2020/08/21 のログ
アールズアーズアース > 「そんな、神になるなんておこがましいです……!
 ただその、食べる前に。

 【……なりたいものになれるといいね】と。
 
 そう、啓示を仰せつかってます」

それが、ひたすらアールの目指してきた道だ。
だから、ずっとニンゲンらしくしようとしてきた。

それがニンゲンらしくない、と言われてしまうと、流石に根本から否定されてしまってどうしていいのかわからない。

バケモノのままでいたいわけでもなければ、ニンゲンになりたくないわけでもないのだ。

フィーナ > 「だったら、なればいい。目指せばいいじゃない。それがたとえ、砂漠の中から一粒の砂金を探し出すようなことでも。」

「知って、学んで、考えて。試行錯誤を繰り返して。そう、それこそ。『死んだり諦めたりしなければ、道は閉ざされることは無い』のだから。」

そう、だからこそ。
「真似るだけでは足りないのなら、人間になりなさい。そう願い、行動することは、誰にも止められないのだから。」
そう、やりたいことをやるだけだ。それだけの話なのだ。

アールズアーズアース > 「……はい、ニンゲンになりたいです。でもまだ、努力も知識も全然足りなくて」

今はまだ、3時間しかまともに活動できない。
それを越えると、さすがに体力が持たない

肉を切り刻んで工作し、折りたたんで縫い合わせ、無理やりニンゲンの形にしているのだから。
臓器も、髪も服も。
服はその……無理にそうしなければいけないわけでもないのだけれど。
ただ、破れてしまうとその後どうしようもなくなるし、そもそもそれはもう長いこと何十年も買うことも出来なかったので。
それで、肉で作るようになってしまっただけなのだが。

……最初の頃は肉の薄切りは流石にだいぶ痛くて、それだけでも辛かったものだが、今となってはだいぶ慣れたものだ。

フィーナ > 「なら継続することね。ほら、よく大器晩成というじゃない。私の場合ヒトの遺伝子取り込んでいるから楽だけど、貴方はそうじゃないでしょうし。なら、なおさら努力は必要でしょう。」

「継続は力よ。その経験が、糸口になるかもしれないし、ね」

アールズアーズアース > 「そうですね……実際、うまく言えないかもですが、その……自分のままニンゲンになりたいですし」

バケモノの自分は、死んでしまいたく成るほどに嫌いだ。
けど、それでも、ニンゲンを目指したことまで忘れたくはない。

……過去を捨てようとは思わない。

ただ。
それでもこう、バケモノと言われてしまうとツライだけだ。
どうしようもなくバケモノで、いまはまだ、思わず出てしまうものだとしても。

フィーナ > 「うん。だから、『考えなきゃ』。本当に人間になりたいのならね。」
私のモデルがそうであったように。人間は追い求め、考える生き物だ。
自分の為に。
誰かの為に。

理由が何であれ、人間は考えることをやめない。

アールズアーズアース > 「……考える、ですか?」

この場合、考えるとはどういう意味なのだろう。
今まで通りじゃいけないというのは提示されている気がするのだけど。

だからといってどうしていいかはまだわからない。

120年これで来たものをすぐにどうこうできないし、そこまで器用な方でもない。
……そう思う。

「まだ、目も上手く視覚を作れないし、表情も無意識にできるほどじゃないですね……」

しょんぼり。
思い当たるだけでも情けない。

フィーナ > 「そう、その探求。それが一番大事なんだよ」
ずい、と体を近づけて。

「そしてそれをどうにかするために考える。何が必要で、何が足りなくて、何をするべきなのか。そうやって、考えて、考えて、考えて…」

「人間は、自分の望む『なりたいもの』になっていくんだ」

アールズアーズアース > 「……はぅ! ちょ……近いです近いです!?」

珍しくうろたえる。わたわた。

そういう意味なら……それなりには考えてるはずだとは思うのだけど、うん。

フィーナ > 「…どうしたの?」
顔を覗き込む。いつもと違う反応をされて、興味を示す。

アールズアーズアース >  
「その、どうもこうも……ええと。近いので……!!」

人間じゃないとわかっていても、さすがに幼体の様子に近い形で近づかれると、やばいのだ。(やばいのだ)
細かいところでは違っていても、こう猫好きで猫フェチだったとしても、だからといってフェレットの子供がでてきたらキュン死するのだ……。

