2020/07/23 のログ
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深淵の最奥で、薄氷は積もり続ける。
音もなく、息づく音も誰かの声も聞こえない。
ただただ静寂に満ちたその底に積もった無数の自己の只中でそれはゆっくりと目を開いた。
凍てつく汚泥の中に浮かぶまま見上げた目に飛び込むのは白黒の夜空。
もう僅かで正中に至る月は蓄積し、停滞しているこの場所の中で唯一時を刻んでいる。
それを確認しゆっくりと上体を起こすと同時にぐるりと回る視界。
体は再び力なく倒れ、無数の躯の中に体を横たえた。
静寂の中に響く水音は僅かに反響しながら遠ざかり、直ぐに辺りは静寂を取り戻す。
……もうほとんど新しい死体は流れてこなくなった。

「……あと数日、位かな。」

ここまで計画通り順調に、この空間は機能している。
これを発動した時点で計画の8割は終わっている。
最期の瞬間に向け入り込んできたものの夢を、そして最期を
この領域の主へと届け、その代償に膨大な情報を消費している。

「少し一層と二層の境界が曖昧になっている位か。」

領域内での出来事はすべて把握している。
この領域は殆ど体の延長線のようなもの。
何を目的に誰が来ているのか。それは委細余さず伝わってくる。
とはいえ理外の領域を限定的に創り出すという大掛かりなものである以上定期的に調整してやらなければそれらは混ざり、溶けていく。
固有境界が時限性の物であるのは世界の修正力に対して永遠に抗い続けることは難しいからだ。
特に多くのモノを引き留める役割を果たす第一層と第二層は最も多くの対象を抱え込む関係上その影響を受けやすい。
本質的には両方”同じもの”であることもあり、相互に影響を及ぼすこともある。

「……少し調整しないとかな」

そろそろ第一層を抜けてくるモノ達も見られるようになってきた。
巻き込まれた有象無象ならともかく、展開後に明確に目的をもってこの場所へと足を踏み入れるような人物……そのほとんどは風紀委員だが彼らは若干この領域において”思考”を取り戻しやすい傾向がある。
……とはいえそれは結末に影響を及ぼすほどの物でもない。放置しても問題はないだろう。

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「……ああ、また一人壊れた」

夢に溺れ、辛苦に喘ぎ、恐怖に押しつぶされ一つ、また一つと燃え尽きていく。
己が願望に抗う意思すら持たないもの、他者に寄るしか己を守れないもの
そういったものはあっけなく燃え尽き、たどり着いた場所で倒れ伏している。

「……ああ、少し羨ましいな」

麻薬の様なこの場所を興す。一見それそのものが目的の様に見えるかもしれない。
けれど”不死をも殺す”為のこの領域において表層に現れる現象はそのほとんどが副次効果。
術者であり主であるソレは例え望めども自身の夢を見る事は叶わない。
舞台の真相を知るものは舞台の上で演じられる演劇を夢と見ることは出来ないから。

「……悪趣味ってみんな言うだろうけど」

挑戦者からすればこれは酷く残酷な試練であることは間違いない。
切望はトラウマを引きずり出し、トラウマはまた切望を想起させる。
想像力が豊かであればあるほど、強くなりたい理由があるものであればなおさらその”夢”は牙をむく。
それは酷く残酷で、悪趣味な試練だと人は言うだろう。
けれど、ソレは思う。

「……羨ましいな」

幸せな夢に、溺れていられたらどれだけ幸せだろう。
残酷な世界に耳を塞ぎ目を閉じていられたら。
けれどそうあることは……それには出来なかった。

ご案内:「◆月下の奈落」に神代理央さんが現れました。
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「……嗚呼、本当に矛盾している。」

弱くあることを自分には許せない。
けれど強いことにも意味を見出せない。
昔からそう。どうしようもなく矛盾しきっている。

「あは。本当に馬鹿な話だなぁ」

冷え切った体を凍り付いた無数の死体と氷に浸しながら自嘲する。
たった一つを否定する為に多くの物を犠牲にした。
そしてこの場所で愚かなる最期を迎えるための準備をしている。
愚者を演じるまでもなく、自分は最初から救いようのない愚者だったというのに。
きっと、何も知らない他人からすれば勝手に一人で自殺していろとでも言われるだろう。
実際わざわざこの領域を維持する形にしなくとも、領域をもっと広げ、
世界をもっと複雑にしてやればもっと早くこの場所は消え去り、一つの目標は既に果たされていたはずだ。
そうしなかったのは人造の擬神としてやるべきことはまだ残っているから。
……そう、それだけ。

「”君もそう思うでしょ”」

張り上げるでもなくむしろ囁くようなその声はその大きさに比例せず領域内に静かに響き渡る。

神代理央 > 教会の扉を抜けて。
光の中を。闇の中を。逆光を。朝を。昼を。夜を。
永劫の時間、或いは一瞬。唯歩き続けた。
時間の感覚はとうにない。既に数百年歩いている様な気もするし、未だ数分しか歩いていない様な気もする。

ただ、親愛なる"アリス"との別れの後。
黙々と。囂々と。延々と。
歩き続けた果てに、辿り着いた其の場所は――

「……趣味の悪い場所だ。現代美術の作品と思えば、及第点やも知れぬがな」

モノクロの夜空。浮かぶのは巨大な月。
底が見えない程に穿たれた半円の穴の中心には、巨大な立杭が聳え立つ。本能が警告を発する。此処は、訪れてはいけない場所なのだと――

「……矛盾しているのか、馬鹿な話なのか。そんな事は知った事では無い。そんな事私の知った事か。此の傍迷惑な柱をどうにかするのが、私の仕事故な」

そんな空間に一歩足を踏み入れれば、まるで、耳元に囁かれる様に。或いは"此の世界そのもの"から声を投げかけられたかの様に。
少女の声が、己に投げかけられる。
"聞き覚えの無い"その声に、警戒心とこみ上げる恐怖と違和感を全て飲み込んで。
何時もの様に尊大に。何時もの様に傲慢に。己の存在に絶対的な矜持を纏って。

親愛なる人形を喪った主(マスター)は。護るべき恋人が既に最奥にて壊れかけた事を知らぬ愚か者は。
空間中に響けと言わんばかりの声を、張り上げた。

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「ああ、お勤めご苦労様だ。
 こんなところまで来るなんて人間とはずいぶん勤勉な生き物だね。
 歓迎するよ。見知らぬヒト。君が私を望む限りね。」
 
まったくこの島は始末が悪い。
誰かもわからない相手を探しに来るなんて。
来なければ幸せでいられたというのに。
もっとも、想定したとおりに”演じる”だけだけれど……

「かわいそうに。行き違いになってしまって。」

彼を探してこの境界にたどり着いた一人の少女を想う。
あの子には意地悪をしたけれど後悔はしていない。
”妹”は気にしていなかったけれど、納得できるかは別問題だから。
しかし彼女が来るのがもうすこし”遅ければ”この場所で巡り合えたかもしれない。
……まぁ、運が悪かったとあきらめてもらおう。

神代理央 > 「此れでも宮仕えの身でな。多少無理をしなければ、生徒達の安寧を守る事など出来ぬさ。
……ほう?私が貴様を望む限り、か。面白い事を言うものだ。私は既に此の【領域】で望む者と会う事が出来た。決別を、終える事が出来た。ならば、此れ以上望む事が――」

フン、と傲慢な吐息と共に言葉を吐き出す。
少なくとも己は、最初に足を踏み入れた領域で、果たすべき事を。望まず、望んだ結末を迎える事が出来た。
ならば、此れ以上何を求めるものかと笑おうとして――

「……行き違い?貴様、何を――」

瞬間、理解した。
己の恋人は、己が護るべき少女は。此の領域に明日を踏み入れたのだと。
あれほど、危険な場所には行くなと言ったのに――

「………アイツに、何をした」

指を鳴らす。異能が発動する。
モノクロの夜空に映える無数の異形達が。幻想と死の匂いだけが漂う様な空間に、人理の暴力の化身が顕現する。
無数の砲身が、月に向けられた砲身が。少年に付き従う軍勢となって現れる。

それは、超常の存在に挑む機械文明の成れの果ての様な。
大自然を畏れた人類が、松明を掲げて闇を掃う様な。

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「ヒトの欲がそれほど簡単に決着がつけられるものかな。
 あの”人形”が君にとって唯一無二だったと?
 随分と理性主義を歌うじゃないか」

