2020/07/20 のログ
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)2」に■■■■■さんが現れました。
■■■■■ > ここはスラムにある廃倉庫。
荒廃した敷地の中にポツンと佇む様は、それだけで退廃的な様相を呈している。
その内部では違反組織…には満たないものの、半グレと化した若者達が屯し、その根城を為していた。

昨今、このスラムに蔓延りつつある"乳白色の結晶状麻薬"。
出どころはまだはっきりとは分かっていないものの、あるツテでこれを手に入れた彼らは、
試しに周辺で売りさばくと、たちまち潤沢な資金を得ることができた。
味を占めた彼らは、この麻薬を資金源に大きく飛躍しようと企んでいたのだ。

時刻は深夜。こんな場所は人っ子一人現れるどころか、野犬でさえ近づかない。
倉庫内に持ち込まれた崩れたソファやドラム缶を椅子代わりに、彼らは今後の販売計画を話し合っていた。
今日も変わらない一日が過ぎる…そう、彼らは思っていた。

■■■■■ > ―――ガシャアアン、と、金属が激しく軋み凹む音が辺りへ木霊した。

何かが倉庫入口のシャッターにぶつかったのだと理解した彼らは、一斉にそちらへと顔を向ける。
ある者は銃器を、ある者は鈍器を片手に、恐る恐る…音のした方向へと近寄ると、
入口のシャッタースラットには、自分たちの腰ほどの高さで歪な凸が出来ており、何かが貫いていることに気づいた。

「なんだぁ?ありゃァ……」

男が声を上げる。
シャッタースラットを貫いているそれは、十本の刺の様なものだった。
横に並んで、五本ずつ。それが上下に重なって、計十本。
…よく見れば、籠手か何かをはめた、まるで人のそれであることに気づけただろうが。

気づいたときには、手遅れだった。

■■■■■ > ギ、ギ、ギギリリイイイイ!!……――――

みしみし、めきめき。金属が歪み、折りたたまれ、割れる音。
その重なった手が、まるでスプレッダーの如く上下へ離れるように動いて、シャッタースラットを容易く引き裂いている。
こうして歪なひし形状の穴ができるまで、ほんの十秒もかからなかった。

■■■■■ > シャッターを引き裂く様な何かがそこにいるのに、男たちは生唾を飲んで見ることしかできなかった。
それは恐怖からか、あるいは約束された明るい未来への執着からか、一目散に逃げだすという選択が取れなかった。
それとも彼らは、麻薬を売りさばいたあぶく銭でそろえた武器で、撃退しようと考えていたのかもしれない。

彼らの心が揺れ動く中で、歪んだひし形の穴から、それはぬるりと倉庫の中へと侵入する。

「な、…んだああ!!!オメエはよお!!!」

一人の男が吼えた。
強がりからか、恐怖からか、あるいはその得体のしれなさからか。
現れたそれは、彼らの想像しえないものだった。

■■■■■ > その全身は、艶を消した黒の甲冑に覆われ、隙間などから見える着衣の部分も黒いもので統一された、180cmはあろうかという姿。
奴の背後にはためくマント状のものでさえも、くすんだ黒色で統一する執着っぷりだった。
双眸に当たる箇所でさえも覆われており、こちらからは眼を含む生身を視認することは適わなかった。

入ってきた穴を背後に立つそれは、首を僅か左右に動かして、倉庫内にて様子を窺う男たちの姿を眺めているようだった。

「「我々は、復讐者である。」」

それが、一人の男がした質問に答えると、声が二重に響いた。
言葉に抑揚があまりなく、その声色は男性と女性の声を重ねたような歪なものだった。
これだけでは、性別は判断できようがない。
それは、更に言葉を続け、一歩、二歩とこちらに歩いてくる。

「「諸君らの悪辣に曝され、貶められ、嬲られた者達の怨嗟である。」」

間違いない、こいつは敵だ―――
非異能者の集まりだった彼らでも、不思議と意識を一致させられた。

■■■■■ > 「「故に、諸君らに投降を求め――――」」

歩いてくるそれの動きが、言葉と共に止まった。
同時に、火薬の爆ぜる音と、遅れて薬莢が地面に転がり落ちる音が続く。

男たちの一人が、引き金を引いたのだ。

だが、それは立ち止まるだけで、それ以上の反応はなかった。
残ったのは、その頑強そうな甲冑に非常に強い力で押し付け潰されたような形をした銃弾が、
重力に従って落ちる光景だけだった。