「その、こう、あまり近寄られると……尊すぎて……体が割れちゃうので……」

フィーナ > 「だったら訓練だとでも思いなさい。そうなると『困る』でしょう?」
さらに、近づく。まるで試すかのように。

アールズアーズアース > 「や、ちょっと、その……まずいですまずいですまずいです……!!」

希ちゃんで、さんざんいじられているのにそのあたりまで思い出してしまって、つらい。
体が震える……。

「無理……
 これ以上
    は まずいです
   ってほんとに……
 
       ああ   
 あ
     胸
        当たっ

 ……て」

言葉の乱れようからして、相当にやばいようだ。

フィーナ > 「あら、何を考えてるのかしら」
ぎゅむ、と。抱きしめてみる。どんな反応が返ってくるだろうか。

完全に興味本位だ。

アールズアーズアース > 「ふにゃ
  あ


   あ    ああ あ

                あああああああああ
            あ 
           ああああ あ
           ああああああ」

服がひび割れ、真っ赤になってうまく思考ができなくなる。
人間じゃないのはわかっていても感触が違うわけでもないのだ。

「とととととけ
     と
     ろけ
  ちゃ
            いま   ず
   とけちゃ いま
         す


     わ      れ ちゃ
 
        いま

          す  
         う 


 う  うう 

   う   う
                 う……」


やあああおかしくなっちゃう……!

……そもそも、好意的に幼体とこんなに身体接触するなど、どうしていいかわからない。
今までがあまりに嫌われたり避けられたりしていたため、好意的な肉体接触の経験は極端に少ない。
それが、神に近い女性の幼体となれば、なおさら。

フィーナ > 「おぉ」
割れたところを眺める。やっぱり相当無茶して形作ってるんだなぁ、と再確認する。

ただ、なんというか。
反応としては、幸せそうで。

悪戯心も合わさって、更に過激に。

抱きついたまま、すりついてみせる。

アールズアーズアース >  
「ふゃああ
 ああああ
    あ
   あ  あ 
            あ

   ああ
    あああ      あ゛ 
   あああああああ ああ  あ あああああ 
      あ あ
      ああ
                あ

        あ
            あ


           あ」

人間の声も上手く作れなくなったのかひどい乱れた声で、へにゃへにゃと崩れ落ちる。
焦点の合わない瞳のまま、足や腕、腹部や口の一部がばっくりと割れ、はーはーと荒い息で。

まともに呼吸もできなくなった様子のまま、半ば昇天したようだ。

フィーナ > 「…あははは。ごめんごめん、大丈夫?」
ひっつくのをやめ、手を差し伸べる。

アールズアーズアース > 「………………
     ………
                    …

                                ……



 ……………………ふ ぇ?」

どうもガチに失神していたらしい。
しばらく虚空をさまよってるようだったが、自分の状態に気がつくと、慌てて自分の体をかき集めるように張り合わせようと取り繕う。

「うあ
     あ………………ぁ


 ひど
  い
 で    す 

  師
  匠~~~~~~~~~~~~!!」

真っ赤になって半泣きのまま、割れて牙の覗いた腹を押さえている。

フィーナ > 「あはは、ほんとごめんって。あんまりにもかわいい反応かえすものだからさ」

手を差し伸べながら。

「でもさ。これにも慣れていかないと。人間を目指す以上、人付き合いは大切じゃない?」

アールズアーズアース > 「ゔ
 ゔ…………」

そのとおりではあるのだけど、も。
真っ赤になって涙目のまま、うぞうぞと動く体がまだ制御できない。

「コレが出
    来るよ

      う    なら

          3時間以上
           こ の姿
              ができる
                ように
 なっ             てるに

        決まって
           るじゃ
           ないですか……ぁ」

へたり込んだまま、足がばっくり割れたせいでうまく立てないようだ

フィーナ > 「…しょうがないなぁ」
魔術を紡ぐ。魔力で紡がれた糸が発生する。

それが、まるでぱっくりと割れた足を縫合するかのように、縫い付けていく。
そして、それが外れないよう、魔力糸が癒着する。

こうすれば、魔術を解除されるか、よっぽどの力で千切らない限りは解けないだろう。

「どう?こうするだけでも楽じゃない?」

アールズアーズアース >  
「……え、
   あ………………?」

そもそも異形の肉の塊に言葉などない。
人間用の魔術など当然わからないし、内臓器官も再現できてない現状でうまく魔力が扱えるはずもない。
バケモノとしての魔術など、元の形を失ったボロボロの状態で上手く使えるはずもない

