2021/11/11 のログ
ご案内:「◆紅く染まる青垣山(過激描写注意)2」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
 青垣山。
 常世学園の直ぐ側にある山々であり、未開拓地区らしく豊かで厳しい自然が広がっている。
 時折怪異が現れるという話があったり、何よりあまりにも山々しい自然を前に立ち寄る人は少ない。
 けれど、この季節においては話は違った。
 鬱蒼と暗がりを抱くかのように茂る樹々は、灯火のように燃え上がるような紅葉へと姿を変える。
 
 つまり。紅葉狩りの観光シーズンなのであった。

「わぁ……。
 明るい内にはあんまり来たことは無かったけど、やっぱりすごく綺麗……」

 紅葉狩りを楽しむ人々を余所目に、やっぱりぽつんと紅葉を楽しむ姿が、ひとり。
 ……勿論、別に紅葉狩りに来ているわけではなく……お仕事です。
 青垣山は怪異の報告例や神霊とも縁ある地とのことで、またしても対霊案件の警備員のようなコトをしているのでした。
 ……と、いうわりにはきょろきょろと辺りを楽しそうに見回していたりするんですけど。

 ……そして、だからこそ直ぐに気づく。
 ふつり、と。一面の紅葉がふつりと途絶える場所があることに。

(……あ、れ?)

 異常に気づくには聡すぎて。
 悪寒に気づくには遅すぎた。

 賑わっていたはずの人は辺りには一人もおらず。
 一面の赤が退くようにぽっかりと穴を開けたその場所の中心に。

 紅く彩られたヒトガタが立っていた。

藤白 真夜 >  
「――、」

 何故気づかなかったのか。
 明らかに、何かの境界に迷い込んでいた。

 眼前に佇む"ソレ"は、紅く、黒く、靄のように覆われた、おおよそヒトのカタチをしているだけのもの。
 直視してもよく見えず、ぼんやりとヒトのカタチをしているとしか言えないもの。

 それでも、確信できることがあった。

(……不味、い……!)

 全身に感じる悪寒と、殺意ですら無い、命への嫌悪感。
 何度も感じた怪異や亡霊の気配。それと全く同じナニカだった。

 私は、身体能力は高くは無い。体力と治癒力には自信はある。何より、生命力に満ちているつもり。
 なのに、その全身が叫んでいた。
 ――避けろ、と。
 私の異能の原理は、生存本能に繋がっている。
 運動性能を上げるような真似は異能を以てしても出来ない。
 けれど、こと生存に繋がることでなら、私の異能は正しい場所へ導く。

「く、……っ!」

 私はただその直感と本能を信じて、"跳んだ"。横合いに、思いっきり。受け身が必要になるくらい、遠慮なく。どうせ、かすり傷なんて一瞬で治るのだから。
 ――がさがさと足元の草むらを掻き分けて転がりこむ。想像通り、全身が枝や石ころで小さなキズが出来て、

 右腕の二の腕から先が消し飛んでいた。
 今更気づいたの?とでも言うように遅れて血しぶきが上がる。

 私が元いた空間には、紅く黒く濁った巨大なてのひらのようなモノが、ぐしゃり、とナニカを握りつぶしたあと。ず、と掻き消えた。私の腕は何処にもない。
 
 ――離れて立つ赤黒い影が、コチラを見つめ直した。

藤白 真夜 >  
「――奔れ!」

 痛みはもう、無かった。
 そんなモノにかかずらう暇も、実際に感じる機能もすでに異能が麻痺させている。
 ちぎれた右腕からは、すでに"仮置"するかのように、血液が腕のカタチを作っていた。
 このレベルのダメージはすぐには戻らない。でも、好都合。
 血液そのものとなった右腕が、私の意志と言葉に呼応して文字通りに奔った。
 30cmほどの抜身の刃のようなカタチにして、赤黒い影を切り結ぶように奔り出す。

(……攻撃が、通じるかはわからない。
 霊体だったら、かなり厳しい。でも……、)

 麓に居たひとたちを思い出す。
 ただ紅葉狩りに来ただけであろうひとたち。
 そんなヒトたちを、こんなモノと引き合わせる前に――!

(……倒す……!)

 中空を走る血液の刃が、赤黒い影を切り裂いた。
 さっきのお返しだとばかりに、えぐりこむように刃が鈍くきらめく。
 
 ぶしゅッ。
 
 血が吹き出すかのような音。私の苦手な音。
 こっちのほうが苦しむように目を細めながら、それでも相手を見やった。

 ――赤黒い影から、紅葉が吹き上がっていた。

「……え?」

 まるで血液かのように吹き上がる紅葉。
 赤黒い影は、紅葉と呪いで編み上げられたヒトのカタチだとでも言うのだろうか。
 しかし、そんなことを考えている暇は私には無かった。

 赤黒い影が、もう一度私に向かって手をかざした。

(……効いてる……?いや、それどころじゃない……!
 躱せたから良かったけど、アレはマトモに喰らうと、……死なないけど厳しい!
 相手に突っ込んで、避けながら間合いを詰める……!)

