2019/12/15 のログ
ご案内:「青垣山・墓所」に伊弦大那羅鬼神さんが現れました。
■伊弦大那羅鬼神 > 冷たく白染まった空気、仄かな霧に霞んで。
そこは酷く、佇んでいる墓達の、古びた石材の冷たさが、訪れる者の心を、闃寂(げきせき)とした孤独にさせる。
――その中にただ一つ、『半ばにへし折れた槍』が供えられる墓場があった。
誰かがこまめに手入れをしているのかもしれない。並び立つ墓標の中、それだけが、誰かが忘れない為に、そこに繋ぎ止めるように。
……その前に、また一人。
誰かが訪れていた。
「――……」
『 出雲寺家之墓 』
『 出雲寺 夷弦 』
「……いずも、でら」
「い、づる」
――しゃがれた声が、名を読み上げる。
古びた襤褸の下の、簡単な服。それだけでは隠せない、岩のような肌と、その中の容貌の歪さ。
その口から零れたのは、墓場に眠る、"だれか"の名前。
……ひどく、読み上げられてから。
その背中は、とても。
淋しそうだった。
ご案内:「青垣山・墓所」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
砂利を蹴潰す音
鳴くような風と、それに混じって少女の息づく声
「はぁ…はぁ……っ」
整わない呼吸と、汗ばんだ額に貼り付いた髪は、少女が此処まで走り回って辿り着いたのだということを如実に語っていた
「此処に、いるとはねー……ふぅ。ふぃー……」
呼吸を少しずつ整えながら、姿勢を直して…佇む青年を見据えていた
■伊弦大那羅鬼神 > 「ッ」
元々静寂しかなかった場所と、此処に居るのが、自分だけであったことは分かっていた。
だから、新たな音の主と、その声が誰なのかも、鮮明に解った。
解ったのに、振り返るまでに時間を要した。
「りん、か」
――自分が最も呼びなれた名前を、とても重そうに告げる声は。
向けられる隻眼の中に揺れる光と、結びついている。
……墓前に佇む彼、彼の前の、墓。
貴女が知りうるそれらが、今目の前に、並んでいる。
「……ここに、なにかが、あると思った。
カミヤに、なにも、いわずにでてしまったけれど、
……どうしても、こないと、いけないと、おもって」
此処に彼が来た理由に、明確なものはないらしい。
ただ、最初より幾らか喋れるようになった彼の声と、言葉と。
眉間に寄った皺は深く、苦悩と――何か、痛みを訴えている。
「……これ」
視線が墓を見る。
「……これは、"おれ"の、か?」
■伊都波 凛霞 >
名前を呼ばれれば頬を綻ばせて、けれど視線を彼と同じ対象へと注げば瞳には悲しみの色が僅かに混ざる
「……うん」
一言だけ発声したその言葉は何への肯定か
ようやく息が整った胸元に手を置き、小さく息を吐く
「だから此処にいるとは思ってなかった。
その逆も在りえたのに、選択肢から消しちゃってた…」
ゆっくりと、歩みを進めて
やがては青年の、隣へと
「そう、此処は君の、お墓。
…墓石だけ、だけどね。君は帰ってこなかったから」
■伊弦大那羅鬼神 > 「――。」
返ってくる返事が、自然と予想をしていたかのようだった。
告げられる言葉に対する反応は、酷く静かに。
……ただ、僅かに視線を落とした。
並び立つ貴女の横で、見上げる程の背丈が、何故だか、小さく見える。
ただ、苦しそうに顔は歪んでいた。それが、自分の墓であることを、どれくらい理解出来ているのかは分からない。
それでも、苦しそうだった。
「……おれは、ここに、かえってこなかった。
カミヤが、いっていた。おれは、むかしに、とりかえしのつかない、ことをした、と」
――襤褸の下から伸びる手。ごつごつとして、傷跡だらけで。
仄かに熱された岩のように明滅する傷跡の光で、墓の銘が、照らされる。
「……い、づる。おれは……いづる、"だった"」
――今の自分は、この目の前の墓に刻まれた名の主か。
「……りん、か。おれは、いまも、いづる……なのか?」
不安げに問い尋ねた。だが、それに、答えが返るよりも前に変化は起こる。