ゆえに。
こうした魔力というのは、なにか新鮮でもあった。

「……はい、だ
     いぶ」

力を入れなくても変に割れないというのは初めての経験だった。

フィーナ > 「こういう魔術も、極めれば『器官の置換』だって可能なのよ?神経だって、感覚器官でも、消化器官であっても、循環器官でさえ。私の『モデル』が、そうだったから。」
そう。私の元となった者は、1からこれらを作り上げていた。

数多のスライムを産み、育て、それでもなお余りある魔力と、それらを活かせる先天的な魔術の才能があってこそのものなのだろうが。

もちろん、それらを引き継ぐ私も『真似事』なら出来る。

「ただ、維持にはもちろん魔力が必要だから。その縫合だって、必要な魔力自体は微弱だし、必要分は周囲から取り込むように魔術を組み込んでるからよっぽどのことがなければ枯渇はしないけど、なくなれば簡単に解けちゃうからね」

アールズアーズアース >  
「……なかなか
      に
        まよ
         いま
          す ね……」

足の様子を確かめつつ、今までより力を入れなくていいぶん、楽だと思いつつも。
だいぶ感覚が違うことに戸惑っている様子で。

どうしたい、という意味では、自分の肉体でニンゲンになりたい欲求はある。
神経も血液もだいぶ頑張っていると思う。

だが、魔術で作るのも間違いではない。

「……少し
    は
    あった
      ほ
      う
     がいい
  のかもしれません

      ね……」

少なくとも、現状維持が少しは楽になるという意味では。

フィーナ > 「人間だって、足りなくなった部分は他のもので補ったりするものよ。義足然り、義手然り。何も恥じるようなことではないとは思うけど。」

まぁ、それでも決めるのはアールちゃんだ。

「知りたいのなら教える。いらないなら別の方法を模索するだけの話だからね。決めるのはアールちゃんだ」

アールズアーズアース >  
「……現状、
   ニンゲン
    でも
    バ
      ケ
  モ    ノ
    でも
 ない私が
    どれだけ
       どう
       扱えるのかはしりませんが」

正直、こうなってから魔力が上手く扱えると思ったこともない。
こんな【なんだかわからないモノ】を対象にした呪法など、文献にはない。

「バレない程度
   に
   あると楽
      ではあります」

要は。
こうしたばらばらになるのを防ぐくらいの効果があると楽ではある。

なにせ、開腹手術の後に思い切り笑ってはいけない人みたいな状態なのだ、今は。
自分の体を今後も必死に縫い合わせてニンゲンに成るのだとしても。
せめて手術跡が剥がれないくらいの補助はあってもいいとは思う。

フィーナ > 「元々魔力を扱えたのなら出来るはずよ。その完成度については、なんとも言えないけど。で、今の魔力糸は、簡単な話魔力を凝固して糸にする、っていう結構単純なものなのよ。それを撚ったり縫い合わせたりするだけ。まずは魔力を固められるかどうか、かな?まず自分が自由に魔力を使える状態になって、糸を精製して、形を整えて縫い合わせるっていうのもアリだとは思うけど」

どんな方法があるか考えながら、提案していく。

アールズアーズアース >  
「縫う
 なら出来ます
     けども……」

縫うのなら出来る。
ただ、家に帰ったら一度外すのだ。
正直、このまま休めるほどの完成度はない。

「まだ……家で休むとき
        まで
         こ
         の状態を
         維持できない
                 ので」

少し寂しそうに。

フィーナ > 「なら、解けるようにすればいい。その分、強度は落ちるけど。」
そう、簡単な事。
紡いだところを解けば、それで終わりだ。何なら切断してもいい。

「人間になりきる時にもう一度やればいいだけの話だよ。それこそ人間の化粧と同じ」

アールズアーズアース >  
「……な
   るほど!」

だいぶ回復してきたのか、乱れが徐々に少なくなっている。
それと、やはりニンゲンのことというのが大きいようだ。
見るからに食いつきがいい。

フィーナ > 「うん、本人も乗り気だし教えてあげよう…と、いいたいところだけど。流石に良い時間だし、教えるのなら魔導書とかも持ってこないとね」
今ここで教えるのも可能ではあるが、書物などを使ったほうが圧倒的に楽なのだ。

