2020/08/01 のログ
ご案内:「神代理央 自宅」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「神代理央 自宅」にエインヘリヤルさんが現れました。
■神代理央 >
謹慎二日目。
謹慎と言っても要するに『落第街やスラムに行くな』『暫くドンパチするな』という事。
つまり有体に言えば『目立ってくれるな』と釘を刺されたという形になる。
従って、事務処理の類が無くなった訳でもなければ職務が停止した訳でも無い。書斎に籠り、久し振りに袖を通したラフな部屋着で書類作成の真っ最中。
「……ふう、こんなところ、か」
その仕事も一息ついて、幾分疲弊した眼球を労わる様に目を閉じる。
大きく背伸びをすれば、関節が鳴る音が小気味よく響くだろうか。
■エインヘリヤル > 家の前に車で乗りつける。
もちろんワザとだ、目立ったほうがわかりやすい。
特にこんなときだ。
タダの女に成り下がったという噂のあるような人物が来るには都合がいい。
ほら、まるで隙間を狙って来たハイエナのようじゃないかしら?
守衛の許可を貰えば、停車場からは徒歩で向かう。
まあどれくらい甘くなったか、まずは舌で確かめるとしよう。
■神代理央 >
鳴り響く部屋の内線端末。
はて、と端末を操作して用件を聞けば来客が一人との事。
名前までしっかり聞き取ってある。訪れた者の名は――
「……ああ、成程。構わない、そのまま通してくれ」
小さく溜息を吐き出すと、来客をそのまま通す様にと答えて書斎からリビングへ。
客人を出迎える為にシンプルなガウンを羽織ると、取り敢えずお茶の準備くらいはと動き始めるのだろうか。
常世の技術力というのは本当に素晴らしい。
料理が全くできない己でも、ボタン一つで取り敢えず一通りの事は出来るのだから。
かくして、来客を迎える準備を整えつつ、彼女が訪れる目的に思考を走らせながら再度溜息を一つ。
■エインヘリヤル > 応接間に通され、豪華なソファで館の主人を待つ。
まあそつのない作りの家だ。何も問題ないような。
……何をするにも。
もっとも、このクラスの家……というか知名度になれば、来客など逐一チェックされている。
他人のプライバシーなどお構いなしの輩がたくさんいる。
きっとゴシップ好きの連中やなくなった違法組織の連中が有る事無い事書き立てるだろう。
まあ、それもちょうどいい時期だ。
誰がどう動くかというのはこういう時期が一番良くわかる。
浮足立つような連中の把握には便利だろう。
「……さて」
■神代理央 >
応接間で待つ彼女の耳に、扉が開く音が聞こえるだろうか。
部屋に現れたのは、珍しくラフな部屋着に薄手のガウンを纏った少年。
少年の背後から続くのは、ティーセットと茶菓子の乗ったトレイを乗せた小さなハウスロボット。
「待たせてすまないな。面倒な来客は全て断る様にしているから、よもや通される者が居るとは思っていなくてな」
彼女の向かい側に腰掛ければ、無機質な駆動音と共に二人の前に並べられるティーカップと茶菓子。
食器と茶葉。菓子には金をかけましたと言わんばかりのセットが並ぶが、其処に人の温かみは無い。
機械的に用意された"お茶会"の準備が整えば、どうぞ、と言わんばかりに軽く手をあげつつ。
「…さて。何となく用件は察しているが。今日はどういった赴きで。エインヘリヤル嬢」
カップを手に取り、紅茶の香りを軽く鼻腔に吸い込みながら。
小さく首を傾げて、彼女に尋ねるだろうか。
■エインヘリヤル > 立ち上がるような間柄でもない。
座ったまま会釈。
いつもの様子、いつもの神代。
きっとそのつもりだ……まあ女装が似合ったわけだと今なら得心が行く。
「ええ、遠慮なくいただくわ……まあ、簡単な用件よ。
