2022/03/15 のログ
ご案内:「純喫茶『和』」にイェリンさんが現れました。
イェリン >  
ホワイトデーなる物が、あるそうだ。
それにあやかって3月14日からの一週間、自分の務める『和』でもイベントとして
クッキーを詰めた小袋をプレゼント品としてコーヒーに添えたりしていたのだけれど――
なぜか私までお客様から色々と頂いてしまった。
茶葉やクッキーにキャンディー。困惑しながら受け取っている内に大変な量になっている。

「――こんなに食べきれないわ……」

ちょうど一か月前、月色の髪の先輩に贈る為の試作品として
カップケーキを山のように作った事も記憶に新しい。
お店の人だけで食べるのも勿体ないから、と店長に言われるままに結構な数のお客様に配っていたカップケーキ。
それに対するお礼という事だそうな品々に困惑しつつも、どこか心は暖かく。
故郷には無かった風習や文化だ。なにせ一か月前のその日がプレゼントを贈り合うイベント事だから、
その日で完結しているのだもの。
そんなことを思いながら頂き物をお店の冷蔵庫の隅に仕舞う。

カランコロン、とベルの音。
聴き慣れた音に少しだけ早歩きでバックヤードを後にする。

「いらっしゃいませ」

ようやく口に馴染んだ言葉と共に、精一杯の笑顔で来店者を迎える。

イェリン >  
「サンドイッチのセットね。
 今日だとデザートはチーズケーキとモンブランがあるけれど、
 どっちが良いかしら?」

コトリと、水の入ったグラスとおしぼりを置いた時には注文が決まっていた。
何度も足を運んでくれる常連客は、二度三度の来店に気づけば顔も覚えてしまう。
チーズケーキで、と笑顔を向けてくれる男の人はもうすぐ20代だろうか。
飲み物については最早聞く事すら無い。
ブレンドコーヒーをホットで。この人は砂糖は要るけどミルクは要らない。
添えたミルクポットが一度も使われた事が無いから知っている事だけど、
来る人の好みという物は見ていて、気づくと存外面白い。

セットチーズ、ブレンド。素っ気ないかもしれないけれど、伝票に書くのにはこれで十分。

「サンドイッチを食べ終わる頃に持ってくるわ」

言いながら一礼してその場を去る。

盛況と言うほどにごった返すような客入りでも無い。
のんびりとした音楽の流れる店内。
勉強道具を広げるあの人は常連で、あっちの電話してる人は多分初めて。
血生臭い家業以外でアルバイトなんてした事が無かったから、何もかもが新鮮で楽しい。

ご案内:「純喫茶『和』」に史乃上空真咬八さんが現れました。
史乃上空真咬八 > ――新たな来店者は、静かに店の扉を開けて訪れる。

風体はランニングでもしようものかという運動用の服装。襟の高いウィンドブレーカーで口元が隠れた、如何にも陸上でもやってそうな姿。

……が、肩掛けに鞄を持って、目の下に隈を作っていた。
目尻が眠たげに垂れた、三白眼の赤い眼が、多分尖れば相当ドスを効かせそうな雰囲気を漂わせている。


「…………一名、ス」

人数はと聞かれ、結構間を空けてから、眠そうな声で返事をしている。

イェリン >  
カランコロンと音が鳴る。
入口を見やればスポーティーな、それこそ部活帰りと言った風体の男性だ。
目の下の隈が濃く眠たげな三白眼にパチパチと瞳の蒼を瞬かせ。

「一名ですね、こちらへどうぞ」

やや冷たげな印象を抱かれがちな自分の声。だからこそ精一杯笑顔を作って紛らわせる。
多少の勉強の甲斐あって接客業らしい言葉遣いは身に付いて来たところ。
好きな席へどうぞと言っても困るだろうと思い、空いている席へ促す。

「今の時間だとフルーツサンドのセットがオススメ……です」

メニューを取り出し、おしぼりと水を提供しながら微笑む。
オススメよ、と言いかけて初めて来るお客様への態度では無いと何とか踏みとどまれた。
見た目だけでなく声も眠たげな男性、少しだけ他のお客様とは違う独特な雰囲気が感じられた。

史乃上空真咬八 > 「……」

相手と対照的。色相反する蒼い眼に、礼儀所作のある視線が向いた。
――会釈。努めて礼儀正しい。
目付は多分、普段よりかなり柔らかくなっていそうなものだ。忠誠心の高い賢い犬が、飼い主の前で見せているような愛嬌。

「うス」

促され、席に辿り着くと崩れ落ちるように座り込んだ。
身体を揺さぶるようにして、肩掛けの鞄を降ろす。
そこで初めて、彼の上着の右側、袖がぐしゃっと萎んでいる形になっていることが見える。……片腕がない。そういう風体でも、腕がないなんてなれば、明らかに浮くものだが。

「……フルーツサンド、スか。じゃあ、それと……後……あー……暖かい、茶とか、あれば」

メニューに伸ばすのは左腕、着席すれば、御薦めされるままにフルーツサンド、そこで初めてメニューを左手で取って開き、ぐしゃっと眉間に皺を寄せながら、――多分、メニューに焦点を合わせようとしてるのか――絞り出すように飲み物もチョイスする。

「……ありやス、か。茶」

……読めなかったかなんなのか、不安げに零れた声。
読めなかったらしい、お目目はド疲れであるようだ。眼精疲労がメニューの読みやすさを格段に落としているらしい。

イェリン >  
鋭い目つきと裏腹に、振る舞いは至極愛嬌のある物で。
ゆするようにして肩掛けの鞄を降ろす動作に違和感を感じた。
手袋の被せられた手のの根本、右腕に当たる部分が不自然にくしゃりと萎んでいる。

「はい、フルーツサンドと……暖かいお茶ですね」

メモにサラサラと書いていき……書き終えてから困る。
メニューにあるのは大概が紅茶とコーヒーだ。
鋭い目つきでメニューを睨む男性を見やり、

「紅茶とかよりは緑茶の方が良いのかしら」

言ってからしまった、とは思うが顔には出さない。素が出た。
メニューに無くともそのくらいの物であれば用意もできよう。

メニューが読めないというのは、そう珍しい事でも無い。
なにせ自分も海外から来た身分、異世界から来た人も多いから大概の注文が口頭での確認になる。

不安そうに零れた声に少しだけ頬が緩み。

「おしぼり、温かいから目に当てると落ち着くと思うわ」

店員としてでは無く、ただただ心配する心持ちでお疲れの様子の三白眼を労いそんなことを言う。
行儀の良い振る舞いでは無いけれど、店外から見えるような席でも無いし他のお客様から見える位置でも無い。

史乃上空真咬八 > 「……」

ふっと顔が上がったとき、眉間の皺は消えていた。
垂れ気味の三白眼、紅い瞳。

……緑茶。
あるはずもないし、見えるものではないが、
例えるなら――犬が耳や尻尾なんかを立てた瞬間のような、はっとする反応。

「……あるなら、それで。
……すい、やせン、眼が今、ちょっと」

見えづらくて。と、そこで萎む声。申し訳なさは、結構露骨に仕草で滲む。
……その申し訳なさが杞憂に終わる、優しいアドバイスが返ってくると、細い眼を尚細め、暖かいおしぼりを左手に、ぐいと目元に当てていた。

「……」

小さな吐息。リラックスと、脱力。