2019/04/29 のログ
ご案内:「奇妙な館」にアガサさんが現れました。
ご案内:「奇妙な館」にアリスさんが現れました。
■アガサ > 転移荒野。様々な人や物が転移してくる不可思議な場所。
概ねそういった認識だったのを改めさせられる出来事がGW中にあった。
19世紀のロンドンにでもありそうな、薄灰色の壁色を持つ豪奢な館が突然として現れたのだ。
学園側は何人かの風紀委員をこの館の調査に派遣したそうだけど、彼ら彼女らは館に入ったきり音信が途絶えた。
次に外部からの魔術や異能による破壊工作が行われたそうだけど、これらの攻撃に対し館は一切の干渉を許さなかった。
だから『第二陣として館を調査し、先行した生徒達を救助する』そんなアルバイトが生活委員会の名の下に募られて、
私はお金が高額だったのもあったけれど、好奇心が刺激されたのもあって、友達を誘って参加する事にしたんだ。
「……ん。あれ、此処は……?」
私を含めて幾人かの生徒達で、一斉に表玄関から館内に踏み込んだ所までは覚えているけれど、
そこからの記憶が判然としない。私は気が付いたら、薄暗く、冷たい、石造りと思しき部屋の中に居た。
地下倉庫のような場所なのか、部屋の中には色々なものが雑然と置かれていたり、昇り階段の先に扉があるのが視得る。
「……これはもしかして、あまり良くないんじゃ……他の人は何処に──」
最初に想起されるのは誘拐だとかそういう単語。だけれども特に拘束はされては居ない。
そして他の人は何処に。そう思った矢先に私の手が柔らかい何かに触れ、其方を視ると暗がりの中でも鮮やかな金色の髪が目に留まった。
「アリス君かなー……おーい、起きてくれたまえ。なんだかちょっと、良くない感じが凄くするんだ……」
白い白衣に金色の髪。間違いなく彼女だろうと肩を揺さぶり起こそうとするんだ。
■アリス >
揺さぶられる感覚。
視界が次第にクリアになっていく。
「ん……あ、あれ…」
目の前にいるのはアガサ。
私の友達。でも、他の人の姿が見当たらない。
みんなと一緒に館の調査に来たはずだけど。
「おはよう、状況の把握はできてるかしら」
ポケットに手を入れる。
ない。携帯デバイスがない。
顔を歪めて、トランシーバーを錬成しようとして。
「………おかしいわね、空論の獣が…異能が発動しない」
最近は異能のコントロールも手馴れていたはずなのに。
全く、錬成が発動する気配がない。
「携行武器も携帯デバイスもないわ、とりあえず進む?」
ああ、なんということかトラブル慣れ。
この状況でも現状打破に思考が動いてしまう。
とりあえずアガサを安心させるために笑顔を見せよう。
■アガサ > 揺り起こした相手から聴き慣れた声がして安堵の溜息が漏れる。
「ああよかった。これで君じゃなかったら吃驚しちゃう所だよ。
状況はー……えっと、多分地下室に閉じ込められました。かな……?
ここ、倉庫みたいな所だと思う。ほら、あっちにワインセラーみたいなのがあるだろう?