「「攻撃の意思、ありと見なす。
 諸君らはこれより暴徒と見做し、我々はその鎮圧活動へと運用を切り替える。」」

先の声色と何も変わらない調子で、それは言い放った。

■■■■■ > 「な……舐めんじゃねえ!!」

引き金を引いた男が、何度も、撃鉄を起こしては引き金を引く。
その度に炸裂する銃声が辺りに響くものの、それは歩みを止めなかった。
それどころか、その銃声の元へと近づいてきて…

「「今回の運用では殺害は認めず、あくまで必要最低限の武装解除に務めよとの命令だ。」」

その銃口を、掌で覆う様に籠手で握りつけた。

「…ひっ、…ひいいいいいい!!!」

持っていた獲物を掴まれ、男は狂乱する。
何度も、何度も、先のように撃鉄を起こし、引き金を引いて…
その度に激しい炸裂音が辺りに響き、銃口付近から溢れる硝煙がその籠手の隙間からにじみ出た。

だが、それは至って冷静に、その足掻きを眺めていられる余裕があった。
そして…

■■■■■ > メキ、メキッ、ミシ、パキ……―――

籠手が、その拳がゆっくりと握り込むように動くと、
その銃口は、まるで悲鳴を上げるように音を立てながらひしゃげ、形を保てなくなっていく。
掴まれた銃器は、あっという間に使い物にならなくなった。

「―――ぐ、あぁあっっ…!?」

目の前で起こることが信じられないと、銃器を離せなかった男の顔が、それの掌で覆われる。
銃器を容易く握り潰す力を持つだろうそれが、同じようにその頭蓋を掴んだのだ。

「や……やめッ、あ、あ゙ぎゃあぁあああっ!!!ぎいいいぃぃいいいっっ!!!!」

ぎり、ぎり、ぎりと、硬いものにひびが入るかのような、生々しく不快な音が響く。
その痛みを表すように、頭を掴まれた男は持っていた銃を離すと、両手両足を激しくばたつかせた。
やがて…男の身体はゆっくりと、地面から離れていく。

■■■■■ > 「「銃器による損傷はごくごく軽微…想定内の結果といえる。
 本気で相対せないのが口惜しいが、これも諸君らの反撃あってこそ取得できたデータだな。」」

腕をゆっくり上げていくと、まるでクレーンで吊るすように、男の身体は徐々に宙へと浮いていく。
そうすると反撃を試みようとして、その籠手を掴んだり装甲を蹴ったりとのたうち回っていた手足が、
どこにも接地していないことを不安に感じたか、まるで逃げ場所を求める様にばたつき始めて。

―――バチン、と、突然何かを叩くような音がした。

その瞬間、宙づりにされてあれほど暴れまわっていた男の肢体が、がくん…としな垂れた。
まるで、糸の切れた操り人形のように。

■■■■■ > 「……ぉ…おい、………ウソだろ…」

男たちは、恐怖のあまり黙って見ていることしかできなかった。
逃げ出すこともせず、機を見て襲い掛かることもせず、そこで繰り広げられた一方的な蹂躙に、
ただただ視線が釘付けになっていた。

まずは、握り込んでいた銃器を解放する。
ぱらぱらと捩じ切られるように歪んだ金属片が、掌からと地に落ちた。
そしてもう片手、その掌から男が解放される。
掴んでいたそれを離すようにすれば、どしゃりと地面に崩れ落ちた。
ただ、その男はもう、ぴくりとも動いてはいなかった。

一人の男が武装解除できたと知るや、それは次の獲物を探すように、彼らの方へと貌を向けた。
それが、彼ら各々の次の行動を、はっきりと定義させたのだろう。

■■■■■ > 「―――てめえええぇぇ!!!」

仲間が無惨な目に遭ったことを漸く理解した男の一人が、金属バットの様なものを両手に抱えて駆けだした。
勢いをつけたまま、バットを構える。勢いを活かすようにして奴の頭部に思いっきり叩きつけようというのだ。