「いつが良いかな?」

アールズアーズアース > 「……余裕があるときのほうがいい
              ですね。
 あまり
      長いと疲れちゃ
         うので……」

そう。
人間らしく思考するのにも、体がいる。

あまりぐちゃぐちゃになってしまうと、一般的な論理思考も難しい。
いつだっていいのだが、実際問題として今度のほうがいいと言えた。

正直、顔も腕も腹部も縫い直してたたまないと帰れないし……。

フィーナ > 「ん、それじゃあまた今度かな」
そう言って、踵を返す。

カリキュラムを考えて置かなければ。

アールズアーズアース >  
「はい……ありがとうございます!
     よろしくおねが
           い
           します!」

礼を言ったのはいいが……ああ、直さないと。
腕なんかすっかり擬態がねじれている。

ゔ~~~~。
鏡を取り出して。

ご案内:「裏路地の一角」からフィーナさんが去りました。
アールズアーズアース > 「……ぁ
   んぅ……!」

ばづん、と、ハサミで肉を切る音がする。

廃ビルの影で肉を切って巻き直し、切りきざんでうまく折りたたむ。
なまじ再生力が強いのもあって、外して放っておくとだんだん合わなくなるのだ。

日課とはいえ、別に痛くなくなるわけじゃない。
つらいのはいつものこと。
それでも、ニンゲンでいられなくなるより、心が軽くなるから。

そうやって顔と腕、腹と服を直して整えると、人知れずその場を去った。

ご案内:「裏路地の一角」からアールズアーズアースさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 夜街近く」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >  
常世渋谷。そこは表と裏の交差点。
昼と夜の交わる所。

うっかり入り込み過ぎると……。


「…興味が無いと言っているだろう。」

渋谷の空もそろそろ夜に喰われるかという頃、
聞き覚えのある声がヨキの耳に届く。

辺りは常夜街が近い。
中央街と完全に境界線が存在するという訳でもなく、
近ければぽつりぽつりと、夜の街の店が点在するようになってくる。
客引きの声もちらほら、ちゃんとしたお店から、違法の店、ブラックなお店まで。

聞き覚えのある男の声と、女性の声。どうやら客引きを断っているようだ。
しばらく押し問答が繰り返されたが…次第に女性に声が大きくなる。

最後にはとうとうヒステリックな声と共に、水音。
それから甘ったるい香りが漂ってくる。

ただの大衆の一場面。
雑踏の一部の、当事者たちの間だけの事件。

ご案内:「常世渋谷 夜街近く」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 普段どおりの街歩き。
のらりくらりと、知らぬ道すら自由気ままに。

そうして、不意に耳に届いた男女の声。

「今のは……」

足を止める。
声のした路地へと、方角を変えて。

見知った相手――柊の後方から、声を掛ける。

「やあ。一体どうしたのだね、羽月?」

羽月 柊 >  
女性の方がにやぁと歪な笑みを浮かべていたのだが、
ヨキの姿を目に留め、表情が戻る。
慌てて手元の小瓶を後ろ手に。


声をかけられたのはヨキの友人、羽月柊であった。

ぽたりと、髪から水滴を落とし振り返る。
そこから香る甘ったるい匂い。
大分広範囲に浴びたらしく、頬に張り付く髪を指で退ける。
今日は小竜の姿も付近には見えず。何らかの理由で連れていないようだった。