他の人達が居ないのが不思議だけど──異能が使えない?」
昇り階段の先にある扉から漏れる明りばかりが眩い地下室。
どうやら居るのは私達二人だけで、一緒に来た筈の人達の姿は無い。
確かめては居ないけれど、状況から考えてあの扉は鍵がかかっていると考えられて、
さてどうしようかと思った所に告げられる不可解なこと。
「……本当だ。私の異能も使えない。それどころか……自分の魔力も感じない」
試しに、と靴を脱いで石壁に足を着けるのだけど『道往独歩』は発動しない。
指先に魔力を灯そうとしても何一つ感じ取れる事も無い。
ついでに、ポケットに入っていた筈の携帯電話も無い。
「無い無い尽くしだね。ってアリス君は動じないなあ!確かにとりあえず進まないといけないけれど……ん?」
こんな状況にあっても笑顔を見せられる前向きな友人に呆れるけれども頼もしい。
きっと、こんな黴臭い所からは直ぐに出られるだろうと、予想をした所に何かの音が聴こえた。
足音だ。
「……アリス君、何か来るよ。こっち、こっち来て!」
嫌な予感がした。
だから私はアリス君の手を取って階段の下の隙間。樽が幾つか横倒しになっている空間へと退避する。
直ぐに扉が開いて、何かが下りて来た。人の形をした何か。
手に角灯を持ち、墓標のような色合いの肌は蛞蝓のような滑りを帯びている。
頭部が有るべき場所にあるのは、正視を拒む蠢くばかりの肉紅色の塊だった。
そういったものが、何かを探すように地下室を歩いている。
■アリス >
「私は私の顔をして、私じゃない言葉で喋る存在と会ったことがあるわよ」
「倉庫……なんで私たちをこんなところに?」
ここでチェス盤をひっくり返す。
というのは敵わないゲームにちゃぶ台返しをするということではない。
相手が自分だったらどう考えるか、ということを思考するということだ。
私たちを縛りもせず、牢屋のような場所でもない場所に無造作に置いているのは何故か。
それは簡単。異能も魔術も使えない私たちを確実に御しきれると信じているから。
だったら、そこから続く答えも簡単。
「え?」
思索を重ねていると、アガサに手を引かれて隠れる。
人の形をした化け物を見ると、心の中の日常が音を立てて崩れていく。
何故、私たちを無造作に置いておいたのか。
相手が私たちを遥かに上回る能力を持った“怪物”だから。
息を殺してぬめる身体の化け物を凝視した。
■アガサ > 「…………」
物陰から奇怪な人の形を見る。
眼は無さそうに見えるけれど、角灯を持っているのだから何らかの方法で対象を視認するのだと予想しよう。
体型はかなり大柄で、もしかしたら2mはあるかもしれない。背を曲げて床を見るような姿勢で歩き回っているから、
視覚を以てして何かを、私とアリス君を探しているのだと察した。
「………………!?」
"あれ"が奥に行った時にでも、素早く階段を上がってしまうべきだろうか。
そう思った矢先に上階から人の悲鳴とも、怒号ともつかない声がした。
聞き間違えで無ければ、一緒に突入した男子生徒の声。
何があったのか。そう思うよりも先に怪物の反応は早く、粘着質な足音を鳴らして階段を上がって行ってしまった。
きっと声のする方に向かったのかもしれない。
「……アリス君とそっくりさん。とかならまだ良かったけど……どう思う……?あれ」
階段の下から這い出て、開きっぱなしとなった扉を見上げて、アリス君に感想を問う。
開け放たれた扉から差し込む光によって照らされた石室は、所々に赤黒い染みが目立ち、
どうみても平和的な空間とは思えず、訊ねる私の顔色は多分、悪い。
■アリス >
足跡を見る。
正体不明の粘液が残されていて気持ちが悪い。
けど、角灯を持っている以上、相手は知的生命体。
それが平和なインテリジェンスを持っているとは限らないのが転移荒野のセオリーだ。
「わからない、ただ私たちにご馳走をしてくれる雰囲気じゃなかったわね」
アガサの肩を抱き寄せる。
そして自分の掌を見せた。
「見て、アガサ。私の手、震えてる。でも、まだ足は動くわ」