「――ゥ、グ、ゥァ、ア"……ッ!!」
突然、呻き声をあげた。それと同時に、貴女の横にいた鬼はその場に崩れ落ち、咄嗟に、『供えられた槍』へ手をつく。
――"ぱきり"と、『鬼の身体』から、音がした。
■伊都波 凛霞 >
「だった、のか。今もそう、なのか……わからない。
でも、君は私のところへ帰ってきた。私の名前も呼んでくれたよ。
あ…、でも彼は私の前では呼んでくれなかったっけ。今思うと、照れくさかったのかなぁ」
苦笑を零して、"鬼"を見上げる
その顔は、苦痛に歪んでいた
「っ…だ、大丈夫…!?」
崩折れ、槍に手を伸ばした鬼
そしてその慟哭に思わずその身体に触れようと、手を伸ばして──
■伊弦大那羅鬼神 > 「ウ、ァア"ア"ッ、グ、ァゥァアアアッ――!!」
――握り締められる槍が軋む。それ程の苦痛が、鬼から訴えられる。
そして、痛みから揺らぐ視界に、貴女の顔が映った。
隻眼の瞳は、僅かに見開かれる。
……ぐらりと、巨躯が揺れ。
"貴女のほうへもたれかかる。"
――大きな躰は、見た目以上に重い。そして、支えるよりも先に、
彼の額と、貴女の額は近づく。
……触れ合う刹那に、
→
■伊弦大那羅鬼神 > 『――――見事也、不撓の槍勇士。汝、我が血肉を浴びて尚、己が名を魂に刻んで、鬼と果てる事を拒むか』
――地の底から響くような声と共に、
貴女の視界は、暗転する。
『――くかか、言葉無く謁見するか。 此なる勇士が望み続ける名の主。
善い、束の間。我が片鱗を覗くことを赦す』
■伊都波 凛霞 >
キン──
額が触れて、視界が入れ替わる
暗闇に、声が響く
『これ…は、彼の記憶……それとも…?』
サイコメトリーの異能は万能じゃない
額同士を触れさせれば、相手の記憶を覗き込むことは、出来る
『望み、続ける……私を?』
語る、恐らくは鬼の声
その片鱗へと、誘われて──
■伊弦大那羅鬼神 > 『左様』
――――暗闇だ。
ただ、薄っすらと、今も、"墓所"の空気は感じられる。
時が止まったように、彼の気配も近くにあるが、動くことは無い。
貴女の意識だけが、ほんの僅かに浮遊しているかのような感覚。
そして、
『汝、此なる槍勇士が、
"鬼へ果てる苦痛"の中、望み続けられた名である。
――我が血肉を飲み干し、生き長らえ。支払う心の欠片までもが、
汝、その名を叫び続けた。
愚かな程に、苦痛と、果てゆく魂を燃やし続けながら』
目の前に、『燃え盛る巨大な髑髏』があった。
片目を穿たれた跡、そして、その炎の奥に、突き刺さったままの槍の穂先。供えられていた槍の、喪われていた部分がそこある。
――直感するだろう、"これがこの鬼を、彼を、鬼として結び続けている楔"であると。
『 我が名、大那羅(ダイダラ)。 青き垣の山にて、此なる槍勇士に穿たれし山の鬼。
此なる槍が、我が心の臓を縫い付け、槍勇士を鬼と人との間(あわい)と成した』
ゆっくりと、その髑髏の口が開く。
燃え盛る炎の中、突き刺さった穂先には、蒼い光が宿っている。
『――そして此は、"人"への帰還を訴えている。
既に、その為の力は、汝との邂逅がもたらした。
即ち、我は漸く真に、この槍勇士によって"殺される"。
嗚呼、無念也。然し、故にこそ我は、最期の言伝を汝へと託す べし』 ランダム指名 > 伊弦大那羅鬼神
■伊都波 凛霞 >
静かに、ただ静かに燃え盛る髑髏の紡ぐ言葉を聞いた
彼は、彼が、それほどまでに想うもの
思い上がるわけではなく、遜るわけでもなく…真っ直ぐに、受け止めて
『(…やっと、わかった。
彼は鬼に負けて、喰われて帰ってこなかったわけじゃない…。
まだ、戦っていたから…戻ってこなかったんだね…)』
どこか誇らしげに、どこか嬉しげに、心の中で、声色が踊る
同時に、不可思議な思いにも捉われる
『(最後の、言伝……?)』
大那羅となのるこの鬼が、何を人に伝えるのか──
■伊弦大那羅鬼神 > 『――――心せよ』
開いた髑髏の口からは、焔の揺らめきが零れ落ちる。