どれくらいスイーツ部らしくなったのかと思って、だもの」
カップの紅茶を口にしつつ、茶菓子に手をつけて。
どうもこうもない。
まあ、見た感じ、壊れ具合はだいぶ顕著だ。
■神代理央 >
「スイーツ部らしく、か。随分と手厳しい事を聞くものだな」
彼女の言葉に小さく苦笑い。
しかして、その笑みには僅かな疲労と、様々な感情が入り混じった様な色が交じり合い、奇妙な濁り具合を見せる。
「状況だけ話してしまえば、見事な迄に甘ったるくなってしまったよ。
殺し屋とやらの発言に狼狽えた挙句、今や謹慎の身だ。
嘗ての私であれば、この様な無様な姿は晒さなかったと自負しているがね」
逆に言えば。
その自負は現在は持ち合わせていない、という事。
昨夜、刃を交えた公安の剣客と恋人の所在を伝えてくれた少女によって少しばかり安定を取り戻してはいたが、それでも揺れ動く精神が完全に復調した訳では無い。
苦笑い、というには些か苦みの強い表情と共に、カップに口を付けて喉を潤すだろう。
■エインヘリヤル > やはり、わかってないのが丸わかりだ。
「だから、病院で聞いたでしょうに。
本当にこの路線で行くつもりがあるのかと」
微笑。
濁りもなにも、本人がわかってないまま暴走してるのだから必然でしかない。
初手からボタンをかけちがえたまま、うろたえている。
「単純にいえば。
これからどうするつもりなのか聞きに来た……というのが正しいわ。
だって、あなた……自分が何をしたいのかよくわかってないでしょう?」
金十字の瞳で妖しく笑う。
人の心を暴くような、えげつない笑みと言ってもいい。
■神代理央 >
「…其処まで御見通しか。特別顧問殿は、相変わらず人間観察が御得意の様だ」
カップを置いて、彼女に向けるその顔には、感情も表情も無い。
かつて病室で傲慢に彼女に応えた頃の覇気は、無い。
「…本当にどうしたものかな。一応、違反部活や落第街に対しての一手を打とうと思ってはいる。
それを為す為に、色々とした準備も進めてはいるが…」
柔らかなソファに身を預ける。
「……苛烈に、果断に。嘗ての私の様に行動を起こすべきか。
或いは、それなりに穏健な案を以て事に当たるか」
「『システム』として機能すべきか否か。今の私には、それを決断し選択する事が出来ない。
……笑いたければ笑うと良い。嘗て貴様に大口を叩いた結果が、このザマだ」
妖しい笑みを浮かべる彼女を眺めながら、力無く笑みを浮かべて肩を竦めた。
■エインヘリヤル >
「ああ、やっぱりわかってなかったんだ?
見ればわかるけれど」
クスクスと苦笑する。
まるでなにか面白いものでも見るように。
「女装のほうがあなたの本質だっていうことよ」
嘲るでもなく、単に面白いおもちゃを見つけたというそういう笑い。
「なんで女装なんかする気になったのか、まだわかってなかったなんてね。
そんなの、さすがに笑うしかないでしょう?」
■神代理央 >
「……何?」
彼女の発言には、流石に零れ落ちる疑問符を隠す事も出来ない。
ぽかん、とした表情で彼女を見つめれば、思わず身を起こして向かい合う。
「……その、何だ。非常に聞き辛い、というか。寧ろその真意を伺いたくはないんだが」
女装。
女装と言っただろうか、眼前の彼女は。
記憶違いでなければ、日ノ岡あかねの『話し合い』に潜入する際に同僚達から施されたアレ。
「何で、と言われても『風紀委員』だと察せられない様な姿を、と命じられたからであって、それ以上の他意はない。
衣装や女装という手段については、同僚諸氏の悪ふざけも過分にあるが…」
何を言っているんだ、と言わんばかりの表情と共に、怪訝そうな表情で彼女を見つめるだろうか。
■エインヘリヤル >
「だってそうでしょう。不思議に思わなかった?