「アガサはどう? 大丈夫なら……ここから脱出しましょ」
笑う。心の中にある日常を保ちきれなかったらきっとここで死ぬ。
だから、今は笑うんだ。
「行こう、アガサ。私がパーティの先頭ね」
立ち上がって手を差し出した。
■アガサ > 肩を抱き寄せられてると、アリス君の体温が感じられて少し、安心した。
震える彼女の手を見るなら猶更。自分ばかりが戸惑っている訳じゃあ無いと、勇気付けられもしよう。
「は、話せばいい人だったりしないかなあ……それにしてもま、まるでお化け屋敷みたいだね……
そういえば常世ディスティニーランドの奴結構怖いって話は聞いた事あるけどこっちとどっちが怖いかな?」
もしかしたら誰かがこっそり作った吃驚お化け屋敷だったりしないかな。
なんて、精一杯の雑談、与太な事を地下室に置き去りにし、アリス君の手を取って階段を上がる。
「……何も居ない、ね。ちょっと調べてみようか」
上がった先は、教室程もある広い空間だった。まるで大きなレストランの厨房のようにシンクが備え付けられ、
電気が来ているのか、館の外観からは不釣り合いな鈍色の冷蔵庫のようなものもある。
一方で部屋を二分するように隔てられたシンクの反対側には、まるで美術室のように画架が置かれ
その幾つかにはキャンバスが置かれているのが解った。
「台所と美術室?なんだか変な造りだけれど……私はこっち、見てみるね」
アリス君から手を放し、美術室のような区画へと向かう。
彫像があって、画架があって、絵の具の匂いがして。
日常の匂いともいえるものに、少しばかり安心しかかって、
けれども次の瞬間に私が彫像のように固まる事になる。
「……」
画架に置かれたキャンバスに描かれた絵。
其処には絵というよりも何かの設計図のようなものが描かれていた。
男性と女性の上半身同士を縫い合わせたもの。
別々の人間を縦二つに分かち、縫い合わせたもの。
そして、しなやかなポーズを取るアリス君が、やたらと縫い目の多いドレスを着ているもの。
その胸元のコサージュがあるべき場所にあるのは、私の顔だ。
キャンバスの下には嫌になる程綺麗な字で『死が二人を別つまで』と、題されているのも判った。
他の絵のモデルが、一緒に入った生徒や先行した人達だとも察しよう。
■アリス >
「話して悪い人だった可能性を考えるとなかなか勇気が出ないわよね」
「常世ディスティニーランドのお化け屋敷は凄かったわ、まず最初に死体袋が吊るしてあって…」
何気ない雑談に心の力を補充しながら。
階段を上がって周囲を見る。
「それじゃ私は台所? のほうを見てくるわ」
足音を立てないように慎重にキッチンのような部屋に行くと。
心に皹が入った音がした。
何故、私はそれでも。ああ。それでも。
下半身を切り裂かれた男子生徒から目が離せないのだろう。
「あぐ…あ……!」
嘔吐を堪える。
まな板のような巨大なステージの上で。
一緒に歩きながら何気ない雑談で笑っていた、三年の坂井さんが。
切り開かれている。
そして、坂井さんの顔が私のほうを向いた。
ヒッ、と小さく叫ぶと、坂井さんは口の中から血と涎に塗れた鍵を吐き出して。
『逃げろ』
と弱々しく呟くと、それきり動かなくなってしまった。
しばらく涙を流しながら、死んだばかりの先輩を見ていたが。
アガサのことを思い出し、勇気を振り絞って粘る鍵を拾った。
「……あいつら……………」
然るべき報いを与えてやる。
そう誓ってアガサと合流しに戻った。
■アガサ > どうしよう。
今の私はどんな顔をしているのか自分でも判らない。
ただ判るのは、早く逃げないととんでもない事になるという事だけ。
アリス君にもこの事を伝えなければ。
そう思って振り向いた所に、丁度青い顔をしたアリス君が来る所で。
「あ、アリス君。あのね、どうもこの館の住人は友好的じゃあなさそう……どうしたの?」
彼女が泣いている。
反対側の部屋に何かがったのかと、訊ねようとした所で部屋の奥の扉が勢い良く開け放たれた。
「え?」