 思考時間は短い。頭の中身にまで、異能……というより脳内物質のコントロールで鋭敏化した思考が迸っていた。
 体勢を低く。転がりこむような勢いで前に飛び出しながら、アレに肉薄する――!

藤白 真夜 >  
 先程の攻撃の正体が、ようやくわかった。
 アレは、紅葉だ。
 紅葉がいくつも集まり、てのひらのように握りつぶす。
 今も私の背後に、わらわらと紅葉が湧き上がっていた。

(いける……!)

 あの"掌握"攻撃は物理的に範囲が広い。近づきさえすれば、自分も巻き込む攻撃は出来ない……はず。
 すでに広がる紅葉を背後にした私は、そう……思ってしまった。
 いける、と。

 直後。
 残り十メートルの距離で、赤黒い影が"もう片方"の手を、構えた。

(また……!?
 いや、問題無い……!走ってさえいれば、アレの効果範囲には――)

 赤黒い影が、腕を横薙ぎに振るう。
 ばさ、と腕から赤い紅葉が溢れ出てきて。
 ――その紅葉が、燃え上がった。

「――ッ!」

 燃えるような赤色だなんて、誰が言ったのか。
 燃え上がる紅葉は、葉のカタチを真似るように五つの炎へと姿を変えて。
 巨大なてのひらが私を握りしめるに、襲いかかる――!

(私の、ばかっ……!考えが、浅すぎた、……!
 回避は、間に合わない!
 ――一箇所を、被弾覚悟で、押し切る……!)

 目前に迫る炎の掌に、相対するかのように血の右腕を突き出した。
 血は湧き上がるかのようにカタチを変え、巨大な突撃槍と盾を兼ねるかのような、円錐になる。

 燃え上がる壁を、左側に突き抜けるかのように、紅い槍が突き刺さった。

 炎を突き破るかのように見えたソレは、当然のごとく、
 カタチなど留めない炎によって、私ごと飲み込んだ。
 

ご案内:「◆紅く染まる青垣山(過激描写注意)2」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
藤白 真夜 >  
「ぐ、ッッ、あ゛ァァァーーーーーーッ!」

 熱い。熱い、熱い。
 
 私の考えは、半分は巧く行った。
 なるべく被弾面積を減らし、壁を作り、一点に貫き抜ける。
 触れた炎の面積はかなり減っていた。
 あの炎を掌と例えるなら、指一本か二本分にしか触れていない。
 
 それでも、私は燃え上がった。

「かッ、……あ゛、……ッ!!、……ッ!」

 痛そうな声が出たのなんて最初だけ。すぐに、息をした喉が燃え上がって声すら出なくなった。
 この炎は人間しか燃やさないらしく、服も植物も燃えない。
 なのに、命をあまりにも燃やす。そんな怨念の籠もった炎だった。
 何かが蒸発するかのような音をたてて、私の"表面"だけが燃え上がる。
 血液が私の体から湧き上がっていた。
 自らの血で、自らを燃やす炎を、消し留める。
 でも、それは自ら燃え続けることと同じだった。

「ぐ、ッ、~~~~ッ、……!!」

 かろうじて、四つん這いになるだけ。ただ、絶命しないだけ。
 燃え上がりながら、ただ意志の力だけで、赤黒い影を睨みつけて、――。

芥子風 菖蒲 >  
山登り自体に興味があった訳じゃない。
元々人入りが少ない山だが、紅葉の季節となると話は変わる。
そう言うような場所だからこそ、目立たぬ違反者や怪異により被害者が出ないようにするのも風紀の役割だ。
だから、正直不運とも幸運とも、何方とでもいえる状況だった。
一人山を歩く少年は山中に感じた悪寒に駆けていく。

「……あっちか」

黒衣を靡かせ、風を切る木々を抜けて駆け抜ける。
その姿、黒い疾風が野山を駆ける。
周囲に見えた観光客の姿は見えない事には気づいていない。
"そこ"に何時迷い込んだのか、少年自身もわかっていない。
唯一つ、分かる事は─────。

「アレか……!」

紅葉を舞い散らし、黒き疾駆が空を舞う。
野山に臨むは赤黒い影と、それにひれ伏す一人の少女。
青空の両目が敵意で見開き、担いでいた鞘を振り払い抜き身の刃が露わになる。
唯一つ分かる事。あの"赤黒い影"はいてはいけない事だ。
切っ先を天へと構え、一直線に影の頭頂部へと刃を振るう。

唯一つ、分かる事。
"あの存在だけは、許しておいてはダメだ。"

藤白 真夜 >  
 このまま焼け死ぬのを待つだけかも。そんな考えがよぎる。
 思えば、炎はずっと苦手だった。痛みに強い私でも、これだけは何故か痛い。血液が直接燃えるせいかもしれなかった。
 でも、まだ倒れるわけにはいかない。
 私が奮い立てば立つほど、血液が湧き上がり、炎が沈み、そしてまた血を火種に燃え上がった。
 いやな匂いと共に赤黒い煙が立ち上り。
 そして、それと同時に不自然な紅い霧のようなモノが私を包んでいた。
 魔術の心得があるものが見れば、ある種の再生や治癒を表す光に似て、けれど決定的に違うことがわかったかもしれない。