「…ん? …あぁ、君か、
 少し通り抜けようとしたら客引きに捕まってしまってな。
 
 丁重に断らせて貰ってたんだが、何分しつこくてな…。」

ヨキ > 濡れた様子の柊に、可笑しげにふっと笑って。

「何だ、随分派手にやられたな。ほれ、これで拭いておけ」

鞄の中からタオル地のハンカチを取り出して、柊に差し出す。
女性が笑んでいたことなど気付く由もなく、にこやかに笑い掛ける。

「……して、断られたのは君か。
済まんな、彼はご覧のとおり初心でならん。
今宵は他の男を当たっておくれ」

羽月 柊 >  
暫く女性は恨めしそうに見ていたが、
ヨキに窘められると、バツが悪そうに、
身体で不機嫌を体現するかのように歩き去っていく。

後ろ手にすっかり空になった小瓶を捨てて。


「初心扱いされると心外なんだが…まぁ、助かった。」

ハンカチを素直に受け取って滴るそれを拭う。
陽が落ちたとはいえ暑さも手伝えばすぐに乾くだろう…とはいえ、
甘ったるい匂いはそう消えないが。

飲み物ともまた違う、香水よりも甘い。
柊本人もううむと困り顔になる程度には。

ヨキ > 女性が立ち去ると、ほっと胸を撫で下ろした。

「なに、ものは言いようという奴だ。
根っから夜遊びに慣れているようにも見えんし。
何にせよ、解放されてよかったな」

小さく鼻を鳴らし、羽月が纏った匂いを物珍しそうに嗅ぐ。
まるで大型犬だ。

「これはこれは……また夏には向かぬ香りだな。
これだけ強いと、むしろ人除けになるやも知らんぞ。
大手を振って歩けそうだ」

羽月 柊 >  
「悪目立ちしてしまいそうだ…。
 セイルとフェリアが居ないからと横着して、
 "あちら側"の道を通らなかった代償がスーツ一着分とはな…。」

はぁ、と溜息を吐く。
ご丁寧に、液体には甘さらしくピンク色が付いているモノだから、
スーツのシャツの部分に染みてしまっていた。

「……しかし、こうも纏わりつくような甘い匂いだと、
 暑さが増す感覚がするな……。」

そう言って眉を顰めた。


……徐々に、息が上がっているのを知らぬまま。


 