そこに居たのは風紀委員の制服を着た女生徒──のようなものだった。
両腕の肘から先が無く、代わりに槍の穂先のようなものが歪に括りつけられ、
眼窩にあるべき瞳は無く、乾いた血の跡が涙を流したかのよう。
口は乱雑に縫い留められて言葉を発する事は無く、けれども言葉にならない音を壊れた楽器のように鳴らしている。
「う……わ……」
面識は無い。
だけれどもその服装で先立って館を訪れた生徒の誰かだと察しよう。
彼女が正常な思考を持っているのかは判然としない。ただ、長い黒髪を振り乱しながら、歪な足取りで室内を彷徨っている。
私達に真直ぐ向かってこない所からして、視覚は無いのかもしれないと、思った。
「……」
どうしよう。
私は口程にものを云う目で傍らのアリス君を視た。
■アリス >
肩を落として合流した。
どこまで説明したらいいだろう。
できるだけ彼女にショックを与えないように話さなければならない。
涙を拭った、その時。
「!?」
凄まじい拷問の果てに壊された、少女。
そういう印象を受ける、女生徒が姿を見せた。
もう笑顔がどうこう言う暇はない。
決死の形相でアガサの手を掴み、静かに、と口元で人差し指を立てた。
仮に“彼女”が助けを求めていたとして、もう助ける手段はない。
仮に“彼女”が次の犠牲者を求めていたとして、捕まる義理はない。
太極拳か何かのように。
“彼女”を見ながら静かに迂回する。
心臓の音がうるさい。“彼女”に聞かれたらどうする。
“彼女”が入ってきたドアは開いているということだ。
進める。ただ、そのためには“彼女”の傍を通り抜ける必要がある。
■アガサ > "彼女"の足音と、口から洩れる音。それと私の心臓の音ばかりが五月蠅い。
アリス君に問う瞳の目端が生温くなる。
瞬くと何かが零れていって、それを知覚するのはまだ、不味いと俯瞰した思考が判断する。
状況は冷静に、厳然と判断しなければならない。
「────」
アリス君に手を引かれて部屋を大きく迂回し"彼女"の出てきた扉へと向かう。
けれど"彼女"の彷徨い方に規則性が無く、中々通り抜けるとまではいかない。
ただ"彼女"は恐らく視覚が無い。
それならばと、私は壁際に置かれた絵筆であるとか、彫刻刀の類であるとかを引っ手繰り
思いっきり扉の反対方向へと放り投げる。
『■■■■!!』
床に激しく道具の散らばる音がするや否やに"彼女"はこれまでの緩慢な足取りなど無かったかのように音源に飛び掛かり
床目がけて両腕の奇妙な得物を突き刺し始めた。
その様子はこの世全ての音が憎いのかとも思われる程で、ずうっと見ていると、良くないと思えた。
だから、私はアリス君の手を引いて、この部屋から早く出ようとも思ったし、そうした。
部屋から出ると、豪奢な造りの洋館らしい廊下があって、左右に扉がいくつかあり、奥に上階に上がる階段等が見て取れる。
「そ、そうだ。アリス君。明日良かったらフタバコーヒーに行かないかい?
なんでもGWの間だけの特別メニューをやっているって、SNSの宣伝で見たんだけど
これが中々美味しそうな奴で……」
背後の扉をゆっくりと閉め、少し歩いてから何事も無かったかのように口を開く。
でも、何事も無かったかのようになどさせまいと、上階から断末魔のような女生徒の声がした。
■アリス >
判断は間違っていなかった。
“彼女”に声をかけたら。
アガサが放り投げた画材と同じ末路を辿っていただろう。
廊下に出ると、作り笑いで応じる。
背後の扉の向こうからは狂気と殺意の音が響いていた。
「ええ、そうね。新作フニャペチーノが飲みたいわ」
「帰ったら……帰れたら、注文の仕方を覚えないとね」
帰れたら。
かえれたら。
なんて空虚な響きを持つ言葉だろう。
こんなにも死の気配が漂う館から、生きて帰れたらなどと。
上層から響く声に、周囲を見渡して。
「少し待ってて、アガサ。40秒でいいから」
これだけ騒ぎになってて出てこないのだから、あの怪物はこの廊下にはいない。
そう信じて片っ端からドアを開けようと試みる。