お客様はもてなさなければならない。
望む未来を描くために。
大丈夫。全て願いの通りに。

「”嗚呼、何もしなかったよ”
 ”哀れ雛鳥はエデンの東を知り、そして殺人という行為を知った”
 ”かわいそうに。その重みに彼女は耐えられなかったようだ”
 ”その間私は観察していただけだよ”」

何時しか深淵の上空にソレは浮かんでいた。
闇に満ちた世界で浮かび上がるような色合いのそれは目前の軍勢をせせら笑う様に呵々と笑い声を響かせて。

「”嗚呼、的がいるだろう?
  私は此処だ。存分に撃つが良い。”」

神代理央 > 「…アイツを。アリスを人形と呼んで良いのは私だけだ。貴様の様な有象無象に、人形呼ばわりされる様な子では――
……ああ、そうか。いや、確証を得た訳では無いが。……貴様が、アイツの、アリスの姉、か」

超常の空間の支配者。領域を統べる者。永久の別れを告げた少女が告げていた言葉。
確信を得た訳では無い。ただ、何となく。本当に、不意に頭を過った思考が、言葉となって発せられる。
――記憶になく、存在を知らず、認識すら怪しい"アリス"の姉。
何故そんなものが不意に思考と理性に現れたのか。まるで、最初から知っていたかの、様な。

「……成程。貴様自身は手を出さなかったと。アイツが壊れていく様を、そうやって文字通り、高みの見物を決め込んでいた訳だ」

天空に向けられた砲身が軋む。
白いワンピースを纏った少女を、睨み付ける。

「……Feuer!」

少女の言葉に、皮肉を返す事も無かった。
短く発した一声によって、轟音と共に砲身は火を噴くだろう。
静寂と静謐と死を纏う空間に、余りに場違いな硝煙と火薬と砲声が響く。天空の少女を、此の空間そのものを。鉄火によって打ち砕こうと、吠える。

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「”事実あれは人形だよ。人に奉仕し、使いつぶされるための。”
 ”そもそも君が見たあれは君が描いたただの幻想ではないとどうしていえる?"
 ”君の都合のいい、望むままの答えを返す幻想ではないといいきれるのかい?”
 ”ああ、そういう意味でも君のお人形だね。”」

そこには一切の憐憫も同情もこもっていなかった。
家族であればここまで冷たい声が出せただろうかという程に。

「人がそう望むなら”ボク”で居てあげるよ」

そう、ここでの役は只の「怪物」。
ここは舞台。演者は役通りに踊るもの。
真実など虚構の前にどれほど価値があるというのか。

「ああ、小鹿の様に震えながら拳銃で自分の脳髄を吹き飛ばしていたよ。
 ちょうどその辺に座って震えていたかな
 見たいなら再現してあげるよ?ほら、こんな風に」

パン!と乾いた音と共に宙に浮いた少女の頭がはじけた。
刹那、空を裂く業砲の閃光と弾丸の嵐は一人に集中し、それを微塵に吹きとばす。
鮮血に塗れ、焦げちぎれた衣服が宙を舞い灰の様に穴の底へと落ちていく。
轟音がやみ、その反響も穴に飲み込まれ、耳に痛いほどの静寂が戻ると
舞い上がった欠片が水へと雨のように堕ちていく。

「気は済んだかな?
 くふ、好きに駄々をこねるが良い。
 ボクが心変わりするまでは付き合ってあげよう」

それを見ながら淵に座った少女は悪魔のような笑みを浮かべていた、

神代理央 > 「……チッ、減らず口を叩く。しかし、貴様の言葉を否定する言も持たぬ。私の幻想では無かったとは、決して言わぬ」

そう。己は、彼女の言葉を否定できない。
あの空間で見た夢も。夢の後の別れすらも。全てが幻想であったのかもしれないと、疑心を抱かずにいられるわけでは決してないのだ。
だから、彼女がアリスの姉であるかどうか、という思考もその疑心に鈍る事になる。尤も、その思考そのものすら、何故過ったのか分からぬ様なものではあったのだが――

「……不愉快な真似を。どうやら、その身何度でも、細切れにしてやらねば気が済まぬと見える――!」

文字通りの全力斉射。神に挑む人理の砲火。超常の現象に放たれる鉄と火薬。
それは確かに、彼女の躰を穿ち、吹き飛ばし、雷鳴の様な砲火に掻き消した筈――だったのだが。

「……チッ。まあ、これしきの事で貴様をどうこう出来るとは思っていなかったが…」

悪魔の様に微笑む彼女を、忌々し気な視線で睨み付ける。
とはいえ、単純な攻撃で決着がつく事に期待していた訳では無かった。それなら、他の風紀委員なり侵入者なり、誰かしらが決着をつけている筈だったのだから。

少年は、歪な形でこの第四円を訪れている。
本来であれば己と向き合い、試練に打ち勝たねばならなかった第二、第三の領域を、教会の【扉】を通る事で結果的にではあるが未経験のまま、此の領域を訪れる事になっていた。
自身の恋人が文字通り血反吐を吐きながら踏破した空間を、訪れてはいなかった。

――向き合っていれば。試練を乗り越えていれば。向かい合えた筈の【歪み】
しかして、それは為されていない。となれば、唯只管に空間と彼女の狂気が、無自覚な歪みを加速させていくばかり。

「ならば、何度でも死ね。幾億と死ね。跪き、平伏し、赦しを請え。それが貴様の。貴様に出来る行為であれと知れ!」

深淵の淵に腰掛けた少女に、再び砲火の嵐が降り注ぐ。
無意味と知って。無駄であると知って。普段の己であれば、一度攻撃を停止し、次善の策を練る筈なのに。
"アリス"は、己が変わったのだと告げた。であるならば"変化する前"の狂気が。呪いの様に己に巣食うナニカは。一体何処へ消えていたというのか。

――消えて等いない。穏やかな日常の中で、埋もれていただけ。
それが再び目を覚ます。「怪物」を演じ、狂気を振りまく彼女にほくそ笑み、今再び、荒れ狂う支配の権化として、少年の内奥から這い出してくる。

----- >  
「あはははは、使っても減らないのは口と頭だって人間が言っていたよ。
 弾丸だってタダじゃないらしいねぇ。人間というのは実に不便だねぇ!
 癇癪を解消するのにすらモノがいるというのだから!」

何度も何度もそれは撃ち滅ぼされた。
頭を吹き飛ばされながらおどけ、腕を吹き飛ばされながら微笑み
吹き飛び、千切れ、燃え尽き溶け、幾度も残骸になり果ててもそれはただ嗤って。
けれどその笑みは唐突に剥落する。

「……ああ」

煙と閃光、そして血煙に覆われる轟音の中でそれは確かに響いた。

「”気が変わった。”」

その言葉と同時に刹那、少年の目の前の硝煙を細腕が切り裂き
紫電の様な速度で指が幼年の顔へと走る。
切り裂かれた硝煙の向こうには酷く醒めた瞳。

神代理央 > 「…それが人間だけだと言えるものか。神も、悪魔も。癇癪を起こせば人に罰を与え、呪いを与え、世界のリソースを削って、ヒトを滅ぼす。
そうやって『私は人間よりも高位の存在だ』と奢る事そのものが、既に我々と同類でしかあるまい。
神など存在せぬ。所詮はヒトより優れた生命であるだけに過ぎぬ。神は『我々』を導いてはくれなかった!」

鉄火の暴風を指揮しながら、忌々し気に応える言葉。
しかして、その言葉は誰が発している者なのだろうか。
己の中の『ナニカ』が。神に抗い続けたナニが。吠える様に叫んだ。

しかし、その憤怒と砲火は永劫には続かない。
所詮は、一時的に顕現しただけの狂気。少年の奥底から、這い出ている間際の出来損ない。
硝煙を切り裂き、紫電の様に迫るのは――明確な『死』

「……そうやって、感情の変化に応じて己で無い者を傷付けるのなら。それは十分に浅ましい、ヒトらしい行為だと。俺は思うがな」

目前に迫る死が、皮肉にも狂気を押し止める。
まだ死ぬ訳にはいかないのだ。此の空間での死が、どの様な結末を迎える事になるかは分からないが、それでも。
それでも、護るべきモノを。叶えるべき理想を。護るべき人を。
全てを置いて死ぬ訳にはいかないから。反射的に、己の顔を庇う様に手を翳した。
全く以て、無駄な抵抗ではあろうが。

