2022/10/28 のログ
ご案内:「『IVORY』ブラック・マーケットブース」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
「……や、やっぱり、ちょっと場違いだったかなぁ……」
私にしてはかなり勇気を振り絞って、その場所にたどり着いた。
暗号は解けたというよりも、教えてもらったに等しいもので、やっぱり私にここに足を踏み入れる資格があったのかはわからない。
音楽というものは、求めるものの元へ舞い降りるものだと思っていたからだ。
そんな弱気は、いざブースの中へ辿り着くと更に膨れ上がる。
なにせ皆、黒街や落第街でもやっていけそうな風体の人が多かったから。
……でも、皆が皆そうというわけでもない。普通の学生も居た。
だから私がそこに踏み込めないと思ったのは、格好や立場といったものではなくて、熱気のようなものに気圧されたのだと思う。
何よりありがたいのは、このライブハウスにいる限りどこに居ても音楽は届くそうだったから。
一応、“悪いコト”をしている自覚はあって、顔を隠すために黒いマスクをしたけれど、それでもやはり浮いていたらしい。
会話といえば何人かに、売り物はいくらか的なことを聞かれたけれどもさっぱりわからなくて話しが通じなかったりしたくらいだ。
なんとか、禁書の取引が行われるブースにまで辿り着く。
仄暗いその雰囲気は、闇取引が行われる場所にふさわしいようで──しかし、何かを“待ちわびて”いた。
何を待っているのか、私にすら解るものを。
皆、ブースに取り付けられた音響設備を意識しているのだ。
文字通りに、火蓋を落とすその鬨の声を。
私の中にない、はちゃめちゃな音楽が聞こえてくる。……まだ。
『――――――――――!』
──引き絞るような、叫び声。それが、合図だったのだろう。いくらかの人間は忙しない動きでそれぞれのマーケットの主と値引き合戦を始めていた。
私は、聞き入っていた。
……やっぱり、音楽は解らないところが多い。何より、あんまりの音量の大きさにお腹の奥が浮き上がるような気持ちでいっぱい。
だから、……私は、顔も知らないその人の叫び声が好きだった。何よりも解りやすい、……地球上の誰にだって伝わる言葉なき声が。
やっぱり直接聴きに行くべきだったかなと考えて、止めた。あの空間はやっぱり、私には賑やかすぎたから。
ご案内:「『IVORY』ブラック・マーケットブース」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
■芥子風 菖蒲 >
喧騒と換気を踏みにじるのは行軍の足音。
人混みを駆け抜け、時に怒声を張り上げる彼等の腕には
『風紀委員』の腕章が暗闇の中に一つ星のように輝いていた。
大規模な違反組織、ないしそれに準ずるものの集まり。
幾ら此の裏側と言えど、表舞台に流れる事は良しとしない。
故に、"摘発"、御用改である。マーケットブースには
数人の風紀委員と専門知識の為に各種委員会の生徒も同伴している。
大掃除という訳では無い。大将首ついでに、小物の首も取っておく。
得て違反者の抑圧、連行。表に流出させないための業行軍。
「…………ん」
そして、そんな大将首を取る為の部隊の一人に少年はいた。
実働としては申し分ないと言われたが、仕事と言われれば何処へなりだ。
メインステージに突入前、ふと青空の双眸には"黒"が映った。
艶やかに靡く黒い髪に、黒マスク。顔はわからない。
けど、なんだろうな。少年は"勘"が良い。
「先行ってて。後で追いつく」
部隊と離れて、その後姿へと近づいていく。
人混みをかき分け、無数の足音を避けて、その後姿に。
「────……ねぇ、何してるの?」
凛とした一声が、声をかける。
■藤白 真夜 >
(ひ、ひえ~~~……っ。
こ、こういうのもあるんだ。そうだよね、悪いコトしてるもんね……)
海を割るように、人の群れを風紀委員が掻き分けていた。
摘発に引っかかるもの、引っかからないもの……。
この場に居る人間全てが逮捕される、なんてことは無いはずだろうけど、私はつい人混みの奥で小さくなってしまっていた。……自らへの罪悪感が強いせいなのか、……むしろ目立っていた。
(大丈夫、だいじょうぶ……。
まだ、ルールの内のはず……。
それに、例え悪いコトでも私は──)
自らの振る舞いに言い訳をしていたのか、弱気になる自分を奮い立たせるよう言い聞かせていたのか。
どちらにせよ、声をかけられるだなんて思ってもいなかったのだ。
「──ひゃっ……!」
一時落ち着いたライブ音声の向こうから、知り合いの声が届く。
ちょっと跳ねるくらいびくっとしてから、……恐る恐る、振り向いた。
「……あの、その、……すみません……」
明らかに悪いコトを咎められた小さな子供のようにしょげながら、頭を下げた。そう、彼も風紀委員なのだから。
「ちょっと、その、……お買い物に……」
嘘はついていない。でもそっと、目線がそれた。
「あ。
あと、ライブを聴くと約束をしたので……」
その言葉だけは、彼の真っ直ぐな瞳に向かって、まっすぐに答えられた。……未だ申し訳無さそうに姿勢が低いのは変わらないけれど。
■芥子風 菖蒲 >
跳ねる肩。驚くのも当然だ。
というよりも、誰も彼もが此処じゃ自分たちに同じ反応を返す。
後ろめたさか、年貢の納めどきと思ったのか、或いは…────。
そうでもないものもいるが、そう言った"肝"の座った連中は多分元々此処の住民だ。
「…………」
先ずは謝罪。逸れる視線。
仮面の奥の表情は見えない。
ただ、何度も聞いたことのある声を聞き間違えるはずもない。