しかし、それは避けようとさえしない。

ガキィイイン…と、金属同士が激しく衝突し、辺りに高らかな金属音が轟いた。
だが、その形がひしゃげてねじ切れる寸前となったのは、金属バットの方だった。
それは、まるで何かしただろうか?と言わんばかりに、冷静そうな様子で、殴りかかってきた男を眺めていたが。

「ぅおぶううううぅうっっ!!!―――」

瞬間、バットを持っていた男はまるで勢いの付いた乗り物から放り出されるように、宙を飛んだ。
それが、男の傍に一歩踏み込み、握りしめたその拳で、その腹部を殴りつけたのだ。
振りぬくように打ち出されたフックは、成人男性の体重を軽々しく宙へ放り上げた。

砲弾のように打ち出され、どしゃり…地面に打ち付けられたその身体は、
びく、びく…と弱弱しい痙攣を続ける他なかった。

■■■■■ > 「ッ逃げろオオオオオ!!!」

彼らの中の、誰かが大声を上げた。
こんな怪物とまともにやりあえるはずがない。
仲間が一人やられた時点で、逃げるタイミングを狙っていた彼らは、
その叫びを皮切りに、蜘蛛の子を散らすように尻尾を巻いて逃げ始めた。

一人は、廃倉庫の窓枠を破って。
一人は、裏口のドアを蹴飛ばして。
一人は、それが空けた歪んだひし形の穴へ飛び込むように。
各々が一番逃げやすい形を選び、その場から離れようと努力した。

「「逃がさんよ。」」

だが、彼らに残っているのは、既に決まっている結末だけだった。

■■■■■ > 「―――ぅぐあああぁあッッ!!?
 足が…ッ、脚がああああ…!!!」

他の男たちと比べ、僅かに逃げるのが遅かった男が一人、不自然な形で転倒する。
まるで片足が一本の棒になったように伸び切ってしまい、本人の意思と裏腹に曲がることを頑なに拒否している。
そんな状態では、まともに歩くことさえも怪しかった。

それは近づいてくる。片手に、銃の様なものを携えて。

「「その脚は、一時的に筋肉が伸び切った状態となっているだけだ。
 心配は無用、後遺症は残さない。」」

どうやら、その銃の様なもので、脚を撃ったらしい。
狂乱している男には、その感覚さえなかったようだが。
伸びきってしまった脚をなんとか動かそうと、抱えるように倒れ込んでいる男の頭に、
それはそっと手を伸ばす。

…その掌からは、逃れられなかった。

■■■■■ > 次、"ああなる"のは自分の番だ。
…そう直感で理解した男は、悲痛な叫びを上げた。

「オメエ!!分かってんだろうな!こんなことして、タダで済むと思ってんじゃねえぞ!!
 オレ達の仲間がッ、逃げた仲間が大勢引き連れてっ!!オメエを殺してやるからな!!!」

精一杯の虚勢だ。
だが、それで隙が一つでもできれば、万に一つ逃げられる算段が付くならそれでよかった。
既にこの倉庫内には自分とこの甲冑野郎しかいない。
仲間が逃げているなら、こいつに復讐してくれるはずだ。
舐められたままでは自分も、仲間たちもメンツが潰れたままだ。
そう考えていた。


「「………誰が、独りで来たと言ったかね?」」

■■■■■ > 冷淡にも聞こえたその言葉に、男の背筋は凍り付いた。
その瞬間、倉庫外から銃声と叫びがいくつも重ねて聞こえてきた。

――助けて――赦して―――――ごめんなさい――
―――痛い―――苦しい――お願いします――――

辛うじて分かったのはそれだけの単語で、残りは言葉にならない悲痛な声の数々だった。

「「私がここに来た時点で、諸君らは既に詰んでいる。」」

■■■■■ > 男は、もうすべての希望を捨てるしかなかった。
自暴自棄になりながら、己の頭を掴んでいるそれに言葉を吐き捨てるしかなかった。

「…な、なんなんだよオマエ……っっ…
 いったい誰なんだよおおおお!!!!」

■■■■■ > 「「………私か?」」

自分個人を指しているのかと言いたげに、歪な声が聞こえる。
少し間を置くようにして、それは言葉を続けた。

「「私の名は、ウルトール。
 私は風紀の牙であり、毒である。」」

男の意識は、ここで途絶えた。

■■■■■ > これは、ほんの僅か未来の記録―――
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)2」から■■■■■さんが去りました。