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「何を勘違いしている?」

細く冷たい指は庇う様に差し出された腕をすり抜け青年の顔を掴み、けれどそれ以上沈み込むことはない。
それは殺意すら抱いていなかった。強いて言うならば実験動物でも見るような、感情の剥落した表情。
それの目に、彼は殺すべきものとしてすら映っていない。
瞳をそらす事が出来ないよう、顔をそらさぬよう、がっちりと片手でつかんだままそれは静かに青年をねめつける。

「お前達の悪は弱さだ。
 歩み寄る事が出来ないから脅し
 愛される努力を出来ないから犯す。
 考えることが怖いから思考停止で狂気を振りかざす。
 ……力で力をねじ伏せる世界で獣に人が叶うとでも?
 そんな簡単な事にも思い至らないお前達は弱者であり、悪だ。
 そんな者らが神の、人の在り方を騙る?」

酷く冷えた声でそれは蔑む。
冷え切った瞳の奥には倦怠感と哀れみが宿っている。

「甘えるな。人間風情が。目をそらすな。弱者が。
 ”人”であることから逃げるお前達は獣にもとる家畜でしかない。
 家畜に魂などない。お前達人間自身が有史以来主張し続けてきたこと。
 己を神が助ける価値がある?笑わせるなよ家畜。」

唾棄するようにそれは吐き捨てる。
ああ、この男の為に”あの子”は己が身を裂いたというのか。

「”己を助けることを放棄した”者に助けを求める資格などない
 神にも、他人にもだ。人間だと、知恵あるものを称するなら雁首揃えて無様を晒してくれるなよ。」

神代理央 > 終わりが――訪れない。
身構えた先にえた感触は、己の顔を掴む彼女の指先。
瞳を逸らせぬ儘、"青年"は彼女の言葉を咀嚼し、思考し――

「…では貴様は。そうして天上から見下ろす様な貴様は。
他者に歩み寄り、万人を愛し、狂気を抱かぬと言うのか。
笑わせてくれる。そんな出来損ないの物語の主人公の様な、英雄崩れの様な者が溢れる世界など、此方から願い下げだ。
現にこうして、貴様は超常の力で以て私を押さえつけている。
それが、ヒトでなくして何だというのだ」

冷気の様に醒めた言葉に返すのは、反論とも呼べぬ言葉。
それでも、既にその声色に狂気と憤怒は無い。青年は、青年の意志で彼女と向かい合う。
勝率が低い戦いであっても、それでも。

「…勘違いをするな。私はそもそも、神など信じてはおらぬわ。
神など所詮、自分達よりも高位の存在に人がつけた呼称でしかない。万能の存在では無い。救済の象徴では無い。
蟻から見ればヒトが超常の存在に見える様に。ヒトが見た抗えぬ存在に神と名付けただけの事。
貴様の言う通りだとも。我等は弱い。徒党を組み、暴力を振るい、他者を捻じ伏せなければ生きてはいけなかった。
それでも。それを見下ろし、家畜だと称する様な貴様と、差異があるとは決して思わぬ。お前とて、所詮はか弱いヒトに過ぎぬ」

神などといいう曖昧な存在ではなく、己という自己を信じるからこそ。どんな強大な力を持つ者であっても、神などという単語で敬おうとは思わない。
所詮は、力を得ただけの生命。何れ終わりを迎える有限。そんなものを、崇めるつもりも、屈するつもりも無い。
例え此の場で彼女に生を終わらせられたとしても。彼女も己も唯のヒトで有る事を、決して否定などしない。
だが――

「……己を助けること、だと。馬鹿を言え。それこそ惰弱。それこそ、貴様の言う家畜の様なものだ。
私は、私を慕う者を救う。私に付き従う者を救う。私の手の中で守れるものを守る。それだけ、それだけだ。
自助の精神を否定はせぬ。だが、私は誰かに『助けてくれ』などと吐き出した覚えは無い。
………それでも、護り切れぬ者がある私に、己を助ける資格などあるものかよ」

救えなかったもの。守れなかったもの。己自身が奪ったもの。
それらに押し潰されそうになりながらも、ソレらを乗り越え、踏み越えて、護らなければならない人が、世界がある。
其処に誰かの助けなど求めない。押し潰されるのは、自分だけで良い。青年は、青年となって初めて。静かな矜持と怒りを湛えて、彼女と向き合うだろうか。

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「”あれはそういう風に作られていたでしょ?”」

それは極寒の中、それよりも冷たい笑みを浮かべる。
誰かを愛し、それを全て肯定して……
そして最後は置いて行かれる。

「英雄崩れ?そんなもの強く在れないものの戯言。
 事実世界はそういった名もなき英雄によって紡がれてきた。
 キミはそれを唄っていた。
 多数の為、最大多数の最大幸福のため孤独に選択する。
 聞こえはずいぶん良いけれど所詮あこがれに届かない理由を探しているだけ。
 それに私は言っている。”力で力を抑え込む世界はより強い力に抑え込まれ蹂躙される。”
 結果が今この状況でしょう?
 こんな風に掴まれているだけで動けなくなって、泣き言を漏らしている」

覚悟も、反論も全てを嘲る。
この世界は理不尽で、どうしようもなく残酷で
その最たる人類という大きな存在が彼女は大嫌いだった。

「助けてと言われなければ助けない理由になる。
 助けてと言われなければ必要とされていないからといじける理由になる。
 助ける事が出来れば力に酔い、
 助けられなければ悲劇に酔いしれられる。
 強さを他者に依存した挙句弱さを誇る?誰かのため?甘えるな。
 その御立派な信条とやらは所詮弱さに言い訳するための物というわけだ」

あまりにも苛烈で理想主義で……そしてとても残酷な言葉。
冷酷なまでに逃げることを許さず、弱くあることを許さない。
それはおそらく人類の大半を切り捨てる理論。
けれど……

「お前のその弱さがお前の恋人とやらがこの場所に来て踊る理由になった。
 お前の弱さが助けられなかったものを生み出した。
 それを資格?貴方にあるのはそれらを成せなかった責任だけ。」

そう信じなければ、この男を信じたものが何を救われるというのだろう。

神代理央 > 「……ああ、そうだとも。アリスは、そうあれかしと俺の傍に居たとも。だから、だからこそだ。此の世の理性有る者全てがアリスの様になったとして。それが、幸福な世界だと言えるものか」

自分は、彼女を置いてきてしまった。だが、それを後悔してはいけない。それを嘆いてはいけない。
その別れを踏み越えて、先に進むと決めたのだから。

「…名も無き英雄。世界に名を残せぬ英雄によって、世界が紡がれてきたと?思い上がるな。彼等とて名があった。彼等だけの物語があった。それを、世界の歯車に組み込むな。名も無き英雄等と、一括りにするな。
私が望むのは、彼等の象徴。より多くの人が、幸せになれる世界。憧れに届かない理由?そうだとも。世の全ての人が、望んだ自己になれる訳では無いのだから。届かぬ憧憬を想い出に生きていける世界。秩序とルールがを守る人々が、平和に穏やかに生きる世界。
…こうして、力で抑え込まずとも、規律と秩序の中で微睡む様に生きられる世界。それが私の望み。
……貴様には分からぬだろうさ。こんな趣味の悪い空間で、一人閉じこもって。訪れる者の結末を神の振りをして眺める貴様にはな」

嘲られようと、抑え込まれようと。
理不尽でも、残酷でも、己の力が届かなくとも。
それでも抗う事を止める事は無い。それがヒトなのだと言わんばかりに。
彼女が忌み嫌う人類であると示す様に。

「……助けるという行為に。救いという言葉に。随分と拘るものだな。貴様の言葉を否定はせぬよ。そもそも私は、ヒトが弱い事をずっと否定していない。私は、助けられる者が有限である事を否定しない。故に、弱さを詰られようと、それを超える努力はすれど否定はしない。
……寧ろ不思議なものだ。その言い分ではまるで、貴様も誰かに救って欲しかったとでも言いたげではないか。それとも、救えなかった者がいるのかね。ありきたりな悲劇を、貴様も抱えているとでも?」

弱さを許さない彼女と、弱さを肯定しながらそれでも強くあろうとする青年。
しかし、苛烈な言葉と思想は結局のところ鏡の様なものではないのか。
弱さを許さず、貪欲に強く有れと告げる彼女は――そうなれなかったのだろうか。
ああ、だが、しかし。彼女は決定的に己に勝利する剣を持っている。己が守れなかったもの。守らなければならなかったもの。
それを事実として突きつけられれば――