……それを受け入れて、なおかつ自主的に着て集会に現れた自分を。
あまつさえ正体を明かして帰るまでやるなんて」
まったく、楽しくて仕方ない。
ああ、コレは「殺し屋」とやらはさぞかし楽しかったろう。
ちょっといじっただけでこうなるのがわかってる相手をいじるのはそれは楽しいに違いない。
「【鉄火の支配者】がそれを良しとするような人間だって、自分でわかってなかったんでしょう?」
そんなの、可笑しいに決まっている。
■神代理央 >
「…いや、その。不思議に思った事は無かった、が…。
というか、それ以降別に女装している訳でも無し。私にそういう趣味は無いが…」
あれは謂わば、同僚達のあの晩だけの悪ふざけの様なもの。
受け入れたのは確かに些か同僚達に押し負けてしまったからという部分はある。正体を明かしたのは、結局風紀委員としてあの場に立ちたくなってしまったからだ。
彼女が一体何を己に言いたいのか、怪訝と疑惑の表情は尽きぬ儘。
「……まるで、二つ名である『鉄火の支配者』を私が御し得ていない様な言いぐさだな。
それとも、態々揶揄いに訪れたのか?であれば、私も事務仕事が無い訳では無い故、お引き取り願いたいものだが」
彼女の真意を図りかねた儘、再びソファに深く身を預けた。
■エインヘリヤル >
「ああ、少し意地悪だったかしら?」
くすくすと笑う女は、不機嫌になった男を前に、弄ぶような仕草で。
まるで鈍感な男をからかうような、そんな態度。
紅茶が酒のようにすら見える。
「そんなの決まってるじゃない。
……最初っから、周囲の期待に応えて、どんなに不承不承でもいい格好したがりの仮面を崩せない。
そのくせ、たまにエゴが出て、わがままお人好しで感情的に行動する。
それが【鉄火の支配者】じゃないの?」
ひとしきり笑ったあと、上目遣いで言った。
■神代理央 >
彼女の発言に、浮かべていた疑問符や怪訝な表情は削げ落ちる。
其処にあるのは、彼女を見定める様な視線。
揶揄う様に、弄ぶ様に笑う彼女を、揺るがぬ瞳で見つめている。
「……本当に、特別顧問殿は良く人を見ていらっしゃるようだ。
昔ながらのの知人にも、其処まで私の事を理解した者はいなかったかも知れぬ。
そうだな。それが私だ。それを『鉄火の支配者』と呼称するかはさておき、今貴様の告げた事が全て私だ。私という人間だ」
揶揄われているのかと思いきや。
己と言う人間を理解したかの様な言葉を告げる彼女に、ほぉ、と言わんばかりの吐息と共に瞳を細める。
「そういう俗物的な人間である事は否定せぬよ。寧ろ、良く其処まで私を見ていたものだと感心するばかりだ」
「その上で問いたいものだ。そんな俗物的な思考と性格すら揺らぎ始めた愚かな私を、笑いに来たのかね?それとも、切り捨てにきたのかね」
上目遣いで此方を見る彼女の金十字の瞳が妖しく輝く。
見目麗しい美貌と才覚を持つ彼女に向けるのは、先程迄とは違う緩やかで穏やかで、しかし変わらず彼女を見定める様な笑みと視線。
尤も、見定められているのは此方の方かも知れないが――
■エインヘリヤル >
「別に。初手から掛け違えてたままだったから、それを伝えに来ただけよ?」
何事もないような顔で、大したことでもないというように。
上品に菓子に手を付ける少女は、平然と先を続ける。
「だってその、いい格好したがりの仮面にヒビが入ったくらいでみんな騒ぎすぎでしょう?