ヨキ > 「君の髪に紛れそうな色でよかったのではないか?
髪をこう、肩の前に垂らしてだな……」

シャツに染みた色味をどうにか誤魔化せやしないものかと、真面目に考え込む。

「運が悪かったと思って、着替えでも買いに行くか。
今ならまだ、そこいらの服屋でも開いておろう。

君は今日は、何をしにここまで出てきたのだね?」

苦い顔の柊を労うよう、軽い調子で笑う。
彼の異変に気付く様子はなく、気侭に会話を続けている。

羽月 柊 >  
「今日は…まぁ、あちら側の用事でな…。」

そう言って視線で行先を指し示す。
常世街は歓楽街に繋がり、そして落第街へ繋がる。
この道を通れば比較的そこが近い。

視線を戻す。はぁと熱の籠る息。

ええいなんだ、さっきから暑い。


「冬場は良いんだが、この時期に髪を前にやるのは、な…。」

手首で顎を拭うようにするのだが、
汗というよりは、顔そのものが熱い。

ヨキ > 「はは、そうだったか。
“連れ”が居れば、もう少しましだったろうにな」

柊の小竜たちを、人間と変わらぬ呼称で連れと呼ぶ。
どこか手近に似たような衣服でも買える店はないものかと視線を巡らせながら――

そこでようやく、柊の異状に気が付いた。

「羽月?」

口を引き結ぶ。
蒸すとは言え、炎天下の時間帯はとうに過ぎた。
目を細めて、様子を窺う。

「……どうした?」

羽月 柊 >  
「そう、だな………。」

心臓の鼓動が聞こえる。

雑踏の音は間違いなく近くにあるのに、
胸を揺らさんばかりに、頭の中で早鐘を打つ。


「……いや、さっきから、暑い……と、いうか…。
 君は、暑く、ないか……?」


熱帯夜なのは確かだ。
しかしこれはどうにも、別のナニカ。
燻るような熱が、じわりじわりと身体に宿り、食まれる感覚。
経験したことがない困惑。

中身が空になった小瓶は、誰かに蹴られて転がる。
カランカランと音を立てた。

ヨキ > 柊の様子を注視しながら、訝しげに首を傾ぐ。

「暑い?
確かに暑いとは思うが……恐らく、君ほどではないぞ。
未だ体調が戻りきっておらんのではないか?」

つい先日倒れて入院したという彼のこと、不思議はない。

そこで、彼の胸元に染みた液体の色か、転げた小瓶の音か。
ふとした拍子に、思い至る。

「…………。
君が先ほど浴びせかけられた“アレ”の仕業か?
よもや毒ではあるまいな。
早いところどこかで洗い流すか、着替えるかした方がよさそうだ」

手洗いでも借りられそうな店舗を捜して、路地の左右を見遣る。

羽月 柊 >  
「熱の……頭が重い、感覚とは、また、違う……。」

ふ、ふ、と短い呼吸を続ける。
歯を食いしばっていないとまともな思考が崩れそうだ。

眼を細めれば視界が滲む。
瞬きをすれば、僅かにまつ毛が濡れる。桃眼が揺れる。

「ど、く…? あぁ、ッこんな、浅い、所で……。」

油断大敵とはまさにこのことで、自分の気の緩みを恨んだ。
だが確かに今までの変化を考えれば、原因はかけられた小瓶の中身と考えるのが無難だ。

ぼやける思考の中、震えた手で手提げ鞄から何かを出そうとする。
僅かに動くことすら熱が加速する感覚がする。
膝が、笑う。

ヨキ > 徐々に調子を掻き乱す柊を、歯痒い顔で見守る。

「おい、大丈夫か?
救急車を手配する手もあるが……。
どこかで少し、休んだ方がいいのではないか?」

柊が不安定そうに漁る鞄を、傍らから軽く支える。

もう片方の手で、スマートフォンを取り出す。
これで、いつでも病院に連絡は取れる。

羽月 柊 >  
「休む……場所を、……つく、ンッ」

ヨキに触れられると、びくと肩が跳ねた。
思わず相手を掴みたくなる。それを必死に足で押し込めるようにして、
無意識に近いまま、指すら熱い中、鞄から目的のモノを引っ張り出してくる。

小さな鍵にねじ巻きの付いた小箱のストラップ。

震える手でそれのねじを巻くと、
箱から燐光の羽根が生え、ぱたぱたとヨキと柊の周りを旋回し、
招くように一つの路地との間を行き来する。

柊はといえば、ゆるゆるとそれを指差している。

ヨキ > 「休む場所を? ……判った」

こくりと頷いて、スマートフォンを仕舞い込む。

柊の手元から舞い上がった小箱を見上げ、それが飛ぶ先を見遣る。
彼が指を差しているのを横目に、あれだな、と念を押す。

「もう少し歩けるか、羽月?
捕まってくれて構わない。肩を貸そう」

言うなり、柊の背中に腕を回す。
相手の二の腕を軽く掴んで支えるようにしながら、箱の行き先に向かおうとする。

羽月 柊 >  
「……ッすま、ない…、ヨキ…。」

他人の触れる面積が増えると、
それだけで頭の霞みがかった部分が大きくなる。
頭を振り、力なく相手に掴まると、完全に笑っている膝を叱咤して歩き出す。

鍵に導かれるまま路地に入り、ネオンから遠ざかる。
路地のつきあたりまでたどり着くと、
店の裏口のような扉の鍵穴へと吸い込まれるように鍵が入り込み、
カチャリと鍵の外れる音がした。


「……つな、がって、る………。」

歩いている間にも熱い呼吸が止むことは無い。

その扉を開けるなら、建物の内部ではなく、
どこかの家のワンルームと思わしき光景が広がっていた。

ソファとベッド、簡素な家具。
一通り生活できそうな場所。
遠くに見える窓の外の光景は……落第街の一部だ。

ヨキ > 「気にするな」

短く応え、柊の歩調に合わせて歩く。

時間を掛けて、路地の最奥へ。
繋がっている、という彼の言葉に促されるまま、扉を開く――

「――おお」

目の前に広がる光景に感心して、声を漏らす。

「そうか。別の建物か。
これは何とも……便利なものだ」

相手の様子を重く見て、ベッドへ腰掛けさせようと導く。

「気をしっかり持て、羽月。
熱っぽいことの他に、異状はないか? どこか痛むとか、苦しいとか」

羽月 柊 >  
ヨキと柊が部屋に入れば、後ろで勝手に鍵が閉まる音がした。
振り向けば普通の内鍵で出ようと思えばいつでも出れるだろう。

部屋を進めば、照明がぱっとついて。
明かりに照らされれば、頬を上気させた柊がよく分かる。

ベッドまで導かれる。
休まなければと思う思考とは裏腹に、
己の手は、ヨキの七分丈の袖を掴んだまま。
痛みや苦しみは無いかという問いに、緩慢に頭を横に振る。

「痛く、ッは……熱く、て……、
 おか、……しく、なりそう………ッだ…。」

いつだって思考を続けているはずの自分の頭が、全くままならない。
口を開いていれば何かとんでもないことを言ってしまいそうだ。
歯を食いしばっていたいのに、カチリ、カチリ、と震えて音が鳴る。