 死にはしないが、苦しむだけ。

 ただ、赤黒い影の怪異の前で、懺悔するかのように頭を垂れて――、

 その瞬間。
 赤黒い影の脳天から袈裟斬りに、血飛沫めいた紅葉が吹き上がった。

「……え……?」

 何が起きたか理解するのに、数瞬。
 全身の痛みと熱の中で、できることを考えるのに、もう数瞬。

「――アレの、ごほッ、胸を、狙って……ください……ッ!」

 私に、見鬼の能力は無い。
 祭祀局の人間なら当たり前に持っているそれ。それを、私は肉体の属性そのものとして体現していた。
 死に強く触れ続けたが故に、霊的なモノが見えているだけ。
 死に近づき続けている今こそ、その"場所"が見えた。
 あのヒトガタはおそらく、カタチとしての体裁であるだけだ。なら、それを纏う"核"が必ずある。
 ――私にできることは、もうひとつ。
 
「さ、あ……!どうしたの……ッ、全っ然、涼しい、んですけど……っ?
 女ひとり、殺せないの……!」

 今も体を燃え上がらせながら、震える脚で立ち上がる。挑発なんて効くかわからないけど、言うだけ言う。
 コレには、巻き込めない。せめて、矢面には立たなくちゃ、いけない……!

 ざ――。
 もう一度、私の周りに紅葉が集まり始める。――これは、躱せない。
 それでも、私は。
 赤黒い影の"胸"を指すかのように、今も沸き立つ血の右手を掲げ――。

(――お願い……!)

芥子風 菖蒲 >  
一閃。鉄の刃が影を切り裂き、舞い上がる紅葉の隙間に乱反射する黒の疾風。

「……?」

手応えが浅い。
何度も何度も振るってきた。刃の感覚だけで凡そのダメージの伝わり具合が分かる。
恐らく、傷は浅いか。或いはほとんど入っていないだろう。
黒衣を翻し、紅葉を舞い散らし黒き疾風、少年は着地する。
舞い散る紅の隙間に、張り上げた少女の声が鼓膜を揺らす。

「胸……?そこを狙えばいいんだね」

柄を強く握り、切っ先を立てて構え直す。
ふぅ、と一息冷えた空気と木の葉が舞えば、その身を包むは空色の光。
肉体が僅かに軋み、神経が研ぎ澄まされ、視界が広がるような感覚。
自身の異能が、全身の血を滾らせ力を与える。

故合って霊に少々憑かれている(今はお休み中)が、少年に強い霊感はない。
ただ、示された影の胸からは何となくより強い"何か"を感じる。
今にも倒れてしまいそうな彼女を助ける為に、"アレ"を倒さないと。
強い使命感に突き動かされ、強く地面を踏みしめ……────。

「……!」

影の敵意が、強くなった。
少女の周りを乱舞する紅葉の舞。

「やらせるか……!」

こんな奴に、学園の皆を好きにはさせない。
皆を護るのが風紀に、自分の役目だ。
少年の全身の空色が強く光、その右目に青白い炎が迸る。

「──────間に合え……!!」

刹那、地面が抉れると同時に影の胸へと流星が跳ねる。
青く、一条の空の光。刃を向け、その胸部を……その影だけじゃない。
血染めの紅葉に捉えられんとする少女を救うために
その影の体躯を貫けば、一直線に舞い上がる紅葉へと飛び込むだろう。
自らが傷つく事も恐れずに、彼女の体を庇うように、かっさらうために。

果たして、間に合うか──────……。

藤白 真夜 >  
 視界は、紅く染まっていた。
 己が血と、炎と、紅葉。
 陽炎か、私自身が揺らいでいるかも判別がつかない……ゆらめく視界の中で。

 一筋の、青い光を見た。

 槿のようなましろき風が、菖蒲のように薄青く煌めくのを。

 赤黒い影の核は、その光に紛うこと無く斬り伏せられた。
 瞬間、ヒトのカタチに抑え込まれていた大量の紅葉がこぼれるように舞い乱れる。
 その中央に、ひとつだけ。真っ白な紅葉が、真っ二つになって斃れていた。
 
 掌と化すかに思えた予兆じみた紅葉も、もはや力を失いひらひらりと漂うだけ。

「ああ……、

 なんて、……きれい」

 もはや光を失いつつあった瞳に、黒い少年の閃光は、間違いなく届いていた。
 けれど、どさりと崩折れるように膝をつく。
 それだけで、こらえきれなくなったかのように、その場に倒れ伏した。
 少年が庇うように動くのであれば、その手に身を任せるように。

「……ご無事、ですか……?」

 ……周りが見えなくとも。くずおれ、地に伏せようとも。躰を覆っていた炎は、ほんの少し弱まり。けれど、燃えていた。それでも。
 何より、それが気になるというように。