全て鍵がかかっていたが、一つだけ鍵が合う。
中に入ると、私たちの荷物ではないけど。
先遣隊の荷物があった。
「アガサ、使えそうなものを探して」
そう言って荷物を漁ると、外部との連絡手段はなかったけど。
セムテックス………爆弾が見つかった。
信管も起動装置も生きている。
問題は、館一つ吹き飛ばして余りある量ってこと。
これは最後の手段だ。
「アガサ、爆弾があったわ。この映画のオチは決まったわね」
「……アガサ、よく聞いて」
「私はアガサに危害が及びそうになったら、迷わずこのボタンを押す」
「私は、私の最高の友達が拷問されるくらいなら何もかも消し飛ばす選択肢を選ぶ」
「……そんな顔しないで、あくまで最後の手段よ。できるなら生き残りと一緒にみんなで脱出してから起爆させるわ」
■アガサ > 上階から響く長い、長い悲鳴。
これに似たものは聞いたことがある。
映画とかで一思いに殺されなかったキャラクターが上げる類の、絵面にするなら凄惨極まる場面に流れるものだ。
「私が教えて上げるから大丈夫。心配しないでね?……所で、上に何か……ん?」
夜になったら寮に戻ってベッドで眠り、明日は友達とお買い物がてら喫茶店に行く。
何て完璧なGWの予定だろう。悲鳴の響く中、我ながらそう思って頷く最中の言葉に、かたりと首が傾いた。
勿論断る理由もないから、私はアリス君の事をきちんと待って、彼女が幾つかの扉の一つを開けると誘われるままに後を追う。
「使えそうなもの……んーと……これはナイフで、これは軍人さんが使うような銃。アサルトライフルって奴だよね。
重たいし、ちょっとこれは無理……そっちはどう?」
様々な荷物。ナイフから拳銃、きっと心得がある生徒が持ち込んだだろう刀剣の類や、魔術的文様を持つ道具。
電灯くらいは使えるかな。と取り上げて眇めて眺めていると、アリス君が爆弾を見つけたと云うじゃないか。
「わお、それ爆弾なのかい?私には全然判らないけど……ほら、黒くて丸くて導火線が付いている奴のイメージがどうしてもさ」
友人の功績を称えるように、わざとらしく砕けた抑揚の言葉が落ちるけれど、取り繕うように曲げた唇は多分、歪つ。
それを察してか、察してまいかは判らないけれど、アリス君の説明はとても深刻なもので。
「ダメだよ。そんな事したらダメ。私に何かがあっても君だけは逃げないと。
大体爆弾があったなら、最後は爆発炎上する館をバックにポーズの一つも決めないと!」
私は爆弾を持ったアリス君の手を握って、諭すように危ない使い方を制止する。
いつしか上階からの悲鳴は消えていて、館内はしぃんと静まり返って
──遠くから、何かを引き摺るような音が近付いてくる。
■アリス >
上階から聞こえる悲鳴は、助けてほしいとかいう響きは持っていなかった。
ただ、人間が死ぬ寸前まで痛めつけられた時に生体反射で肺から息が逃げる音。
そんな印象を受けた。
「拳銃は私、心得があるから持つわ。とはいっても…あの怪物相手に戦えるかはわからないけど」
ナイフ……刃物か。練習は一切してこなかったけど、自殺くらいになら使えるかな。
そんなことを考えると、細い身体から力が抜けるような錯覚を覚えた。
もう嫌だ。
自殺だとか、殺されるだとか、拷問だとか。
そんなことと無関係の世界に行きたい。
朝起きたら、パパに寝癖を笑われて。
ママの手料理を食べたら、そのまま髪を梳いてもらって。
お気に入りの白衣に袖を通したら、家族で出かけたい。
これは夢だ。
早く起こして……ママ…この悪夢から…………
絶望に心を貪られる最中に、起爆装置を握った手に、アガサの手が添えられるように重なった。
「アガサ………」
そうだ。何を諦めている、アリス・アンダーソン。
生きろ。生きろ、生きろ生きろ生きろッ!!
何があっても生きなきゃ、この館にアガサを一人残して死ぬつもりか、バカアリス!!
「わかってる……アガサ、静かに」
相手の言葉に肯定を返すと、ドアを閉めて鍵をかけた。
もののついでのようにクローゼットを開けると、友達を引きずりこんで隠れた。