2022/09/03 のログ
ご案内:「西玄武湖キャンプ場」にリタさんが現れました。
■リタ >
風が木々を撫でる音。虫の鳴き声。そして――薪が爆ぜて、小さく崩れる音。
暗がりの空の下、ぽつぽつと遠くに人影が見えるキャンプ場の一角で、一人、めらめらと燃える火を見つめていた。
「……やりすぎた」
自分が本を漁る限り、"キャンプファイヤー"というものはもうちょっとこじんまりしていた、はずだ。
それがどうだ。今ではどうしてか、自分の背丈とどっこいくらいの、大きな火柱が上がっているではないか。
「やっぱ……ここがコントロールできてない、っていうんだろうなあ」
"火"の魔術を使うのは、やはり危険だ。
何が危険って、少し気を抜いたらすぐ燃やし尽くそうとしてしまうのがよくない。
秋の始まりに足を踏み入れようとしている今日。
自分は、一人キャンプをしている。
■リタ >
このところ、特に異能のコントロールに時間を取られてきた。
前提として、もともと自らの異能は、戦いに使われてきた。仔細は省くが、ここで重要なのは自分は全力を出すことを求められていたために、言い換えればそこそこの力を出すことはそれほど求められていなかった。
というより、少しでも手を抜けば即座に叱責が飛んできたというのが正しい。
しかし、そんな日々は終わった。今は、普通の世界に馴染むために訓練しているところ。
戦わない訓練、というのを予想以上に苦戦していたところ、ある日、とある先生がこう云った。
『――ラルケさん、キャンプをしてみない?』
『君の異能は、自然の力を借りるものだ。ならば、平和な世界の自然と触れ合う中で見えてくるものもあるだろう』
概ねこのようなこと。
そんなわけで今、自分は資料をかき集めて、キャンプに勤しんでいる。
……趣味7割実益3割、といったところは否定できないけど。
■リタ >
目をそらすのはそろそろ終わりにしよう。
さしあたって今やるべきことはこの燃え盛る焚火をどうにかしないといけない。
「ふぅ……っと」
手を翳して、少しずつ火勢を弱めていく。火が弱まっていくにつれ、自らの心の奥底から『なんでもっとドカンと行かねぇんだ!? やっちゃおうぜこの際!』とかいう声が聞こえてくるような気がするけど――耳を貸した瞬間、ろくなことにならないことははっきりしている。
「よし」
心の声と必死に戦って、本に書いてあった通りくらいに火勢は弱めた。
……うずうずなんてしてない。もっと燃やしたいとか思ってない。
■リタ >
「さて」
近くに置いた鞄から、袋を取り出す。
大きなマシュマロの入った袋。
「とりあえずキャンプに来たらマシュマロを焼け……とか言われたから買ったけど……」
正直、どうなるものか予想がつかない。曰く、定番らしいけども、今までの人生ついぞそのような料理を見たことがないのだ。
「……ま、いいや。焼いてみよう」
■リタ >
ぐっと握って、ファイア。
ぼっ、と音を立てて、右手のマシュマロが燃える。
炭化するマシュマロ。
溶けて手にへばりつく白黒の粘液。
辺りに漂う香ばしくて甘ったるい匂い。
■リタ >
「うえ……」
割と本気で、どうしてこんなものを人はありがたがってるんだろう。疑問だった。
――もちろん、マシュマロはそうやって焼くものではないんだよ、と窘める人間はここにはいない――
「はあ、熱いしどろどろしてるし、ほんと最悪……」
火傷する前に、手の中に水を生み出して手を洗う。
焼けただれてへばりついたマシュマロを数分かけて洗い落とすと、草原に寝っ転がった。
……風が木々を撫でる音。虫の鳴き声。薪が小さく爆ぜる音。
「……平和だ」
マシュマロは、失敗してしまったけど。
なんだろう。
言葉にはしづらいけど、いい。ただ自然に身を任せるだけで、何とも言えない心地よさが、心の中にある。
■リタ >
「……ふわ」
自然と一体になる。
普段からしているといえばしているけど、こういうのも、
「うん……いい」
精霊たちが思いのままに遊ぶように飛んでいるのが見える。
普段から見ているはずなのに、特別な状況におかれている、という高揚感だろうか。
「……楽しそうだねえ。私も、まあまあ楽しいよ」
誰が聞いていることもない、そんな声を、虚空に放つ。