「……我が身を。私が、私自身を助けぬが故に、アイツは此処を訪れたというのか。私が弱いから、弱さを肯定するが故に、傷付かずにすんだ筈の愛しい女が、此処で――」

それまでは、彼女の苛烈な言葉も思想も。
己の全てを搔き集めて、言葉を投げ返す事が出来た。
だが、己の弱さ故に恋人が此処で悲劇に至ったのだと紡がれれば。
瞳に灯っていた強い意志の光は、陰る。

----- >  
「勘違いするな?それはこちらの台詞。
 一くくりにするな?今この瞬間にも聞こえの良い言葉で過去にしているというのに?
 後悔していない?ふざけるな。思い出にする?許さない。
 そんな綺麗な言葉で許されるとでも?
 許された気になっているのは置いていくもの、蹂躙するものだけ。」
 
青年がこちらを睨みつける瞳に力が戻り、傲慢さを詰る。
そう、その通り。
神にでもなったかのように驕り高ぶる愚か者。それが今の”私の役”だ。
……虚像を見せるには真実を幾分か混ぜ、そしてそれを看破させるようにちらつかせればいい。
だからこの言葉は事実であり、虚構そのものでもある。

「私を救うものは私で決める。私が救うものも然り。
 私は強い。事実この領域でなら”神だって殺してみせる”
 この島に住まう獣共も、不死なるものも、何もかも否定してみせる」

ああ、気が付いているだろうか。
この声色がどこかの青年ととてもよく似ていることに。

「ああ、そうしてお前は救えなかったものの横で私は覚悟しているだの、救えなかっただの自己憐憫に没頭するわけだ。
 まるで道具だな。口でどう言おうとも何もかも”お前”の為の供物としか見ていない。
 必要ならば切り捨てるのだろう?どうとでも理由をつけて。
 未来に進むために必要だったか?殺してやることが幸せだからか?
 次はどんな言い訳を口にして、他人を犠牲にするつもりだ?
 そして抱えきれなくなったその時には己を守る資格がない等と宣い
 自己犠牲と称して全てを投げだすわけだ。
 ああ、さぞかし幸福だろう。」

神代理央 > 「許されるさ。少なくとも、私は許す。思い出も、弱さも、全て。
少なくとも、神を騙る貴様が許さぬのなら、人である私が赦す。
神に縋って許しを請うくらいなら、目に見える誰かが許してやらねばならない。
置いていくもの、蹂躙するもので構わない。それすらも出来ない者達の代わりに、私がソレを為すだけだ。
過去に置き去りにするのも、理想の為に他者を踏み躙るのも、それが人々の安寧と許しになるのなら、何と言われようと私は成し遂げる」

神の如く、天上から見下ろし続ける彼女に、それでも言葉を返すのは何故なのだろうか。
そも、彼女の言葉を此処迄拒絶する必要が無い。彼女の言葉には、かつて自分が放ったのであろう言葉の刃も、含まれているのだから。
諦めて、その通りだと。彼女の言う通りだと投げ出し、認めても構わない筈なのに。己とて、同じ事を繰り返してきた筈なのに――

「……ならば、私と同じではないか。それでは、まるで貴様は。
貴様は、神などではない。それは、それ、は―ー」

嗚呼、理解してしまった。何故己が、此処迄彼女に噛みついていたのか。彼女の言葉を否定しようとしていたのか。
やれ神だの力だの世界だのと、大きな物事を論じるだけなら気が付かなかった。
しかし、彼女は告げるのだ。『私をすくうものは私で決める。私が救うものも然り』と。
その傲慢さは。その苛烈さは。拒絶する様な言葉は。
違う、気付いてはいけない。彼女は敵だ。決して、合わせ鏡の様に『誰かを演じる』ものでは無い。彼女の声色が、誰に似ているかなど。それを認めては、今迄自分が彼女に返していた言葉は――

「……では、どうしろと言うのだ。自らも、他者も救えぬ儘、私に朽ち果てろというのか。
或いは貴様の様に、こうして己だけが存在する空間で、一人ぼっちの神様となって過ごせば良いのか。
幸福だろう、だと?ああ、そうだな。そうだとも。だが、その幸福に私はもう疲れてしまったよ。それすらも、自己憐憫だと自覚出来ることにもな」

恐らく、彼女に出会って。この領域を訪れて。初めて、笑った。
視界を逸らせぬ様に掴まれた顔も、ぶつかり合った魂も。認めざるを得なかったから。
それを認めてしまえば、己の外殻を強固に守ってきた矜持など意味を為さない。『神代理央』という少年は、疲れた様に笑ってみせた。

----- >  
「知らぬさ。それは己で決めるしかない。
 考えて、考えて考え続けるしかない。
 神代理央という”人間”として死ぬまでずっと。」

人に不可能な事であることは百も承知だ。それは心に地獄を飼う。
自分の何もかもを疑い続け、血を吐き、涙しながら薄れることを良しとしない。
でもそれがなんだというのだろう。元よりこの世界は地獄だ。
そして、この青年はそれを一人で成さなければいけない訳ではない。
……それが一番大きな違いで、救いでもある。
けれど、それは今危うい天秤の上でふらついている。
……あの子には妹可愛さから意地悪をした自覚はあるけれど。

「それがあの子の願いだった。ボクはキミの事なんかどうでも良い。
 けれどあの子にとって君は”あの空間を渡って命を繋いででも最期に会いに行きたかった”存在で
 そしてあの子は”君”に一度だって”キミ以外の存在になれ”とは言わなかったはずだ。」

青年をねめつけ、それは冷徹な表情で言葉を紡ぐ。
自分とそれ以外の境界線なんて……自分が思っている以上に曖昧なのだとそれは身をもってしっている。
けれどそれがなんだというのだろう。
どうしようもなく願いを願った子がいた。
それは酷く残酷で、そして真摯なものだった。
……それで十分。願いというのは常に残酷で一方的なもの。

「だというのにまた、キミはキミ以外の何かであることを良しとしようとしている。
 赦されるから。あの子はすべて赦してしまうから。きっかけがあればすぐにそうやって。
 だから、あの子が”全ての君”を肯定するなら私は”キミ以外の君”を否定する。
 間違えたままなんて許さない。狂気で思考を止めることなど許さない。
 そんな言葉では、そんな思いではあの子も、ここで壊れたあの子も報われない。」

青年の顔を掴んでいた手が翻り、青年の襟元を掴む。
世界の優しさなんか信じていない。世界は残酷で、荒れ狂う嵐の海のようにすべてを飲み込んでいく。
けれど例えこれがどうしようもなく小さな砂礫を海に投げ乞うような無意味な行動でも……

「たとえこの世界がどのようなものであったとしても
 ……私という絶対がある此処(世界)で、そんなツマラナイ結末は許さない。」

せめて、私という世界の主がその願いを叶えなければ。

神代理央 > 「私以外の存在…?おかしなことをいう。私は、私……」

断言しようとして、その言葉は途中で止まってしまった。
自覚はある。己の内側から時折呪詛の様に響く声。それもまた己自身であると、目を逸らし続けていたもの。
けれどそれが、己自身でないとしたら。『神代理央』という存在を書き換えるものだとしたら。
彼女は、其処から逃げ出す事を許さない。目を逸らす事を、許さない。

「……そうだ。アリスは、アリスは俺の全てを肯定していた。例え俺がたった一人、孤独な世界の王であったとしても。あいつは、きっと俺の傍にいた。変わっていく俺を、強くなったと言った。
置いていく俺を、静かに見送って、愛していると言ってくれた」

ぼんやりと。言葉を紡ぐ彼女の表情を眺めながら呟く。
ああ、そうだ。確かにアリスは、俺を否定しなかった。
俺がアリスの元から離れる事すら、それを笑って見送ってくれた。
そして俺は彼女に、立ち止まらぬと言ったのだ。

「……ああ、クソ。そうだよ、その通りだよ。俺は間違えない、間違えた儘でいるものか。俺を愛した人形(アリス)が居た事も、俺を支えると言ってくれた恋人が居る事も、全てそれは俺のモノだ。他の誰のものでもあるものか。
俺が俺である事を、誰に否定させるものか。俺は、何時か俺の理想を叶える為に。狂気に溺れている暇など、あるものか」