それにあおられることによる熱感などはない。
――命の消えゆく間際の烈火。それは、鬼の命とて例外なく、
『此なる槍勇士は 此なる槍によって、我が血肉との鬩を果たした。
然し、我が血肉によって与えられた"躯体"は、決して永劫、人に戻ること、無し』
例え、心が、彼が戻ったとしても。
彼はもう、『人間ではなくなっていて、また、戻ることもない』
突きつけられるのは、その事実。
二度と彼が、ただの人間として居られることは無いと。
『 誓約すべし。此なる槍勇士、如何なる道を選べど、"鬼"とは常に凶苦を齎す者。
永劫に与えられるは、"人"なる悪意の試練
故に、此なる者、喩えもなくに、"凶ツ鬼(マガツオニ)"と成り、人の心は、人によって踏み躙られる。
故に 』
――ゆっくり。少しずつ。告げられる言葉の響きは細くなっていく。
炎はゆっくり、ゆっくりと弱くなる。
顎の先から、髑髏は崩壊を始める。
『 望まれし名よ、"如何なる試練"を前に、此が戦う様を見、そして定めよ。
"出雲の槍勇士、不懃無かれ"と告げよ
此が歩む道こそは、果て無き"人との戦"であると 』
鬼は告げる。二度と人へ帰らぬ躯体に宿った、人間のままの彼に迫る、人という存在からの悪意を。
そして、鬼を討ち果たし、そして血肉を啜り生き残り、戦い続けた彼は、これからも戦い続けることになると。
それは人そのものとの戦いではない。突きつけられる悪意、人間の心との、鬼として臨まねばならぬ戦いだと。
――そして、如何なる時も、彼が戦う事を、止めるべからずと、告げる役目の誓約を。
『我が名、大那羅。人足足らぬ万里の道の化身。
故に、地歩むその時、我は汝等を見定めるべし。
――努、戦え。人間とは、斯様に愚かとて、戦うことを止められぬ愚物。
それこそ、また、 人間の 命にして 』
――崩落していく。その窪んだ髑髏の眼の向こうの灯火が、最期の言葉をそこに落とした。
『 最上たる 明光で ある 』
→
■伊弦大那羅鬼神 > ――暗闇に取り残されるのは、貴女の意識。
……そして、崩落した髑髏の中に刺さっていた、槍の穂先。
青い、その光がきっと。
彼だ。
伸ばせば届く場所に、それはある。
貴女が意識の中、それへと触れるその時。
……止まっていた時間は動き出し、そして。
――暗闇は払われ、元の"墓所"へと、戻ってくる。
その手に触れた瞬間から、意識が戻ったとき。
"槍の穂先"が、手の中にある。
■伊都波 凛霞 >
誰かの意識に潜ったのは、初めてじゃない
けれどそれは眺めるだけ
此方を認識し、言葉をかけられることなど、在るはずもなく
どこか、夢を見ていたような…そんな意識に捉われる
はた、と
現実の風に吹かれ意識を覚醒させれば…その手には──彼の、失われた筈の槍の穂先
そして、頭の奥に残る、鬼の言葉が在った
「……伊弦、くん」
何を想うでもなく、口をついて、名前が零れ落ちる
■伊弦大那羅鬼神 > 「――――……伊都、波?」
――目の前にあったのは、"崩れ落ちた鬼"の顔だ。
……あの時、触れようと伸ばされた手による支えは叶わなかったのだろうが。
隻眼の瞳と、そして、"呼ばれた姓"。
……呼ばれた名前に、ゆっくりと。
「……」
――彼の、"あの頃の声"が聞こえた。
容貌は変わらない。貴女の上、覆いかぶさる恰好の"鬼"。
けれど、雰囲気が、違うのだ。
……何時かの時間、何処かの教室。
独りで箒を握っていた、"彼"の顔だ。
「……俺……」
■伊弦大那羅鬼神 > 「――――っ!!」
――身を引く。恐怖だとか、そういうものではない。
"人間としての羞恥"が、身体を駆動させている。
「な、なんッ……!!」
■伊都波 凛霞 >
様子が、雰囲気が
懐かしい何かに、変わって…
「……ん」
呼ばれて、応えるように
息遣いが触れ合うほどの、距離
「あ…」
そんな、彼の顔が慌てたように離れてゆく
その狼狽する様子が、どこか滑稽で
「呼び方、戻っちゃった」
くす、と小さな笑みを向けた