2022/10/25 のログ
ご案内:「院内中庭」にマルレーネさんが現れました。
■マルレーネ > 「ん、ん………。 まだ、ちょっと背中が痛い、ですね。
身体自体はほとんど思い通り、ですけど。 力は出ないかな……」
中庭でせっせと伸びをする金髪の女性。
異邦人の女。異世界の修道女。
二度も激しい大怪我をして、すっかりこの病院ともおなじみ。
……どちらも、自分から危険に飛び込んだわけではないのだから、むやみやたらに怒られることは無いけれど。
回復の早さだけなら抜群の女。
生死の境を彷徨ったとは思えない速度での外歩き。
■マルレーネ > 「ほ、っほ。ほっほ。」
とっと、とっと。リハビリ用のウォーキングコースを、てってと走る女。
無理はするなと言われているが、医者もあまり強くは言ってこない。
医者の予想外の回復力を示しているからだろうか。どちらにしろ彼女にとっては好都合だ。
「………よ、っと。」
ひょい、とジャンプして棒にぶら下がろうとして……握力が入らずにストン、と落ちる。
「……まだ、よじ登ったりは全く無理そうですね。握力が戻らない……ですね。」
ご案内:「院内中庭」に言吹 未生さんが現れました。
■言吹 未生 > リハビリに勤しむその姿を、いつからか遠巻きに眺めるのは、
生死の刃境をそのまま顕したような、縁起でもない色合いの少女。
紙袋を抱えてゆるりと近付いて行き、
「失敬。シスター・マルレーネ――で、合ってるかな?」
ぶら下がり棒から、すとんと着地したその背へと。
邪魔にならない程度に離れた所から、声を投げた。
■マルレーネ > 「………。」
相手の言葉を聞いてから、するりと振り向く。
その上で、髪の毛をちょっと弄って、視線を少しだけ彷徨わせ。
「……はい。なんていうか、修道服を着ていないところでシスターと呼ばれると、ちょっとばかり照れますね?」
声かけられた相手に対して、ちょっとだけ恥ずかしそうにしながら振り向いて。
「何か……御用でしょうか。
シスター・マルレーネ。………異邦人の修道女です。」
院内着のまま丁寧にお辞儀。
■言吹 未生 > 「気を悪くしたなら謝るよ。何せ、貴方の事は又聞きでしか存ぜぬものでね」
今は職分から離れているシスターのはにかむ様に、くてりと首を傾げて返す。
「御丁寧にどうも。僕は――言吹 未生。貴方と同じく、異邦人さ。
もっとも来し方は、恐らく違うだろうけれどね」
『皇国』臣民のデータベースに彼女の名はなかった、はずだ。
用向きを尋ねられれば、近くのベンチを指して。
「立ち話も何だし、あちらへ」
それは、疲れを労わる気遣い――と言うよりも、
「――少し長い話になりそうだしね?」
じっくり腰を据えて話す必要がある。
幾許かの、尋問官じみた判断からで。
■マルレーネ > 「いえいえ、何にも。私のことを又聞き、ですか………?」
少しだけ考える。ゴリラとか脳まで筋肉とかいろいろ言われている自分の存在を思い出す。
遠い目をした。主よ、いい感じの二つ名が欲しいです。
「………なるほど。お話ですね。
ではお待ちくださいね、ちょっとタオルで汗を拭いてきますので。」
服の袖で汗を拭って、さて、と視線を横に滑らせて。
しばらくすれば、温かいココアを二つ持ってやってくるだろう。
「……なんなりと。
…その前に、なんてお呼びすればよろしいでしょう?