襟元を掴まれ、視界が揺らめく。
それでも、再び彼女を見据えた瞳には先程迄とは異なる、強い意志が灯っているだろう。
――正確に言えば、特段強い意志、という訳ではないのかもしれない。年相応であり、背伸びした子供であり、何時も尊大に、偉そうに振る舞う。唯の人間の瞳。
内なる狂気でも、宿した残骸でもない。唯の人間の意志を持った、瞳。

「俺だってお断りだ。貴様と意見を共にするのは非常に癪だがな。
俺がそんなつまらぬ結末に至るものか。此処で偉そうにふんぞり返る貴様が驚く様な、俺が俺である物語にしてみせるさ、馬鹿者」

それは、一人では叶えられない事かも知れないけれど。
きっと『己が己の儘でいられれば』叶えられる事が出来る筈。
だから、彼女に。世界の主に。何時もの様に。此の死と静寂の冷たさが支配する世界で。
まるで街で擦れ違った知人に振る舞う様に、尊大に言葉を紡ぎ返すのだろう。
決してこれからも間違えないとは言わない。けれど、その過ちもきっと誰か支え合って。間違えた儘にせず。
己の理想を叶えるのだと。

----- >  
「これ以上はもう、必要ないだろう」

尊大な口調のまま、怪物は青年の瞳に色を見た。
少女の姿をしたそれが口にする言葉は呪に過ぎない。
歪めた心を救うのは何処まで行っても自分でしかない。
この色はある程度”持ち直した”という証拠だろう。

「”私”が与えるのは此処までだ。答えはキミの中にしかない。
 与えられた答えを飲み込めるほど人は賢明でもない。
 これからも君は間違えるだろう。無様に、何度も何度も。
 その先に自ら救いを見出すがいい。人間」

願い叶うるモノ(神)を自称するものは無感情のままするりと襟首を離す。
……”役”は果たした。
あの子の用途とは真逆の結果になるものだけれどそれをあの子が望んだのだから、私はそれを叶えよう。

「ひとまず自己を見失っている哀れな子にでも会いに行くがいい。
 今あれは君より脆弱で重傷だ。独り立つこともままならない。
 しかし君が君であるために必要なファクターに今後なりうる。
 まぁせいぜい慰めて大事にしてやることだ。」

青年の後ろに音もなく黒い門が開く。
この地獄から、元の地獄へと舞い戻るための。
そこに神は在らず、人はその荒野で願望という渇きに喘ぐ。
けれど……”それで良い。”
”楽園”では願うことすら許されないから。

「ではお引き取り願おう。”願い人。”
 ここは終極。本来人が至らぬ場所。
 この場に願い無き者が、道半ばの者達が居るべきではない。
 君の叶えるべき願いは此処にはない。
 ならば、嘆きの川の終端になど留まられても迷惑だ。
 風紀委員とやらにお伝えておけ。」

それの指先が青年の胸をとんっと突き
そしてそれ自身ももう彼に用はないとばかりにくるりと後ろを振り向き深淵へと歩いていく。
深淵の淵で振り返った顔はもう既にぼやけていて……

「二度とこんな場所に迷い込むな」

そう告げると力を失ったかのように真っ逆さまに淵へと落ちていく。

神代理央 > 「…そうだな。それに、その答えを貴様にくれてやろうとも思わぬ。俺の答えは、全て俺のものだ」

フン、と零した吐息と共に言葉を返す。
そう。彼女の思う様に。或いは思う通りに。
再び自我を確立した青年は、ゆっくりと笑うのだろう。

「謂われずとも。無様な人間が足掻く様を、精々眺めていると良い。貴様が羨ましいと妬む程、みっともなく、そして楽しく足掻いてやるさ」

襟首を離されて、与えられていた仄かな圧迫感から解放されれば、紡ぐのはまるで宣戦布告にも似た、宣言。
神を演じ続けた少女への、挑戦状。

「……フン。帰りの道案内付きとは御丁寧な事だ。だが、ああ。そうだな。今は、その厚意を受け取ろう。
……アイツを怒らねばならないし、怒られなければならないからな」

背後で開く黒き門。
それを視界の隅に捉えると、世界の主たる少女に小さく肩を竦めて見せる。とはいえ、その表情は真剣そのもの。
己には、護らなければならない人が。帰りを待つ少女が。愛する女がいるのだから。

「…っと。はは。願い人とはな。随分と洒落た呼び名で呼んでくれるものだ。
少なくとも、こんな陰気な場所で叶えるべき願いは持ち合わせておらぬからな。終端に至る程、人生を諦めた訳でも無い。
必ず伝えよう。無謀な冒険心で、此処を訪れる者がいない様に」

胸を軽く突かれれば、それに後押しされる様に踏鞴を踏んで門の中へ。急速に揺らぎ、ぼやけていく視界。振り返った彼女の顔も、既にあやふや。
それでも。視界の中で深淵の淵に消えていく"少女"に叫ぶのだ。

「……世話をかけたな!何れ、三人で、紅茶を――」


――何でそんな事を言ったのか己にも分からない。
それに、門を潜り抜けて現実に帰還すれば、そもそも発言した事すら覚えていないのかもしれない。
それでも。例え言葉を言い切る事が出来なくても。
アリスに紡いだものと同じ言葉を叫んで――青年の躰は、門の中へと消えた。

----- >  
「うん、期待しているよ」

墜ちていきながらそれは小さくつぶやく。
底は彼女にとってそれほど深くはない。すぐに元の場所へと至る。
そう、ここは刹那の、そして永遠の停滞。全てが終わった場所。
そこでその中心で差し伸べられる手に抱き留められ、
ゆっくりと着水すると同時に僅かに水音を立てる。

「……三人で紅茶を、ね」

身を切るような冷たい水の中、無数の死体の頂点でそれは空を見上げた。
見上げた月と星は色を失っていても変わらず美しい。

「馬鹿だなぁ、もう覚えても居ないだろうに」

もう、それは過去の出来事。
あったかもしれない幸せな未来はもう二度と来ることはないけれど
二度と叶わない夢と叫びは確かに耳に届いていた。
……次の演目まで少しだけ時間がある。来るべき人たちと、最後まで演じ切るために
すこしだけ目を閉じよう。


「ああ本当に、この島には」


……心残りが多すぎる。

神代理央 >  
――目が、覚めた。
己の周囲を、ぽかんとしたような顔をした風紀委員が囲んでいる。
背後には、己が巻き込まれた光の柱が聳え立っていた。
そして、その風紀委員の中に。愛しい恋人の姿が、其処に、あった。

『理央さん、良かった……無事だったんです、ね……』

と、正しく満身創痍といった様子で。それでも、綺麗に微笑んで。
慌てて駆け寄った己の腕の中で、少女は気を失う様に。いや、正しく意識を手放して、倒れた。

「…ばかもの。ばかものばかものばかものが…!」

その罵倒は、恋人に向けられていたものか。或いは、己自身に向けられたものか。
群がる風紀委員達を押しのけて、彼女を抱えた儘奔る。唯只管に、駆ける。
先ずは彼女を休ませなくては。己の為に身を危険に晒し、傷付き、それでも己を待ち続けて少女。
己を支えると笑った少女の為に、少年は彼女を抱いて、唯只管に走った。

――全て落ち着いたら、紅茶でも飲みに誘ってみよう、と。
抜け落ちた記憶の残骸が己に囁いて。消えていった。

ご案内:「◆月下の奈落」から-----さんが去りました。
ご案内:「◆月下の奈落」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「◆特殊領域第一円(特殊Free)」にアーヴァリティさんが現れました。
アーヴァリティ > 「行ってきまーす!」

学園の学生寮の一室。
元気のいい声と共に銀髪の少女が飛び出してきた。
今日は授業もないらしいルームメイト達に笑顔で手を振りながら、「転けるぞー」と笑われながら。

朗らかな笑みを浮かべながら鼻歌混じりに行く少女。
足取りは軽く、その表情に狂気はなく、幼さもない。
満たされた生活と、仲のいいルームメイトと、一緒に笑い合える友人と。
そしてー

「おはよう切人!今日も一人?」

一人で歩いている少年に背後から突進する。
突進の被害者である眼帯をつけた少年は、突進の衝撃に転けそうになるが転けず、「テメェ」とか言いながらどこか慣れた調子で手刀を振り下ろす少年。
その手を素早く躱して一歩後退して距離を取れば、ニヤニヤと少年を見つめてやる。