殺し屋とやらは鬼の首を取ったようにからかい倒したんでしょうし。
あなたはあなたで、ヒビを取り繕うのに必死で。
……べつに、女装ほどのことでもないっていうのに可笑しいったら」
だが、そこでカップを置いて向き直る。
「だから、この路線で本当にいいのかって聞いたのに。
全くわかってないんだもの。
女にあそこまでさせておいて、自爆テロの子供一人に引き金が引けないないなんて、みんな知ってるわよ。
だから言ったでしょう、どうするつもりなのかを聞きに来たって」
どうしたいのか、本人が定まらないことには周りがどうこうしても無駄。
結局またボロが出るだけだ。
■神代理央 >
「…御親切な事だ。態々それを伝えに来てくれるとはな」
彼女の言葉に浮かべるのは苦笑い。
先程迄とは違い、僅かな自嘲を込めた本来の"苦笑"
「子供じみた格好つけの仮面が、思っていたよりも仮面以上に癒着していたという事なのだろう。
何より、私自身がああも無様に焦ったのだ。仮初のペルソナが、本質へと擬態していたのやも知れぬ」
唇を薄く歪めた儘、此方に向き直る彼女と視線を合わせる。
「程良く共生していくしかあるまい。仮面と言えど、外面と言うのは大事なモノだ。癒着した仮面を、今更引き剥がすのも億劫だ」
「しかし、罅を取り繕うのは止めにしよう。
私は結局、他者の望む姿である事を望み、他者を導く者である事を望む。
それは認めよう。仮面に引き摺られ、無様な姿を晒していた事も認めよう」
殆ど手が付けられていないカップを手に取り、温くなった紅茶で喉を潤す。
湿らせた唇で言葉を紡ぎながら、小さく笑う。
■エインヘリヤル > 「ああ、また」
コレはクセね、そう思う。
すっかりそうであることに慣れて楽をしているだけだ。
弱っているともいう。
「逆よ。本質がペルソナを形成して、格好つけた仮面に慣れていただけでしょうに。
わかった以上、さっさと素顔と向き合いなさいな。
仮面をつけるにしてもその後でしょう?」
んぅ、こうじゃないわね。
はっきりと聞けばいいか。
「……あらかた言ってしまった気がするけれど、どこまで言っていいかしら?」
■神代理央 >
「…素顔と向き合え、と?
酷な事を言う。今の私に、それが適う様に見えるかね。
共生、という言葉を使う程度には、仮面への依存を深めてしまっていると、察して欲しいものだが」
僅かに瞳を細める。
彼女の前で、何処まで晒すべきかと、測りかねている様子も感じ取れるだろうか。
「……言いたいことがあるのなら、全て言ってしまえば良いだろう。言葉にしなければ、伝わらぬ事もあろう」
己とて、察しが良いと言える程に出来た人間ではない。
未だ"仮面"を身に着けたまま、呆れた様な声色で彼女を促すだろうか。
■エインヘリヤル >
「なら遠慮なく。
さっさと、子供を撃てないって認めてしまえばどう?
女子供を盾にされたら身動き取れないって認めてしまえばどう?
もう迷う時間なんかそれほどないでしょう。
だいたい、どう対策するかなんてその先でしょうに」
どうやったところで本質はそこ。
どうせ行き着くところなんて結局、そこでのトロッコ問題でしかない。
出来ないことは今すぐできるようにはならない。
手持ちカードに対して一個ずつ答えを出すしかない。
「だから言ったでしょう、本当にこの路線でいいのかって」
金十字の瞳は値踏みするでもなく、心の奥を刺す。
■神代理央 >
彼女の言葉が紡がれれば、暫し沈黙が二人の間を包む。
それは、葛藤。或いは、煩悶。
苦悩に歪む表情が、彼女に向けられる。
「…それを、それを認める事は出来ない。
撃たねばならないからだ。私の理想の為に。
既に撃ってきたからだ。これまでに、何人も。何人も」
ゆっくりと、手に持った儘のカップをテーブルへと。
そのカップは、微かに震えていただろうか。
「……今更、女子供は殺せません、などと綺麗事を言えるものか!