私はシスターでも、マリーでも、なんでも?」
微笑みながら隣に座る。どんな話なのかは、なんとなく察する。
それでも微笑みは絶やさない。
■言吹 未生 > 「色々と聞いているよ。まあ、いくつかは――愉快な尾ひれ付きのものだけどね」
曰く、あの厄災相手に、その身一つで立ち向かった。
曰く、他のシスターや少年を守りながら力戦した。
曰く、黄金の闘気を放ちながら、件の男と拳打のラッシュの応酬に及び、成層圏まで飛んでった――。
小耳に挟んだそんな目撃談――若干の誇張込み――を思い起こしつつ、一旦離れる彼女を待つことしばし。
「――済まないね。そこまで気を使わなくともよかったのに」
ココアを受け取りつつ、軽く目礼。
少し肌寒くなって来た折、有り難くはあったが。
「ああ、僕の事も好きに呼んでくれて構わないよ。
それで、話と言うのは――貴方が先日戦った相手の事だ」
寒空の雲よりもなお冷たい、灰色の一つ眼がひしとシスターを捉える。
「破壊者『パラドックス』。奴についての情報が欲しい。
その武装。戦法。また、貴方自身が気付いた何か――何でもいい」
少し力が入ったものか。片手に抱えた紙袋を、がさりと鳴らしつつ。
■マルレーネ > 「尾ひれかあ。」
かあ。
遠い目をする。悪評に噂に、とんでもないことになっていそうだ。退院するのも気持ちが重い。
「いえいえ、長い話をするのであれば、少しだけ温まった方がいい。
寒いときに、寒いなあ、と思いながら放置するとどうしても話も固くなり、早く終わらせようとしてしまいますからね。」
「………情報、ですか。 そうですね。
……もちろん、分かる範囲でなら。 ただ、……なぜでしょうか。」
理由を静かに尋ねながら、ココアをちょい、と口に触れさせる。
「私にできることは、そんなに多くありません。
………どうして、知りたいんですか?」
拒絶している口ぶりではない。ただ、ゆっくりと何かを考えながら話すよう。
■言吹 未生 > どこかでカラスが空とぼけた鳴き声を上げたような。
遠くを望む――郷愁とは全く別の思いを馳せるような彼女を、しばし不思議そうに見守り。
「心遣い痛み入るよ。――まあ、話題上どうしても固くはなろうがね」
ほんのり苦みばしった笑みを浮かべ。
ず、とココアを一口啜る。
暖かで甘やかなそれは――それでも少女を氷解するには至らず。
「必要だからさ。敵情視察が叶わない以上、どんな些細な情報であれ、逃す訳にはいかない」
淀みなく問いに答える。
それがさも当然に己の義務であるかのように。
■マルレーネ > 「………。」
そうですねえ、と少しだけ困った顔をする。
「ん-。まあ、そうですね。そういうことだろうとは思いました。
でも、………うーん、うーん。
私もそれなりに、強いとは思っていたんですよ。」
氷のような目を受けても、微笑みを崩さない。
「……ですから。 どういう立場で戦うおつもりなのか、それを知らないといけない。
貴方を侮っているわけではないんです。それは誤解しないで欲しいんですが。」
困った顔のまま、うーん、うーん、と必死に唸って、悩んで……。
「……なぜ戦うのか、と聞いてしまうのは失礼かもしれません、が。」
■言吹 未生 > 「――――」
泰然と笑む――そうかと思えば思い悩んでみせるシスターの言葉を、横槍を入れる事なく聞き。
「――あれが、秩序を壊すものだからだよ」
なぜ戦うのか。最も大なる答えは、それだ。
「ああ、立場を質す理由は分かるよ。僕は“腕章持ち”じゃあないからね。
貴方からすれば、それこそこんな尋問じみた事をされる筋合いもないだろう」
風紀委員ではない。なるつもりもない。
ただの一般生徒だ。傷付き、斃れた人々にも、何らの重き縁故を持たない。
「逆に聞くけれど――では貴方はなぜ戦った?
逃げられなかった訳ではないはずだ。それこそ“なりふり構わなければ”――」
白面はあくまで表情を揺るがさない。
持ったココアすらも、熱が逃げるより早く凍てついてしまいそうな、冷厳な眼差しのまま。
■マルレーネ > 「………なるほど。」
「いえ、似たような方が昔からいなかったかと言われれば、そんなことはありませんから。」
ゆっくりと息を吐き出しながら、目を伏せる。
「………。
そりゃあ、1人だったら逃げてましたよ。確かにまあ、家を壊されそうだったから、最初は抵抗したかもしれませんけれど。」
