2022/11/17 のログ
ご案内:「血まみれの廃屋」に少年さんが現れました。
■少年 > 「――――」
浅い意識が浮上する。
目に映るのは、また、屍の山。
生き残っているのは……自分一人。
「………」
記憶がない。
だが、何があったのかは想像に難くなかった。
「………また、やったのか」
傍らに落ちている、血糊がべっとりと付着したままの刀をぼうっと見る。
手元には、それが収まっていた筈の、自らの鞘。
手にはまだ、その鉄の塊を握っていた時の感触が残っていた。
■少年 >
落第街の奥底にあるこの廃屋に散らばる死体の山々の身元は分からない。
浮浪者か、違法部活の者たちか……どちらにせよ変わりはない。
彼らに殺される謂われはなく、殺すだけの理由は自分には無かった。
ただ、衝動。
発作的なそれが自分の中で渦巻き、そして癇癪のように骸へと変えていったのだ、と。
何度も繰り返してしまったそれに、今はもう衝撃を受ける事もなく……
「……、……」
ただ、嫌悪と。
自らに対する侮蔑だけが、腹の奥底にこみ上げていく。
■少年 >
「………」
刀を手に取る。鞘に納める。
いくら自分が愚かしく度し難い存在であっても、自死は許されない。
「……ごめんなさい」
骸を漁る。
そして僅かばかりの、数日を食つなぐだけの金品を骸の中から回収してゆく。
死者を嬲る趣味はないが、ここにある死体はいずれ別の誰かにみぐるみを剥がされるなりされるだろう。
だから、金品を僅かばかり掠め取る事に、さして罪悪感は無かった。
「…本当に、鬼だ、な」
噂として流布され、”鬼”と呼ばれるようになっていた自分の身を思い出す。
悪鬼、羅刹。
そんな上等なものではない。
屍を貪るそれは……単なる餓鬼畜生でしかない。
■少年 > 何故意識が突然途切れるのか。
その後喰らい散らかすかのような死体の山の中でばかり目が覚めるのか。
理由は、自分でもよくは分からない。
ただ、衝動の残滓が。
己の中の鬼の残り香が。
それが”死”そのものを求めていて。
「……………」
■鬼の声 > ” 奪え、奪えと。
鬼は唱え続ける。
生かすもの在るならば、奪うものとなれと。
生の権利の簒奪者となりて、堕ちた尊きものを復権せしめんがために”
■少年 > 「ぅぷ―――――」
吐き気がこみ上げる。
死体の汚臭や、嫌悪感からではない。
自分の中の得体のしれない”それ”が、だんだんと自分を侵蝕していく感覚に。
どす黒い廃油のような何かに侵され続けるような感覚に。
きっと自分は、いつか自分の周りにいる者まで、この衝動のままに殺してしまう時が来るのではないだろうかと――――
その一線に怯え続けて、この穴底で逃げ続ける他、成す術はないのだ。
「………っ、は…、……は……っ」
縄できつく、刀を縛り上げる。
今度こそこれを、自分の鬼が抜かぬようにと。
そして杖のようにそれをつきながら……その場を、後にしようとした。
ご案内:「血まみれの廃屋」から少年さんが去りました。
ご案内:「血まみれの廃屋」に言吹 未生さんが現れました。
ご案内:「血まみれの廃屋」に少年さんが現れました。
■言吹 未生 > 静寂と臓物臭を閉じ込めたような、朽ちた密室。
その堕地獄の埒を開けるかのように、天窓が出し抜けに砕け散った。
さざめく硝子の雨に紛れ、夜よりなお濃い影が降下する。
「《そ こ を 動 く な》――」
勅諚の如き重圧を具えた声と、振りかぶった警棒とを供として。
目指す先は、縄目刀をよすがに離れようとする少年の頭頂へと――。
■少年 > 「―――――――ッ」
突然の襲撃。本能か、慣れか、咄嗟に音の方を振り返り鞘に収まった刀を構え……
ようとした途端、聞こえる声。
それにかぶせるかのような打撃を前にして――――
「な―――」
反応が遅れた、否…”動けなくなった”
瞬間に感じる頭部への衝撃、脳の揺れと、視界のブレ。
勢いの乗った打撃に体制を崩し、瓦礫の方へと少年は転がってゆき……そして周囲にあった木材を崩しながら地面に倒れこむ。
「っ、く、……ぁ……っ」
何故襲われたか、と考えるのはお門違いだろう。
それよりも先に頭に廻ったのは、”何が、起きた”か。
しかしそれを考える思考も、頭に入ったダメージで上手くまとまりはせず……
火花が散るような頭の痛みと出血を伴いながら、襲撃者の方を見た。
「ッ……誰、ですか……」
■言吹 未生 > 「――誰何の余裕があるのかね。単なる狂剣とも思ったが」
崩れた木材の合間からの視線と声を、死人めいた白皙が無味乾燥にねめつける。
「――ただの【巡査(オフィサー)】さ」
名乗るのは、技官(オフィサー)の掛詞からなる冗句めいた名称。
硝子片を踏み砕きつつ、一歩、二歩と少年の方へ歩み寄る。
警棒の先を突きつけるように携えて。
「…話せるようだし、こちらからも聞いておこうか」
先刻の干渉から掬い上げたひとひらの記憶――と呼ぶも覚束ない、思考の欠片。
渦を巻く衝動。謝罪の言葉。死に垂涎する凶つ気――。
「何故、殺した?」
一つ眼で、ひたと正面から射竦めながらの詰問。
■少年 > 「……、……」
不意を完全に突かれ、自分は頭を負傷、体制を崩して相手に武器を突き付けられている。
完全に”詰み”の状況である。ここから脱する事が出来るのは、よほど実力に差が無ければ不可能であろう。
「(…女の子)」
こんな場所で、などと思う事はない。
学園都市では、高い実力を持つ年若い女性も少なくはないからだ。
武器の先端から感じる、強い死の気配は……返答の内容如何によって自らの命をそのまま絶たれかねぬ事を物語っていた。
「……、……わかりません」
だとしても、その返答に対し上等な返しが出来る程の理由も。
この場を切り抜けるだけの弁舌の腕を持つ訳でも、ない。
故に、口から出るのは単純明快な一つの言葉だったろう。
分からない。
そうとしか言いようがないのだ。
何故自分が他者を無作為に殺してしまうようになったのか、それを堪えがたいのか……
意識が途切れる理由も何もかも、自らには”分からない”と答える他なかった。