トントン、と肩に担いだ漆塗りの鞘を揺らしてじ、っと見つめる。
相変わらず、少年の表情は起伏に乏しかった。
聞こえてくる歌声にも、何も感じていないのか。
騒がしい場所でも、仕事だからと顔色一つ変えていないのか、さて。
「ふぅん」
とりあえずの返事。
ゆるりとした足取りで彼女の隣についた。
そして、顔を彼女の耳元に近づけ……。
「……名前呼ぶの避けた方がいい?」
と、一応耳打ち確認。
此処に来る理由を敢えて問いはしない。
感情の起伏に疎くても、人の機敏には敏感だ。
彼女から後ろめたさを感じるのは、相応に何か罪悪感を感じているのだろう。
自分以外にも風紀の連中はいる。名前を出して、後で他の連中に聞こえるのは面倒だと思った。
少年は秩序側に立つ人間だが、律を絶対としているわけではない。
自分の守りたいものを守るのに都合がいいから、いるだけだ。
だから、"今は"それを咎めるような真似はしない。
「約束?あの、ノーフェイ……なんだっけ。まぁいいや
アイツにあったんだ。オレ、名前か知らないけど、どんな奴だった?」
今回との首謀者とも言える人物、ノーフェイス。
生憎少年は、それ自体に興味はない。
知っているのは、今回の騒動の中心ということ。
んー、と一人唸り声を上げながら周囲を満たした。
「……買い物なら付き合うよ。一人だとスリに合いそうだし、問題無いよね?」
ちょっととろくさそう(失礼)とか思ってたりする少年だった。
それはそれとして、彼女一人を放っておけないのが本音。
一応自分といれば"補導"っぽく見えるだろうし、他の連中も変な目は向けないと思った。
■藤白 真夜 >
「あ、あはは……。
……すみません」
言い訳のような何かは思いついたけれど、それを言ってどうなるわけでも、この場に居ることを否定するつもりもなかった。
ただ、私に必要なものが此処に在るというだけで。
その為なら、多少品行が悪いと思われる程度は良いと思えたからでもあった。
でもだからといって、純朴な彼にこういう場所に居られることを見られるのは辛かった。
下手な作り笑いで誤魔化そうとして、全然うまくいかなくて、やっぱりもう一度謝った。
「だ、大丈夫です。
この場に居ることを否定はしませんから」
近づく距離と声に少し驚いて、でもその気遣いにほっとしたような力の抜けた笑みを浮かべながら応える。
もっと気合を入れて変装すべきだったかなと考えがよぎって、なのに彼はそれを乗り越えてきそうな予感が在った。
「う、う~ん……多分、ノーフェイスさんだったと思うんですけど、なんだか知らない人な気がしないのに、知っている人というか……。
真っ赤な髪のひとですから、見たらすぐ解ると思いますよ。
なんというか……」
美術館での邂逅を思い起こす。思えば、あれは答え合わせになってしまっていた。
「音楽の先生みたいな人というか、……あっ、そうだ」
今なら、彼女のぴったりの言葉が思いつく。
「ミュージシャンみたいなひとでしたよ」
あの奔放さと突き抜けたな感性。ある種変人とも呼べてしまいそうな雰囲気に、きらびやかなカリスマ。あれはきっと、そう表現すべきだった。
「……えっ」
買い物に付き合うと言われて、表情が止まった。
……い、いや、大丈夫です。ちょっと曰くが色々ある本を買うだけなのだから、焦る必要は無いはず……!
「は、はい、お願いします。
……へ、変なものは買いませんから!」
知り合いの目を意識すると今更、辺りに並ぶ猥雑な品物を考えて、ちょっと赤面した。
この空間は、いわゆるいかがわしい系を極めた結果逆にいかがわしくないような本と、魔術と呪術と禁術を煮詰めて事故を起こした呪われた魔術書が並んでいる。
後者はともかく、前者はちょっと触れがたい。……私はともかく、菖蒲さんの目には……!
■芥子風 菖蒲 >
「別にいいよ。けど、あんまりヘンな事しなでね。
オレは……えっと、んー。君の事捕まえたくなし、捕まる所も見たくない」
気にすることではないけど、彼女にそういう目にあってほしくはない。
したくもない。尤も、状況によっては実行する信念位はある。
どんな理由があるかはしらないけど、"させるな"と釘を打つ位はしておく。
ついでに名前は、やっぱり出さない事にした。初めての君呼び。
「…………」
言っといてなんだけど、しっくりこないなぁ。
「真っ赤な髪のミュージシャン……」
成る程。言われるとなんとなくわかる。
多分此の響く歌声がそう、そのカオナシのものらしい。
ミュージシャン、というか芸術に対して造形は殆どない。
良い歌声ではないかと思うが、だからこそどうして。
「……わかんないな、こんな事するの」
こんな滅茶苦茶な、誰かに迷惑をかけるようなことを思いつく。
いや、多分それは承知の上なんだろう。
カオナシの目的も理由も理解しがたいが、この無軌道さは
今まで遭遇してきた犯罪者連中と同じ匂いを感じた。
不思議とメインステージの方を見る表情が、少し険しくなった。
「ヘンなものを買わないなら、なんでこんな場所に買い物にきたの?」
するりと一言問いかける。
此処に並ぶものがどんなものかは、生憎少年は理解していない。
ただ、どれも"表では並ばない"というものだという事は聞いた。
つまりそれは、"出ない"のではなく"出せない"のだ。
理由はどうあれ、きっと大抵はろくな理由でもない。
そんな場所に"買い物"と来れば、それはまっとうな理由じゃない。
じ、と青空が横目で彼女をみやった。何気なく手にとったその本は……。
「……こういうのとか?君の趣味?」
表紙は実際健全でタイトルも普通。
だが、その中身は極めて苛烈で過激ないかがわしい前者の本だった──────……!