相手のまなざしに、目を細めて微笑む。ああ、困ったなあ、と少しだけ眉根を寄せて。
「………戦えるという自信もありました。
結果、ここにいるので自信過剰ということになってしまいますが。」
「………貴方は強いのかどうかも、私には分かりません。」
「………何も知らない一般の方に、憶測や混乱を呼ばないよう、釘も刺されています。」
「………それでも?」
■言吹 未生 > 「……力の強弱は、問題にならないよ」
強いから戦う。戦える。
弱いから戦わない。戦えない。
――“厄災”にそんな道理は通じない。
「好悪。可不可。それらの如何に関わらず、やらねばならない時はあるんだよ――」
「あれが主格も意志もない、単なる災害であったなら、過ぎ去るのを待つと言う手もあるだろう。
けれど相対した貴方なら解るはずだ――」
あれがもたらした混沌は、偶さかの破壊衝動や示威行動の類ではない。
あの執拗なまでの破壊。憎悪と見紛わんばかりの暴威。
直接対した訳ではない少女にすら、それは見て取れた。
「…野放しには出来ない。してなるものか。
きっと貴方はその体が癒えたなら、そして万一にもまた奴を見かけたならば、討とうとするだろう?」
買い被りでないならば。そこには半ば確信めいたものがあった――。
「それから――僕は、正しくは一般人ではないよ。元官憲さ。
かつていた世では、犯罪者どもと何度も渡り合った事がある」
伏せておこうとも思ったが、釘を刺さんとする相手へとそう付け加えた。
■マルレーネ > 「………あれは戦です。
その場にあるものを全て狩り、燃やして、奪い壊す。
私の生きていた時代の戦そのものです。」
「やらねばならないというのは分かります。
ただ、貴方のことは分からないからこそ、言います。
危険過ぎるんですよね。
………私は、………。 私は、今準備をしています。次に会った時はもう油断すらしていないでしょうし。」
おそらくは、強いのだろう。
おそらくは、秩序の心があるのだろう。
その上で、譲れないものもあるのだろう。
「………私を納得させられますか?」
だから、微笑みかけた。 ここで怪我が増えるのも覚悟の上だ。
■言吹 未生 > 「そうか。戦か。
――ならばなおの事、撃ち破る他に手立てはないね」
調停も休戦も和平交渉もない。
政治的意図のないそれは、ただただ戦い亡ぼすと言う行為が人の形を成したようなものだ。
「――――」
慈悲すらも感じる微笑みを受ければ、ココアと紙袋をベンチに置き、やおら立ち上がる。
それから少し開けた砂地へと踏み込んで。
「ここで始めても?」
肩越し、言葉寡なに問う。
病み上がりだから――などと言う慮りは、狂犬は端から持ち合わせていない。
■マルレーネ > 「声をかけてくれるんですね。」
ふー、っと覚悟を決める。
「………戦を打ち破るのは、圧倒的な武力が必要です。
この世界のような凄まじい力が蠢く世界ならば、もっともっと。 もっと。」
「私は大人として、それを持たない人を送り出すことはできません。」
「………とはいえ、今の私を一撃でやれないならば、難しいとは思いますが。」
院内着をきゅ、と握りしめれば、きれいに、鮮やかに。キラキラと光り始める。
きっちりとガードを固めて、相手の攻撃に備えるだろう。
■言吹 未生 > 「不意を打って、どうにかなるタマでもないだろう?」
それに体格上のポテンシャルで劣る以上“練り”は必要であるし。
――おや何だろうちょっとやる気が出て来たぞ。ルサンチマンは呪力に入りますか聖エピクロス。
閑話休題。
ふう、と一息ついて彼女へと向き直り。
庭を渡る涼風に、幽かなハム音が混じり始める。
同時、眼帯を捲れば露わになる異貌の瞳。
義眼型呪装【摩尼瞳】の起動――。
聖性すら感じる輝きは、加護の類いか。乃至付与魔術による防禦強化と想定。
こちらは身体施呪を発動。肉体と神経。その双方を即時強化。
彼女が言う通り、事を決すは一撃。ただそれのみを追求した調整。
しゅど、と。
地面の砂が抉れ、けたたましく吹き飛んだ。
そう視認した時には、その姿は――黒き呪詛を孕みて引き絞った腕を構え、ふところに。
「《圧 し 通 る》!!」
意志を乗せた裂帛の喊声と共に、破城鎚もかくやの掌底をその胸目掛けて――!