ヨキ > 見るからに尋常でない柊の様子に、思わず唇を噛む。

「全く、あの娘と来たら。
一体何をしてくれたというのだ……。
少し待っておれ、水でも飲んだ方がいい。……」

掴まれたままの袖口を見下ろす。

「…………、」

どこか困ったような顔で跪いて、柊の顔を覗き込む。

「羽月、とりあえず上着を脱いで、衿元を楽にしろ。
その間に、ヨキは水を淹れてくるから……、な?」

尋ねる声は小さく、囁くように。
今の柊は、恐らく気が動転していると踏んでのこと。

羽月 柊 >  
離したい、離したいのだ。
手を離したいと、自分だってヨキの提案を飲みたい。

ただ、身体が言う事を聞いてくれないのだ。

訳も分からず布越しに感じる相手の体温が、手だけだと言うのに、
堪らなく"悦い"と頭に焼き付けられて、弱めるどころか、縋ってしまう。

「は……ぁッ……、……ッ…。」

視界が揺れる、熱で瞳が潤む。

友人に、何をしているんだと頭のどこかで警鐘が鳴り続けている。
けれど熱がそれを全て塗りつぶしていく。

ヨキ > 「な、……」

掴まれて、思わず手元に目を落とす。

「羽月……」

名を呼ぶ声に、困惑が交じる。
けれど、その手を無理に引き剥がすことはしなかった。

「大丈夫だ。ヨキはここに居るから。
居なくなったりせんよ。

……何か、ヨキに出来ることはあるか?」

言葉の限りを尽くして、語り掛ける。
朦朧とする柊を、繋ぎ止めようとするかのように。

空いている手のひらで、己を掴む羽月の手の甲を、優しく叩く。

羽月 柊 >  
「ッ~~……ァ、はぁ……っ、よ、きぃ……ッ」

困惑の声と手を叩かれ、びくりと身体を震わせる。
今は他人からの接触が酷く熱を煽る。

――なんなんだ、どうにかしてくれ、この熱を。

――見ないでくれ、こんな友人の俺を。

これ以上醜態を晒したくないというのに、
口から出る音は、浴びせられた液体のように甘ったるい。

自分でもその音に驚くように呼吸を飲み込む。
問われれば更に縋ってしまいそうになるのを必死に首を横に振る。
けれども手が離せない。身体が他人を求める。
熱が身体の中で暴れている。腰の奥が特に熱い。

ヨキ > 耳を擽る甘い声に、目を白黒させる。
薄く開いた唇が、何かを言おうとして、けれど言葉にならなかった。

まるで睦言めいた響きに、目を伏せて、床を見て、反対側の壁を見て、柊へ目を戻す。

「…………。羽月」

そっと、囁き掛ける。

「情けない話だが、ヨキは君が何を欲しているかが判らぬ。
ヨキが出来ることなら、何でもしてやるから。
安心しろ。大概のことで、ヨキは怒りはせん。何でも言ってみろ」

腕を掴まれたまま、よいせ、と立ち上がる。
そのまま、彼のすぐ隣に腰を下ろす。

羽月 柊 >  
最早なけなしの意地で、男の自分が友人に、相手の性別すら無視して縋るなど、と
カチカチと噛み合わない歯を食いしばるのだが、
身動ぎで身体に這う服の摩擦すら、背筋を這いあがる。

「すま、……なぃ……ッ……。」

最早謝罪の言葉が何の意味を成すというのか。
自分でも意味すら分からず何度かすまないと繰り返す。
相手の名前を繰り返す。まるで譫言のように。

座ってもヨキの方が座高が高い。
すぐ隣に他人が来れば、理性の最後の糸を刃が斬りに来る。


「――   、  、  ……。」
「   、    、  、  ……。」


間違っている、こんなことは。

ヨキ > 傍らの声に、耳を澄ます。
囁かれたその言葉に、目を伏せて、長く長く息を吐く。

「…………、判った」

瞼を開いて、隣の柊を見遣る。

「言葉を変えよう」

辛うじて空いている、柊の片手を取る。
その腕を導いて己の肩口へ回し、自ずから相手の腕の中へ潜り込む。

「“好きにしてみろよ”」

互いの顔しか目に入らないような距離で、そう囁く。

「初心ではないのだろ?」

小さく笑う。泰然と。
柊を包む甘い香に、ヨキの肌の匂いと、香水の淡い匂いとが交じり合う。
柊の腕の中で、長い指が相手の太腿を這い上ってゆく。
彼の中に残った最後の理性を、優しく穏やかに、解きほぐすかのように。