「今日は一人みたいだね!僕が一緒に行ってあげようか?」

ー特別な少年。
腐れ縁というかなんと言うか。あっちは僕のことを腐れ縁と思っているみたいだけど、僕はきっと彼に懐いているんだと思う。
出会った時は…あれ?よく思い出せないけど…まあいいか!
「うるせえ。どっか行け」なんて素っ気なく言い放ってさっさと行ってしまおうとする切人の横について、回り込むように覗き込みながら声をかけていく。

「何?ツンデレってやつ?今日も一緒にお昼食べようよ!友達がおいしいメニュー教えてくれたんだ!」

明らかに不機嫌そうな、でも本気で嫌がってるわけではない少年に話しかけ続ける。無視しようとしてくる少年にねえねえ、と話しかけ続けながら、一緒に歩いていく。

アーヴァリティ > 「じゃあね!またお昼の時に!」

少年に数時間の別れを告げる。
「じゃあな、アーヴァ」なんてやっぱり素っ気ない、どころか解放されたとでも言いたげに伸びをする彼の背中を一発ぶん殴って、逃げる。
体勢を崩し反撃のタイミングを失った少年が怒っているが、お構いなしに逃げていく。
本当は一緒の教室に行きたいけど、留年した少年と自分では学年が違ったりして叶わない。
まあ仕方ないよね、だって住む場所も生きてきた時間も違うんだから。
...あれ?住む場所は別に違わないような...それに生きてきた時間も...違うけどそんな言うような物でもないよなあ。

『に.........ダ...!』

誰かが叫んでいる声が聞こえる。遠くで叫んでるみたいでなんて言ってるかよくわからないけど。
あんまりのんびりしてると朝礼に遅れちゃう。
この前凛霞ちゃんに廊下は走るなって言われたけど、小走りなら許されるよね!

アーヴァリティ > 「今日はちゃんと課題やってきましたよ!レイヴン先生!」

数学の授業の前に、首が痛くなりそうなくらい背が高いレイヴン先生のところに課題を持っていく。
「当たり前だ」なんて言いながら課題を受け取る先生。
最初はなぜか国語教師と勘違いしてて...あれ?なんで勘違いしてたんだっけ?
確かレイヴン先生が国語の課題がどうたらこうたら...他の先生に頼まれたんだっけ?
思い出せない。

『に...た...ダ...!』

授業ももう始まる時間だと言うのに、誰かがどこかで叫んでいる。
忘れ物でもしてきて叫んでいるのかな?
...さっきより近いせいかよく聞こえるけど...聞き覚えのある声だなあ。
誰だっけ?ちょっとまだ遠くてわからない。

アーヴァリティ > 「あ、神代君!今日もすごいの食べてるね」

一人で食堂に来たらそこには一人で食事する神代君の姿。
女装の支配者とか言う渾名がつくぐらいには少女と言っても差し支えない顔付きや後ろ姿をした彼はれっきとした少年だ。

...うーんやっぱり出会ったときのことを思い出せない。なんでだろう?
まあそんなに大事でもないしいいけど...なんだろう?変な気分だなあ...
いつも通り偉そうな彼の言葉は無視して、持ってきたランチをテーブルに置いて彼の正面に座る。
彼のメニューは...きっとデザートなんだろうけど、パフェ。
チョコレートとかアイスとかフルーツが豪華に盛り付けられたパフェ。
糖分の支配者とかあだ名を付けられていた気もする。
本当によく飽きないなあ...あ、最初に会った時は凄い甘い匂いがするチョコレートもらったんだっけ!
なんで貰ったかとそのあとは覚えてないけど...
『に...たらダ...!』
やっぱり聞いたことがある声だ。それどころか、聞き飽きたぐらいの声。
うーん、わからないなあ...灯台下暗しな気がなんとなくするけど...

それよりも、友達にお勧めしてもらったランチはおいしかった。
ちょっとボリューム豊富すぎてお腹が膨れちゃったけど。
太っちゃう。

アーヴァリティ > 「あ、ルギウス... 先生!」

胡散臭いサングラス。
勝手に心の中でそう呼んでいるだけだが、実際胡散臭いサングラスの教師に、夕陽に染まった廊下で声を掛ける。
うん、やっぱりどうやって出会ったか思い出せないけど...相談に乗ってもらったことは覚えている。
内容は覚えてないけどね。
なんとなく呼び捨てしてしまいそうになったけど、先生を呼び捨てなんて失礼だから、慌てて先生をつける。
「何に憧れていたかは思い出せましたか?」
いつも浮かべている笑みを崩さないまま振り向いた先生が1ヶ月ぐらい前にくれた課題について尋ねてくる。
相談に乗ってもらった時にもらった課題。
答えは出ている。

「僕はお母さんに憧れたんだ!友達もいっぱいいて、お父さんと結婚して幸せにしてるお母さんに!」

お母さんの姿は"元から居ない"のかってぐらい思い出せないけど。
きっとそうだ。
「だったら、お父さんにも憧れたのではないですか?」

「うん!お父さんも毎日楽しそうで、たまに忙しそうだったりお母さんと言い合いしてるけど。
お父さんも憧れ!」

忘れてはいけない。
お父さんも憧れだ。
でも、ちょっとおかしい。
お父さんについての記憶はどれも、狭い場所の低い場所から、いろんな服装とか背丈のお父さんみたいな人を眺めてて。
僕はなぜかうまく動けなくて、頭が痛くなるぐらい羨ましくて...

『本当に?居もしない両親に本当に憧れたのですか?』
『にげたらダメ!』

ああわかった。これ僕の声だ。
これは、頭に根付いて離れなくなった、僕の考え。
つい昨日まで...昨日?思い出せない....頭が痛い、視界がぼやける。
ルギウスの声と僕の声が反響して、頭を抑える。
そうだ、ここは夢、現実ではない世界。

『あなたが憧れたのは...』
「僕が憧れたのは...」

『人間では?』
「人間だ」

世界が崩れる。
幸せな生活が、学園生活が、僕を包んでいた暖かな陽の光が。
音もなく、ガラスのように崩れていく。
あんなに広かった世界は、まるで撮影現場の一室のように狭くて、全てが崩れ去った時に僕の目に映ったのは、小さな手と、制服ではないただのワンピースの裾。

「逃げたら、ダメだよね...」

アーヴァリティ > モノクロの世界の中で立ち上がる。
さっきまでいた夕陽に彩られた世界とは全く違う世界。
白と黒で構成された素っ気ない世界。

「これ以上逃げたらダメだよね。」

幸せな世界だった。ああ、とっても幸せだった。
生まれた時から人間で、友達もいっぱいいて、毎日幸せで、いっぱいお話しして、軽口を交わして、一緒に遊んで、一緒に笑って。
その瞳から、涙が一筋零れた。
それは僅かな後悔。幸せな世界から逃れてしまった事への後悔。
でも、これ以上は流させない。
腕で目を擦り、しっかりと両足を地面につける。
覚悟を決めた、って言いたげに表情をキリッとさせて、頭を振る。
あの世界は魅力的だったさ。こちらの世界は魅力なんてない、僕が怪異に生まれて誰からも見向きされなかった世界。
そんな世界で一度僕は楽な思考へと逃げて、何百年も生き続けて。
折角元の道に戻れそうなのに。
また逃げるわけには行かないのだ。

「これが僕。あの世界は...やっぱり魅力的だったけど。これまでを無駄にしてまで溺れる風景じゃないよね」

僕はアーヴァリティ。黒い塊が自我を持って、知性を持って、力を持った存在で、怪異だ。
人間に憧れて、孤独を嫌って、コミュニケーションを望み続けた怪異だ。
怪異であることを誇りに思っているわけではない。
でも、僕は怪異だ。
人間と居るために、ここまで頑張り続けた怪異、アーヴァリティだ。

だから、あの世界にはいられない。
僕は人間ではないから。
怪異として生きてきた自分を捨てられなかったから。
怪異として生きながら理想を果たしたいから。

「うん、あんなにでかい柱なのに...これで終わりじゃないよね」

そうだ。まだ光の柱に入って全然経ってないはずじゃないか。
こんなところで立ち止まってはいられない。
後悔は、もうない。
あるのは、次の試練への恐れと期待と、楽しかった夢の記憶
でも、その記憶もいずれ消えるであろう。
この先積み重ねられる記憶に埋もれて...