■マルレーネ > おやあ。これは本気ですね。
いやあ参ったなあ、これ私ちょっとどうなるのかなあ。主よまた試練ですか? この試練いります? ああまあ自分で言ったんでした。打ってこいって言ったんでした。10秒前の私を怒りたい。
頭の中にいろいろめぐって、それでいて目は一点に集中する。相手の動きをじっと見つめながら。
「………速………っ!」
思わず声が出……いや、出ていない。
出すこともできないままの速度で、掌底が思い切り突き刺さる。
院内着はしなやかな感触ではなく、たっぷりと木の幹に巻き付けたゴムを殴ったかのような感触は感じるだろうか。
「……っつ、ぁっ!?」
足の踏ん張りがきかない。いつもなら、繊維の一本一本にまでいきわたるはずの力がいきわたらない。
衝撃が身体を貫けば、流石の強度を誇っていても耐えきれず、女の身体はふわりと浮かび上がって、地面を二度バウンドして、仰向けに倒れ。
「……ぃ、……ったぁ………。」
院内着は思いっきり張り裂けて、上半身丸裸で目を回す女。痛い。しんじゃう。
くらんくらんしながら、ごうかくです、と、両腕でまるをつくって、ぱたりと腕が落ちた。
■言吹 未生 > 「……っはあ――」
ごうかくです。
そんなハンドシグナルを認めて、盛大に溜めていた息を解放した。
眼底から脳にかけて、ぐわんぐわんと疼痛の波が走る。
神の試練もかくやの出力を発したとあれば、通常行使とはまた訳が違う。
「――あ゛、」
そんな間の抜けた声が出たのは、この季節にえらく開放的な出で立ちになったシスター(現在絶賛入院中)の有様を見たからで。
つうか二度見した。何だいあの視界の暴力は。腹立たしいオノマトペすら聞こえて来そうなあのたわわは。
いやそもそもこれって、端から見たら僕が暴漢めいたアトモスフィア満載なのだが。
「すっ、すまないシスター! 大丈夫かい?!」
あたふたと駆け寄って、抱き起そうとするこれ。
何かそののっぴきならねえものを隠すものでもと思ったが、ベンチの紙袋の中身と言えば――
「畜生! リンゴしか持ってねえ!!」
頭を抱える。狂犬はなお狂っていた。
■マルレーネ > いたい。いたいうえになにかさむい。
主よなんですかこれ、今日の試練もまたいろいろありますね? バリエーション増やしました?
ぼやんぼやんと頭の上で星がちかちかとして。
「………大丈夫、大丈夫。
……大丈夫ですから。 私がやれって言ったんですし、ね。」
助けようとする相手に、青い顔で微笑みかけて。
………そこでいろいろ全部裂けていることに気が付いて、ははは、と笑う。
ははは。
「………こっそり代えを持ってきてください。
その間茂みの中で隠れてるので………。」
腕で抱くように隠して、ついでにようやく頬が赤くなった。
もにゅ、と音がしそうな感じで腕でつぶれたけど、音はならなかった。
■言吹 未生 > 「いや、もう、うん――何かもう本当に面目ない…!」
どこか吹き散った砂を思わせる笑い声を聞きつつ土下座。
こっそり代えを、との言葉には水飲み鳥の動きで頷く。
身体強化しての忍び足と言う、急いでんのか忍んでんのか血迷ってんのか解らぬ技術を駆使して。
「はあ、これに……、はあ、き、着替えて……」
代えの院内着を息せき切って差し出すのは、ジャスト3分後。
何かの記録を塗り替えられもしようが、そんなものは未来永劫表沙汰になるべきではない。超許さん。
「はぁーっ……、はぁーっ……」
後これは発情している訳では断じてない。
連続で身体施呪使った上、妙な緊張感と共感性羞恥心が何やかんやで心拍も血流も呼吸も高揚しているせいだ。
…何やかんやは何やかんやだよ言わせんな恥ずかしい。
■マルレーネ > 3分間、胸を押さえてひいひぃ言っていたのは内緒だ。
思ったよりダメージ深い。退院が伸びた気がする。口から鉄の味がするのをぐ、っと堪えて。
「……ありがとうございます。」
落ち着いた顔で服を受け取れば、いそいそと茂みで羽織り直す。
「………では、病室でお話しましょうか。ちょっと、立っていられないですし、座っているのも苦しいので。」
あはは、と苦笑いを浮かべて。
それでも立ち上がるのだけれど。先ほどよりも顔色が明確に悪い女。
「………そこで、ゆっくりお話、しますよ。」
それでも彼女は約束を守る。納得をさせることができたから。
■言吹 未生 > 「――わ、分かった」
シスターが着替え終わる頃、こちらもようやく息を整え。
「…手を貸すよ」
平素なら、あちらが仕向けた仕儀の末。
助力の義理もないなどと吐き捨てたかも知れないが、幸か不幸か――殊勝にも、よろめく彼女へ肩を貸す。
やはり体格差ゆえ、いびつな歩調になってはしまおうけれど。
「――感謝するよ、シスター・マリー」
ほんの少し相好を崩した呼び名で告げて。
ふたり連れ立って病室へ去って行こう。
後には、取り残されたリンゴ入りの紙袋が、秋風にかさかさと抗議めいた音を立てるのみ。
ご案内:「院内中庭」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「院内中庭」から言吹 未生さんが去りました。