必要であれば殺すしかあるまい。それを切り捨てる事によって、多くの者が幸福になるというのなら、撃たねばなるまい!」
そう。既に己は今迄散々『撃っている』のだ。
だから今更。今になって弱者を撃てません、等という訳にはいかない。
――其処で、漸く理解する。あの夜。落第街で少年を撃てなかった己の弱さと欺瞞を。
「……すまないな、エインヘリヤル。どうやら、貴様の忠告は、もう聞き入れる訳にはいかぬ。いや、寧ろ礼を言うべきか。
貴様にこうして言われる迄は、きっと私は撃てなかった。撃たねばならないと分かっていても、撃てなかった。
先程の言葉は訂正しよう。認めるさ。私にはきっと"撃てなかった"」
「だが、こうして突き付けられてしまえば。いや、認めざるを得ないからこそ、もう悩まぬさ。
必要であれば撃つ。切り捨てる。多数派の為に、少数を切り捨てる。
それが私の根源。私の原初であったことを、気付かせてくれたのだからな」
此方の内奥を穿つ様な金十字。
その瞳を己の紅が見つめ返す。
「…貴様は本当に良い女だな。本当に、敵に回したくはない」
と、薄く笑みを浮かべるだろうか。
■エインヘリヤル > 「まあ……そうは言うけれどね?」
肩をすくめてみせる。
「沙羅のことが撃てるかどうか考えてからにしたほうがいいわよ?」
しれっと言った。
「まあ、あなたに必要があるなら、私のことは撃つでしょう。
女子供も、心で血反吐吐きながら撃つでしょう。
で。
そこで彼女までってなったら、きっと色々壊れるんでしょう?」
そして。
別に今すぐ決めないといけない話でもない。
この場で、答えをすぐに選ばないといけない理由はない。
「別に、答えを求めに来たんじゃないの。
どうするつもりなのかと、とりあえずの現状報告に来ただけよ。
ふふ……言いたいことは言ったし、そろそろ御暇するわ。
ベッドで一人慟哭するあなたが見れないのは惜しいけれど」
それじゃ。
と言い残すと、さっさと切り上げる。
何事もなかったように。さもあたりまえのように。
言いたいことだけ言って、容赦なく。
■神代理央 >
「……ああ、全く。本当に"良い"女だよ、貴様は。
正式に風紀に迎え入れたいくらいだ。何時でも歓迎するさ」
彼女を褒め称える言葉とは裏腹に、その表情は苦々し気なもの。
どうして彼女はこうも的確に己が"答えられない事"を抉ってくるのか。
殺し屋と出会った夜。己の中のナニかは彼女を切り捨てると断言した。しかし、己に。神代理央にそんな事が出来る筈もない。
それを突き付けられた己の表情は、再び苦悩に歪んでいるのだろう。
「…本当に、言いたい事だけ言いに来たのだな。とはいえ、貴様も人の事は言えぬ程度には御人好しな事だ。こんな些細な騒ぎなど、放っておいても良かっただろうに。
……こんな男の慟哭が見たいとは、悪趣味な事だ。貴様もさっさと首輪を繋いでくれる飼い主を探すべきではないかね」
話を切り上げた彼女に溜息を吐き出つつ立ち上がる。彼女を見送る為に扉へと向かいながら、ふと彼女に視線を向けて。
「…ああ。今更な事ではあるが。
落第街での一件、世話になった。礼を言うのが遅くなってすまない。
未だ貴様の眼に適うのであれば、此れからも良い関係を築いておきたいものだ」
今日初めて。苦悩や仮面から来るものでは無い穏やかな笑みを浮かべて。"あの夜"の礼を、彼女に告げる。
己の仮面を軋ませた、あの夜の礼を。
それに彼女が答えようと答えまいと構わない。
此方も言いたい事だけ言って、彼女を見送ろうとするのだろう。
■エインヘリヤル > 「別に大したことでもないわ。
そうであることをそうだというのは、別に難しい話でもないもの」
とは言っても、ほぼ又聞きと状況整理だけでココまで読めたら、サトリか何かに近いかもしれない。
それでも。
本人にしてみれば見えてることを見えたままに話してるだけのことでしかない。
「ああそうそう。
なにか勘違いしているかもしれないけれど。
いま退場されたら、それ私がやらないといけなくなるでしょう?