ご案内:「◆特殊領域第一円(特殊Free)」からアーヴァリティさんが去りました。
ご案内:「扶桑百貨店 女子トイレ」に織機 雪兎さんが現れました。
ご案内:「扶桑百貨店 女子トイレ」に萌良 さだめさんが現れました。
織機 雪兎 >  
顔がとろんっとろんに蕩けた友人を女子トイレの個室に連れ込む。
誰もいないことを確認し、個室に二人で入って鍵を閉める。

「――っはぁー……」

扉に寄りかかり、深いため息。
いや女児?をトイレに連れ込むとか一体何やってんだろう。
ちょっと正気に戻った。

萌良 さだめ > おねえちゃ、おねちゃ…♥ ちゅるちゅる、してぇ…♥
(人を水の中に引きずり込む妖精のように、甘い声色で誘う。
 狭いお手洗いの個室の中に二人で収まっても勢いは止まることなく、
 彼女に体を擦り寄せ、喉を鳴らすようにして甘えてみせる。)

……あれ…?
(ふと我に返って辺りを見回す。お手洗いの中である。
 どうも男子のそれとも様子が違う。
 クールダウンして目に光がちょっとづつ戻ってきた。
 困惑するような目で相手を見上げる。)

織機 雪兎 >  
「あっ」

なんか我に返ってる。
あれこれなんかまずい感じ?

「あっあっはいあーん」

慌ててちゅるちゅるを開けて差し出す。
勢い余ってちょっとぴゅるっと飛び出て彼女?の顔に掛かってしまうかもしれない。

萌良 さだめ > あの、お姉ちゃん、一体、ここはなん…ぁ―――♥
(問いかけようとしたけれど、ちゅるちゅるを差し出されるとあっというまに瞳が蕩けた。
 お口を大きく開けてちゅるちゅるを待つけれど、
 顔に白く濁ったそれがかかると、なんとも言えない声を上げた。)

もったいないぃ…ちゅるちゅる、おねえちゃん……。
(顔にかかったそれを手で掬い取り、ちゅるちゅるを舌で丁寧に舐め清める。
 微かに鼻を鳴らしながら夢中で舐め取りながらも、視線は差し出されたちゅるちゅるへ。
 ひとしきり手をきれいにしたら、今にでも吸い付かんという構えである。)

織機 雪兎 >  
「よし」

誤魔化せた。
いやしかしそれにしても。

「さだにゃん、えっちだなぁ……」

こんなに蕩けた表情をするとは。
ちゅるちゅる恐るべしである。

「――んふ♡」

ちょっと悪戯してみたくなった。
差し出していたちゅるちゅるをひょいと上げ、自分の口にイン。
中身をちゅるんと吸い出し、彼女?の視線の高さに降りて行き。

「んぁー♡」

口の中にちゅるちゅるを蓄えたまま、口を開けて見せつけるように。
悔しがる顔を想像してニヤニヤ。

萌良 さだめ > おねえちゃん、おねえちゃん…♥ おねえちゃん…♥
(すっかり蕩けきった声色で彼女にアピール。
 すっかりちゅるちゅるにやられていた。
 差し出されたそれに今にも食いつこうとしたところで…。)

あぁ―――!? おねえちゃん、なんで、なんでぇ…!
(彼女が自分でちゅるちゅるを食べた。思わず叫ぶ。
 自分のちゅるちゅるなのに…。 恨めしそうな目で見ていると、
 彼女がこちらと目線を合わせるようにして口を開く。)

ううーっ……。 む――っ!
(お口の中にたっぷり溜め込んだちゅるちゅるを見せつけてアピールしてくる彼女に、
 頬を膨らませてすごい勢いで決意ゲージを貯める。
 そのままぐい、と近づくと、彼女のお口に自分のお口を重ねて、
 ちゅるちゅるを吸い出さんと企んだ。)

織機 雪兎 >  
「んむっ――!?」

あっという間だった。
口に吸いつかれて、思い切り口の中のちゅるちゅるを吸い出される。
すっかり油断していたので、ちゅるちゅるのみならず舌ごと彼女?の口の中へ思い切り吸い込まれて。

「ん、む、むぅ――っ」

ばたばたと暴れる――とまでは言わないが、手足をばたつかせて。
少しバランスを崩して倒れそうになるが、何とか彼女?と身体を入れ替え、便器に座る。
彼女?は自分の膝の上に、こちらを向いて乗せる形になろうか。

「ぷぁ、ちょ、ま、って――」

身を捩って逃げる。
しかし自分の膝には彼女?が乗っていて逃げられないし、何なら顔を背けてもすぐ届く距離までしか逃げられない。
口の端からちゅるちゅるを零しながら彼女?を落ち着かせようと。

萌良 さだめ > んむ、んく……んっ、んふ、んっ…♥
(彼女に口づけたとたんに、いっきにちゅるちゅるを吸い上げる。
 なんだかとろとろしていたし、ぬらりとした塊のようなものも口の中に入ってくるけど、
 たくさんのちゅるちゅるの前では些事でしかない。その塊ごと夢中で吸い付いた。)

っふーっ、んぅっ、んぅ…んあぁぁ、ちゅるちゅるがぁ…♥
(大慌てでジタバタ動くかのじょにしがみつく。 まだちゅるちゅるは全部吸い終わってない。
 そうしていたところで、なんだかいい感じに彼女が体を入れ替える。
 気がついたら、自分は彼女のお膝の上に対面する形で収まっていた。)

ああ…おねえちゃん、もったいない、ちゅるちゅる、おくちからたれてる…♥
(頑張って自分をなだめようとする彼女だけれど、目の前にちゅるちゅるがあってはダメだ。
 彼女の顔に自らの顔を寄せ、唇の端から溢れるちゅるちゅるを舌で舐め取る。)

織機 雪兎 >  
「うわ、うわうわうわ……」

まるで猫のように自分の顔を舐めてくる彼女?。
初めて触れた他人の口の中はとてもぬめぬめしていた。

「――も、もっと、食べたい……?」

まだちゅるちゅるはたくさんある。
それを彼女?に見せつけるように手に取って、

「さ、さっきの、食べ方で良いなら、もっと食べていい、よ……?」

めっちゃ心臓バクバクしてる。

萌良 さだめ > んふー……♥
(ひとしきり彼女の顔…主に口周りを丁寧になめ清めた後、
 ご満悦な感じに鼻を鳴らす。 満足げにしていたところで、
 声をかけられてはっとした表情になった。)

ほんとにっ?! おねえちゃん、もっとちゅるちゅるくれるの?
さだにゃん、なんでも言うこと聞きますっ、いっぱいたべたい、ちゅるちゅるほしいっ♥
(相手の提案に躊躇なく乗る。 瞳をきらきらと輝かせ、荒い息をつきながら何度もうなずく。
 縋るように彼女にしがみついて体をぴったりくっつけながら、おねだりとばかりに
 体を擦り寄せた。)

織機 雪兎 >  
「ちょ、ちょちょちょまってまって」

くっつかれて身体を擦り付けられて慌てる。
ちゅるちゅる恐るべし。

「じゃ、じゃあ、あむ――」

ちゅるちゅるの封を開けて自分の口に流し込む。
彼女?の目の前で口の中をちゅるちゅるで満たして、改めて口を開き。

「あ、あい、ろーぉ……」

ドキドキしながら彼女?が来るのを待って。

萌良 さだめ > ちゅるちゅる…はやくぅ、おねえちゃん、はやくぅ♥
(すごい勢いでおねだりしながらアピールする。
 ちょっとばかり慌てる彼女がちゅるちゅるを自分の口に充填するさまを、
 じーっと、熱っぽい視線で見つめていた。)

もういい? おねえちゃん、もういい? いただきますっ♥
(彼女のお口にちゅるちゅるが充填されるまで頑張って耐えていた。
 OKが出た瞬間、彼女のお口に自分の口を重ねる。
 目的はもちろん、ちゅるちゅるを口移しで分けてもらうためだ。一切の容赦はない。)

織機 雪兎 >  
「ん、あむ……ぅ♡」

口の中を蹂躙される。
身体を押し付けられ、口を塞がれ、口の中を吸いつくされる。
背骨が抜けるような感覚に襲われ、思わず彼女?に抱き着いた。

「ん、むぅ、ぷぁ、んんん~っ♡」

息継ぎのタイミングがわからない。
と言うか息継ぎのために口を離すと、彼女?が食いついてきて息継ぎが出来ない。

萌良 さだめ > んむ、んむ、ぅ…♥ っふーっ、んく、んんっ♥
(夢中で彼女の口に吸い付く。 舌と舌が絡まって、
 とろとろになった温かいちゅるちゅるが口内でかき回される。
 そのまま喉を鳴らして、夢中でちゅるちゅるを飲み込むと、
 心地の良い幸福感が頭の中から全身に広がっていく。)

