2022/01/28 のログ
ダスクスレイ >  
音が。
響いた。

身を翻して近くの鉄骨に足場を求める。

「なんだ………」

一体、あいつに何の変化が起きた。

「なんなんだッ!!」

あの蒼白い刃は何だッ!! 何故、あの腕がまだ動かせる!!
……! 飛ぶ斬撃が来るッ!!

咄嗟に迎撃のために横薙ぎ一閃にこちらも飛ぶ斬撃を合わせる。
斬空閃。
だが。

「………あ…?」

相殺、したはずだ。
なのに……何故…

「あぐあああああああああぁ!?」

金属に覆われていない左手の指がッ!! 欠けている!!

「バ、バカな………」
「私は……ダスクスレイだぞッ!!」

飛びかかる。
最速八連撃。
奥義、八連流星。

相手に何が起きようが!! これで終いだ!!

芥子風 菖蒲 >  
「……なんとなくわかる」

全身が痛くて今にも倒れそうだけど
普段と変わらず体を動かす感覚。
ちょっとコースケ先輩とやった"ゲーム"と似てる。
登場するキャラクターを自分に見立てて意識のままに動かす。
肉体の命令するよりもより直感的に、素早く動く。
今迄が重い鎖を付けられていたような感覚だ。

「────ダスクスレイなら、尚の事」

飛び掛かるダスクスレイを見上げ、目を見開く。

「アンタはここで、"捕まる"」

それが悪党の最期だ。
背後の鉄骨に伸びる光がまるで尻尾のように鉄骨を掴み
ダスクスレイの放つ斬撃目掛けてぶん投げる。
手が何本か増えた感覚だ。いける。
多分こうやって、『物を強化』し『操る』のがこの異能の本質だ。

鉄塔で八連撃を相殺し、残った分は
その八連撃の合間を体が強引に"抜ける"。
頭部が斬られ、足先が斬り飛び、血と痛みに塗れても

"この体はまだ動く"。

「……一人じゃない」

母さんもいる。
舞子だって、コースケ先輩も、真夜先輩も。
それだけじゃない、多くの"皆"がいてもいいって言ってくれた。
そこに帰る為に、護る為に、"この程度の怪我がなんだ"。

「ふぅ……!」

全身から伸びる青空の糸が、黒衣の裏の暗器。
数十本の円錐剣先を操り、四方八方ダスクスレイに襲い掛かる!


だが、此れもブラフ。
本命は動く片手から飛び出した、三つの球体がついた掌トライアングル。
それを円錐剣先の隙間を縫うように投げた。
触れれば球体が広がり、強烈な電流で動きを封じるコースケ先輩お手製電磁ネット。
幾らダスクスレイでも、物体が無ければ斬れないと踏んでの代物だが、どうだ……?

ダスクスレイ >  
「終わる……ものか…」

「私は!! 僕はッ!!」

「誰にだって負けたくはないんだ!!」

八連流星を凌がれた、相手は次に何が来るッ!!
虚空よ……!!
今以上に力を!!
今以上に技術を!!
今以上に!! もっと!! もっと!!

「うおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」

円錐剣先を切り払う、切り払う、切り払う!!
勝機はある!!
この先に必ずある!!

直後。芥子風菖蒲が投げたのは。
なんだ。

「う、うう……!?」

咄嗟に切り払おうとした切っ先が。
光を通り抜ける。
電磁ネットか。動けない………か、体が……

「そんな……僕が……………」

芥子風 菖蒲 >  
如何やら効果てきめんだったようだ。
流石の魔剣も、実態が無いものは斬れないらしい。
鉄塔に虚しく落ちていく鉄くずの数々。
暗器らしい暗器はもうワイヤー位だ。
手元に残ったのは、ボロボロの体と折れた刀のみ。

「…………」

お互い多分、このまま時間が過ぎれば死ぬだろう。
そう言う確信がある程の傷だ。本当なら自分が動けない。
それでも、"まだ"……。

「……負けなくたって、それからどうするの?」

闇雲に力を誇示するだけの誇示して敵を作る。
非日常と言う仮初に傷痕だけを残した所で
目を付けられるのは敵意だけだと言うのに、それこそ虚しいじゃないか。
ああ、でも。そうか。なんとなくわかる。

「別に、戦うだけが全部じゃないよ。
 オレも最初はそうだと思ってたけど、違うってさ」

日常の"外側"にいるのが役割だと思っていた。
その"外側"から皆を護るのが役割だと思っていた。
そうしなきゃいけないって思ってたけど、意外とそうじゃなかったようだ。
皆はもっと暖かく、受け入れてくれる。そう、"日常"は案外捨てたものじゃない。

それを教えてくれた皆がいる。
きっと、コイツには"それがなかった"んだ。
"魔剣(ソレ)"しかなかったんだ。自分を表現する方法が。

「……今ならまだ間に合う。それを捨てるなら」

戻るのにタイミングなんて関係ない。
もうその"仮面"は捨てるべきだと、少年はまだ誰かを"許す"。
青空の双眸が真っ直ぐ、仮面の奥を見据えていた。
気持ちだって、世界に、誰かに、ぶつけなきゃ伝わるはずないんだって。

ダスクスレイ >  
は。ははは。
捨てろと。
虚空を。仮面を。偽ってきた全てを。

これで終わらせようと。
目の前の少年はまだ許そうとしている。

戦うだけが全部じゃない。
だが……戦わなければ私は…僕は特別じゃいられなかった。

「………らない」

ポツリ、と呟いた言葉は風に流されずに相手に届いただろうか。

「終わらない………」
「人間を捨ててでもッ!!」

「僕はお前に勝つんだああああああああああああぁぁぁぁ!!!」

魔剣同調。さらなる力を。さらなる深化を。
虚空から金属がバキバキと音を立てて体を這い上がっていく。
全身を覆い、仮面を弾き飛ばして顔まで包み込む。

体はさらに肥大化し、全長にして2メートルの金属生命体のような姿になる。
電磁ネットを振り切り、仮面が転がっている場所の近くにある発生装置を踏み潰す。

「あ………?」

な、なんだ。体の感覚がおかしい。
今までは腕が金属に包まれているだけだったのに。
僕の体は今……どこにある?

