2021/11/12 のログ
芥子風 菖蒲 >  
瞬く空を彩る紅葉。
影を貫いた青空の黒は、悠然と少女の前に佇んでいた。
己が身を気にしない捨て身の一撃。
紅葉に割かれたのか、頭部から血が滴り落ち、黒衣は幾分か肌と一緒に切れている。
ついでに、彼女を護りたい一心でそこまで飛び込んだせいか
気にせず炎に突っ込んだらしい。ちょっと体が焦げ臭い。

「いてて……」

要するに、全身が痛い。そこら中が焼けたり出血している。
ちょっと無茶しすぎたか、無茶をするのが自分の仕事だ。
痛みに顔を顰めつつ、倒れる少女の体を体と腕で受け止めた。
少年を包む空色の光は、太陽の様に暖かい。

「オレは大丈夫だけど……よっぽどアンタのが重傷の様に見えるけど、生きてる?」

不愛想でご無体な第一声。だが、心配しているのは本心のようだ。
ぼろぼろ、と言うよりは腕が飛んだり全身が焼けたりしているような。
自分よりもよっぽど重傷のようには見えるし、血生臭い。
生きているのは彼女の異能の効果なのか、よく分からない。
ともかく、まだ生きているなら安心だ。ふぅ、と安堵の息。

「自分じゃ立て……ないよね。流石に……?うん、まぁもう大丈夫……かな?
 また出てくるかもしれないけど、オレが護るから安心してよ」

藤白 真夜 >  
「……ああ――良かった……」

 今度こそ。安堵の吐息とともに、少年の腕に体を預ける。
 ぱちぱちと燃え続けていた呪いの炎が、少しずつ和らいでいく。確かに、根本は絶たれたのだから。

「……あ。でも、まだ、私には、触れないで、くださいね……。
 燃え移っては、困ります、から……」

 それは、おかしかった。
 少年はその炎に熱は感じない。それは、見定めた相手の命だけを燃やす呪いの炎であったから。
 そして何より、すでに少年の腕に抱かれていたけれど。
 ……その感覚は、もう残っていなかった。

「私は、大丈夫、です……。
 ……ふふ、ありがとう、ございます。
 ああ、驚きました。刀で、斬れるだなんて、思わなかったなあ……」

 もう役に立っていなかった目を瞑る。
 消え入るような声とは裏腹に、焼けていた体は、時を巻き戻すかのように元に戻っていく。
 落ちていた腕も、手首の当たりまで癒えはじめていた。
 ただ、体から紅い霧のようなものを浮き上がらせるだけで。

「……少し、横になっても、かまいませんか。
 安心したら、眠く、なってしまいました……」

 体はすでに、少年の腕にあずけていた。それでも、夢見るように言葉を続ける。
 安心しきった子供のように、満足気な表情で。

芥子風 菖蒲 >  
「別に気にしないよ。アンタが此処で死んじゃうほうがオレは困るから」

おかしい事かどうかは、少年に考える余地は無い。
熱くても居たくても、今の少年には関係ない。
今は彼女の無事が優先だ。今は彼女の優しさには付き合っていられない。

「あれって斬れないものだったの?よく分かんないけど、無我夢中だったし……」

とにかく、倒すべきを倒すと体が突き動かされた。
もしかして、宿代わり憑いていた幽霊のおかげなんだろうか。
それなら、祭祀局のあのチビッコ巫女には感謝しておかないといけない。
目をぱちくりさせながら、よっとと少女の体を抱えて行く。

「あれ、腕戻った?……よくわかんないけど、これなら帰れそう。
 けど、念のため病院までは連れて行くから。寝ても良いけど目は覚ましてね」

時間が巻き戻る様に、落ちていたはずの腕が癒え始めている。
そう言う異能なんだろうか。よくわからない。
ただ、心身ともにボロボロなのは確かなんだ。
小さな黒い風は、少女を担いだまま再び野山を疾駆する。

助けた傍から永眠なんてごめんだ。
とにかく少年は急いだ。急いで山を下っていくだろう。
満足気な少女の表情がどういう意図なのかは分からない。
それは自分が考えるべき事じゃないのかもしれない。
適切な医療施設へと運んでしまえば、それこそ少年は風の様にその場を跡にしただろう。

藤白 真夜 >  
「ふ、ふふ……それは、寝るなということで、いいのでしょうか……。
 私は、大丈夫、なので……」

 それでもやはり、目をつむったまま、答える。
 動く余裕はなくて、彼の腕の中で、眠ったように瞳を閉じたまま。

「……ありがとう、ございます。
 なんだか、暖かくて、眠くて、……すみません、ね」

 体は動かせず、預けたまま。
 でも、やはり寝顔のようなその顔は、安らかだった。
 木漏れ日の中で微睡むように。

「ああ――とても……美しかった。
 あなたの、刀の、軌跡――」

 思い返すように、ささやく。
 体力は尽き果て、眠りに落ちる最中。
 美しい景色のように、あの光景が焼き付いていた。

 そうして、安らかに眠りに落ちる。言葉通りに安心して少年に体を委ね。
 ゆっくりと、でも確かに、胸を上下させたまま。

 ああ。誰も傷つくことはなかったと。
 癒えゆく体で、満足気に。

ご案内:「◆紅く染まる青垣山(過激描写注意)2」から芥子風 菖蒲さんが去りました。
ご案内:「◆紅く染まる青垣山(過激描写注意)2」から藤白 真夜さんが去りました。