んぅぅーっ、んむ! んぅ……っふーっ、ん…♥
(息継ぎのために離れようとするたびに追いかけて、口同士を重ねる。
 もっとほしい!と言わんばかりに吸い付来ながら、蕩けるような甘い声を上げた。)

織機 雪兎 >  
「ちょ、ま、んむぅ……っ♡」

止めようとするも、止まらない。
半ば彼女?に押し倒されるように口内を蹂躙される。

「れるっ、ぷぁ、んんむぅっ……っ?」

そうして口の中を犯されていくうちに気付く。
お腹に当たる、何か硬い感触。
彼女?のポケットに何か入っているのだろうか。
ちょっと腰をずらし、間に手を入れてそれに触れてみる。

萌良 さだめ > んんーっ、んうー、っふ、うーっ…♥
(おねえちゃんの口の中のちゅるちゅるはおいしい。
 残さず手に入れようと舌を動かす。 歯の間、歯茎、舌の表面に舌の裏、
 さらには頬の内側…ありとあらゆる場所に舌を動かして、夢中でそれを味わった。
 もっと、と強請るように彼女の舌に吸い付いているうちに、突如股間に走った刺激に
 小さな体を震わせ、口を離す。)

んひ!? あっ、あぁ…あの、おねえちゃんっ……。
(敏感な部分に触れられるととても弱い。 すっかり体を固くして、
 これ以上の刺激が来ないように注意しながら、相手にそれとなく呼びかけた。)

織機 雪兎 >  
「ん、んー?」

なんだこれ。
彼女?が口を離しているのにも気付かず、ぐにぐにとそれを触り続ける。

「ん、なにこれ……ちょっとごめんね」

なんかよくわからないけどどうしてもわからない。
彼女?のポケットに手を突っ込み、まさぐる。

萌良 さだめ > っひぃ―――♥ あっ、おねえちゃ、おねがい、やめっ、やだぁぁっ♥
(確認するかのような指使いが自分の大事な部分を刺激する。
 声に高く甘いものがまじり、犬のように早い呼吸を繰り返しながら弱々しく首を振った。)

おねえちゃん、やめて、やめてください……。お……。おちんちん、さわらないでぇ…。
(小さな声で訴えかける。 服越しとはいえ、このまま触られてしまっては暴発しかねない。
 そんなことになったら色んな意味で社会的ダメージは計り知れないのだ。
 吐息の合間に声を漏らしながら、必死に彼女に訴えかけた。)

織機 雪兎 >  
「あぁ、おち……え?」

おちんちん?
なんで?
Why?
彼女?の発する単語の意味が分からず、フリーズ。
ぐにぐにぐに。

「え、は……え?」

おちんちん。
って言うと、男の子に付いてる、あの。
その言葉と彼女?の姿がうまく結びつかず、ただただ手だけが動く。
ぐにぐにぐにぐに。

萌良 さだめ > おねえちゃっ、やぁぁっ♥ やだぁぁ、やめっ、や、ぁぁっ…♥
(彼女の手は止まらない。 必死にしがみつくけれどなんの制止にもならず、
 それどころかさらに快楽を注ぎ込んで来る。
 吐息を漏らし、弱々しく快楽に打ち震えながら、必死に哀願し続けるが…。)

だ、だめ――――っ♥
(彼女の手が止まるより早く、自分に限界が来た。
 体をぎゅっと固くしたまま、何度も何度も大きく痙攣する。
 蕩けきった表情を浮かべて脱力しながらも、快楽と羞恥のせいで
 目の端にたっぷりと溜まった涙が光った。)

織機 雪兎 >  
「え、……わ、わ、わっ」

ホットパンツのポケットの布越しに感じる、何か出てくる感触。
手を離すことが出来ず、無意識にそれを受け止めるようにそれを掌で包み込んで。
それが収まってからポケットから手を出せば、手に何か粘つく液体――パンツとポケットの布地からしみ出した精液がちょっとだけ付いていた。

「――あ、お、おとこのこ、だった、の……?」

まさか、信じられない、と言ったような顔。
だってこんなに可愛いのに。

萌良 さだめ > っはーっ、ぁっ……ひぁぁ…♥
(余韻にぶるぶると震え、恍惚の表情を晒す。
 出してしまった、という後悔がじんわりと響いてきて、
 目に涙を浮かべながら彼女を見やった。)

やめてって…いったのに、やだっていったのに…!!
(頬を膨らませて最大限に不満をアピール。
 とはいえ、彼女も驚いているのだからどっこいどっこいである。
 それはそれとして、安安と射精させられたのも恥ずかしいし、
 きもちいいし、いろいろ感情的な何かが拗れていた。
 彼女に訴えかけるように、たっぷりと潤んだ目でじっと見つめる。)

織機 雪兎 >  
「あ、う、ご、ごめん……」

泣きそうな――いや、泣いているのか。
そんな顔で見られたらたじろいでしまう。
だって今まで女の子だと思ってたし、水着はああだったし、そんな感じの態度だったし。
とは言えそれは言えず、困った様な顔。

「う、……ちゅ、ちゅるちゅるあげるから、ね……?」

ここはちゅるちゅるの力をもってして機嫌を直してもらうほかない。
行けるか――!?

萌良 さだめ > ………。
(懐柔…もとい、お詫びのちゅるちゅると聞いてからじっと彼女を見つめる。
 その間、頭の中では自分の恥とちゅるちゅるを天秤にかけた計算が行われていた。
 そっと目を閉じ、ゆっくりと口を開く。)

……ちゅるちゅるくれるなら、いい…。
(プライドはちゅるちゅるより安かった。 そも彼女だってわざとではないのだし、
 咎めすぎるのも理不尽というものである。 自分の格好も格好なのだ。
 ちょっとだけ恥ずかしそうに答えを告げてから、おくちを大きく開けてアピール。
 ちゅるちゅるがほしい、と言わんばかりの甘えきった仕草であった。)

織機 雪兎 >  
どうだ、駄目か――!

「う、うん、良いよ、まだ、あるから」

行けたわ。
割とチョロかった。
新しいパックを取り出し、

「――え、っと……どっち、が、いい……?」

そのままか、口移しか。
ていうかよく考えたら男の子とキスしてたのか。
いやまぁうん、年下の男の子だからノーカン、うん。
彼が自分よりはるかに年上とは知らず。
真っ赤な顔で尋ねてみる。

萌良 さだめ > ……。ど、どっちでも!!! あの…なんで顔赤くなるの…!
(躊躇する彼女に一瞬怯む。
 まさかちゅるちゅるを食べさせつつなにかしてくるということもないだろう。
 そう踏み切って元気よく答えたが、彼女の赤い顔を見ていると自分も顔が厚くなってきた。)

んぁー!
(眼をぎゅっと閉じて口を開ける。 中にちゅるちゅるを突っ込むなり、
 あるいは彼女が口移しをするなり、どちらでもOKという構えである。)

織機 雪兎 > 「だ、だって、僕男の子とキスなんかしたことないし……!!」

女の子ともない。
それはともかくとして、彼は目を瞑って口を開けて待ちの体勢に入ってしまった。
ちょっと迷ったけど、彼に舌を吸われたり口の中を吸われたり感覚をもう一回、と思ってしまう。
結果、封を開けて自分の口に流し込んだ。

「ん、いふ、ぉ……」

そうして少しずつ彼の顔に自分の顔を近付けていく。
あ、やばい、心臓の音めっちゃ聞こえる。

唇が、触れる。

萌良 さだめ > ……ん!
(ちゅるちゅるして!と言わんばかりの態度である。
 それほどまでに、プライドを投げ捨ててしまえるくらいに自分には魅力的なのだ。)

ん…んぅ…んっ♥
(唇が微かに触れた。 小さく声を上げる。 
 そのまま自分からも唇を押し付けるようにして、
 容赦なく相手のお口の中のちゅるちゅるに襲いかかる。)

んむっ、んっふっ、ふっ…♥ んぅー、ぅぅ…♥
(大好きなちゅるちゅるが隠れている場所に対して容赦はなかった。
 唇を重ね、舌を使って彼女の唇をなぞる。
 もし相手の口が開いてしまえば、その途端に口内に舌が入り込むのは確実だ。)