「虚空ッ!! どうして僕を喰らいつくしたッ!?」

歪んだ声が周囲の金属に反響する。
喉の乾きを感じない!!
食欲も性欲も睡眠欲もカケラも感じ取れない!!

ああ、どういうことだ。
僕は……生き物を殺すだけの化け物に成り果ててしまった。

違うんだ。
人間を捨てるって言ったのはこういうことじゃない。
こういうことじゃ………

「あぐあ!!」

腕を振り上げた。虚空が動かしているのか!?
だ、だが……腕はその方向には曲がらないんだ!!

痛みはない、違和感が。不快感が。
僕の精神を灼いていく。

「や、やめ………助け…」

剛剣を振り下ろす。世界すら斬りかねないただの袈裟斬りが芥子風菖蒲を襲う。

 
「殺じでぐれえええええええええええええええええ!!!!」

もう嫌だ!! こんなこと耐えられない!! 誰か、誰か!!
僕を殺してくれ!!

芥子風 菖蒲 >  
「!……お前……!」

結局ダスクスレイは……男は仮面を脱ぎ捨てれなかった。
魔剣を、仮面を脱げなかった斬奪怪盗の末路は
その力に飲まれた"バケモノ"に成り果てる事。
飽く迄意地を張り続けた姿に少年は哀れみすら覚えた。
だが、あれは恐らく自分の"可能性"だ。
自分も何時までも"外側"にいたら、ああなり果てていた可能性がある。

「──────まだ」

"それでも"、まだだ。
強大なバケモノが、絶望が研ぎ澄まされても少年は諦めない。
刹那、青空が揺らぐ。赤く、紅く、血のように昏い夕暮れの紅。
生者が恐怖する隣人の具現化だ。

「ダスクスレイ────ッ!!」

振り下ろす破滅の剛剣。
構わず立ち向かう少年が両手を伸ばし、剛剣を"受け止める"。
そう、決して素手で受け止めた訳じゃない。
その両手に握られるのは巨大な両刃。
昏く、黒く、紅の夕暮れに包まれた死神の大鋏。
あらゆる"縁"を断ち切る大鋏がギリギリと刃を滑り……


その腕を、捉える。


『汝、虚の使徒と成り果てん。我が救いを受けよ』

「……黙れよ……ッ!!」

死神の囁きを一蹴するように吐き捨てた。
ギリギリと刃が食い込んでいく。
縁を断ち切る刃を使い、少年はその魔剣と男の"縁"を断ち切ろうとしている。
しかし、此れは元来触れえざるもの。
強靭な精神を以てしても、死神の意識は、刃は"命"に迫る。

「おい……手を、伸ばせ……!!」



生きたい/死にたいのであれば。



少年の必死の懇願を最後に、両刃は腕"断ち切った"──────────。

ダスクスレイ >  
剣戟が拮抗する。
死神の大鋏。あれは……

「あああああ、あああああぁぁ……!!」

必死に存在しない手を伸ばす。
助かりたい。助かりたい。助かりたい。
地下補習でもいい、死ぬまで光を見れなくてもいい。

生きていたい。

僕が人間だった頃、虚空を持っていた部分が断たれた瞬間。

僕が握った手は。

死神の………

 
 
 
1月27日。
連続強盗殺人犯、ダスクスレイが美術館に展示されている宝石『夜明けの星』を狙って盗みに入り。
風紀委員がこれを撃退。
とある委員が何らかの経緯を経て閃刀『虚空』に侵食されて怪物と化したダスクスレイをやむを得ず斬殺。

残された虚空の鞘に付着した指紋と。
餓死した子供のような枯れ果てた死体のDNAから
ダスクスレイの正体が常世学年の2年生、佐藤四季人であることが判明した。

二週間後。
佐藤四季人の家族は引っ越しを余儀なくされた。
彼の妹も転校し、佐藤一家は名前を変えたようだ。

閃刀『虚空』はS級封印武器として風紀委員本庁で保管されることとなった。
世間は騒動を歩くような速さで通り過ぎ。
 

忘れていった。

芥子風 菖蒲 >  
──────あれから少し時間が経った。

あれだけのことが起きたんだ。
結局この間に短期間で病院送り三度目だ。
流石にこの光景も見慣れたが、少年の心は釈然としない。

「…………」

犯人を殺害してしまうのは珍しい事じゃない。
今回のように、致し方なく殺害に踏み入ってしまったケース。
強大な力に呑まれ、それを止める為の急ごしらえの力を振るった結果だ。
どんなに強く想っても、中々そう現実ってさ。
望んだ凄い自分じゃない、まだまだ弱い自分だった。

「……なんだかなぁ」

今回の犯人を止めた功績で色々褒められたり
なんだったりあったけど、なんだかどれも虚しかった。
けど、これを忘れちゃいけないことだけはわかる。

自分くらいが覚えていなくちゃ、アイツの事が可哀想だ。

「佐藤 四季人……」

そう言う名前だったんだ。
だから忘れないようにしておかないと。


存在の証明の為に。


今は静かに、目を閉じた。

ご案内:「常世第三電波塔」からダスクスレイさんが去りました。
ご案内:「常世第三電波塔」から芥子風 菖蒲さんが去りました。