なら、どこが問題の根本かだけ示しておいたほうが、後々楽だからに決まってるじゃない」
本当にそうなのかどうなのか。
いまいち掴みどころのない話をしながらくるっと振り返る。
「それと、報酬はそれなりのものを用意してもらうから、そのつもりで」
不意に唇を奪った。
■神代理央 >
「難しい話ではないが、実行に至れる者がどれだけいるか、と思うがね。そういった意味では、此れでも素直に貴様の事を評価しているつもりなのだが」
書類上は己と彼女は同じ歳…らしい。
少なくとも、風紀委員会にて確認した書類ではそうなっていた。
しかし、彼女が己と同じ歳だとはとても思えない。人の感情の機微。智謀策謀においては、後塵を拝している事は認めよう。
「……そういう打算的な所は嫌いでは無いよ。
寧ろ好ましい程だ。存分に、私を駒にしてゲームを楽しむと良い」
であれば。鉄火場に立ち、賄賂をばら撒く汚いやり方は己が担うべきなのだろう。
彼女もそういう事に慣れてはいるだろうが――矢面に立つのは『生意気な小僧』くらいが丁度良い。
――と、和やかな様で剣呑な様で。
そんな会話と共に彼女を見送ろうとして――
「……っ…!?
……戯れが過ぎるな。私に、恋人が居る事は知っている筈だろうに」
奪われた唇。赤い髪が、一瞬視界の端で揺れて、次いで柔らかな感触が唇に伝わる。
前回の様な"目的"がある様には思えないその行為に、向けるのは僅かに剣呑さを浮かべた視線。
報酬、という言葉の意味も、測りかねて。
■エインヘリヤル > 「ふふ……必要があれば奪うくらいのことはするわよ」
コレくらいの約得はあってしかるべきだ、ざまぁみろ。
「アレだけ恥をかかされる演技にアドリブで乗ってあげたんだから。
おかげで、高慢な女が策に溺れていいようにあしらわれて情にほだされたって評価なのよ、私」
まあ、要するに彼は外面がいいのだ。
それに溺れているだけともいう。
「女を扱うっていうのはこういうことだって知らないのに、タダのいい人のまま切り抜けられるなんて思われたら困るもの。
で、恋人がいるからなんですって?
恋人がいるまま他の女に色目を使うってのはこういうことだって知っておいて?」
そのまま、金十字の微笑を残して立ち去った。
完全に勝ち逃げだ。
■神代理央 >
「……もう少し、物質的なモノにして欲しいものだ。金を集られた方が、まだマシなのだが」
してやったり、と言わんばかりの彼女に深々と溜息を一つ。
どうにも己は隙が多いのではないだろうか、とちょっと悩んでしまう。
「…むう。それは申し訳ない、とは思っているが…。それが嫌なら、否定するくらいの力量は貴様にもあるだろうに…」
御互いにその方が"都合が良い"と判断したが故の演技であったが、彼女の評判を貶めているとなれば歯切れも悪くなる。
言い返す言葉に力は無い。
「…肝に銘じておこう。全く、お前は本当に"良い女"だよ」
尊敬と皮肉の入り混じった言葉で、彼女を見送ろう。
今回は己の敗北だ。完全に、一本取られた上で勝ち逃げされてしまった。
「………色目を使っているつもりは無いんだがなあ…」
彼女が立ち去った後。
ぽつりと漏らした言葉は、今日一番煩悶の色を浮かべたものだったのかもしれない。
ご案内:「神代理央 自宅」からエインヘリヤルさんが去りました。
ご案内:「神代理央 自宅」から神代理央さんが去りました。