと単純な主張なんだけど、とため息。
基本何でも楽しめる性質だけど、つまらない物語は御免だ。
不朽の幸せや正義なんて言う退屈なモノじゃこの痛痒に届かない。
それだけの事なんですよ。ええ。

「因禍為福、成敗之転、譬若糾纏
 ……ならその連鎖は何処まで続くのかな
 甘い時間がこの先にあるっていうなら大歓迎なんだけど」
 
現在の社会は決して固定した結晶体ではなく、
変化することの可能な、そして常に変化の過程にある有機体だと誰かが言っていた。
だとしたら

「……いつか面白い世界になるといいなぁ。
 こんなつまらない結末がいつも見える世界じゃなくてさ」

町側の木陰へと意識を向ける。
冬の寒気に晒され一気に冷え込み立ち込める霧。
降る雨を縫うようなそれに一瞬だけ、赤い光線が映った。
どこかのおバカさんがレーザーサイトを利用している。
そしてこんな場所にそんなものが映るということは、予定通り商談は失敗したようだ。
隠れ潜んでいるつもりの相手が2,3人。一番遠い対象は……数Km先か。
この環境でこの距離なら光学系狙撃術式士か狙撃系異能持ちだろう。

「さーて、買いそびれた品はどこで仕入れるかなぁ……。よっと」

徐につま先で蹴り上げた傘を空中で掴むとばさりと音を立てて広げる。
一瞬後に衝撃。防弾仕様という無茶ぶりカスタマイズされた傘の石突と受け棒の一つに着弾し火花が散った。
同時に一発の弾丸が雨中に軌道を残しながら彼方に飛び去って行く。

「へぇ」

煙を立てる箇所を確認して僅かに感嘆を漏らした。
着弾点を見るに、飛来した弾丸の軌道は心臓と頭部に直撃コース。
夜間にも関わらず初手でヘッドショットとハートショットを狙うとはなかなか自信がある狩人のご様子。
生け捕りを所望する組織が多いががっつり狙ってきたところを見るとそのつもりはないらしい。
近いにもかかわらず一人外した間抜けがいるけれど……実際は回避を想定してギリギリでコースを変えたのだろう。多分。
そして防がれるのを確認した今、対応して何らかの策で出てくるはず。
既にこちらは相手のキルゾーンの中。

「そんじゃ、あそぼっか」

聞こえるはずもない相手へ一言。その声は喜悦に満ちていた。
わざわざ待っていたのだから簡単に終わったらつまらない。
暇すぎる日々には刺激が必要だから、一緒に遊びましょうと。
わざわざそれっぽい業者を利用したのだから、支払った分位は楽しませてもらわないとね?

ご案内:「送電塔」から白梟さんが去りました。